BIT行動性無視検査 日本版|実施方法・カットオフ・生活場面の評価をイラストで解説
BIT
行動性無視検査 日本版
見落とし方から、暮らしの支援へ。
合計点だけでなく、どこを見落とし、どう探し、どこで終えたか。その情報を食事・読書・移動の場面へ戻すと、半側空間無視への支援が具体的になります。

所要時間と、臨床での進め方
初めて担当するときの流れ
準備:紙面・身体の向き、視野、使用手を確認。実施:正規用紙・教示で観察し、探索場所を指示しない。記録:点数・時間・開始側・自己修正。検査後:食事や読書で同じ偏りが出るか見る。
BITを使う場面と、判定の基本
BITは半側空間無視を調べる検査バッテリーです。日本版は通常検査6項目と、日常に近い課題を用いる行動検査9項目からなります。食べ物を片側だけ残す、行の頭を読み落とす、移動時に片側へぶつかる、といった訴えから実施を考えます。[1][2]
日本版では通常検査131点以下、行動検査68点以下がカットオフに該当します。ちょうど131点・68点も含みます。ただし得点低下の原因は、誤りの位置や失語・構成障害などの影響を見て判断します。2つの合計は足し合わせません。[2][3]
実施|用紙の位置をそろえ、探索の経過を記録する
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視覚・姿勢・反応手段を確認
眼鏡、視野、複視、使用手、麻痺、読字・言語理解を確認。身体と机を整え、用紙・物品を指定位置へ配置します。用紙を片側へ寄せた条件は結果を変えます。
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通常検査と行動検査を実施
正規材料と教示を使います。検査者が「左も見て」と誘導せず、開始位置、走査の順序、戻り、自発的な修正を観察します。未実施の項目は理由を残します。
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正式採点と、生の反応を照合
得点の横に、見落としの分布、二等分の偏り、模写の欠落部位などを記録。所要時間も残すと、時間をかけて補っている人を捉えやすくなります。
日本版の各課題に一律の時間制限を追加する方法ではありません。全体の所要時間の案内は約45分ですが、休息や追加観察は別に確保します。[1][3]

15課題を、何を見るために行うか
| 通常検査 | 観察する反応 |
|---|---|
| 線分抹消 | 並んだ線分に印をつける。開始側、探索の範囲。 |
| 文字抹消 | 文字列から標的を選ぶ。選別と左右の見落とし。 |
| 星印抹消 | 妨害刺激の中から小さな星を探す。混み合いによる変化。 |
| 模写 | 見本を写す。紙面の左だけでなく、個々の物の左側が欠けるか。 |
| 線分二等分 | 線の真ん中に印をつける。偏りの方向と大きさ。 |
| 描画 | 求められたものを描く。左右の欠落と構成の崩れ。 |

| 行動検査 | 生活で確かめる場面 |
|---|---|
| 写真・硬貨・地図・トランプ | 物や情報を探す。印を残さない探索で同じ場所へ戻るか。 |
| メニュー・音読・書写 | 行頭、単語の左、行の移動。読み間違いと言語障害を分ける。 |
| 電話 | 番号の探索と入力。見落としと、保持・操作の誤りを分ける。 |
| 時計 | 時刻の読みと設定。視空間だけでなく理解や知識の影響を見る。 |
得点と過程から、生活で起こりやすいことを見通す
| 結果 | 生活で確かめる仮説 | 最初の観察 |
|---|---|---|
| 左側に見落としが集中 | 食事や持ち物の探索で、左側が残る可能性。 | 食事終了を宣言したとき、皿のどこが残っているか。 |
| 印をつけると良好、印がない探索で反復 | 探索済みの場所の管理が難しい可能性。 | 棚の同じ段を繰り返し探すか。 |
| 行頭を読み落とす | 注意を左端へ戻す動作が必要。 | 短い案内文で、各行の開始位置を確認する。 |
| 得点良好だが時間が長い | 静かな場面では補えるが、制限時間や割り込みで崩れる可能性。 | 普段の速度を求められる生活場面で確認。 |
左側の見落としを伴って通常検査が131点以下なら、生活でも無視が現れる可能性を強く考え、観察の優先度を上げます。一方、この点数だけで転倒率、退院日、運転可否を数値予測することはできません。[3]
介入例|食事・読書・移動へ落とし込む
食事の左側を残して「終わり」と言う
- 最初に測る
- 本人が終えた時点で、残った食物の位置と、確認を促した回数を記録。
- 試す支援
- 皿の左端に分かりやすい目印を置き、「ここから端まで一周見て確認しましょう」と探索開始点を共有します。必要ならトレー上の品数を減らします。
- 支援を減らす
- 療法士の声かけ→目印を見る自己確認へ移し、最後に本人から確認が始まるかを見ます。
- 再評価
- 食事の完了、見落とし、促しを比較。目印がない食事での結果も別に残します。
行の左端を読み落とす
- 準備
- 本人が読める大きさ・内容の短い文章を使います。失語や視力の影響を確認。
- 試す支援
- 左端の縦線と、読む行だけを示すガイドを使い、行頭へ戻ってから読む練習。
- 再評価
- 行頭の読み落とし数/行数、本人による戻り直し、読み終える時間を記録。
移動では:実際の廊下を同行し、左への曲がり角や出入口で停止して確認する手順を練習します。障害物に近づけて反応を試すのではなく、介助者が接触を防げる条件で、確認開始の有無と促しの数を記録します。

CBS・身体無視の評価を組み合わせる
| 評価 | BITを補う点 |
|---|---|
| CBS | 食事・更衣・移動など実生活の支障を観察する。 |
| Comb & Razor Test | 頭髪・顔面への行為の偏りを見る。 |
| Fluff Test | 視覚を遮った体幹・四肢の探索を見る。 |
| 視野・眼球運動/CAT-R | 視覚入力の問題や全般的注意の影響を確認する。 |
BITが良好で整容が偏るなら、身体への注意を追加評価します。複数の検査が一致しないときは多数決にせず、評価している空間と動作が違うことを手がかりにします。
生活観察が補う情報
AzouviらのCBS研究は、日常の無視症状を行動観察で捉える意義を示しました。机上課題で見つけた偏りが、生活の介助量へどうつながるかを確かめる役割です。[4]
近年の評価研究
Williamsらの更新レビュー(2025年刊行、2024年オンライン公開)は、無視評価尺度の測定特性を整理しています。一つの尺度で全側面を代表させず、対象空間と生活での支障を組み合わせて捉えることが実務上の要点です。[5]
探索練習や環境調整は脳卒中ガイドラインを参考に、患者の目標に合わせて実施します。[6]
再評価と申し送り
再評価では用紙位置、姿勢、使用手、眼鏡、疲労、受検経験をそろえます。正式検査の変化に加え、食べ残し・読み落とし・衝突を防ぐための促しが減ったかを追います。
検査結果を、生活の支援へ残す
実施条件・観察・試した支援を整理する、STROKE LAB独自の臨床メモです。
既存の記録補助PDFです。正式な検査用紙や採点表の代わりではありません。
参考文献・実施資料
- BIT行動性無視検査 日本版.製品・構成の案内.
- 石合純夫.半側空間無視を解明する! 高次脳機能研究.2004;24:232–237.
- 太田久晶.半側空間無視のみかた.神経心理学.2025;41:80–87.
- Azouvi P, et al. Behavioral assessment of unilateral neglect: study of the psychometric properties of the Catherine Bergego Scale. Arch Phys Med Rehabil. 2003;84:51–57.
- Williams LJ, et al. Identifying spatial neglect – an updated systematic review of the psychometric properties of assessment tools in adults post-stroke. Neuropsychol Rehabil. 2025;35:628–667.
- Intercollegiate Stroke Working Party. National Clinical Guideline for Stroke(2023): Rehabilitation and recovery – psychological effects of stroke.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)