【2026年版】単関節筋と二関節筋の違い|脳卒中リハビリでの評価・介入完全ガイド
単関節筋と二関節筋は、脳卒中リハビリでどう使い分けるのか。
脳卒中後は二関節筋の過活動と単関節筋の活動低下が生じ、Stiff-Knee Gaitや連合反応として臨床に現れます。機序・評価・介入・多職種連携までを整理しました。
— 単関節筋・二関節筋の基本的な違いと脳卒中リハビリでの意識づけ
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
55歳男性。右被殻出血後6週(回復期)。BRS下肢ステージⅢ、平行棒内歩行自立レベル。主訴は「歩くとつま先が引っかかる」。
初回評価:遊脚期最大膝屈曲角度38°(カットオフ50°未満でStiff-Knee Gait疑い)、大腿直筋MAS1+、内側広筋の随意収縮は乏しく、立脚後期の股関節伸展も不十分だった。
新人療法士がまず戸惑うのは「膝が伸びたまま曲がらない」という所見に対し、ストレッチだけで対応してしまうことです。
しかし背景には、単関節筋と二関節筋の役割分担が崩れているという神経筋機能上の理由があります。この記事では、その理解を臨床判断につなげる道筋を整理します。
定義と疫学。
単関節筋(monoarticular muscle)は1つの関節だけをまたぐ筋で、内側広筋・外側広筋・ヒラメ筋などが代表例です。二関節筋(biarticular muscle)は2つの関節をまたぐ筋で、大腿直筋・ハムストリングス・腓腹筋などが該当します。

サイクリング動作中の下肢関節トルクと筋活動を解析した研究では、膝伸展トルクと単関節筋(内側広筋・外側広筋)の収縮速度が概ね一致し、単関節筋が力を生み出し関節を動かす主動筋として働くことが示されました4[観察研究]。一方、二関節筋は隣接する2関節間でのトルク配分・エネルギー伝達に関与すると考えられています。
脳卒中でなぜ二関節筋が優位になるのか
皮質脊髄路の損傷により、単関節筋への選択的な運動出力が障害されやすくなります。
網様体脊髄路など皮質下由来の粗大な運動命令が優位になり、多関節にまたがる二関節筋を含む屈曲・伸展シナジーとして表出します。
単関節筋の弱化を補うために二関節筋を代償的に使う動作が、反復によって習慣化していきます。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは脳卒中・神経疾患の専門チームが、評価から動作分析、装具適応まで一貫してサポートします。ご本人・ご家族どちらのご相談も歓迎です。
神経メカニズム・責任病巣。
片麻痺の回復過程を観察したTwitchellの古典的研究では、屈曲・伸展シナジーが出現し、その後分離運動へと段階的に移行していく過程が報告されています5[観察研究]。この記述は現在のBrunnstrom Recovery Stage(第5章)の理論的基盤にもなっています。
二関節筋はなぜシナジーに組み込まれやすいか
二関節筋は2関節にまたがるため、網様体脊髄路や前庭脊髄路といった皮質下経路由来の粗大な姿勢制御命令の影響を受けやすい構造です。単関節筋はより選択的な皮質脊髄路支配に依存するため、皮質脊髄路損傷では単関節筋の分離運動が優先的に障害されます。

図:サイクリング動作中の下肢関節トルク(van Ingen Schenau, 19954より引用)
Piazza & Delp[観察研究]:筋骨格シミュレーション研究で、大腿直筋の活動が遊脚期の膝屈曲角速度を強く規定することを示した(J Biomech, 1996)6。
Reinbolt et al.[観察研究]:遊脚前期の大腿直筋活動の重要性を、順動力学シミュレーションで再確認した(J Biomech, 2008)7。
鑑別診断。
「膝が伸びたまま曲がらない」というStiff-Knee Gaitは単一の原因ではなく、痙性・筋力低下・タイミング異常が複合して生じます。介入を誤らないために、まず原因を鑑別しましょう。
| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 大腿直筋痙性 | 遊脚期膝屈曲不足 | 遊脚前期からRF活動が残存。他動ROMは概ね保たれる。 | 表面筋電図 |
| 単関節筋の筋力低下 | 遊脚期膝屈曲不足 | 立脚期の膝折れ回避のため、意図的に膝伸展位を固定している。 | MMT(内側・外側広筋) |
| 足関節底屈筋痙性 | 遊脚期膝屈曲不足 | 立脚後期の蹴り出し不良から膝屈曲開始が二次的に遅延する。 | 足関節他動背屈可動域 |
| 股関節屈筋力低下 | 遊脚期膝屈曲不足 | 下肢加速不足を骨盤挙上・分回しで代償する。 | 股関節屈曲MMT |
評価尺度と採点基準。
単関節筋・二関節筋の機能分化がどこまで回復しているかは、共同運動パターンの残存度を反映するBrunnstrom Recovery Stage(BRS)で把握します。
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| Stage Ⅰ | 弛緩性麻痺 | 随意運動なし | 単関節筋・二関節筋とも活動なし |
| Stage Ⅱ | 連合反応・痙性の出現 | 共同運動の萌芽 | 二関節筋を含む粗大なパターンが出現 |
| Stage Ⅲ | 痙性最大・共同運動を随意的に遂行 | 共同運動パターンの完成 | 二関節筋の過活動が最も強く出やすい時期 |
| Stage Ⅳ | 痙性減弱・共同運動からの逸脱 | 分離運動の萌芽 | 単関節筋の選択的トレーニング導入の好機 |
| Stage Ⅴ | 痙性さらに減弱・複雑な運動が可能 | 分離運動の拡大 | 複合動作への段階的な移行が可能 |
| Stage Ⅵ | 痙性消失・正常に近い運動 | 正常運動に近い協調性 | 単関節筋・二関節筋の機能分化がほぼ回復 |
信頼性[観察研究]:N=1180の診療記録をRasch分析した研究で、上肢項目・総合運動項目ともに高い信頼性(0.91〜0.92)が確認されています9。
妥当性[観察研究]:N=30の脳卒中患者を対象とした併存的妥当性研究で、BRSはModified Modified Ashworth Scale(MMAS)と高い相関(重み付きκ=0.92)を示しました10。
MCID:BRS自体のMCIDは確立した報告が乏しく、経時的な変化の解釈には反応性の高いFMA等の併用が推奨されます[専門家合意]。
介入のエビデンス。
介入の基本方針は「単関節筋の選択的賦活」と「二関節筋の過活動抑制」の両輪です。以下の4ステップで臨床応用します。
股関節屈曲位で大腿直筋の関与を減らしたニーエクステンションで、内側広筋を選択的に賦活します。パラメータ:10回×3セット、週3回。

二関節筋(大腿直筋・腓腹筋)の緊張を緩和します。パラメータ:等尺性収縮10秒保持+弛緩10秒を20回反復、週3回11。
単関節筋である前脛骨筋を意識した踵接地を反復し、腓腹筋(二関節筋)の過活動を代償させない歩容を作ります。パラメータ:10m歩行を1セット、5〜8往復。

足関節底屈をAFOで制御すると、代償的な大腿直筋の遊脚期過活動が軽減した症例が報告されています[観察研究]。義肢装具士と連携し個別に適応を判断します。
Fujita et al.[観察研究]:SKG群20例・非SKG群16例・健常群15例を対象に、下肢6筋の筋シナジーを非負値行列因子分解で解析。SKG群では立脚期モジュール(膝伸筋を含む)が遊脚期にも高い活動を示し、単関節筋・二関節筋を含む筋協調パターンの再編成が生じていることを示した(Sci Rep, 2024)12。

歩行時の膝の引っかかりや腕の突っ張りは、決して「治らない」ものではありません。神経筋機能の観点から動作を丁寧に分析し、一人ひとりに合わせたプログラムをご提案します。
多職種連携と環境調整。
単関節筋・二関節筋の視点を共有するメリット
PTが歩行分析で得た代償パターンの情報は、OTのADL指導やSTの摂食嚥下評価にも応用できます。専門用語を共通言語化して共有することが連携の第一歩です。
「PTが見つけた代償パターンをカンファレンスで共有すると、OTの自主トレ指導やSTの全身緊張への配慮にもつながります。」
「病棟看護師にも“この動作は狙って教えている”と伝えておくと、定着が早まります。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 他職種との連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 歩行分析(観察・EMG) | 単関節筋選択的トレーニング | 装具情報を義肢装具士・OTと共有 |
| OT | ADL場面での代償観察 | リーチ動作での二関節筋代償評価と修正 | 家庭内動作の環境調整をPTと共有 |
| ST | 構音・嚥下関連筋の緊張評価 | 全身緊張に配慮した嚥下訓練 | 全身の緊張パターンをPT・OTへ共有 |
| 看護師 | 病棟ADLでの代償観察 | 習得動作の病棟内定着支援 | 病棟での様子をPT・OTへ報告 |
| 医師 | 痙性評価(治療適応判断) | 薬物療法による痙性の医学的管理 | 運動療法との併用計画をPTと調整 |
| MSW | 生活環境・社会資源の把握 | 装具費用や退院後サービスの調整 | 家屋評価情報をPT・OTと共有 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
単関節筋・二関節筋の視点は強力ですが、誤用すると効果が出ません。新人が特に陥りやすい3つのパターンを確認しましょう。
代償動作へのフィードバックの伝え方
「膝の内側が少し硬くなる感じ、それが内側広筋が働いているサインです。その感覚を覚えておきましょう。」
「すねの筋肉(前脛骨筋)を意識すると、つま先が引っかかりにくくなります。」
予後とゴール設定。
BRSステージが高いほど分離運動が可能になり、単関節筋を意識した練習の効果が定着しやすくなります[専門家合意]。
共同運動パターンが完全に消えなくても、単関節筋への意識づけによって歩行効率や動作の安定性は改善しうるという臨床経験が積み重ねられています。ゴールは「シナジーの消失」ではなく「機能的な動作の獲得」に置くことが実践的です。
よくある質問。
一般的には単関節筋の選択的賦活を先行させ、二関節筋の過活動を抑制した状態で複合動作へ進めます。ただしBRSステージや代償パターンによって順序は個別化してください。
報告例では10秒等尺性収縮と10秒弛緩を20回、週3回実施するプロトコルがあります。痙性の程度や患者の耐久性に応じて調整してください。
いいえ。大腿四頭筋の筋力低下、股関節屈筋力低下、足関節底屈筋痙性など複数の原因があり、鑑別診断(第4章)が重要です。
BRSは簡便なスクリーニングに、FMAはより精密な変化の追跡に向いています。まずBRSでスクリーニングし、必要に応じてFMAを併用する運用が一般的です。
症例報告レベルですが、AFOで足関節底屈を制御すると、二次的な大腿直筋の遊脚期過活動が軽減した例が報告されています。個別の反応を評価しながら適応を判断してください。
まずBRSステージと痙性の分布を評価し、代償パターンが痙性由来か筋力低下由来かを区別することです(第8章参照)。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中・神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。障害名や発症期間を問わず、東京・大阪でセラピーを提供しています。単関節筋・二関節筋の機能分化のような神経筋機能の理解を土台に、一人ひとりの動作を丁寧に分析します。
— STROKE LABのアプローチを動画でも解説しています
「回復期病棟で大腿直筋の過活動が強い患者さんを担当した時、最初はストレッチだけで対応していました。しかし歩行がなかなか改善せず、先輩から単関節筋と二関節筋のトルク配分という視点を教わり、股関節屈曲位での内側広筋選択的トレーニングに切り替えました。結果、3週間で遊脚期の膝屈曲角度が改善し、歩行速度も向上しました。代償を止めるだけでなく、狙った筋を働かせる環境設定の大切さを学んだ症例です。」— PT・臨床経験8年・脳血管疾患担当
「上肢リーチ動作で肘が屈曲したまま伸びない患者さんに、最初は肘伸展の反復練習だけを行っていました。しかし上腕三頭筋長頭(二関節筋)の過活動を見逃しており、効果が乏しかったのです。肘屈曲位での上腕三頭筋短頭の選択的トレーニングを取り入れたところ、リーチ動作時の肘伸展がスムーズになりました。単関節・二関節の視点は上肢にも応用できると実感しました。」— OT・臨床経験5年・上肢機能担当
あわせて読みたい:【2026年版】Fugl-Meyer Assessment(FMA /フーゲル・マイヤー評価法/ヒューゲルメイヤー評価法)上肢評価|手順・採点・脳卒中の予後予測を解説
諦めないでください。

脳卒中後の「膝が曲がらない」「腕が伸びない」といった動きにくさは、単なる筋力の問題ではなく、神経系がどのように筋を使い分けているかという視点で見直すことができます。
STROKE LABでは一人ひとりの動作を科学的に分析し、根拠に基づいたリハビリを提供しています。
お困りのことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)