パーキンソン病でボタン・ファスナーがとめにくい|原因と対策・自宅でできる工夫
小さな留め具は敵、大きな目印は味方です。
ボタンがうまくつまめない。ファスナーの引き手に指がかからない。パーキンソン病では、こうした「留める」という細かい動作が難しくなることがあります。原因は一つではありません。しくみを整理したうえで、今日から自宅で試せる工夫をご紹介します。

「留められない」に、気づいたとき。
以前は何も考えずにできていたボタンかけが、いつのまにか一番時間のかかる作業になっていた。指先がうまく動かず、ボタンをつまんでもすぐに落ちてしまう。ファスナーの小さな引き手には、指がかかりません。焦れば焦るほど、うまくいかない——そんな朝を繰り返している方は少なくありません。
でも、知ってほしいのです。これにはいくつかの理由があり、留め具と動き方を変えるだけで、驚くほど楽になることがあるということを。
パーキンソン病では、ボタンやファスナーのような細かい指の動作(巧緻動作)が難しくなることがあります。原因は一つに決まっているわけではなく、いくつかの症状が組み合わさって起こります。まずはそのしくみを整理し、そのうえで今日から試せる具体的な工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
とめにくくなる、様々な原因。
ボタンやファスナーの操作は、指先の細かい力加減・タイミング・感覚を同時に使う複雑な動作です。パーキンソン病では、複数の症状が重なってこの動作を難しくします。どれか一つと決めつけず、自分にはどれが強く影響しているかを知ることが、工夫の第一歩になります。
| 原因 | どういうことか |
|---|---|
| 動作緩慢 | 動きが小さく・遅くなり、指先を目的の位置まで運びにくくなる |
| 筋強剛(こわばり) | 指や手首の筋肉がこわばり、つまむ・ひねる動きの範囲が狭くなる |
| 感覚の変化 | 指先の感覚が鈍くなり、ボタンをつまめているかどうか分かりにくい |
| 振戦(震え) | 静止時に手が震え、小さな穴や引き手に指先を合わせにくくなる |
| 急ぐ・注意が分かれる | 時間を気にする、話しながら行うなど、同時に何かをすると動作が乱れやすい |
ここに、立て直しのヒントがあります。留め具が小さいから難しいなら、留め具を大きくすればよい。急ぐと乱れるなら、一つずつ順番に進めればよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:衣類を「留めやすい」仕様に変える。
ボタン・ファスナーの困りごとにいちばん手早く効くのが、留め具そのものを「つまみやすく・見つけやすく」変えることです。特別な工事は要りません。手持ちの服や、100円ショップ・手芸店の材料で、次の3ステップから始められます。
ステップ1:留め具を大きく・磁石式に替える。よく着る服のボタンを、ひとまわり大きなものや磁石式のボタンに付け替えます。手芸店にはマグネットボタンのキットもあり、縫い付けも簡単です。
ステップ2:引き手に輪っか・フックを付ける。ファスナーの引き手に、リングやループ、キーホルダーのような輪を付けると、指先だけでなく手のひらや別の指も使って引けるようになります。専用のボタンフック(ボタンエイド)も市販されています。
ステップ3:留め位置に色や印を付ける。ボタンとボタン穴に同じ色の目印を付けておくと、どこに留めればよいか一目で分かり、迷いや時間のロスが減ります。目印は、慣れてきたら少しずつ減らしていきます。
大切なのは、工夫を使って「留められた」という成功体験を積み重ねることです。うまくいく感覚を体で覚えると、動作そのものも安定しやすくなります。合う道具や大きさは人それぞれなので、作業療法士と一緒に試すと近道です。

動き方と、服選びのコツ。
道具を整えたら、動き方と服選びでさらに楽になります。合言葉は「座って、一つずつ、急がない」。焦りは動作をさらに乱すので、時間に余裕を持つことが何より大切です。
立ったままより、椅子に座って行うほうがバランスに気を取られず、手元に集中できます。上から順番に一つずつ確認しながら進め、シャツはあらかじめボタンを半分留めてから頭からかぶる方法もあります。薬の効果が安定している時間帯(オンの時間)に着替えを済ませるのも一つの工夫です。服選びでは、前開きで大きめのボタンやマグネット式の留め具がついたもの、ウエストがゴムやマジックテープのズボン、スリッポンタイプの靴など、着脱の負担が少ないものを選ぶと、日々の負担が大きく減ります。手や体を動かしておくと、指先の動作も安定しやすくなるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

パーキンソン病の方を対象にした無作為化比較試験では、個別の作業療法(生活動作の工夫や自助具の提案を含む)を受けた群で、着替えを含む日常生活動作の「自分でできている実感」が、通常ケアのみの群より有意に改善したと報告されています。
限界:この研究は日常生活動作全般を対象にしたもので、ボタン・ファスナー操作だけを取り出して検証したものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。作業療法は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、留め具を大きくしてその場で操作しやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、動作そのものを立て直す回復的アプローチです。ボタン・ファスナーへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. キューイング。視覚(色・目印)、聴覚(かけ声やリズム)、体性感覚(触れて確認する)の手がかりを使い分け、その人にいちばん響くキューを見極めます。
2. 動作の分解と手順練習(チャンキング)。「つまむ」「通す」「引く」といった一連の動きを小さな手順に分け、一つずつ確認しながら練習することで、動作の乱れやすさに対応します。
3. 手指の巧緻性と感覚の土台づくり。つまむ・ひねる動きの土台となる指の協調運動や、握力・手首の可動域、感覚の使い方を、着替え以外の課題からも整えます。
STROKE LABが軸足を置くのは、キューと手順分解で「できた」を積み重ねながら、実際に困っている服やボタンで練習し、少しずつ自助具に頼らずできる場面を増やしていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方に対し、自宅でも継続できる形でキューイング(視覚・聴覚・体性感覚の手がかり)を用いた訓練を行った無作為化比較試験では、訓練群で日常の移動・動作に関わる指標が有意に改善したと報告されています。動作をキューで区切って進める考え方は、歩行だけでなく、着替えのような手先の作業にも応用されています。
限界:この研究は主に歩行やすくみ足に関するもので、ボタン・ファスナー操作を直接検証したものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。キューイングは専門家による評価のうえで、その人に合う方法を選ぶことが前提です。
脳リハ.comのYouTubeでは、手や指の協調運動を整える体操を配信しています。着替えの土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際にどの服のどの場面で困っているかを一緒に確認し、留め具の種類・自助具・動きの手順を、その人に合わせて調整します。「実際に困っている服」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、着替えに時間がかかりすぎて生活に支障が出てきた、他の動きにもこわばりや遅さが目立つようになってきた、といったときです。留めにくさの原因はパーキンソン病だけとは限りません。関節の痛みや視力の変化など他の要因が重なっていることもあるため、自己判断せず、神経内科や主治医で確認してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。書字の工夫を知りたい方は小字症の記事もあわせてご覧ください。

よくある質問。
Q. なぜパーキンソン病でボタンやファスナーが留めにくくなるのですか?
Q. 力を入れても指が思うように動きません。これも症状ですか?
Q. 自宅でできる工夫はありますか?

Q. 服はどんなものを選べばよいですか?
Q. 練習すれば留めやすくなりますか?
Q. 震え(振戦)のせいでとめにくいのですか、それとも別の症状ですか?
着替えの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際に困っている服やボタンを一緒に確認し、自助具の種類・動きの手順・練習の組み立てを、その人に合わせて考えます。生活の場面をそのまま練習の題材にするので、成果が日々の暮らしに直結します。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
朝は変わります。

着替えに時間がかかるようになると、朝の忙しい時間ほど焦りが募り、家族も手を出すべきか見守るべきか悩んでしまいます。「もう自分では留められないかもしれない」と、あきらめかけている方にたくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、ボタンをひとまわり大きくするだけで、朝の着替えが驚くほど楽になることがあるということです。留め具を味方につけ、座って一つずつ、急がずに。ちょっとした工夫で、自分でできる場面はまだまだ広がります。
着替えでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている服そのものを題材に、その方に合う工夫を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。着替えの困りごとには他の原因が隠れていることもあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月28日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Sturkenboom IHWM, et al. Efficacy of occupational therapy for patients with Parkinson’s disease: a randomised controlled trial. Lancet Neurol. 2014;13(6):557-566.(個別の作業療法により日常生活動作の自己評価が改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅でのキューイング訓練が運動指標を改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)