パーキンソン病で会議やレストランで声が通らない|原因と対策・自宅でできる工夫
大声のつもりが、実は届いていません。
会議で聞き返される。レストランで注文が伝わらない。それはパーキンソン病でみられる小声症(ハイポフォニア)かもしれません。本人は普通に、あるいは大きく話しているつもりなのに、実際の声量とのあいだにズレが生じていることが少なくありません。しくみと、今日から自宅でできる声の立て直し方を整理します。

「聞こえない」と、言われた。
職場の会議室、家族との食卓、レストランでの注文——声を届けたい場面は、思っている以上に多くあります。そのたびに「え?」と聞き返され、もう一度言い直すうちに、話すこと自体がおっくうになってしまう、という方は少なくありません。
でも、知ってほしいのです。これは小声症という症状で、声の出し方と練習の方向を変えるだけで、届く声に近づけていけるということを。
パーキンソン病では、声の大きさが徐々に小さくなる小声症(ハイポフォニア)がみられることがあります。声を出す動作も、指先の動きと同じように、体を使う運動の一つです。その動きが少しずつ小さくなることに加え、いくつかの要因が重なって、声が通りにくくなっていきます。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
声が通らなくなる、いくつかの原因。
小声症は、一つの原因だけで起こるわけではありません。声を出すには、呼吸・喉頭(声帯)・姿勢・脳の中での音量の調整という、いくつもの働きが同時に必要です。パーキンソン病では、このどこに影響が出るかによって、声の変化の現れ方も変わってきます。
| 原因の切り口 | どういうことか |
|---|---|
| 呼吸の力の低下 | 声は息の力で作られるため、呼吸筋の動きが小さくなると声の力も弱くなる |
| 声帯の動きの小ささ | 声帯を閉じる動きも動作緩慢の影響を受け、息が漏れた声になりやすい |
| 音量の自己知覚のズレ | 脳の中で「これくらい出せば十分」という感覚自体が小さくずれ、本人は大声のつもりになる |
| 姿勢の変化 | 体が前かがみになると胸が広がりにくくなり、息を十分に吸いにくくなる |
| 意欲・注意の面 | 気分の落ち込みや、複数のことに同時に注意を向けにくいことも、声の張りに影響することがある |
中でも見落とされやすいのが音量の自己知覚のズレです。本人が「大声を出している」と感じているときでも、実際の音量はそれほど大きくなっていないことがあります。つまり、「大きな声を出してください」という声かけだけでは、本人の中では既に大きくしているつもりのため、なかなか変化につながりにくいのです。次の章では、耳の感覚だけに頼らずに音量を立て直す方法を具体的にお伝えします。

STROKE LABの視点:自己知覚のズレを補正する3ステップ。
小声症の対処でいちばん大切なのは、「自分の耳の感覚」以外の手がかりで、声の大きさを確認することです。耳の感覚そのものがずれているため、本人の「大きくしたつもり」を基準にしても、なかなか変わりません。自宅で今日から使える、3つのステップをご紹介します。
ステップ1:姿勢を整える。椅子に浅く腰かけ、背すじを伸ばし、あごを軽く引きます。前かがみのままでは、いくら意識しても息が入りにくく、声も出にくくなります。まず体の形を整えることが土台です。
ステップ2:お腹から大きく息を吸う。話す前に、お腹がふくらむのを感じるくらい、しっかり息を吸います。息の量が足りないと、どれだけ喉に力を入れても声は大きくなりません。「話す前にひと呼吸」を合言葉にしましょう。
ステップ3:スマートフォンで録音して聞き返す。短い一文を話して録音し、聞き返します。耳の感覚ではなく、録音という客観的な手がかりを使うことで、「思っていたより小さかった」という気づきが得られます。この気づきの積み重ねが、声を立て直す第一歩になります。
好きなニュース記事や新聞を、少し大きめの声で音読するのも、楽しく続けられる練習です。大切なのは、「大きな声を出そう」という気合いだけに頼らず、姿勢・呼吸・録音という具体的な手がかりを使って、体で正しい音量を覚えていくこと。合う練習の頻度や声量の目安は人それぞれなので、言語聴覚士や作業療法士と一緒に調整すると近道です。

場面別の対策と、伝え方。
練習を積んでも、場面によって声の通りやすさは変わります。状況に合わせた工夫を組み合わせることで、日々のストレスをぐっと減らせます。
会議室では、発言の前に一呼吸おき、短い文で区切って話すと通りやすくなります。可能であれば、聞き手に近い席を選ぶのも有効です。レストランなど騒がしい場所では、相手の顔を見て話す、注文はメモや指差しと組み合わせる、といった方法も安心材料になります。家族との会話では、「もっと大きな声で」ではなく、「1メートル先の私に届く声で」のように、具体的な目安を伝えるほうが本人には分かりやすいことがあります。声を出す土台となる呼吸や姿勢は、体全体の運動とも関わるため、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。人が多い場所では、無理に声だけで頑張らず、携帯用の音声増幅器を使うのも賢い方法です。

パーキンソン病の方を対象に、声の大きさに焦点をあてた集中的な発声トレーニング(LSVT LOUD)を行った追跡研究では、トレーニング直後に音量の指標が大きく改善し、その効果が2年後の評価でも維持されていたと報告されています。
限界:対象人数は多くなく、決められた頻度・期間で専門家の指導のもとに行われた研究です。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。発声トレーニングは薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、姿勢・呼吸・録音というその場で声を出しやすくする手がかりだとすれば、専門施設で目指すのは、手がかりがなくても十分な声量で話せる状態に近づける回復的アプローチです。声への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 呼吸と姿勢の土台づくり。座位や立位での体幹の安定、胸郭が広がる呼吸のパターンを整え、声を支える息の力そのものを底上げします。
2. 大きな発声の運動学習。あえて大きな声を繰り返し出す練習を通じて、脳が縮めてしまう発声の動きの幅を、声帯や呼吸筋のレベルから立て直します。
3. フィードバックの活用。録音や音量計、専門家からのその場の声かけなど、耳の感覚以外の手がかりを組み合わせ、自分の声を客観的に捉える力を養います。
STROKE LABが軸足を置くのは、フィードバックで正しい音量の発声を引き出し、成功体験を積みながら、少しずつ手がかりを外して身につけていくという流れです。手がかりがなくても声が届くように近づけていく、その設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
脳リハ.comのYouTubeでは、姿勢や呼吸を整える体操を配信しています。声の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人が困っている場面や声の癖を一緒に確認し、呼吸・姿勢・フィードバックの方法を、その人に合わせて調整します。会議での発言や注文など「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。声の症状は、動作緩慢による小字症(字が小さくなる症状)と同じしくみで起こることも多く、両方に困っている方には、あわせて練習内容を組み立てることもあります。薬の調整は主治医の役割で、私たちは発声動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、声の変化で生活に支障が出てきた、飲み込みにくさやむせが増えてきた、声がかすれる・かすれが続く、といったときです。声が通らない原因は小声症だけとは限りません。声帯そのものの病気や、聞き手側の聴力の問題が関わっていることもあります。自己判断せず、神経内科や耳鼻咽喉科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 会議やレストランで「聞こえない」と言われるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 家族に「聞こえない」と何度も言われてつらいです。対策はありますか?
Q. 自宅でできる声のトレーニングはありますか?
Q. 声の大きさは運動やリハビリで良くなりますか?
Q. 拡声器のような機械を使ってもいいですか?
Q. 小さな声とふるえ(振戦)は関係がありますか?
声の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている場面を一緒に確認し、呼吸・姿勢・フィードバックの方法を、その人に合わせて組み立てます。会議での発言や注文など、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、発声動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
積み重なると重くなります。

声が通らなくなると、会議での発言をためらい、注文を誰かに頼み、家族との何気ない会話まで減っていく——そんな方に、たくさん出会ってきました。「もう一度言って」と言われるたびに、話すこと自体が怖くなってしまう気持ちは、決して大げさなものではありません。
お伝えしたいのは、「大声を出そう」という気合いだけでなく、姿勢・呼吸・録音という具体的な手がかりを使えば、声は立て直せるということです。耳の感覚のズレは、意識だけでは補いにくいものだからこそ、専門的な視点が役に立ちます。
声でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に届く声の出し方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。声の変化には他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・耳鼻咽喉科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月25日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Ramig LO, et al. Intensive voice treatment (LSVT) for patients with Parkinson’s disease: a 2 year follow up. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1997/2001;71(4):493-498.(集中的発声トレーニングによる音量改善が2年後も維持されたと報告。第4章エビデンスボックスの出典)
- Fox CM, et al. The science and practice of LSVT/LOUD: neural plasticity-principled approach to treating individuals with Parkinson disease and other neurological disorders. Semin Speech Lang. 2006;27(4):283-299.
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)