パーキンソン病で孫の世話を続けたい|原因と自宅でできる工夫
追いかけるのではなく、先に守っておく。
急に走り出す孫を追いかけられなかった。抱っこした手が震えて怖くなった。そんな出来事から、孫との時間に自信が持てなくなっていませんか。それは体の反応が変わったからで、関わり方が下手になったわけではありません。「追いかける」を「先に止めておく」に置き換えるなど、動きの入れ替えで、孫との時間は続けられます。しくみと、今日から自宅でできる工夫を整理しました。

「追いつけなかった」と、感じたら。
抱っこしようとした瞬間に手が震え、落としそうで怖くなった。床に座って遊んでいて、立ち上がるのに時間がかかり、目を離した隙にヒヤリとした——。以前は当たり前にできていたことが、うまくいかなくなる。「自分はもうダメなのか」という気持ちと、「それでも孫と過ごしたい」という気持ちの間で、揺れている方は少なくありません。
知ってほしいのです。それは体の反応が変わっただけで、関わり方を入れ替えれば、孫との時間はこれからも続けられるということを。
小さな子どもは、大人と違って予測できない動きをします。急に走り出す、方向を変える、物をつかもうとする。これに素早く反応し続けることは、パーキンソン病がなくても大変な作業です。パーキンソン病があると、そこにいくつかの変化が重なり、「以前ならすぐできたのに、今はできない」という場面が増えます。まずはそのしくみを知り、そのうえで安全に続けるための具体的な工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
孫育てが怖くなる、しくみと原因。
「孫の世話が不安」という感覚の裏には、一つではなく複数の身体の変化が重なって関わっています。子どもとの関わりで特に影響しやすい原因を整理しておきましょう。
| 関わる変化 | 孫との関わりにどう影響するか |
|---|---|
| 動作緩慢・筋強剛 | 子どもの急な飛び出しに、体の反応が追いつかない |
| 姿勢反射障害・バランス低下 | 抱き上げる、押される、引っ張られるといった動作で転倒しやすくなる |
| すくみ足 | 追いかける、方向転換する、狭い場所を通る場面ですくみやすい |
| 振戦 | 哺乳びんを持つ、食事を介助するなど、細かい動作がしづらくなる |
| 疲労(非運動症状) | 長時間の遊び相手や抱っこを続ける体力が保ちにくい |
| 自律神経症状 | 床に座る・立ち上がるを繰り返すと、ふらつきや立ちくらみが出やすい |
| 注意・遂行機能の変化 | 子どもを見守りながら他のことをする「ながら」動作が苦手になる |
さらに、薬が効いている「オン」の時間帯と、効果が薄れる「オフ」の時間帯では、反応の速さも動きの安定感も変わります。オフの時間帯に負担の大きい関わりが重なると、リスクは一段と高まります。この「原因の多さ」と「時間帯による波」を理解しておくことが、次の章の工夫の土台になります。

STROKE LABの視点:動きを3つ、入れ替える。
孫育てを続けるコツは、「以前と同じ動き方で頑張る」のではなく「リスクの高い動きを、負担の少ない動きに入れ替える」ことです。私たちが在宅での支援でお伝えしている入れ替えは、次の3つです。
入れ替え1:「追いかける」→「先に止めておく」。すくみ足や反応の遅れがあると、走り出した子どもを追って止めることは難しくなります。ベビーゲートやコーナーガードで、危険な場所にそもそも近づけないようにしておけば、追いかける動作自体が要らなくなります。
入れ替え2:「抱き上げる」→「低い場所で一緒に過ごす」。立ったまま抱っこや持ち上げを行うのは、バランスや震えがあるときに転倒リスクが高い動作です。床や低い椅子にしっかり座って子どもと同じ目線で過ごせば、支える負担が減り、安定して関われます。
入れ替え3:「ひとりで見る」→「時間で区切って交代する」。長時間の見守りは疲労を積み重ね、疲れた頃にヒヤリハットが起こりやすくなります。あらかじめ「30分だけ」「オンの時間だけ」と区切り、家族と交代するタイミングを決めておくと、無理なく続けられます。
3つとも、「できなくなったからやめる」のではなく、「やり方を変えて続ける」という考え方です。どの入れ替えが合うかは、住まいの間取りやお孫さんの年齢によっても変わります。作業療法士と一緒に、実際の生活場面を見ながら考えると、無理のない形が見つかりやすくなります。

場面別・今日からできる工夫。
3つの入れ替えを、実際の場面にあてはめてみましょう。
階段の上り口やキッチンの入り口にはベビーゲートを設置し、追いかけて止める必要がある場面自体を減らします。テーブルや家具の角にはコーナーガードをつけ、床のコードやマットの端はすくみ足のきっかけになるので片付けておきます。滑りにくい床材や靴下は、双方の転倒予防に役立ちます。

抱っこは、立ったままではなく、椅子に深く座った状態で行うと安定します。移動が必要なときは、抱きかかえるのではなく、ベビーカーや手をつなぐ、一緒に歩くといった方法に置き換えることも検討してください。抱っこをする場合は、震えや動作が安定しやすいオンの時間帯・短時間に限るのも一つの工夫です。

哺乳びんや食器は滑り止めシートで固定すると、震えがあっても扱いやすくなります。子どもを膝に乗せるより、専用の椅子に座らせて隣で介助するほうが、両手を自由に使え、姿勢も安定します。急いで食べさせようとせず、ゆっくりしたペースを心がけましょう。

「何時から何時まで」「どこまでの関わりを担当するか」を、事前にご家族と話し合っておきます。薬が効くオンの時間帯を家族で共有しておくと、負担の大きい関わりをその時間に集めやすくなります。転倒やヒヤリハットがあったときの連絡方法も、あらかじめ決めておくと安心です。

パーキンソン病の方195名を対象にした無作為化比較試験では、週2回・24週間の太極拳を行った群は、筋力トレーニングやストレッチを行った群に比べてバランス能力が改善し、転倒の回数も少なかったと報告されています。抱き上げや床からの立ち上がりなど、バランスを崩しやすい動作の土台づくりとして、参考になる結果です。
限界:この研究は転倒予防を目的とした一般的な運動効果を検証したもので、孫育ての場面を直接検証したものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。運動療法は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、環境を変えてリスクを避ける工夫だとすれば、専門施設で目指すのは、すくみ足や反応の遅れそのものに働きかけ、動ける場面を少しずつ広げていくアプローチです。孫育てへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. リズムを使った歩行練習。一定のリズムやかけ声に合わせて歩く練習を重ね、方向転換や急な出足でのすくみを起こりにくくしていきます。
2. バランスと立ち上がりの練習。床からの立ち上がりや、押される・引っ張られる場面を想定した練習で、とっさの場面での崩れにくさを養います。
3. 住環境と家族の関わりの調整。実際の間取りを確認し、ゲートや動線を一緒に検討するとともに、ご家族との役割分担を整理します。
STROKE LABが大切にしているのは、「孫と、どう過ごしたいか」というご本人の願いを出発点にし、動作・環境・家族の3方向から安全に近づけていくという姿勢です。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方153名を対象にした無作為化クロスオーバー試験(RESCUE試験)では、一定のリズムを使って歩行を促す自宅での理学療法プログラムを受けた群で、歩行、すくみ足、バランスに特有の改善がみられ、副次的な指標として介護者の負担感にも変化があったと報告されています。
限界:訓練をやめると6週間ほどで効果が薄れる傾向が報告されており、継続や専門家によるフォローが前提です。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。理学療法は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
脳リハ.comのYouTubeでは、バランスや床からの立ち上がりを養う体操を配信しています。孫との時間を続けるための土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際に困っている場面を確認しながら、負担の少ない動作への置き換え、住環境の調整、ご家族との役割分担の整理を組み合わせます。「孫とどう関わりたいか」というご本人の願いを出発点にすると、無理のない形が見つかりやすくなります。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、追いかける・抱き上げるといった場面で転倒やヒヤリハットが増えた、すくみ足が強くなった、家事や育児の疲労が抜けにくくなった、といったときです。不安な気持ちを一人で抱え込まず、自己判断せず神経内科や主治医、療法士に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。体操の詳しい内容は体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。
よくある質問。
Q. 孫を追いかけているときに急に足が止まってしまいます。これは何が起きているのですか?
Q. 抱っこをすると手が震えて怖いです。もう抱っこはやめたほうがいいですか?
Q. 家族に「もう孫の世話をしないで」と言われてつらいです。
Q. どの時間帯に孫の世話をするのが安全ですか?
Q. 家の中でできる安全対策はありますか?
Q. 専門リハでは孫育てについてどんな相談ができますか?
孫育ての相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている場面を一緒に確認し、動作のやり方・住環境・家族との関わりを、その方の暮らしに合わせて組み立てます。「孫とどう過ごしたいか」というご本人の願いを大切に、安全に続けられる形を一緒に探します。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
一緒にいる時間は守れます。

孫を追いかけられなかった、抱っこで手が震えた——そうした出来事の一つひとつが、「自分はもう役に立てない」という気持ちにつながってしまう方を、たくさん見てきました。ですが、それは孫育てをやめる理由にはなりません。
お伝えしたいのは、追いかける動きを、先に止めておく工夫に置き換えるだけで、危険な場面はぐっと減らせるということです。動きを入れ替えれば、孫と過ごす時間そのものは、これからも守っていけます。
孫育てでの不安がありましたら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを一緒に見ながら、ご本人とご家族に合うやり方を見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。転倒や事故のリスクには個人差があります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年9月3日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Li F, Harmer P, Fitzgerald K, et al. Tai chi and postural stability in patients with Parkinson’s disease. N Engl J Med. 2012;366(6):511-519.(太極拳がバランスと転倒回数を有意に改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Nieuwboer A, Kwakkel G, Rochester L, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅でのリズムを用いた歩行練習で、歩行・すくみ足・バランスが改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)