パーキンソン病で家族に声が届かない|原因と対策・自宅でできる工夫
静けさは敵、物差しは味方です。
「何度も聞き返される」「声が届かない」——パーキンソン病でみられる、声が小さくなる症状かもしれません。本人には普通に話しているつもりでも、耳の感覚だけに頼らず、数字や合図を目安にすると、声は届きやすくなります。しくみと、今日から自宅でできる立て直し方を整理します。

「聞こえていますか」と、言われた。
食卓での会話、電話の声、孫に呼びかける一言。隣の部屋まで届かない、テレビの音に負けてしまう。何度も「え?」と聞き返すうちに、本人も話すこと自体を控えるようになった——というご家族の声を、私たちはよく聞きます。
一方で、ご本人はこう感じています。「自分では、いつも通りに話しているつもりなのに」。このすれ違いこそが、パーキンソン病の声の症状の本質です。
パーキンソン病では、声を出す喉頭や呼吸の筋肉の動きが小さくなる、低活動性発声障害と呼ばれる症状がみられることがあります。声を出す動作も、指先の動きと同じように、少しずつ小さく・遅くなっていくのです。まずはそのしくみと原因を、多角的に見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
声が届かなくなる、5つの原因。
「声が小さい」と一言でいっても、その背景は一つではありません。運動・感覚・注意・気持ち・薬の効き目という、5つの角度から見ることで、対処の糸口が見えてきます。
| 原因の角度 | どういうことか |
|---|---|
| ① 運動の面 | 喉頭や呼吸筋の動きが小さく・遅くなり、声帯が十分に閉じにくくなる |
| ② 感覚の面 | 自分の声の大きさを正しく感じ取りにくく、本人は普通に感じている |
| ③ 注意の面 | 歩きながら話すなど、他の動作と重なると声がさらに小さくなる |
| ④ 気持ちの面 | 聞き返される経験が重なり、話すこと自体を控えるようになる |
| ⑤ 薬の効き目 | 薬の効果が薄れる時間帯(オフの時間)に、声も小さくなりやすい |
なかでも②の感覚の面は、家族との関係で誤解を生みやすいポイントです。本人にとって、いつもの声量は「普通」に感じられているため、「もっと大きく」と言われても、何をどう変えればよいのか分かりにくいのです。これは、なまけや無関心ではありません。
パーキンソン病のある方と、そうでない方に、声の大きさを聞き分けたり、自分で声量を作ったりする課題に取り組んでもらった研究では、パーキンソン病のある方は、声の大きさの感じ方に偏りがみられ、自分の声量を見積もる際にも独特のパターンを示したと報告されています。声の大きさを感じ取るしくみ自体に、変化が起こりうるということです。
限界:少人数を対象とした研究で、感じ方の変化には個人差があります。すべての方に同じように起こるわけではなく、進行度によっても異なります。
つまり耳の感覚だけを頼りに「大きく話そう」としても、うまくいきにくいということです。次の章では、耳の代わりになる「物差し」を、自宅の環境に組み込む方法を紹介します。

STROKE LABの視点:環境を「物差し付き」に変える。
耳の感覚があてにならないなら、耳以外の「物差し」を、話す環境そのものに組み込むのが近道です。特別な道具がなくても、次の3ステップで自宅の会話を立て直せます。
ステップ1:数字でわかる仕組みを持つ。スマートフォンの音量計(デシベルメーター)アプリを使い、いつもの声と「少し大きい声」を数字で確認します。感覚ではなく数字を目標にすると、ずれが起こりにくくなります。
ステップ2:話す前に、体と顔を向ける。離れた部屋から話しかけず、必ず相手の正面に体を向け、顔を見てから話し始めます。この一手間だけで、声が届く距離はぐっと近くなります。
ステップ3:一文を短く、区切って話す。長い文を一息で話そうとすると、後半で声が小さくなりがちです。伝えたいことを最初のひと言に置き、区切りごとに息を吸い直すと、最後まで届きやすくなります。
数字という物差しを使いながら、少しずつ「これくらいが大きい声」という感覚を体で覚え直していく。これが、STROKE LABが大切にしている考え方です。合う物差しの種類や目標値は人それぞれなので、言語聴覚士や作業療法士と一緒に調整すると近道です。

話し方と、家族の聞き方。
環境を整えたら、話す側・聞く側それぞれの工夫でさらに伝わりやすくなります。合言葉は「深く吸って、いつもより一段階大きく」。無理に大声を出す必要はありません。
話す前に姿勢を正し、深く息を吸ってから話し始めると、声を支える力がつきやすくなります。歩きながら、家事をしながらなど、同時に何かをしながら話すと声はさらに小さくなりやすいので、大事な用件は一度立ち止まって伝えるのがおすすめです。全身を大きく動かす運動は、声を支える呼吸や姿勢の土台づくりにもつながるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

聞く側のご家族には、次のような工夫が助けになります。「何?」と繰り返すより、聞き取れた部分を伝えながら確認する。テレビを消す、静かな部屋に移るなど周囲の音を減らす。急かさず、最後まで待つ。聞き取れないことを責めるのではなく、一緒に工夫する姿勢が、会話を続けやすくします。

自宅での工夫が、数字や合図を足してその場で声を届きやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、物差しがなくても大きな声で話せる状態に近づける回復的アプローチです。声の症状への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 声量そのものを目標にした集中トレーニング。大きな声を出すことだけに焦点をあて、繰り返し練習することで、声の大きさの内部の目標値そのものを立て直します。
2. 呼吸と姿勢の土台づくり。声を支える呼吸の深さや、話すときの座位・体幹の安定を整え、声が小さくなりにくい身体の下地をつくります。
3. 生活場面での般化練習。電話での会話、複数人での食卓など、実際に困っている場面を練習の題材にし、日常でも声が届く状態を目指します。
STROKE LABが軸足を置くのは、数字という物差しで正しい声量の運動を引き出し、成功体験を積みながら、少しずつ物差しを外して身につけていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
声の大きさを目標にした集中的な発声トレーニング(LSVT LOUD)と、発音を目標にしたトレーニング、無治療を比較した無作為化比較試験では、声量を目標にしたトレーニングを受けた群で、声の音圧レベルが1か月後・7か月後のいずれにおいても他の群より大きく改善していたと報告されています。声量そのものに絞って繰り返し練習することで、持続的な変化をねらう考え方です。
限界:試験は決められた頻度・期間の集中的な訓練を前提としており、専門的な評価と指導が必要です。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。発声訓練は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
脳リハ.comのYouTubeでは、手や体を大きく動かす体操を配信しています。深い呼吸や声を支える体幹の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、電話・食卓・呼びかけなど、その人が実際に困っている場面を一緒に確認し、声量の目標値、呼吸や姿勢の整え方、家族との合図の作り方を、その人に合わせて調整します。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは発声動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、声の変化で生活に支障が出てきた、声だけでなくむせやすさ・飲み込みにくさも出てきた、といったときです。声が小さくなる原因は低活動性発声障害だけとは限りません。加齢による声帯の変化や、聞く側の聴力の変化が重なっていることもあるため、自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 声が小さくて家族に届かないのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 本人は普通に話しているつもりなのに、なぜ聞こえないのですか?

Q. 自宅でできる声の工夫はありますか?
Q. 声の症状は運動やリハビリで良くなりますか?
Q. 家族はどう声をかければよいですか?
Q. 声が小さいのは、震えと同じしくみですか?
声の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている会話の場面を一緒に確認し、声量の目標・呼吸と姿勢・家族との合図の作り方を、その人に合わせて組み立てます。電話や食卓など、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、発声動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
声は、また届きます。

声が届かなくなると、電話をためらい、食卓での会話が減り、人と話すこと自体が億劫になっていきます。「何度も聞き返されるのがつらい」と、口数が少なくなっていく方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、それはなまけでも、人と話したくない気持ちの表れでもないということです。耳の感覚が当てにならないなら、数字という物差しを味方につければいい。深く吸って、いつもより一段階大きく。ちょっとした工夫で、声が届く場面はまだまだ広がります。
声でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、ご本人とご家族に合う伝え方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。声の変化には他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月25日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Clark JP, Adams SG, Dykstra AD, Moodie S, Jog M. Loudness perception and speech intensity control in Parkinson’s disease. J Commun Disord. 2014;51:1-12.(声の大きさの感じ方に偏りがみられると報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- Ho AK, Bradshaw JL, Iansek R, Alfredson R. Speech volume regulation in Parkinson’s disease: effects of implicit cues and explicit instructions. Neuropsychologia. 1999;37:1453-1460.(声量の感覚統合の障害という考え方の基礎となる研究)
- Ramig L, Halpern A, Spielman J, Fox C, Freeman K. Speech treatment in Parkinson’s disease: Randomized controlled trial (RCT). Mov Disord. 2018;33(11):1777-1791.(声量に特化した集中トレーニングで音圧レベルが改善し、7か月後も維持されたと報告。第4動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)