パーキンソン病で庭仕事で転びそう|原因と対策・自宅でできる工夫
庭仕事は、危なくない。危ないのは、動きの継ぎ目です。
草むしりの途中で、しゃがんだ姿勢から立ち上がったときにぐらついた。方向を変えようとした瞬間に足が出なかった——。パーキンソン病では、庭仕事そのものより、動きが切り替わる「継ぎ目」で転倒が起こりやすいという特徴があります。原因を整理し、今日から自宅の庭でできる工夫をお伝えします。

「転びそうになった」その日。
庭は、家の中よりも安全だと思われがちな場所です。でも実際には、しゃがむ・立つ・向きを変える・またぐといった動作が次々に起こる、負荷の高い環境でもあります。家族が目を離したわずかな間に、ヒヤリとした経験を持つ方は少なくありません。
大切なのは、庭仕事をやめることではなく、「どの瞬間に」リスクが集中するのかを知り、そこにあらかじめ備えることです。
パーキンソン病における転倒は、単一の原因ではなく、姿勢を保つ機能・歩き出す機能・血圧を調整する自律神経・注意の配分など、複数の要素が場面に応じて重なって起こります。庭仕事はその複数の要素が同時に試される場面でもあります。まずはしくみを理解し、そのうえで具体的な工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
なぜ庭仕事中に、転びやすいのか。
庭仕事で転倒が起こりやすい背景には、パーキンソン病でみられるいくつもの症状が、同じ場面で重なって出やすいという事情があります。ひとつずつ整理してみましょう。
| 原因 | 庭仕事でどう出やすいか |
|---|---|
| 姿勢反射障害 | 凹凸につまずいてバランスを崩したとき、とっさに足を踏み替えて立て直すことができない |
| すくみ足 | 方向転換、ホースをまたぐ、花壇の間の狭い通路で、足が床にへばりつき出にくくなる |
| 起立性低血圧 | しゃがんで作業したあと急に立ち上がると、血圧が下がり、目の前が暗くなったりふらついたりする |
| 前傾姿勢と二重課題 | 手元の作業に注意が向くと、足元や周囲への注意が後回しになりやすい(考えごとをしながら歩くと歩幅が乱れるのと同じしくみ) |
| 環境と薬の効き目 | 不整地・ホース・鉢などの障害物に加え、薬の効果が薄れる時間帯(オフ)は動きがさらに小さく遅くなる |
こうして並べてみると、ある共通点が見えてきます。危ないのは「作業中」そのものより、しゃがむ→立つ、進む→曲がる、といった動きが切り替わる瞬間だということです。この「継ぎ目」に注目することが、対策の出発点になります。

STROKE LABの視点:庭を「転ばない動線」に変える。
「動きの継ぎ目」に危険が集中するなら、そこにあらかじめ拠点と目印を置いておくのが、いちばん効果的な対策です。庭の使い方を大きく変えなくても、次の3ステップで動線を整えることができます。
ステップ1:数メートルごとに「座れる拠点」を置く。ガーデンスツールや、手をついて支えられる高さのベンチを、作業エリアの近くに置きます。しゃがむ・立つを繰り返す作業は、拠点に座って行うだけで負担が大きく減ります。
ステップ2:方向転換の場所に目印を置く。レンガや色の違うタイル、目立つ色のテープなどを、よく方向を変える場所に置いておきます。目印があると、そこで一度歩幅を整えてから曲がる、という動きが引き出されやすくなります。
ステップ3:「止まる・座る・戻る」を合言葉にする。しゃがんだ姿勢から立つときは、いったん動きを止め、手を支えにゆっくり立ち、数秒待ってから歩き出します。急に振り返る、急に立つ、を避けるだけでも、ふらつきの多くは防げます。
この考え方は、歩行のすくみ足に対して床に線を引いて一歩を引き出す「視覚キュー」と同じ原理です。庭という生活の場に、あらかじめ目印と拠点を組み込んでおくことで、特別な意識をしなくても安全な動き方が自然に引き出されやすくなります。合う目印の位置や高さは人それぞれなので、理学療法士・作業療法士と一緒に調整すると近道です。

今日からできる、対策と工夫。
動線づくりに加えて、時間帯・道具・体の使い方でも、リスクを減らすことができます。「いつ・何を使って・どう動くか」の3つに分けて見ていきましょう。

時間帯:薬がよく効いている時間帯(オン)を選んで作業します。効き目が薄れる時間帯(オフ)は動きが小さく遅くなり、転倒リスクが上がりやすいため、無理をしないことが大切です。道具:膝あてや低い椅子を使い、しゃがみっぱなしを避けます。靴底に防滑性のあるものを選び、ホースや道具は使い終わるたびに通路から片づけます。体の使い方:立ち上がるときは、いったん動きを止めてから、手すりや杖、あるいは近くの安定した物に手を添えてゆっくり立ちます。方向転換は、体をひねらず、小さく足踏みしてから向きを変えると、すくみ足が出にくくなります。ひとりで長時間作業を続けず、家族に声をかけてもらえる時間帯に行うのも安心です。手や体を動かす体操を続けておくと、庭仕事の動作も安定しやすくなるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
パーキンソン病の方153名を対象にした無作為化比較試験(RESCUEトライアル)では、自宅でリズムや視覚の目印を使う歩行訓練を3週間行ったところ、歩く速さ・歩幅・バランスの検査が改善し、頻繁にすくみ足が出る方では、すくみの重さも軽減したと報告されています。
限界:効果は訓練終了から6週間後には目立って弱まっており、目印を使い続けることや、継続的な練習が必要とされています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。歩行練習は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、目印や拠点を使ってその場のリスクを減らす環境調整だとすれば、専門施設で目指すのは、バランスを崩した瞬間に、体が自分で立て直せる力を引き出す回復的アプローチです。庭仕事での転倒への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 立ち直り反応の練習。あえて小さくバランスを崩す練習を安全な環境で繰り返し、姿勢反射障害によって弱くなった立て直す反応を引き出します。
2. 二重課題への慣れ。作業をしながら歩く・向きを変えるといった、注意が分散する状況を想定した練習を行い、庭仕事に近い場面での安定性を高めます。
3. 起立性低血圧への配慮を含めた動作分析。しゃがみから立つまでの動きを分析し、血圧の変化に配慮した立ち上がり方や、休憩のタイミングを個別に組み立てます。
STROKE LABが軸足を置くのは、環境の工夫で安全を確保しながら、同時に体そのものの立て直す力を底上げしていくという両輪の考え方です。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整(オン・オフの管理や起立性低血圧の治療を含む)は主治医の役割です。
パーキンソン病の方231名を対象に、バランス・脚の筋力・すくみ足に的をしぼった運動プログラムを6か月間行った無作為化比較試験では、グループ全体での転倒回数に統計的に明確な差は出なかったものの、身体機能の指標には意味のある改善がみられ、進行が軽い方に絞った探索的な分析では転倒率が半分近くまで下がったと報告されています。
限界:主要な結果としては、運動群と通常ケア群で転倒率に有意差はありませんでした。効果には個人差があり、進行度によっても異なります。運動は転倒を確実に防ぐものではなく、バランスを崩したときの被害を減らすための備えのひとつとして、環境調整や薬物治療と組み合わせて考える必要があります。
脳リハ.comのYouTubeでは、バランスや立ち上がりの土台をつくる体操を配信しています。庭仕事の前後の習慣として、無理のない範囲で取り入れてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際に庭でどんな動作をしているか、どの場面で不安を感じるかを一緒に確認し、拠点の置き方、目印の位置、立ち上がり方を、その方の庭の形やペースに合わせて調整します。「実際に困っている場所・場面」を練習の題材にすることで、練習がそのまま生活の安心につながります。薬の調整(オン・オフの管理、起立性低血圧の治療薬など)は主治医の役割で、私たちは動作と環境の側から支えます。
受診の目安は、転倒やヒヤリとする場面が増えてきた、しゃがんだあとの立ちくらみが強くなった、すくみ足が悪化してきた、といったときです。転倒の原因はパーキンソン病の症状だけとは限りません。自己判断せず、神経内科・主治医に相談してください。姿勢反射障害についてより専門的な内容は姿勢反射障害の専門解説にまとめています。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方をご覧ください。

よくある質問。
Q. 庭仕事中に転びそうになるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 庭仕事のどんな場面が特に危ないですか?

Q. 自宅の庭でできる転倒対策はありますか?
Q. 庭仕事はやめたほうがいいのでしょうか?
Q. 転倒対策はリハビリで良くなりますか?
Q. 受診の目安を教えてください。
転倒の不安は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。庭仕事に限らず、日常生活で不安を感じている場面をひとつずつ確認し、環境の工夫と、体そのものを立て直す練習を、両輪で組み立てます。ご家族からのご相談も歓迎しています。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
動作分析の視点から、転倒リスクへの向き合い方を体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
しないでほしい。

「転びそうになったから、庭仕事はもうやめる」。そう決めてしまうご本人やご家族に、たくさん出会ってきました。安全を思ってのことですが、体を動かす楽しみや役割を手放すことは、別の意味で暮らしを小さくしてしまいます。
お伝えしたいのは、危ないのは庭そのものではなく、動きの継ぎ目だということです。そこに拠点と目印を置き、体そのものの立て直す力も育てていけば、庭仕事を続けられる可能性は十分にあります。
転倒への不安でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際の庭の様子をうかがいながら、その方に合う動き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。転倒の原因には他の要因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月21日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, Kwakkel G, Rochester L, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での視覚・聴覚キューを用いた歩行訓練で、歩行速度・歩幅・バランスが改善し、頻回のすくみ足がある群でその重症度も軽減したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Canning CG, Sherrington C, Lord SR, et al. Exercise for falls prevention in Parkinson disease: a randomized controlled trial. Neurology. 2015;84(3):304-312.(バランス・筋力・すくみ足に着目した6か月間の運動プログラムを検証したRCT。全体の転倒率には有意差がなかったが、身体機能は改善し、軽症群の探索的分析では転倒率の低下が示唆されたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)