パーキンソン病で通勤がつらくなってきた|原因と対策・自宅でできる工夫
通勤は、ひとつの動作ではなく、場面の連続です。
支度、駅までの道、改札、電車、乗り換え、会社までの道——。パーキンソン病で通勤がつらくなってきたとき、原因は場面ごとに違います。場面を分けて考えると、対策も具体的に見えてきます。原因の整理と、今日から自宅でできる工夫をまとめました。

「今朝も、間に合わなかった。」
以前は当たり前にできていた通勤が、少しずつ重荷になっていく。朝の支度に時間がかかる、駅の改札で急に足が動かなくなる、満員電車で立っているとふらつく——。一つひとつは小さなことでも、毎日となると心身の負担は大きく、「もう働き続けられないのでは」と不安になる方は少なくありません。
でも、知ってほしいのです。通勤のつらさは、場面ごとに原因を分けて考えると、それぞれに対策があるということを。
通勤は、支度・歩行・乗車・乗り換えという、性質の異なる動作の連続です。パーキンソン病の症状は、動作の種類や環境によって出方が変わるため、「通勤がつらい」という一言の中に、実はいくつもの違う原因が隠れています。まずはその原因を整理し、そのうえで場面ごとの工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
通勤を場面で分けて、原因を知る。
通勤のつらさは、「運動症状」「薬の効き方の波」「自律神経の乱れ」「非運動症状」という4つの角度から見ると整理しやすくなります。場面ごとに、どの角度が関わりやすいかをまとめました。
| 通勤の場面 | 起こりやすいこと・関わる原因 |
|---|---|
| 朝の支度 | 動作緩慢でボタンや靴ひもに時間がかかる。薬が効き始める前で動きにくい時間帯と重なりやすい |
| 駅までの歩行 | 小刻み歩行や前のめりの姿勢、疲労のしやすさが影響。急ぐ気持ちが焦りにつながることも |
| 改札・人混み | すくみ足が出やすい代表的な場面。狭い場所・方向転換・注意の分散が引き金になる |
| 電車内で立つ | 姿勢反射障害でふらつきやすい。自律神経の乱れによる起立性低血圧で立ちくらみが出ることも |
| 乗り換え・階段 | 複数の動作を同時に行う「二重課題」が苦手になりやすく、案内表示を見ながら歩くと乱れやすい |
加えて、人混みそのものへの不安や緊張、周囲の視線が気になる気持ちといった心理的な要因が、体の動きにくさをさらに強めることもあります。原因が場面ごとに違うからこそ、対策も場面ごとに用意するのが、遠回りに見えて実は近道です。

自宅でできる、「出発前」の準備。
通勤本番より先に、自宅での数分の準備が、駅や電車での動きやすさにつながります。特別な道具がなくても始められる工夫を紹介します。
1. 起きてすぐ、体を大きく動かす。腕を大きく振りながらその場で足踏みを1〜2分。体が目覚め、歩幅が狭くなるのを予防します。
2. 支度は「同じ順番」で行う。着替え・洗面・持ち物確認の順番を毎日固定すると、迷いによる動作の中断が減り、時間の見積もりも立てやすくなります。
3. 荷物は両手が空く形にまとめる。片手に荷物があると、バランスを崩したときに支えにくくなります。リュックや斜めがけバッグで両手を自由にしておきましょう。
4. 靴と衣服は「早く・安全に」着けられるものに。マジックテープ式の靴、ボタンの少ない衣服は、支度時間の短縮と焦りの軽減に役立ちます。
そして何より大切なのが、服薬のタイミングと通勤時間の関係を、一度見直してみることです。薬が効き始める前に家を出ると、駅や電車で動きにくさが強く出やすくなります。服薬時間を早める、少し余裕を持って家を出るなど、生活のリズムに合わせた調整は主治医に相談できます。自己判断で薬の量や回数を変えることは避けてください。運動で体全体を動かしておくことも、通勤の動きやすさの土台になります。体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。

STROKE LABの視点:駅・電車で困る場面への対策。
改札や電車内は、通勤の中でも特に困りごとが集中しやすい場面です。「すくみ足」と「立ちくらみ」、この2つに絞って、その場でできる対処を整理します。
すくみ足への対処。足が止まったと感じたら、無理に大きく踏み出そうとしないことが大切です。かえって力んで動きにくくなります。代わりに、次のような合図を使うと、足が出やすくなることがあります。
・心の中で「1、2、1、2」とリズムを数える
・床のタイルの継ぎ目や、自分の足元に見える線を「またぐ」意識で一歩目を出す
・その場で軽く足踏みをしてから、歩き出す
・「大きく」と自分に声をかけてから踏み出す
こうした視覚・聴覚・かけ声の合図(キューイング)は、あらかじめ自宅の廊下などで練習しておくと、駅の本番でも思い出しやすくなります。
立ちくらみへの対処。電車内で長く立ち続けると、自律神経の乱れによる血圧低下でふらつくことがあります。可能であれば優先席や座れる車両・時間帯を選ぶ、つり革や手すりにしっかりつかまる、こまめに軽く足を動かして血液の巡りを保つ、といった工夫が助けになります。前の晩の水分不足や、暑い時期の脱水も影響するため、日頃の水分補給も大切です。

パーキンソン病の方を対象にした多施設共同の無作為化比較試験では、リズム音や床の線などの合図(キュー)を使った歩行訓練を行った群で、すくみ足の頻度やつまずきによる転倒が、通常のケアのみの群と比べて減少したと報告されています。合図は特別な道具がなくても、日常の中で応用できる考え方です。
限界:この研究は訓練プログラムとしての効果を検証したもので、実際の駅や電車内という環境そのものを対象にはしていません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。歩行訓練は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。

自宅や駅での工夫が、合図を足してその場を乗り切る代償的な対処だとすれば、専門施設で目指すのは、通勤という複雑な環境そのものに強くなる回復的アプローチです。通勤困難への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 二重課題(デュアルタスク)練習。案内表示を見る、人を避ける、会話をするなど、歩行と同時に別のことを行う練習を段階的に取り入れ、注意が分散した状況での歩行の崩れを減らします。
2. 環境を再現した歩行練習。狭い通路、方向転換、人とすれ違う場面などを施設内で再現し、実際の駅や車内に近い条件で練習を重ねます。
3. 姿勢・バランスの土台づくり。立位や乗車中の姿勢を安定させるための体幹・下肢の運動療法で、ふらつきそのものを起こりにくくします。
STROKE LABが軸足を置くのは、実際に困っている通勤の場面を聞き取り、その場面に近い条件で練習を重ねながら、合図に頼らなくても動ける範囲を広げていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
動きの「大きさ」に焦点をあてた集中的な運動療法(LSVT BIG)を検証した無作為化比較試験では、別の運動や自宅練習より運動症状の指標が大きく改善し、その効果が16週間後にも維持されていたと報告されています。歩幅や姿勢の崩れを土台から立て直す考え方は、通勤時の歩行の安定にもつながります。
限界:全身運動を対象とした研究で、通勤という場面そのものを主要な指標にしたものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。集中的な訓練には決められた頻度や条件があり、専門的な評価と指導が前提です。より専門的な内容は医療者向けのLSVT BIG解説もご覧ください。
脳リハ.comのYouTubeでは、歩幅を保つ体操や姿勢を整える運動を配信しています。通勤前の準備運動として、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハ・受診・職場相談の目安。
専門のリハビリでは、実際に困っている通勤の場面を詳しく聞き取り、どの原因がどの場面に関わっているかを一緒に整理します。そのうえで、合図の種類、歩行の練習方法、姿勢の土台づくりを、その人の生活に合わせて組み立てます。「実際に困っている場面」を練習の題材にすることで、練習の効果が通勤にそのまま活きやすくなります。
受診・相談の目安は、転倒やつまずきが増えてきた、支度から出発までの時間が以前より大きく延びた、動きにくさが強く生活に支障が出ている、といったときです。これらは薬の調整で改善することも多いため、自己判断せず神経内科・主治医に相談してください。また、通勤そのものの負担を減らすために、時差出勤やテレワークについて職場や産業医に相談することも、大切な選択肢のひとつです。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 通勤中に急に足が動かなくなるのはなぜですか?
Q. 薬が効いている時間と通勤時間がずれると、どうなりますか?
Q. 満員電車で立っていると立ちくらみがするのはなぜですか?
Q. 通勤の負担を減らすために、自宅でできることはありますか?
Q. 通勤がつらいことは、職場にどう伝えればよいですか?
Q. 通勤がつらくなってきたのは、病気が進行しているサインですか?
通勤のご相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際に困っている通勤の場面を詳しく聞き取り、支度・歩行・乗車のどこに課題があるかを一緒に整理したうえで、その方の生活に合わせた練習を組み立てます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
大切な一歩です。

通勤がつらくなると、「働き続けられるだろうか」という不安が、体の動きにくさ以上に心を重くします。改札で足が止まる、電車でふらつく——そのたびに、周りの目が気になり、外に出ること自体が怖くなる方にも出会ってきました。
お伝えしたいのは、通勤のつらさは、場面ごとに分けて向き合えば、必ず対策の糸口が見つかるということです。原因を整理し、合図や環境を味方につければ、まだ動ける範囲は広がります。
通勤でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際に困っている場面をお聞きしたうえで、その方に合う対策を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。通勤のつらさには複数の原因が重なっていることが多く、必ずしも進行のみを意味しません。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年9月2日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(リズムや視覚の合図を用いた歩行訓練で、すくみ足の頻度や転倒が減少したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Ebersbach G, et al. Comparing exercise in Parkinson’s disease—the Berlin LSVT BIG study. Mov Disord. 2010;25(12):1902-1908.(動きの大きさに焦点をあてた集中的運動療法が運動症状を有意に改善し、16週後も効果が維持されたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)