日常記憶チェックリスト(EMC)|実施方法・採点・カットオフと本人・家族の評価差を臨床に活かす
EMC
日常記憶チェックリスト
その物忘れは、暮らしのどこで起きる?
本人と家族、二つの視点から。点数を、具体的な支援につなげます。

EMCは「生活で起きている物忘れ」を捉える質問紙
検査室では会話ができるのに、家では鍵を探し続ける。説明した予定を忘れる。同じ話を何度もする。日常記憶チェックリスト(Everyday Memory Checklist:EMC)は、こうした日常生活で経験・観察する物忘れの頻度を整理する質問紙です。聞いた話をその場で再生する能力検査とは、集める情報が違います。
日本版EMCはWilsonらのMemory Checklistを基にした尺度で、数井らが日本版の信頼性・妥当性を検討しました。文献では「生活健忘チェックリスト」という名称でも登場します。2023年増補版の日本版RBMTには、独立したEMC用紙が付属します。[1],[2],[3]
項目数・点数・時間:最初に押さえること
| 項目 | 実施前に確認する内容 |
|---|---|
| 構成 | 13項目。各項目を0~3の4段階で回答する。 |
| 評価の期間 | 最近1か月の生活を振り返る。入院や退院で生活環境が変わった場合は、その期間と環境も記録する。 |
| 合計 | 0~39点。高いほど、回答者が報告する日常記憶の問題が多い。本人評価と家族・介護者評価は別々に集計する。 |
| 誰が回答するか | 本人の自己評価と、日常をよく知る家族・介護者の他者評価。専門職による評価を使う場合は、観察した場面・期間を明示する。 |
| 時間の確保 | 記入に5~10分程度、具体例の面接に追加10~15分を確保する運用案。これは本記事の予定枠であり、標準化された制限時間・公式所要時間ではない。 |
| 用意するもの | 正規用紙、筆記具、回答者と対象期間を記録する欄。本人用と家族用を分ける。時計で速さを測る課題ではない。 |
項目数・回答期間・尺度は公開原著の質問紙を照合しています。正式な回答文と実施上の扱いは、使用する正規用紙・説明資料に従います。[2],[3]
読み書きが難しい場合は、質問を読み上げて本人が選んだ答えを記録する方法が研究でも用いられています。家族が本人の代わりに答えた内容を「本人評価」として残さないことが大切です。[4]
質問紙は、何を尋ねている?

下表は内容を理解するために生活場面へ整理したものです。正式な下位尺度や、13項目の代替質問ではありません。正式実施では、元の質問と回答選択肢を変えずに使います。[3]
| 振り返る生活場面 | 聞き取りを深める例 |
|---|---|
| 聞いたこと・出来事 | 説明を忘れたのか、聞き取れていなかったのか。いつ起きた出来事かも整理する。 |
| 持ち物と置き場所 | 帰宅後にどこへ置くか、出発時に何を確認するか。家族が先に準備していないか。 |
| 予定した用事 | 内容を覚えていても、実行する時に思い出せないことがある。通知後の動作まで見る。 |
| 名前・会話 | 名前が出ない、話の内容が混ざる、話を繰り返すなどを、実際の会話から確かめる。 |
| 場所・道順 | 慣れた場所でも迷うのか。視覚認知、方向感覚、環境変更の影響も確認する。 |
| 中断後の再開 | 話しかけられた後、もとの用事へ戻れるか。注意や段取りの問題も考える。 |

新人でも進めやすい、実施から面接までの流れ
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1|目的と期間を共有する
説明例:「最近1か月の暮らしで、物忘れによる困りごとがどのくらいあったか確認します。できる・できないを責めるためではなく、生活を楽にする工夫を考えるためです」。この説明は導入例です。質問本体は正規用紙を用います。
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2|本人と家族が、別々に回答する
最初から「この前も忘れたでしょう」と家族が答えを修正すると、本人がどう捉えていたかが分からなくなります。別紙を使い、相手の回答を見ずに記入してもらいます。同じ日に回答しても、結論を相談して一つにそろえません。
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3|記入漏れを確認して、別々に集計する
一つの質問に二つの答えが付いていれば、回答者へ確認します。「その機会がなかった」「家族がすべて代行した」「観察していない」を、実際に失敗がないことと混同しません。採点上の処理は正規資料に従い、不明項目を便宜的に0点へ置き換えないようにします。
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4|高い項目・差がある項目から具体例を聞く
全部を長く面接するより、まず生活への影響が大きい2~3場面を選びます。「いつ」「どこで」「何をしようとして」「どう困り」「誰がどう助けたか」の順で確認します。失敗した回数に加え、その用事を行う機会が何回あったかも残します。
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5|一つの支援を試し、次の確認方法を決める
「忘れないようにする」ではなく、「帰宅したら鍵をトレーへ置く」「通知が鳴ったら予定帳を開く」のように行動を決めます。実施できた回数と必要な援助を追い、次回のEMCと生活記録を並べます。
採点:合計と評価者をセットで読む
| 回答 | 配点 |
|---|---|
| 全くない | 0 |
| 時々ある | 1 |
| よくある | 2 |
| 常にある | 3 |
13項目を合計し、本人・家族それぞれ0~39点で記録します。39点は「良い成績の満点」ではありません。また、段階値を足す尺度なので、20点の人は10点の人の2倍重症、と比例関係で読みません。[3]
例:本人8点、家族20点であれば、結果は「本人8/39、家族20/39」です。両者を足して28点にしたり、平均して14点だけを記録したりしません。比較用に家族評価-本人評価=+12点と記録できますが、差だけで病識の有無を確定しません。これは計算を説明する架空例です。
再評価では、同じ回答者・同じ対象期間・似た生活条件をそろえます。本人の点数が上がっても、失敗が増えたのか、失敗へ気づくようになったのかは別に確認します。家族の点数が下がっても、本人が自立したのか、家族の代行が増えたのかを区別します。
カットオフはある? 何を予測できる?
日本版の検証研究は記憶障害を伴う脳損傷患者393人と対照132人を対象とし、患者を介護者が評価した得点について次の判別値を報告しています。本人の自己評価や、将来の認知症発症を予測する境界としては使いません。年齢区分は日本語の公開研究報告とも照合しました。[1],[9]
| 年齢区分 | 研究の境界 | 患者群を拾う割合(感度) | 対照群を陰性とする割合(特異度) |
|---|---|---|---|
| 59歳以下 | 14/15点:15点以上が高得点側 | 40.9% | 92.9% |
| 60歳以上 | 16/17点:17点以上が高得点側 | 50.2% | 85.5% |
感度が約4~5割である点が重要です。境界未満だから記憶障害を否定できる、という検査ではありません。たとえば、60歳以上の研究対象で患者100人に同じ判別を使うと、約50人は境界未満になります。この割合は研究集団の結果であり、個人の発症確率を示しません。[1]
本人と家族の答えが違うとき

| 結果の組み合わせ | 次に確かめること |
|---|---|
| 本人は低く、家族は高い | 本人が失敗を覚えていない可能性に加え、家族が見た場面・接触頻度・代行を確認する。 |
| 本人は高く、家族は低い | 本人しか経験していない困りごと、不安、努力による補い、家族が見ていない時間帯を確認する。 |
| 両者とも高い | 一致している生活課題を優先する。誰がどれだけ補っているかも記録する。 |
| 両者とも低いが、現場では困る | 活動機会が少ない、生活が支援で整えられている、質問への理解が不十分、といった条件を確認する。 |
2007年の日本の研究では、本人と介護者の得点差を用いて記憶障害への気づきを検討しています。ただし、研究独自の判定基準を、脳卒中や別の生活環境へそのまま広げることはできません。差は面接の入口として扱います。[3]
2025年の要介護高齢者30人の研究では、認知症への不安がある群の自己評価EMC中央値は12点、不安がない群は5点でした。一方、OT評価EMCには有意差がありませんでした。小規模な横断研究なので「不安が記憶障害を起こした」とは言えませんが、本人の訴えを点数だけで判断しない理由になります。[4]
RBMT・WMS-R・DEXとどう組み合わせる?
| 評価 | 主に集める情報 | EMCと合わせる問い |
|---|---|---|
| RBMT | 生活に近い検査課題での記憶行動 | 検査中の用件や持ち物の失敗が、家庭でも起きているか。 |
| WMS-R | 言語・視覚材料の記憶、注意/集中力、遅延再生 | 検査上の弱さが、どの生活の困りごとへつながっているか。 |
| CAT-Rなどの注意評価 | 注意の維持・配分などの側面 | そもそも説明を受け取れていないのか、中断が再開を妨げているのか。 |
| DEX・BADS | 日常の遂行機能に関わる訴え、計画・実行の課題 | 用事は覚えていても、開始・計画・確認が難しいのではないか。 |
| 生活観察・予定帳・家族の記録 | 実際の機会、失敗、援助、結果 | 点数に出た問題と、支援を必要とする現場が一致しているか。 |
EMCと能力検査の得点は、単位も方向も異なります。相互換算せず、「検査室でできたこと」と「生活で起きていること」を並べて読みます。RBMTの解説は日本版RBMTの記事でも紹介しています。
具体的な介入:一つの生活行動から始める

以下は臨床で試すための架空例です。EMCの特定の得点から、効果が保証される介入ではありません。
例1|毎朝、鍵を探して出発が遅れる
玄関に一つだけ定位置を作り、帰宅後の動線上にトレーを置きます。最初は帰宅時に一緒に置き、必要な声かけを徐々に減らします。翌週は「帰宅して自分で戻せた回数/帰宅した回数」「出発時に探した時間」を記録します。家族が毎回戻しているだけなら、自力でできた回数には含めません。
例2|予定は分かるが、時間になると思い出せない
予定を一つの手帳または端末へまとめます。通知だけを増やさず、「通知を見る→予定を確認する→必要な行動を始める」を一連で練習します。5回の用事で、通知への気づき・内容確認・実行を分けて記録します。通知に気づかないのか、気づいても用事が分からないのかで支援を変えます。
例3|同じ予定を繰り返し尋ねる
見やすい場所にその日の予定を一枚で提示します。尋ねられたら責めずに、本人が予定を確認する場所へ案内します。繰り返しの質問数だけでなく、表を自分で見た回数、安心して次の行動へ移れたかを確認します。字の読みづらさや情報量も調整します。
例4|途中で話しかけられると、用事へ戻れない
中断前に「次にすること」を一行残し、再開時に見る場所を決めます。慣れるまでは一つの用事を終えてから次へ進めます。短い生活課題で試し、再開に必要な合図の数と完了率を記録します。注意や遂行機能の評価も併用します。
外傷性脳損傷を対象とするINCOG 2.0は、外的記憶補助手段と本人の生活に合わせた使用練習を推奨しています。ここではその考え方を参考にしていますが、脳卒中・認知症のすべてに同じ効果を保証するものではありません。[6]
再評価と最新研究:点数の変化をどう読む?
再評価ではEMCに加えて、具体的な生活目標を追います。「本人の点数」「家族の点数」「用事を行う機会」「自力でできた回数」「援助量」をそろえると、点数が変わった理由を説明しやすくなります。最近1か月を尋ねる尺度を毎週繰り返すと、評価期間が重なります。週ごとの小さな変化は生活記録で追い、EMCの再評価日は対象期間を考えて決めます。
3か月のタブレット型記憶補助ツールのRCTでは、脳損傷者78人を2群に割り付け、主要評価のEMCに有意な群間差は認められませんでした(差0.26、95%信頼区間−2.55~3.07)。一方でRBMTなどには群間差が報告されています。能力検査が良くなったことと、生活での困りごとが減ったことは、同じ結果ではありません。[5]
| 検索で確認した研究 | 記事での扱い |
|---|---|
| 2003年:日本版の検証 | 家族・介護者評価の妥当性と年齢別判別値の根拠。対象集団と回答者を明記。[1] |
| 2023年掲載:記憶補助ツールのRCT | 主要評価EMCの結果を省かず、能力検査の改善と区別。[5] |
| 2025年:不安と自己評価 | 30人の結果。自己評価に影響する背景を考える資料として使用。[4] |
| 2026年:日常記憶と転倒に関するLetter | PubMedで書誌を確認。ただし抄録がなく本文を確認できていないため、転倒の予測精度や新しいカットオフの根拠には採用しない。[8] |
今回確認した資料から、EMC共通の「何点改善すれば臨床的に意味がある」という値は設定していません。総点が同じでも、服薬や外出など重要な場面が改善していれば、その変化を個別に報告します。
ダウンロード:面接と生活支援に使う記録補助票
実際の質問紙は、千葉テストセンターの日本版RBMT・EMC案内で確認できます。掲載イラストは、論文に示された表形式と回答場面を参考にした説明図です。図中の用紙をそのまま採点には使いません。
参考文献・確認範囲
- 数井裕光,綿森淑子,本多留実,森悦朗.日本版日常記憶チェックリストの有用性の検討.脳と神経.2003;55(4):317–325. PMID:12755035.
- 千葉テストセンター.日本版RBMTリバーミード行動記憶検査 2023年増補版.EMCの収載・正規用紙について。
- 羽生春夫ほか.老年期認知症患者の病識―生活健忘チェックリストを用い,介護者を対照とした研究―.日本老年医学会雑誌.2007;44(4):463–469. DOI:10.3143/geriatrics.44.463. 表1で質問紙の構成・回答期間を確認。
- Suzuki Y, Sudo T, Mochizuki H, Shimoda N. Relationship between Anxiety Concerning Dementia Onset and Subjective Memory Impairment in Frail Older Individuals. Dement Geriatr Cogn Disord Extra. 2025;15(1):1–7. DOI:10.1159/000542445.
- Ishida J, et al. Utility of a novel tablet computer software for memory impairment in participants with brain injuries: A randomized control trial. Neuropsychol Rehabil. 2023;33(1):85–102. 2021年オンライン公開.DOI:10.1080/09602011.2021.1987276.
- Velikonja D, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part V: Memory. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):83–102. DOI:10.1097/HTR.0000000000000837.
- Royle J, Lincoln NB. The Everyday Memory Questionnaire – revised: Development of a 13-item scale. Disabil Rehabil. 2008;30(2):114–121. DOI:10.1080/09638280701223876. EMCとは別の尺度として参照。
- Suzuki M, et al. Everyday Memory Failures as a Latent Risk Factor for Falls in Patients With Alzheimer’s Disease. Geriatr Gerontol Int. 2026;26(4):e70489. Letter. DOI:10.1111/ggi.70489. 書誌のみ確認。
- 小長谷陽子ほか.若年認知症交流会参加者の生活状況に関する調査.認知症介護研究・研修大府センター公開報告書,印刷頁18(PDFの21ページ).年齢区分とカットオフの記載を照合。
情報確認:2026年10月26日。日本語原著、PubMedの英語抄録、公開論文、出版社の製品情報を照合しました。2003年の検証論文は公開抄録を中心に確認し、正規マニュアル全文の確認は行っていません。正式な教示・採点上の細則は正規資料で確認してください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)