パーキンソン病でソファが低くて立てない|原因と対策・自宅でできる工夫
低いソファは敵、「高さ」と「硬さ」は味方です。
深く座ったソファから、自分の力だけでは立ち上がれない。それはパーキンソン病でよくみられる動作の変化かもしれません。座面の高さや硬さ、立ち上がるときのちょっとした動き方を変えるだけで、同じソファでも、立ちやすさは大きく変わります。しくみと、今日から自宅でできる立て直し方を整理します。

「立てない」と、気づいた日。
テレビを見ていて、いざ立とうとすると体が沈み込んだまま動けない。何度か弾みをつけても腰が浮かず、結局は家族に手を引っ張ってもらう。友人の家に招かれても、柔らかいソファを見ると、それだけで気が重くなる——。そんな声を、リハビリの現場でよく耳にします。
でも、知ってほしいのです。これは珍しいことではなく、座面の高さと立ち方を見直すだけで、驚くほど立ちやすくなるということを。
パーキンソン病では、椅子やソファからの立ち上がりが少しずつ難しくなることがあります。立ち上がる動作は、脚・体幹・バランスを一度に使う大きな運動で、それが小さく・遅くなることで「もうひとふんばり」が利きにくくなるのです。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
なぜ、ソファで立てないのか。
立ち上がる動作は、お尻を浮かせる瞬間にいちばん大きな力を必要とします。座面が低く、柔らかいソファほど、その力はさらに大きくなります。パーキンソン病でみられる変化と重なると、この場面でつまずきやすくなります。特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 座面が低いほど負担が増える | 座る位置が低いと、脚を伸ばして立ち上がるまでの距離と負担が大きくなる |
| 柔らかい座面は不安定になりやすい | 体が沈み込むと足元に力を伝えにくく、勢いをつけづらい |
| 動き出しが遅く、すくみやすい | 動作緩慢やすくみ現象で、立とうとする最初の一歩が出にくい |
| 前かがみになりにくい | 姿勢を立て直す反射が働きにくく、頭とお尻を十分に前後させられない |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。座面が低くて悪化するなら、高さを上げればよい。柔らかくて不安定なら、硬さを足せばよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:ソファを「起立アシスト付き」に変える。
立ち上がりの対処でいちばん手早く効くのが、今あるソファに、高さ・硬さ・支えの手がかりを足すことです。買い替えなくても、自宅にあるものと少しの道具で、次の3ステップから始められます。
ステップ1:座面をかさ上げする。硬めの座布団やクッションを重ね、座ったときに膝がお尻よりやや低くなるくらいの高さに調整します。市販の補高クッションや座面板も使いやすい選択肢です。
ステップ2:座る場所を選ぶ、または硬くする。深く沈み込む中央の一人掛けより、座面が硬く、肘掛けに近い端のほうが立ちやすいことが多いです。硬めのクッションを座面全体に敷くのも有効です。
ステップ3:手を置く場所と合図を決めておく。肘掛けや座面横の決まった位置に手を置く習慣をつけ、「1、2、3で立つ」「せーの」など、いつも同じ合図をつけて立ち上がります。合図があると、動き出しのきっかけをつかみやすくなります。
大切なのは、かさ上げと合図を使って「立てた」という成功体験を積み、少しずつ元の座面の高さに近づけていくこと。合うクッションの厚みや合図の種類は人それぞれなので、作業療法士と一緒に調整すると近道です。

立ち上がり方と、道具のコツ。
環境を整えたら、動き方でさらに立ちやすくなります。合言葉は「浅く座り直し、頭を前に、押して立つ」。順番を体で覚えることが何より大切です。
①座面の端に、お尻を少し前へ滑らせて浅く座り直します。②両足を椅子の下に引き、足の裏をしっかり床につけます。③お辞儀をするように、鼻が膝の先に近づくまで頭と上体を前に倒します。④肘掛けや座面を手で押しながら、お尻を持ち上げます。⑤立ち上がったら、その場で数秒足元を確認してから歩き出します。急がず、ひとつずつの動きを区切って行うのがコツです。下肢の力をつけておくと立ち上がりも安定しやすいので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
道具では、ソファの前や横に据え置き型の手すりを置く、肘掛けの高さに合わせた突っ張り棒タイプの手すりを設置する、といった方法があります。立ち上がりを電動で補助する昇降座椅子や、足元が滑らないよう滑り止めマットを敷くのも助けになります。どれも「合う高さ・位置」が人によって違うため、実際の動きを見ながら選ぶのがおすすめです。

パーキンソン病の方52名を、音と映像による合図を使いながら立ち上がりを練習するグループ、通常の運動を行うグループ、練習をしないグループに分けて比較した研究があります。4週間後、合図を使ったグループは立ち上がる速さが増し、立ち上がりにかかる時間がおよそ4分の1短くなって、その効果は練習をやめた2週間後も保たれていたと報告されています。
限界:対象人数は多くなく、効果には個人差があります。合図の練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、高さや合図を足してその場で立ちやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、かさ上げが少なくても安全に立てる状態に近づける回復的アプローチです。立ち上がりへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. キューイングの調整。視覚(目印)・聴覚(声かけやリズム)・体性感覚(手で押す感覚)のうち、その人にいちばん響く合図を見極めます。
2. 下肢・体幹の筋力とパワー。太もも・お尻・体幹を中心に、立ち上がりの瞬間に必要な瞬発的な力を段階的に鍛えます。
3. 姿勢反射とバランスの土台。立ち上がった直後のふらつきに備え、姿勢を立て直す力とその場での安定を練習します。
STROKE LABが軸足を置くのは、合図で正しい動きを引き出しながら、下肢の力とバランスの土台を並行して整えていくという流れです。かさ上げが少なくても立てるように近づけていく、その設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方を対象にした複数の研究をまとめた系統的レビューでは、段階的に負荷を上げる筋力トレーニングは筋力と歩行距離を伸ばした一方で、立ち上がりの速さを含む多くの身体機能の指標では、はっきりとした改善が確認できなかったと報告されています。筋力を鍛えるだけでなく、立ち上がる動作そのものを練習に組み込むことの大切さがうかがえます。
限界:対象となった研究の数は少なく、効果には個人差があります。筋力トレーニングは無意味というわけではなく、動作練習や合図の工夫と組み合わせて使うものです。

脳リハ.comのYouTubeでは、立ち上がりの土台になる下肢・体幹の体操を配信しています。無理のない範囲で、日々の習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際にご自宅のソファや椅子の高さ・硬さを確認し、その人の体格や動きに合わせて、かさ上げの量・手すりの位置・立ち上がり方を具体的に調整します。「実際に困っているソファ」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活環境の側から支えます。
受診・相談の目安は、以前より立ち上がれる回数が減った、転倒やヒヤリとした場面が増えた、足がすくんで最初の一歩が出にくい、といったときです。立てない原因はソファの高さだけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. ソファに座ると、なぜ立ち上がれなくなるのですか?
Q. 家族に引っ張ってもらうのは、続けてもいいのでしょうか?
Q. ソファを買い替えなくても、できる工夫はありますか?
Q. 立ち上がる練習を自宅でしても大丈夫ですか?
Q. 手すりはどこに、どう付ければいいですか?
Q. どんなときに受診・相談したほうがいいですか?
立ち上がりの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。ご自宅で困っているソファや椅子の環境を一緒に確認し、高さ・硬さ・手すりの位置、立ち上がり方を、その人に合わせて組み立てます。実際に困っている場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活環境の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
立てるようになる方がいます。

ソファから立てなくなると、家に帰るのが億劫になったり、人を家に呼びにくくなったりします。「もう自分の力では立てないかもしれない」とあきらめかけている方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、座面の高さを数センチ変えるだけで、立てるようになる方が実際にいるということです。高さと硬さを味方につけ、浅く座り直して、頭を前に、押して立つ。ちょっとした工夫で、できる場面はまだまだ広がります。
立ち上がりでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。ご自宅の環境そのものを題材に、その方に合う立ち方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。立ち上がりにくさの原因は人によって異なります。転倒が増えた・急に悪化したと感じるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月17日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Mak MKY, Hui-Chan CWY. Cued task-specific training is better than exercise in improving sit-to-stand in patients with Parkinson’s disease: A randomized controlled trial. Mov Disord. 2008;23(4):501-509.(音と映像の合図を用いた立ち上がり練習で動作速度が向上し、練習後2週間も効果が持続したと報告。第1エビデンスボックスの出典)
- Lima LO, Scianni A, Rodrigues-de-Paula F. Progressive resistance exercise improves strength and physical performance in people with mild to moderate Parkinson’s disease: a systematic review. J Physiother. 2013;59(1):7-13.(段階的筋力トレーニングは筋力・歩行距離を改善する一方、立ち上がり速度を含む身体機能指標の多くでは明確な改善が確認されなかったと報告。第2エビデンスボックスの出典)
- Duncan RP, Leddy AL, Earhart GM. Five times sit-to-stand test performance in Parkinson’s disease. Arch Phys Med Rehabil. 2011;92(9):1431-1436.(パーキンソン病の方は健常な高齢者より立ち上がりに時間がかかる傾向があると報告。第2章の背景情報として参照)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)