パーキンソン病でスーパーの店内で歩き疲れる|原因と対策・自宅でできる工夫
迷うほど、足は止まります。
スーパーに入ってしばらくすると、足が重くなり、レジまでたどり着けない。それは体力不足だけではなく、パーキンソン病特有の「歩きながら考える」負担が関係しているかもしれません。迷う場面を減らし、リズムを取り戻すだけで、最後まで歩きやすくなります。しくみと、今日からできる工夫を整理します。

レジの手前で、座り込んでしまった。
棚を見ながら商品を探し、値段を確認し、カゴに入れる。ただ歩くだけなら大丈夫でも、考えながら歩くとなぜか足が重くなる。通路の角を曲がろうとした瞬間に、足がぴたりと止まってしまうこともある——。買い物は生活に欠かせない場面だからこそ、そのたびに不安が募る、という方は少なくありません。
でも、知ってほしいのです。これは「歩きながら考える」ことの負担が関わる症状で、買い物の仕方と歩き方を変えるだけで、最後まで歩きやすくなるということを。
パーキンソン病では、歩く動作そのものに加えて、探す・考える・判断するという作業が重なると、急に足が重くなったり、止まったりすることがあります。買い物の動作は移動と思考が絶えず入れ替わる、実は負担の大きい活動です。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
歩き疲れの、しくみと特徴。
スーパーでの歩き疲れには、単純な体力の問題だけでなく、環境と動作が重なって起こる負担が関わっています。特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 探しながら歩くと疲れやすい | 商品を探す・値段を読むなど考える作業をしながら歩くと、歩行にまわす注意が減り負担が増える(二重課題) |
| 狭い通路ですくみ足が出やすい | 通路の幅、人とのすれ違い、曲がり角などの環境変化が足の出にくさを誘発しやすい |
| 視覚情報の多さに影響される | 反射する床、柄のあるタイル、明るい照明などが多い環境では、歩行のリズムが乱れやすい |
| 歩数と労力が増える | 動作緩慢により一歩が小さくなるため、同じ距離でも歩数と体力の消費が増える |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。考える作業を減らせば、歩行に注意を残せる。環境の変化を予測できれば、すくみ足も起こりにくくなる。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:通路を「キュー付き」に変える。
すくみ足や歩行の乱れへの対処でいちばん手早く効くのが、歩く場所に大きさ・タイミングの目印(キュー)を足すことです。目印があると、脳が「ここで踏み出す」「ここで曲がる」という手がかりを受け取り、足が出やすくなります。自宅の廊下やリビングで、次の3ステップで練習できます。
ステップ1:床にラインを引き、通路幅を作る。マスキングテープなどで、スーパーの通路を想定した幅の道を作ります。その中を歩く練習をするだけで、狭い場所への慣れができます。
ステップ2:曲がり角に目印を置く。ラインの曲がり角にテープやマーカーを置き、そこで一度止まって重心を移してから曲がる練習をします。曲がる直前に急がないことがポイントです。
ステップ3:一定のリズムをつける。メトロノームアプリや、家族の「いち、に」という声かけに合わせて歩きます。リズムが一定だと、足が出やすくなります。慣れてきたら、テープを外し、実際の買い物の動きに近づけていきます。
好きな音楽のテンポに合わせて歩くのも、楽しく続けられる方法です。大切なのは、キューを使って整った歩行を体で覚え、少しずつ目印がない場所でも歩けるようにしていくこと。合う目印の種類やタイミングは人それぞれなので、理学療法士・作業療法士と一緒に調整すると近道です。

買い物中の歩き方と、コツ。
通路の練習に加えて、買い物そのものの組み立て方でさらに歩きやすくなります。合言葉は「迷う場面を減らし、リズムを守る」。考える作業と歩く作業を、なるべく同時にしないことが何より大切です。
出発前に、売り場の順番に沿って買い物リストを作っておくと、店内で立ち止まって考える場面が減ります。カートは、体を支える道具として活用できます。前かがみにならず、姿勢を伸ばして持ち手をしっかり握ると、歩行が安定しやすくなります。すいている時間帯を選ぶ、通路の曲がり角では一度止まってから方向を変える、疲れる前に座れる場所を確認しておく、といった工夫も助けになります。運動で下肢や体幹を動かしておくと、歩行も安定しやすくなるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。無理に一度で済ませようとせず、買い物を数回に分けるのも賢い方法です。

パーキンソン病の方を対象にした19件の研究をまとめた解析では、計算や記憶などの課題をしながら歩くと、課題の種類や普段の歩く速さに関わらず、歩行の速さが大きく低下することが報告されています。買い物中に商品を探しながら歩くことも、これと同じ種類の負担にあたります。
限界:この解析は歩行速度など客観的な指標を中心にしたもので、疲労感そのものを測ったものではありません。効果や負担の大きさには個人差があり、進行に伴って変動します。二重課題の練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、通路や合図を足してその場で歩きやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、目印が少ない環境でも歩ける状態に近づける回復的アプローチです。歩行疲労への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. キューイングの個別化。視覚(床の線)だけでなく、聴覚(一定のリズム音)や体性感覚の手がかりも使い、その人にいちばん響くキューを見極めます。
2. 段階的な二重課題トレーニング。簡単な課題をしながら歩く練習から少しずつ難度を上げ、考えながら歩く力そのものを育てます。
3. 姿勢と体幹の土台。前かがみになりにくい姿勢や、歩行を支える体幹の安定性を整え、疲れにくい歩き方の下地をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、キューで安定した歩行を引き出し、成功体験を積みながら、少しずつキューを外して身につけていくという流れです。目印が少ない場面でも歩けるように近づけていく、その設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
聴覚・視覚・体性感覚の3種類のリズムの手がかり(キュー)を用いた自宅での歩行トレーニングを検証した無作為化比較試験(RESCUE試験)では、トレーニングによって歩行やすくみ足、バランスに特有の改善がみられたと報告されています。
限界:この研究では、トレーニングをやめると効果が少しずつ弱まったことも報告されており、継続的な練習や機器の活用の必要性が指摘されています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。トレーニングの内容は専門的な評価と指導が前提です。運動療法は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。

脳リハ.comのYouTubeでは、下肢や体幹を大きく動かす体操を配信しています。歩行の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人が困っている買い物の場面や歩き方の癖を一緒に確認し、キューの種類・タイミング、リストの立て方、カートの持ち方を、その人に合わせて調整します。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは歩行動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、歩行の疲れやすさで外出を避けるようになった、すくみ足に加えて転倒やふらつきが増えた、といったときです。歩きにくさの原因は歩行疲労だけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. スーパーで急に足が止まってしまうのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 買い物リストを使うだけで、本当に楽になりますか?
Q. 自宅でできる練習はありますか?
Q. 運動やリハビリで良くなりますか?
Q. カートを使えば、杖は要りませんか?
Q. 歩き疲れは、手の震えと関係ありますか?
歩行の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている買い物や外出の場面を一緒に確認し、キューの種類・リストの立て方・カートの持ち方を、その人に合わせて組み立てます。実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、歩行動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
一度、立ち止まってみてください。

買い物の途中で足が止まると、周りの目が気になり、外出そのものが怖くなってしまいます。「もうスーパーには一人で行けないかもしれない」とあきらめかけている方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、曲がり角の手前で一度立ち止まり、リズムを取り戻すだけで、最後まで歩ける場面は驚くほど増えるということです。迷う場面を減らし、リズムを味方につける。ちょっとした工夫で、歩ける範囲はまだまだ広がります。
歩行でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う歩き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。歩きにくさには他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月14日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Raffegeau TE, Krehbiel LM, Kang N, Thijs FJ, Altmann LJP, Cauraugh JH, Hass CJ. A meta-analysis: Parkinson’s disease and dual-task walking. Parkinsonism Relat Disord. 2019;62:28-35.(二重課題が歩行速度を有意に低下させると報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Nieuwboer A, Kwakkel G, Rochester L, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での多様なリズムキューを用いた歩行トレーニングが、歩行・すくみ足・バランスを改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)