パーキンソン病で食事に時間がかかる|原因と対策・自宅でできる工夫
食事は、歯車合わせです。
1回の食事に1時間以上かかる、途中で疲れて食べきれない——パーキンソン病では、こうした変化がみられることがあります。原因は動きの遅さだけとは限りません。薬の効き方・姿勢・道具・飲み込みという複数の歯車がずれると、食事時間は延びます。原因の見分け方と、今日から自宅でできる工夫を整理します。

「まだ食べているの」と、言われた。
スプーンを口へ運ぶまでに時間がかかる。噛んでいる時間も長い。気づけば食事だけで1時間以上経ち、料理は冷め、本人も疲れ切ってしまう——。こうした変化に、ご本人もご家族も戸惑うことが少なくありません。
でも、知ってほしいのです。食事が長引く背景には複数の原因が重なっており、原因ごとに合った工夫を組み合わせると、負担も時間も減らせるということを。
パーキンソン病では、食事に時間がかかる、途中で疲れる、食べこぼしが増えるといった変化がみられることがあります。「動きが遅くなったから」だけで片付けてしまうと、対応が一面的になり、本当に見るべき原因を見落としてしまうことがあります。まずは原因を切り分け、そのうえで具体的な工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
4つの原因を、切り分ける。
食事に時間がかかる背景には、運動症状・飲み込みの機能・薬の効き方・非運動症状という4つの歯車が関わっています。どこがずれているかによって、有効な工夫は変わります。
| 歯車 | どういうことか |
|---|---|
| 運動症状 | 無動(動きの遅さ)・固縮(こわばり)・振戦(震え)が、切る・運ぶ・噛む動作を一つひとつ遅くする |
| 飲み込みの機能 | 口の中でのまとめ・飲み込む反射が遅れやすく、慎重になる分だけ時間がかかる。むせや誤嚥のリスクにも関わる |
| 薬の効き方 | 薬が効いている「オン」と、効きが弱い「オフ」があり、オフの時間帯に食事が重なると動作がより遅くなりやすい |
| 非運動症状 | 意欲の低下、疲れやすさ、においや味の感じ方の変化などが、食べることへの集中や意欲に影響する |
たとえば同じ「食事が長い」でも、動きの遅さが主な原因の方には道具や下ごしらえの工夫が効きやすく、オフの時間帯が重なっている方には食事のタイミング調整が効きやすく、むせが増えている方には飲み込みの評価が優先されます。「なぜ時間がかかっているか」を見極めることが、工夫の第一歩です。

STROKE LABの視点:食事を「時間割」で考える。
食事の工夫は、動作そのものだけでなく、一日のどの時間に食事を置くかから見直すと効果的です。次の3ステップで、無理なく整えていきましょう。
ステップ1:オンの時間帯を把握する。一日のうち、動きがスムーズな時間帯(オン)とそうでない時間帯(オフ)を、数日メモしてみます。傾向がわかれば、主治医に相談する材料になります。
ステップ2:食事のタイミングを主治医と相談する。可能であれば、動きが安定しやすい時間帯に主な食事を合わせられないか相談します。たんぱく質の多い食事が薬の効きに影響することもあるため、摂り方についても併せて確認します。
ステップ3:食事の前後に「準備」の時間を作る。食事の直前に慌ただしく座るのではなく、数分早めに席につき、姿勢を整えてから食べ始めると、最初の一口からスムーズになりやすくなります。
「なぜ長引くのか」がわかると、家族の声かけも変わります。急かす言葉ではなく、「オンの時間に一緒に座ろう」「今日は準備の時間を長めに取ろう」という声かけの方が、本人にとって受け止めやすいことが多いです。食事の時間帯や薬の調整はあくまで主治医の領域であり、自己判断での服薬変更は避けてください。

道具・姿勢・ペースのコツ。
時間割を整えたら、次は食事そのものの負担を減らす工夫です。道具・姿勢・ペース配分の3つを合わせると、動作の負担そのものが減り、安全性も高まります。
道具では、柄が太く持ちやすいスプーンやフォーク、重みのある食具(振戦がある場合に安定しやすいことがあります)、滑り止めマット、縁の高いお皿が助けになります。あらかじめ食べ物を一口大に切っておくと、食卓での「切る」動作を省け、負担が減ります。姿勢は、椅子に深く腰かけ、足の裏を床につけ、あごを軽く引いた状態を意識します。あごが上がった姿勢は飲み込みの安全性を下げるため、テーブルや椅子の高さの調整も有効です。ペース配分は、一口ごとに食具を置き、しっかり噛み終えてから次の一口に進むことを意識します。テレビを消す、会話を控えめにするなど、食事に注意を向けやすい環境を整えることも役立ちます。運動で全身の動きを整えておくと、食事動作も安定しやすいので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

パーキンソン病の方を対象にした無作為化比較試験では、呼気筋を鍛える訓練(EMST)を行った群で、誤嚥のリスクに関わる指標や飲み込みの安全性が、行わなかった群と比べて改善したと報告されています。飲み込みに関わる筋力そのものを鍛えるアプローチが、食事の安全性向上につながる可能性を示しています。
限界:専用の訓練器具と一定期間の継続が必要で、自己流で始めるものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。訓練は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。導入は言語聴覚士・専門医への相談をおすすめします。
自宅での工夫が、道具や環境でその場の負担を減らす代償だとすれば、専門施設で目指すのは、口・のど・体幹の動きそのものを引き出し、道具に頼る場面を減らしていく回復的アプローチです。食事動作への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 姿勢と体幹の土台づくり。あご・のどの動きは、体幹の安定があってこそ発揮されます。座位のバランスや頸部の可動性を整えます。
2. 上肢の運動学習。あえて大きく・しっかりした動作を繰り返し、無動によって縮こまってしまう食具操作の動きを立て直します。
3. 飲み込みに関わる筋力・タイミングの評価と訓練。必要に応じて言語聴覚士と連携し、飲み込みの機能そのものへ働きかけます。
STROKE LABが軸足を置くのは、姿勢と運動の土台を整えたうえで、食事という生活動作の中で成功体験を積み重ねていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
大きくはっきり声を出す集中的な発声訓練(LSVT LOUD)を受けたパーキンソン病の方を対象にした予備的な研究では、訓練後に口の中での食べ物の送り込み時間が短くなるなど、飲み込みに関わる指標にも良い変化がみられたと報告されています。声や発声に関わる筋の働きが、飲み込みの動きとも重なっている可能性を示す結果です。
限界:小規模な予備的研究であり、対象人数は多くありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。訓練は決められた頻度・強度で行うことが前提で、専門的な指導のもとで実施するものです。
脳リハ.comのYouTubeでは、体幹や上肢を大きく動かす体操を配信しています。食事動作の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際の食事場面を確認しながら、姿勢・道具・ペース配分のどこにボトルネックがあるかを見極め、その人に合わせて調整します。ご家族の声かけの仕方や、外食・行事の場での対応についても一緒に考えます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは食事動作と生活の側から支えます。
一方で、次のような様子がある場合は、自宅の工夫だけで対応する範囲を超えています。食事中や食後にむせる、食後に声がガラガラする(湿性嗄声)、発熱を繰り返す、体重が減ってきた、特定の食べ物を避けるようになった——こうしたサインがあれば、自己判断せず早めに主治医や言語聴覚士に相談し、必要に応じて飲み込みの検査を受けてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 食事に時間がかかるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 食事中にむせることが増えました。どうすればよいですか?
Q. 薬が効いている時間に合わせて食事をした方がよいですか?
Q. 自宅でできる食事の工夫はありますか?
Q. 食事の工夫は運動やリハビリで良くなりますか?
Q. 食事に時間がかかるのは意欲の低下も関係しますか?
食事の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際の食事場面を確認しながら、姿勢・道具・ペース配分・タイミングを、その人に合わせて組み立てます。薬の調整は主治医を尊重し、食事動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
日々の楽しみでもあります。

食事に時間がかかるようになると、ご本人は申し訳なさを感じ、ご家族はどこまで急かしていいのか悩みます。その両方のつらさに、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、「なぜ時間がかかっているか」を切り分けるだけで、対応の選択肢が一気に広がるということです。動きなのか、飲み込みなのか、薬のタイミングなのか。原因に合った工夫を積み重ねれば、食卓はもっと穏やかな時間に戻せます。
食事でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際の食事場面を一緒に確認し、ご本人とご家族に合う工夫を見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。むせ・体重減少などの変化は、自己判断で対応せず、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月25日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Troche MS, et al. Aspiration and swallowing in Parkinson disease and rehabilitation with EMST: a randomized trial. Neurology. 2010;75(21):1912-1919.(呼気筋トレーニングにより誤嚥リスク指標と嚥下安全性が改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- El Sharkawi AA, et al. Swallowing and voice effects of Lee Silverman Voice Treatment (LSVT): a pilot study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2002;72(1):31-36.(集中的発声訓練後に口腔内送り込み時間の短縮など嚥下指標の改善がみられたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)