失語症と高次脳機能障害|『話せない』のタイプ別・家族の話し方
言葉が出ないのか、届かないのか。
会話が急に通じなくなった。話しかけても返らない、言い間違いが増えた、名前が出てこない。脳卒中や頭のけがのあとのその様子は、失語症かもしれません。これは、頭が悪くなったのでも、認知症でもありません。言葉をあつかう脳の部分の障害で、知能や人柄は保たれています。タイプ別のしくみと、通じやすい家族の話し方を整理します。

会話が、通じなくなった。
話しかけても、返ってこない。言おうとして、言葉に詰まる。あるいは、なめらかに話しているのに、内容がかみ合わない。名前が出てこず、あれ、それ、が増える。昨日まで当たり前だった会話が、急に通じなくなる。もどかしさに本人はいらだち、家族はどう話しかけていいか分からず、沈黙が増えていきます。
でも、忘れないでほしいのです。言葉が通りにくくなっただけで、その人の中身は変わっていないということを。名前は、失語症といいます。
失語症は、脳卒中や頭のけがのあとにみられる、言葉の障害です。多くは言葉をあつかう左脳(ブローカ野やウェルニッケ野など)の損傷で起こります。大切なので先にお伝えします。これは頭が悪くなったのでも、認知症でもありません。知能や記憶、人柄は保たれていて、言葉だけが通りにくくなっている状態です。気づけないのでも、やる気の問題でもなく、家族の接し方のせいでもありません。全体像は高次脳機能障害の完全ガイドをご覧ください。
STROKE LABの視点:言葉が出ないのか、届かないのか。
失語症を理解する鍵は、言葉には受け取る(理解する)働きと、出す(話す)働きの二つがある、という点です。このどちらが、どれくらいつまずくかで、失語症のタイプが変わります。そしてタイプが変われば、通じやすい話し方も変わります。代表的なタイプを整理します。
| 代表的なタイプ | 出す・受け取るの特徴 |
|---|---|
| 運動性(ブローカ)失語 | 言葉は比較的分かるが、出しにくい。短く、途切れがちに話す |
| 感覚性(ウェルニッケ)失語 | なめらかに話すが言い間違いが多く、こちらの言葉も届きにくい |
| 全失語 | 出すことも受け取ることも重い。右半身の麻痺を伴うことも多い |
| 健忘性(失名詞)失語 | 会話はできるが、物の名前が出てこない。のど元まで来ている感じ |
実際には、これらが混ざり合うことも多く、回復とともに見え方も変わります。正確なタイプは専門的な検査で確かめますが、家庭では厳密な分類より、この人は出す側が苦手なのか、受け取る側が苦手なのか、をつかむだけで十分に役立ちます。なお、記憶や判断は保たれているので、認知症とは異なります。子ども扱いをしないことが、なにより大切です。

自宅でできること:タイプに合わせて、話し方を変える。
まずは、ご家族が今日から実践できる話し方からお伝えします。土台になる共通の工夫はこうです。静かな場所で、顔を見て、短く・ゆっくり・一つずつ。そして、答えを急かさず待つ。テレビは消し、一度に一人が話す。通じたかどうかを、そのつど一緒に確かめる。これだけで、ずいぶん通じやすくなります。
そのうえで、タイプに合わせて微調整します。出す側が苦手な人には答えやすい聞き方を、受け取る側が苦手な人には言葉以外の手がかりを。次のカードを、その人のタイプに合わせて使い分けてください。
| タイプ | 通じやすい話し方のカード |
|---|---|
| 運動性(ブローカ) | 分かっているので子ども扱いしない。はい・いいえや選択肢で答えられる聞き方。答えを待ち、先取りしすぎない |
| 感覚性(ウェルニッケ) | 言葉は短くゆっくり。ジェスチャー・実物・絵を添える。長い説明より、見せて伝える |
| 全失語 | 表情・視線・タッチ・絵や実物で。はい・いいえから。焦らせない |
| 健忘性(失名詞) | 出かかった言葉を待つ。頭文字や選択肢のヒント。指させるものを近くに置く |
脳卒中後の失語症に対する言語聴覚療法をまとめたコクランのレビューでは、訓練を受けない場合に比べ、日常のやりとり(機能的コミュニケーション)や話す力、読み書きの改善に役立つと報告されています。より高い頻度や量、長い期間の訓練が効果的な場合もあるとされています。
限界:一方で、高頻度の訓練は負担が大きく、途中でやめる人も少なくありません。どの訓練法が最も良いかを決める十分な根拠はまだなく、効果や回復の程度には個人差があります。言葉そのものの訓練と、家庭の話し方の工夫を組み合わせるのが現実的です。

同じ言葉でも、話し方ひとつで通じやすさは大きく変わります。次のBefore/Afterは、どのタイプにも通じる基本の切り替えです。早口で長く一度にではなく、短く・ゆっくり・選択肢や身ぶりを添えて。失語ではなく、会話全般についていきにくい・電話が苦手といった場合の工夫は、会話を支える工夫の記事で扱います。

専門施設で、さらに期待できること。
ここからは、少し専門的な話になります。リハビリに関わる方や、もっと深く知りたい方に向けて、失語症への支援の全体像をお伝えします。家庭でのタイプ別の話し方が今ある力で通じ合う工夫だとすれば、専門施設で目指すのは言葉そのものと、通じ方の手段と、家族の関わりを、あわせて育てることです。言語の訓練の主役は言語聴覚士で、私たちはその流れを生活と関わりの側から支えます。
専門的なリハビリでは、今ある力で通じ合う工夫にとどまらず、言葉の回路そのものに働きかける訓練を、タイプに合わせて組み合わせます。失語症の多くは、話す働きに関わるブローカ野や、理解に関わるウェルニッケ野など、左半球の言語ネットワークの損傷で起こります。だから、残った部分だけでなく、右半球などの別の経路も使いながら、あの手この手で言葉を引き出します。代表的な介入を整理します。
| ねらい・タイプ | 専門的な介入と、そのしくみ |
|---|---|
| 名前が出てこない(語想起) | 意味特徴分析。出したい語を、用途・仲間・場所・形などの意味の特徴からたどって引き出し、言葉どうしをつなぐ意味のネットワークを賦活する |
| 言葉が出にくい(非流暢) | 制約誘導失語療法(CIAT/CILT)。ジェスチャーなど言葉以外の逃げ道をあえて制限し、話し言葉を短期間に集中して大量に使う。使うことで回路を動かし直す、神経可塑性を利用した方法 |
| 重度で発話が乏しい(理解は比較的保たれる) | メロディック・イントネーション療法。言葉をメロディとリズムに乗せて発話し、右半球の言語に関わる経路を活用して発話を引き出す |
| 通じ方の手段を増やす | 拡大・代替コミュニケーション(AAC)。ジェスチャー・描画・写真・文字盤・タブレットの文字盤アプリなど、言葉以外の通じ方を体系的に育てる |
| 家族の関わり | 会話パートナー訓練。家族が話し方の工夫を身につけ、家庭の会話が通じやすくなるよう一緒に練習する |
これらの方法に共通する鍵が、量と頻度です。海外の研究をまとめた検討では、言葉のリハビリは、より高い頻度と十分な量で行うほど効果が出やすいと報告されています。制約誘導失語療法やメロディック・イントネーション療法のように、集中して行う方法が注目されているのはこのためです。ただし、どれか一つが万能というわけではなく、タイプ・重症度・回復の段階に合わせて選び、組み合わせるのが前提です。効果には個人差があり、脳への電気刺激などの新しい方法は、まだ研究段階で、医療機関の領域です。
そして、忘れてはならないのが気持ちの支えです。言いたいことが言えないもどかしさや、人との交わりが減る寂しさは、本人にも家族にも重くのしかかります。同じ経験をした人との交流や、失語症の人が参加しやすい集まりも、大きな支えになります。言葉の訓練の主役は言語聴覚士で、私たちはその流れを、生活と関わり、そして社会への参加の側から支えます。

STROKE LABが重視するのは、本人の言語訓練と、家族の話し方を、同じテーブルで育てることです。会話は一人では成り立ちません。言語聴覚士による訓練を土台にしながら、実際のご家族との会話そのものを題材に、通じやすい聞き方・待ち方・手がかりの添え方を、一緒に練習します。
そのうえで、言葉以外の通じ方を増やし、通じたという成功体験を、家庭の会話の中で積み重ねることを目指します。どのタイプで、何をどう組み合わせるかは一人ひとり違うため、言語聴覚士の評価と連携しながら個別に組み立てます。より専門的な評価と治療の詳細は、医療者向けの解説記事で扱います。
失語症のある人の会話相手(家族など)が話し方の工夫を学ぶ、会話パートナー訓練をまとめた系統的レビューでは、慢性期の失語症で、日常の会話への参加やお互いの通じやすさが改善しうると報告されています。本人だけでなく、支える家族の関わり方を育てることが、効果につながるとされています。
限界:研究の方法はさまざまで質にばらつきがあり、発症まもない時期の効果ははっきりしていません。効果には個人差があり、進め方は専門職の設計が前提です。
専門リハと、受診の目安。
前の項でお伝えした言語訓練や会話の工夫は、どのタイプか、出す側と受け取る側のどちらがどれくらいつまずいているかを、言語聴覚士がていねいに評価したうえで組み立てます。話す働きに関わるブローカ野のしくみを解説した動画も、背景の理解に役立ちます。理解の面には、これとは別の側頭葉の領域が関わります。
言葉を話すことに関わるブローカ野のしくみを解説(脳リハ.com)。効果には個人差があります。
受診の目安は、脳卒中や頭のけがのあとで、言葉が出にくい・通じにくい状態が続き、生活や人との交わりに支障が出てきたときです。認知症との見分けや、失語症のタイプの評価は専門的なので、自己判断せず、神経内科やリハビリテーション科、言語聴覚士に相談してください。手帳など制度の利用は、自治体の障害福祉の窓口や高次脳機能障害支援センターが入口です。より専門的な評価や訓練を知りたい医療者の方は、医療者向けの解説記事もご覧ください。
よくある質問。
Q. 話せなくなったのは、頭が悪くなったからですか?認知症ですか?
Q. 失語症には、どんなタイプがありますか?
Q. どう話しかければ通じやすいですか?
Q. うまく言えず、本人がいらだっています。どう接すればいいですか?
Q. 失語症は、リハビリで良くなりますか?
Q. 失語症は高次脳機能障害ですか?手帳などの支援はどうなりますか?
失語症の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。失語症は、その多くが脳卒中を背景に起こります。タイプと段階を評価し、言語聴覚士の訓練と連携しながら、通じやすい話し方と、言葉以外の通じ方、そして家族の関わりを、その方の生活に合わせて組み立てます。困っている会話の場面そのものを題材にするので、練習がそのまま暮らしに活きます。診断や言語の訓練は主治医・言語聴覚士を尊重し、私たちは生活と関わりの側から支えます。保険リハとの併用もできます。

言葉にかかわるブローカ野やウェルニッケ野をはじめ、脳の部位ごとの働きと症状のつながりを、豊富なイラストで解説。本文と連動するYouTube講義動画で、脳のしくみを目と耳から学べます。
その人は、変わっていない。

言いたいことがあるのに、言葉にならない。その顔を前に、家族はどう話しかけていいか分からず、会話が減っていく。失語症のご家族が抱えるこのもどかしさを、私は現場で何度も見てきました。
お伝えしたいのは、言葉が出なくても、その人の中身は変わっていないということ。そして、タイプが分かれば、話し方は変えられるということです。子ども扱いせず、待ち、見せて伝える。それだけで、通じ合える場面は増えます。
会話が通じにくくてお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている会話の場面そのものを題材に、その方に合う話し方と通じ方を、ご家族と一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の公的情報・診療ガイドラインと、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。症状の現れ方や回復には個人差があります。診断・鑑別や制度の判断は、必ず主治医・言語聴覚士・専門機関にご相談ください(最終確認日:2026年7月7日)。
- 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害情報・支援センター
- Brady MC, Kelly H, Godwin J, Enderby P, Campbell P: Speech and language therapy for aphasia following stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2016;(6):CD000425.(言語聴覚療法の有効性。第1エビデンスボックスの出典)
- Simmons-Mackie N, Raymer A, Cherney LR: Communication Partner Training in Aphasia: An Updated Systematic Review. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2016;97(12):2202-2221.(会話パートナー訓練=家族の話し方。第2エビデンスボックスの出典)
- Pulvermüller F, Neininger B, Elbert T, Mohr B, Rockstroh B, Koebbel P, Taub E: Constraint-induced therapy of chronic aphasia after stroke. Stroke. 2001;32(7):1621-1626.(制約誘導失語療法の基礎)
- van der Meulen I, van de Sandt-Koenderman WME, Heijenbrok-Kal MH, Visch-Brink EG, Ribbers GM: The efficacy and timing of melodic intonation therapy in subacute aphasia. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2014;28(6):536-544.(メロディック・イントネーション療法の効果)
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院.2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)