パーキンソン病で夜トイレに行くときに転びそう|原因と対策・自宅でできる工夫
危ないのは、暗闇の数歩でした。
夜中、トイレに向かう途中でふらついた、足がすくんで止まった——そんな経験はありませんか。パーキンソン病では、夜間から明け方にかけて薬の効果・血圧・すくみ足など複数の理由が重なり、転びやすくなる時間帯があります。しくみを知り、今日から自宅でできる対策を整理します。

「また、転びそうになった。」
日中は自分の足でしっかり歩けているのに、夜中にトイレへ向かう途中だけ、なぜか足がもつれる。ベッドから急に起き上がった拍子にふらついた、暗い廊下で足が止まってしまった——そんな「夜だけの不安定さ」に、ご本人もご家族も戸惑うことは少なくありません。
実はこれ、夜という時間帯に特有の、いくつかの理由が重なって起こるものです。しくみを知れば、対策の立てようがあります。
パーキンソン病の転倒は、日中よりも夜間から明け方にかけて起こりやすいことが知られています。そしてトイレは、多くの方が夜間に必ず向かう場所です。まずはなぜ夜に不安定になるのか、そのしくみを整理し、そのうえで具体的な対策を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
夜だけ、転びやすくなる理由。
夜間の転倒は、1つの原因ではなく、いくつもの要素が重なって起こるのが特徴です。代表的なものを整理しておきましょう。
| きっかけ | どういうことか |
|---|---|
| 起立性低血圧 | 急に起き上がると血圧が下がり、立ちくらみやふらつきが出やすい |
| 夜間の薬の切れ目 | 薬の効果が薄れる時間帯にあたり、体のこわばりや動きにくさが強まる |
| すくみ足 | 暗い場所や、曲がり角・ドアの前で急に足が出なくなる |
| 姿勢を立て直す力の低下 | ぐらついたときに、とっさに体勢を戻す反応が遅れやすい |
| 夜間頻尿 | 尿意で何度も往復するため、単純にトイレへ向かう回数が増える |
| 覚醒直後のもうろう | 目覚めた直後は頭も体も準備が整っておらず、反応が遅れやすい |
ここに、対策のヒントが隠れています。血圧が下がりやすいなら、急に起き上がらなければよい。暗くて足が止まるなら、道を明るくすればよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:動線を「光の道」に変える。
夜間の転倒対策でいちばん手早く効くのが、ベッドからトイレまでの通り道そのものを、安全な「光の道」に変えることです。体の準備だけに頼らず、環境を先に整えておく。次の3ステップで、今日から取り組めます。
ステップ1:人感センサー付きの足元灯をつける。ベッドの脇からトイレの入り口まで、足元を照らすライトを設置します。スイッチを探す手間や、明るすぎて目が覚めてしまう問題を避けられます。
ステップ2:通り道の障害物をゼロにする。コード類、段差のあるマットや敷物、置きっぱなしの荷物など、つまずきの原因を通り道から取り除きます。できるだけ一直線で、曲がり角の少ない動線にすることも有効です。
ステップ3:手すり、または距離そのものを縮める。通り道に手すりを設置する、あるいは距離が長い・不安が強い場合はベッドサイドにポータブルトイレを置き、そもそも歩く距離を短くするという選択肢もあります。
滑りにくい靴下や、かかとのある室内履きを枕元に用意しておくのも、地味ながら効果的な工夫です。どこまで環境を変えるか、どんな福祉用具が合うかは、住まいの間取りや体の状態によって変わります。作業療法士と一緒に、実際の動線を歩いて確認しながら決めるのが近道です。

起き上がり方と、すくみ足への対処。
環境を整えたら、次は体の動かし方です。合言葉は「段階を踏む、焦らない」。急ぐ気持ちが、かえって転倒のきっかけになります。
起き上がりは、横になった姿勢から一気に立とうとせず、いったん座位を作ります。ベッドの端に座ってしばらく待ち、めまいがないことを確かめてから、手すりや壁につかまってゆっくり立ち上がる。この2段階を踏むだけで、血圧の急な低下によるふらつきをかなり防げます。歩き出す前にも、足踏みを2、3回してから最初の一歩を出すと、体が準備を整えやすくなります。
曲がり角やドアの前で足がすくんだときは、無理に押し出そうとしないことが大切です。いったん止まり、心の中で「1、2、1、2」とリズムを取る、その場で足踏みをしてから踏み出す、床にラインテープなどの目印があればそれをまたぐつもりで一歩を出す——どれも、焦りをリズムに変える方法です。日中に体を動かしておくと、夜間の動作も安定しやすいので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
パーキンソン病の方を対象に、自宅で床のライン等の視覚的な目印やリズムを使う練習を行った研究では、歩行速度やすくみ足に関連する移動の指標が改善したと報告されています。
限界:この研究は日中の歩行を対象にしたもので、夜間・トイレ移動に限定した検証ではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。目印を使った練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、環境と動作を今夜から安全にする対症的な対策だとすれば、専門施設で目指すのは、転倒そのものが起こりにくい体に近づける、個別の運動プログラムです。夜間の転倒リスクへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. バランス・姿勢反射の練習。ぐらついたときにとっさに体勢を立て直す反応を、実際の生活動作に近い形で繰り返し練習します。
2. 起き上がり・立ち上がりの動作分析。ベッドの高さ、手すりの位置、体の動かし方を、その人の体格や動きの癖に合わせて具体的に調整します。
3. すくみ足・二重課題への対応。「歩きながら考える」「急いでいるときに動く」といった、実際に転びやすい状況を想定した練習を行います。
STROKE LABが軸足を置くのは、その人が実際に転びそうになった場面を再現し、そこで安全に動ける体と動作パターンを一緒に作っていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
転倒への不安を抱えるパーキンソン病の方を対象に、個別に組み立てた運動プログラムを行った無作為化比較試験(PDSAFE試験)では、通常ケアの群と比べて、移動能力や転倒への自信に関する指標に違いがみられたと報告されています。その場しのぎの対策だけでなく、継続的な運動介入が体の土台づくりにつながる、という考え方です。
限界:転倒回数そのものへの効果は指標や対象によって結果が分かれており、一律に「転倒が減る」と断定できるものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。個別プログラムには専門的な評価と指導が前提です。運動療法は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。

脳リハ.comのYouTubeでは、バランス力や立ち上がりの動作を整える体操を配信しています。夜間の動作の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際にご自宅の間取りやベッドの配置を確認しながら、動線・手すり・福祉用具の使い方を一緒に組み立てます。起き上がりや立ち上がりの動作そのものも、その人の体の使い方の癖に合わせて調整します。「実際に転びそうになった場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と環境の側から支えます。

受診の目安は、繰り返し転んでいる、立ち上がるたびにめまいがする、夜間の尿意が非常に多い、といったときです。これらは薬の効き方の見直しや、自律神経・排尿の状態の確認が必要な場合があります。自己判断で様子を見続けず、神経内科・主治医に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 夜中トイレに行くときによく転びます。パーキンソン病のせいですか?
Q. なぜ夜だけ、特に転びやすくなるのですか?
Q. 自宅でできる対策はありますか?
Q. 起き上がるときに気をつけることはありますか?
Q. すくみ足で足が出なくなったときはどうすればいいですか?
Q. 何度も転ぶ、めまいがする場合は病院に行くべきですか?
転倒の不安は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。ご自宅の間取りや実際の動作を確認しながら、環境調整・起き上がり方・すくみ足への対処を、その人に合わせて組み立てます。「夜、転びそうになった場面」を実際の題材にするので、練習がそのまま生活の安心につながります。薬の調整は主治医を尊重し、動作と環境の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
夜は変わります。

夜、家族が別室で眠っているときに転んでしまう不安は、ご本人にもご家族にも、想像以上に重くのしかかります。「トイレに行くのが怖い」という言葉を、これまで何度も聞いてきました。
お伝えしたいのは、足元に光が1つあるだけで、動線から障害物をなくすだけで、夜の景色は大きく変わるということです。環境を整え、動き方を整える。ちょっとした工夫で、安心して眠れる夜はまだまだ取り戻せます。
夜間の転倒でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際の間取りと動作を確認し、その方に合う対策を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。転倒には他の原因もあります。繰り返す転倒やめまいは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月20日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での視覚的キュー・リズム練習が歩行関連の移動能力を改善したと報告。第4章第1エビデンスボックスの出典)
- Ashburn A, et al. Individualised, unsupervised exercise for fear of falling and mobility in Parkinson’s disease: PDSAFE, a single-blind randomised controlled trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019;90(5):512-519.(個別化された運動プログラムが移動能力・転倒への自信に関わる指標に影響したと報告。第4章第2エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)