保育園の準備が進まない子|着替え・持ち物・切り替えの支援
登園準備は、「家を出る」までではなく
「園に入れる」まで。
保育園へ行く朝には、着替える、持ち物をそろえる、遊びを終える、玄関へ移る、靴を履く、園で保護者と離れ、ロッカーへ荷物を置くという複数の切り替えがあります。だから「準備が遅い」を一つの問題にせず、どこで止まり、誰と・どこで・どんな条件なら進めるのかを見ることが、支援の出発点になります。

朝の準備が止まる場所は、子どもによって違います。
同じ「保育園の準備が進まない」でも、着替えそのものに時間がかかる子、持ち物を集めるところで止まる子、遊びを終えられない子、玄関で急に崩れる子、園へ着いてから親と離れにくい子では、支援する場所が違います。
厚生労働省のDCD支援マニュアルでは、困りごとを「いつ・どこで・誰が・何に・どのように困るか」に分け、子どもの能力だけでなく課題と環境の相互作用として分析することが重視されています。今回の記事でも、できる/できないではなく、誰と・どこで・どんな条件ならできるかを軸に見ていきます。
「どの条件なら自分で進める?」
家では止まるのに園ではできる。その差は矛盾ではなく、声かけ・物の配置・役割・周囲の刺激など、成功条件を探すための重要な情報です。
着替え|「手先が不器用」だけで終わらせない。
着替えは、服を選ぶ、前後を確認する、脱ぐ、袖や裾へ手足を合わせる、姿勢を保つ、左右の手を別々の役割で使う、留め具を操作する、終わりを判断するという多段階の生活動作です。
| 着替えの工程 | 家庭で見える姿 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 服を選ぶ | タンスの前で長く止まる | 選択肢が多すぎないか、必要な服が分かるか |
| 向きを確認する | 前後・裏表を何度も間違える | タグや絵など視覚的な手がかりで変化するか |
| 袖・裾へ通す | 手足を入れる位置が合いにくい | 姿勢、視線、身体と服の位置関係 |
| 両手を使う | 片方の手だけで進めようとして時間がかかる | 支える手と操作する手の役割分担 |
| 留め具を扱う | ボタン・ファスナーで急に時間が伸びる | 手指操作、視覚情報、服の固定方法 |
着替えに8分かかったとしても、始めるまで6分・実際の着替え2分なのか、すぐ始めるけれどボタンに5分かかるのかで介入は変わります。所要時間だけでは、運動の問題と切り替えの問題を区別できません。
持ち物|覚える・探す・入れる・確認するを分けます。
「忘れ物が多い」という結果だけでは、支援方法は決まりません。持ち物を覚えていないのか、場所が分からないのか、バッグへ入れる途中で別のことへ注意が移るのか、入れ終えたか自分で確認できないのかを分けます。
| 止まりやすい場所 | 家庭で試す工夫 | 変化を見るポイント |
|---|---|---|
| 覚える | 必要な物を少数に絞り、簡潔な一覧にする | 保護者が言わなくても思い出せるか |
| 探す | 物の定位置を固定する | 探す時間が減るか |
| 入れる | バッグの中の場所も固定する | 途中で止まらず最後まで入れられるか |
| 確認する | 「入れた?」ではなく、自分で見るチェック方法を用意する | 大人への確認回数が減るか |
切り替え|遊びを終えるところから、登園は始まっています。
「保育園へ行きたくない」と「遊びを終えて次へ移れない」は同じではありません。見るのは、予告を聞く、遊びを止める、次の活動へ注意を移す、立つ、玄関へ向かうという連鎖です。
visual scheduleは移行支援で広く用いられていますが、複数の介入要素と一緒に使用される研究も多く、「視覚化だけで全員に同じ効果が出る」とは言えません。臨床では、視覚支援を入れたあとに、開始までの時間、声かけ回数、自分で次を確認する行動が変わったかを再評価します。
限界:研究対象や介入内容は一様ではありません。視覚支援は診断名だけで決めず、本人の理解、課題、環境、組み合わせる支援に応じて調整します。
家庭では、準備を「覚える」より「迷わない」仕組みに。
家庭での目標は、保護者が療法士になることではありません。忙しい朝でも、子どもが判断する回数を減らし、成功しやすい条件をつくることです。
| 家庭でできる工夫 | ねらい | 見直す基準 |
|---|---|---|
| 前夜に服と園バッグをまとめる | 探す・選ぶ負荷を減らす | 開始までの時間が短くなるか |
| 一度に一つだけ伝える | 複数手順の保持負荷を下げる | 指示直後に動けるか |
| 手順を写真・実物で見える化する | 次行動を自分で確認できるようにする | 「次は?」が減るか |
| 遊び終了から玄関までを一つのルーティンにする | 切り替えの予測可能性を高める | 遊び終了から靴を履くまでが安定するか |
| 一つ変えて数日観察する | 何が役立ったかを分かるようにする | 変化がなければ支援を変える |

園には、「苦手」ではなく「できる条件」を伝えます。
「準備が苦手です」「ゆっくりです」だけでは、園側もどのように支援すればよいか判断しにくくなります。困る場面と、進みやすい条件をセットで共有すると、家庭と園で支援をそろえやすくなります。
| 園へ伝える項目 | 伝え方の例 |
|---|---|
| 困る場面 | 登園後、上着を脱いでロッカーへしまうところで止まりやすい |
| 進みやすい条件 | 「上着→バッグ」の2工程だけ見せると自分で進みやすい |
| 困りやすい条件 | 一度に複数の指示を受けると止まりやすい |
| 現在使っている支援 | 写真2枚の手順を使用している |
| 園で見てほしい変化 | 声かけなしで次の工程へ移れる回数 |
その子が園生活へ参加しやすくなるよう、物の置き場所、手順の見せ方、声かけ、活動の難易度、時間の使い方などを調整することです。目標は、支援を増やし続けることではなく、必要な支援で参加を支えながら、本人が自分で進める部分を広げることです。
家庭と園の両方で困りが広がるなら、相談を考えます。
登園準備に時間がかかっていても、それだけで診断が必要とは限りません。一方、着替え・食事・遊び・集団活動など複数場面で強い困りごとが続く場合や、本人や家族の負担が大きくなっている場合は、園・かかりつけ医・発達相談・作業療法などへ相談すると整理しやすくなります。
| 相談を考えたい状況 | 確認したい広がり |
|---|---|
| 着替え以外も極端に時間がかかる | 食事、排泄、工作、運動、遊びなど複数の生活場面 |
| 家でも園でも準備が難しい | 環境が変わっても同じ困りが続くか |
| 本人が「できない」と避ける | 失敗経験や自信の低下がないか |
| 保護者・園の介助が増えている | 本人の自立だけでなく周囲の負担も大きくないか |
| 園生活への参加に影響している | 登園後の活動開始、集団参加、友だちとの活動への影響 |
専門施設では、家庭と園の「できる条件の差」まで見ます。
専門施設の価値は、できない動作を練習することだけではありません。同じ子どもでも、家庭、施設、園で行動が変わります。その違いを「気分」や「甘え」で片づけず、声かけ、手順の提示、物の配置、時間制約、周囲刺激、支援者との関係などへ分け、成功条件を特定します。
たとえば家では「着替えて」で止まる子が、園ではロッカーの前で自分から始められる場合、着替え能力そのものがないとは考えません。園には、決まった場所、周囲の子どものモデル、短い声かけ、次の活動の見通しなど、家庭とは違う成功条件がある可能性があります。
専門施設では、その条件を一つずつ再現・除去します。支援を入れて成功率が上がるか、支援を減らしても維持できるか、時間制限を加えると崩れるか、別の支援者でも再現できるかを見ます。
最後は施設内の成功ではなく、園で先生が無理なく使える方法へ翻訳し、同じ登園・準備場面で再評価します。これが「できる力」を「参加できる力」へ変える過程です。
| 観察される困りごと | 考えるボトルネック | 確認する評価・観察 | 選択する支援 | 難易度・量の調整 | 園で確認する変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 家では着替えに時間がかかるが園ではできる | 声かけ、姿勢、服の配置、周囲刺激などの条件差 | 家庭動画と園の方法を比較。誰が何と言うと開始するか | 園で成功している条件を家庭へ移す | 手がかりを一つずつ減らす | 保護者の声かけ回数が減るか |
| 持ち物準備中に別のことを始める | 注意の転導、系列化、確認行動 | 2品/4品、会話あり/なしで成功率を比較 | 定位置+自分で確認する方法を設計 | 品数と周囲刺激を段階的に増やす | 自分で持ち物を確認できるか |
| 遊びを終えられず出発できない | 終了予測、切り替え、次活動の理解 | 予告から手を止めるまでの時間、プロンプト回数 | 予告・選択・Now/Nextなどを比較 | 予告時間、選択肢、手がかりを調整 | 遊び終了から靴を履くまでの時間 |
| 玄関になると急に崩れる | 複数動作、時間圧、家族の焦り | 急ぐ条件/余裕がある条件でミス・停止を比較 | 玄関課題を分解し成功条件から再構築 | 靴・上着・バッグの順序を段階化 | 玄関で必要な介助が減るか |
| 園門で親から離れにくい | 登園準備と親子分離の課題が混在 | 家を出るまでと園到着後を別々に観察 | 園との受け渡しルーティンを統一 | 場所・言葉・支援者を固定し、徐々に柔軟化 | 園到着から活動開始までの流れ |
1. 誰の声かけなら開始できるか:母親の「着替えて」では止まるのに、先生の「ロッカーを見よう」では開始できる。この差を「甘え」で片づけず、手がかりの形式、役割、予測可能性の違いとして分析します。
2. 時間圧をかけたとき、どこから崩れるか:余裕があればできるのに「あと3分」で服の前後を間違える、バッグを置き忘れる。速度を求めたとき最初に落ちる機能が、難易度調整の手がかりになります。
① 個人だけでなく課題・環境を見る:厚生労働省のDCD支援マニュアルでは、登園・登校前を含む具体的な生活場面を、個人・課題・環境の相互作用として分析し、家庭や園を「訓練の場」にするのではなく日常へ工夫を埋め込むことが示されています。
② 実際の活動を使って学ぶ:DCDの国際臨床推奨では、活動・参加に直接働きかける課題志向の介入が強く推奨されています。つまり、登園準備を良くしたいなら、手の運動だけでなく、着替え・持ち物・玄関など実際の課題で成功条件を探すことが重要です。
③ 園で使えることが最終アウトカム:訓練室でできることと、家庭・園で自分から行えることは同じではありません。園での声かけ回数、ロッカー準備の介助、登園後に活動へ入るまでの流れなど、参加場面で再評価します。
限界:今回の記事は特定の診断に限定していません。DCDなど診断群の研究は、生活動作と環境を分析する原理の参考として用い、未診断のお子さんへ効果をそのまま外挿しません。支援は年齢、発達、園環境、本人・家族の目標に合わせて調整します。セラピーは医学的診断・治療の代替ではありません。

できる力を、園で使える力へつなぎます。
「着替えられる」「持ち物を入れられる」という能力があっても、時間制約、周囲の子ども、先生の声かけ、園の物品配置などが変わると実行できないことがあります。だから最終的に見るのは、施設内の成功ではなく、園で本人が参加できるかです。
支援も固定しません。最初は写真2枚が必要でも、できるようになれば1枚へ減らす。先生の指差しが必要なら、視線だけで分かる配置へ変える。必要な支援で参加を成立させ、その後に支援を減らせるかを見ることが、生活へ般化させる考え方です。
着替え・持ち物・切り替えを実際の生活動作として確認し、家庭と園の条件差まで整理します。家庭での工夫を続けても困りごとが強い場合や、園への伝え方を一緒に整理したい場合は、小児セラピーのページもご覧ください。
よくある質問。
Q. 保育園の準備が遅いのは、性格や甘えの問題ですか?
Q. 家では準備が進まないのに、園ではできるのはなぜですか?
Q. お支度ボードや絵カードは使ったほうがよいですか?
Q. 着替えだけ極端に遅い場合は、何を見ればよいですか?
Q. 園には、どのように困りごとを伝えるとよいですか?
Q. どのようなときに専門家へ相談するとよいですか?
STROKE LABの小児セラピー。
STROKE LAB(東京・大阪)では、着替え・持ち物・切り替えなどの生活動作を、子どもの身体機能だけでなく、課題、時間、物の配置、声かけ、家庭と園の違いまで含めて評価します。施設内でできることを増やすだけでなく、園で本人が使える方法へつなぐことを大切にしています。診断・投薬・医学的検査は医療機関の判断を尊重し、生活参加の側から併走します。
園でできる条件へ。

家庭でできないことが、園ではできる。あるいはその逆。子どもの生活動作は、環境が変わると大きく変化します。その差を「気分」や「甘え」と決めつけず、成功する条件として丁寧に見ていくことが大切です。
私たちは、本人の身体、課題の難しさ、時間、道具、周囲の人や環境を分け、どの条件なら自分から参加できるかを探します。
家庭と園が同じ方法で支える必要はありません。それぞれの場で無理なく続けられ、本人が少しずつ自分で進められる支援へ翻訳することが、私たちの役割だと考えています。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。生活動作を一つの能力で説明せず、姿勢・感覚・運動・注意・環境のつながりとして見る視点は、子どもの登園準備を分析するときにも土台になります。
- 朝の支度が遅い子|運動・手順・注意を分けて支える
- 体育が苦手・運動会がつらい子へ|学校生活でできる配慮と支援
- 小児セラピーの初回相談の流れ
- STROKE LABの小児セラピー
本記事は、国内のDCD支援資料、国際臨床推奨、園・家庭での生活動作支援に関する知見と、STROKE LABの臨床的な動作分析・環境分析の枠組みをもとに構成しています。診断や医学的治療に代わるものではありません(最終確認日:2026年9月3日)。
- 厚生労働省:発達性協調運動症(DCD)支援マニュアル.
- 発達障害ナビポータル:発達性協調運動症(DCD)について.
- Blank R, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)