パーキンソン病で犬の散歩を続けたい|原因と対策・自宅でできる工夫
歩けなくなったのではなく、歩き方を変える時期なのです。
玄関で足が出ない。リードに引かれてヒヤッとする。行く気力が湧かない日もある——パーキンソン病になっても、犬との散歩を続けている方はたくさんいます。散歩が難しくなる原因は一つではありません。原因ごとの工夫を知れば、今日から変えられることがあります。

「散歩が、つらくなってきた」。
毎日欠かさなかった犬の散歩。それが最近、玄関先で足が出ない、犬に引っ張られてよろける、そもそも行く気になれない日が増えた——そんな声を、ご本人からもご家族からもよく伺います。犬は待ってくれています。でも自分の体が、思うように応えてくれない。そのもどかしさは、経験した人にしかわからないものだと思います。
大切なのは、「歩けなくなった」のではなく「歩き方を変える必要が出てきた」だけという視点です。
犬の散歩は、決まった時間に外へ出て、リードを持ちながら、犬の動きに合わせて歩く——実は、いくつもの動作を同時にこなす、思っている以上に複雑な活動です。パーキンソン病では、その一つひとつの動作に影響が出ることがあります。次の章で、散歩を難しくしている原因を具体的に見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
散歩を難しくする、6つの原因。
「散歩が大変」という一言の裏には、複数の原因が重なっていることがほとんどです。原因によって対策が変わるため、まずはどれが自分にあてはまるかを整理してみましょう。
| 原因 | 散歩でどう出るか |
|---|---|
| すくみ足 | 玄関・狭い通路・方向転換・すれ違いで、足が床に張りついたように出なくなる |
| 姿勢反射障害 | 犬に急に引っ張られたときに体を立て直せず、バランスを崩しやすい |
| 二重課題の困難 | リードを持つ・犬を見る・周囲を確認するなど、同時に複数のことをすると歩行が崩れる |
| 起立性低血圧 | 立ち上がって出発する直前や、歩き始めにふらつき・立ちくらみが出る |
| オフ症状・疲労 | 薬の効果が切れる時間帯に、動作全体が遅く・重くなる |
| アパシー(意欲低下) | 体は動けるのに、外に出ようという気持ちそのものが湧きにくい |
運動の症状(すくみ足・姿勢反射障害・二重課題)だけでなく、自律神経の症状(起立性低血圧)や、気力に関わる症状(アパシー)も、散歩のしづらさに関わっていることがあります。「気合が足りない」わけではなく、いずれも病気の症状として説明できるものです。この理解が、工夫を考える出発点になります。

STROKE LABの視点:原因別に工夫を変える。
散歩の工夫は、原因に合わせて選ぶと、効果が出やすくなります。すべてを一度に試す必要はありません。心当たりのある原因から、一つずつ試してみてください。
すくみ足には「またぐ目印」を。玄関マットに横縞の模様を選ぶ、床に一時的にテープを貼る、「1・2」と号令をかけながら大きくまたぐ、といった視覚・聴覚のキューが、足の出にくさを和らげることがあります。
姿勢反射障害には「引っ張られない道具」を。手で直接持つ長いリードより、腰に固定するハンズフリータイプや短めのリードのほうが、急な引っ張りで体勢を崩すリスクを減らせます。
二重課題には「一つずつ」を。リードを持ちながらスマホを見る、人と話すなど、歩行以外のことを同時にしない。犬の動きに集中できる時間帯・コースを選ぶことも助けになります。
起立性低血圧には「ゆっくり立つ」を。座った状態から急に立ち上がらず、一度座り直す、足踏みをしてから歩き出すなど、体を慣らす時間を作ります。ふらつきが強い場合は主治医に相談してください。
オフ症状には「時間帯の調整」を。一日のうちで動きやすい時間帯を記録し、その時間に散歩を合わせます。薬の飲むタイミングとの関係は、自己判断せず主治医と相談しながら調整しましょう。
アパシーには「ハードルを小さく」を。「散歩に行く」ではなく「玄関まで犬と一緒に歩く」など、目標を小さく区切ります。家族が声をかけて一緒に出発する習慣も助けになります。
どの工夫も、「その日の困りごと」に合わせて選ぶことが大切です。合う工夫は人によって異なるため、迷うときは作業療法士・理学療法士と一緒に、自分の散歩の場面を振り返りながら調整すると近道です。

道具とコースの、選び方。
工夫を長く続けるには、道具とコースをあらかじめ整えておくのが近道です。犬のしつけを見直すことも、リードを引っ張られる場面そのものを減らす有効な方法です。
靴は、つま先が上がりやすく滑りにくいものを選びます。段差の少ない平坦なコース、方向転換が少なく見通しのよい道、他の犬や人とのすれ違いが少ない時間帯を選ぶと、すくみ足や姿勢反射障害が起こりやすい場面そのものを減らせます。可能であれば、家族が一緒に歩き、声でリズムを作ったり、隣で見守ったりすることも安心につながります。屋外での歩行が難しい日は、室内で足踏みや短い往復歩行を行うだけでも、動く習慣を保つ助けになります。全身を使った運動を普段から取り入れておくと、散歩そのものも安定しやすくなるため、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
パーキンソン病のすくみ足に対して、一定のリズム音(メトロノームなど)を聞きながら歩く方法を検証した研究では、リズムキューを用いることで、すくみ足の発生回数や歩行の乱れが軽減したと報告されています。散歩中にリズムをつけて号令をかけることも、同じ考え方に基づく工夫です。
限界:効果には個人差があり、症状の重さや場面によって変動します。犬との散歩という屋外・二重課題の環境そのものを直接検証した研究ではありません。薬の調整は主治医の役割であり、リズムキューは薬や治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅や散歩コースでの工夫がその場をしのぐための代償的な工夫だとすれば、専門施設で目指すのは、狭い道やすれ違いなど、様々な場面に応用できる歩行そのものを立て直す回復的アプローチです。犬の散歩に関わる歩行への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 二重課題トレーニング。歩きながら物を持つ・声かけに反応するといった課題を段階的に組み合わせ、リードを持ちながらでも歩行が崩れにくい体を作ります。
2. 姿勢反射・バランス練習。不意に体が傾いたときに立て直す力を、安全な環境で繰り返し練習し、急な引っ張りへの耐性を高めます。
3. 自律神経症状への配慮。起立性低血圧の傾向がある場合は、立ち上がり方や出発前の準備動作も含めて、医療者と連携しながら整えます。
STROKE LABが軸足を置くのは、犬との散歩という「その人にとって意味のある活動」を練習の題材にし、実際の場面に近い形で歩行を立て直していくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方を対象に、歩行と別の課題を同時に行う二重課題トレーニングを行った研究では、単純な歩行練習のみの群と比べて、二重課題下での歩行速度や安定性がより改善したと報告されています。犬の散歩のように、周囲への注意や道具の操作を同時に求められる活動にも応用できる考え方です。
限界:研究間で課題の内容や強度にばらつきがあり、効果の大きさは一定ではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。トレーニングは専門家による評価と段階づけが前提で、薬の代わりにはなりません。

脳リハ.comのYouTubeでは、歩行やバランスに関わる体操を配信しています。散歩の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際にどの場面で困っているか(玄関・方向転換・犬とのすれ違いなど)を一緒に確認し、原因に合わせてキューの種類、リードや靴、コース、時間帯を調整します。「犬と歩く」という実際の場面を練習の題材にすることで、練習の効果が生活にそのまま活きやすくなります。薬の調整は主治医の役割で、私たちは歩行動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、転倒やそれに近い出来事が増えてきた、立ちくらみやめまいが強い、意欲の低下が続いていて心配、といったときです。散歩が難しくなる原因はパーキンソン病の症状だけとは限りません。自己判断せず、主治医・神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. 犬の散歩中に足が止まってしまうのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 散歩に行く気力そのものが出ないときは、どうすればよいですか?
Q. リードを引っ張られて転びそうになります。対策はありますか?
Q. 薬の効いている時間に合わせて散歩したほうがよいですか?

Q. 散歩の代わりにできることはありますか?

Q. 散歩中に転倒しないか不安です。どんなことに気をつければよいですか?
散歩の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。犬との散歩など、その方が大切にしている生活の場面を一緒に確認し、原因に合わせたキュー・道具・コース・時間帯を組み立てます。実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、歩行動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
あきらめないでほしい。

犬との散歩は、多くの方にとって単なる運動ではなく、一日のリズムそのものであり、生きがいでもあります。それが難しくなってきたとき、体だけでなく、気持ちまで沈んでしまう方をたくさん見てきました。
お伝えしたいのは、散歩が難しくなる原因は一つではなく、原因ごとに有効な工夫があるということです。すくみ足には目印を、姿勢の崩れには道具を、意欲の低下には小さな一歩を。一つずつ整えれば、犬との時間はまだ続けられます。
散歩でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う歩き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。歩行に関わる症状には個人差があります。気になるときは、必ず主治医・神経内科にご相談ください(最終確認日:2026年8月21日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(リズムキューによりすくみ足や歩行の乱れが軽減したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Strouwen C, et al. Training dual tasks together or apart in Parkinson’s disease: results from the DUALITY trial. Mov Disord. 2017;32(8):1201-1210.(二重課題トレーニングにより二重課題下の歩行が改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)