パーキンソン病で床から立ち上がれない|原因と対策・自宅でできる工夫
床は敵ではなく、通過点です。
気づいたら床に座り込んでいて、一人では立てなかった。パーキンソン病では、そんな場面が起こることがあります。力が足りないだけではなく、立ち上がるための「順番」が崩れていることが少なくありません。原因と、今日から自宅でできる立ち上がり方の立て直しを整理します。

「立てなかった」、その日。
落とした物を拾う、靴を履く、孫と一緒に遊ぶ。ちょっとした場面でしゃがんだあと、いざ立とうとすると足に力が入らず、体が固まったように動かない。何度か試すうちに時間だけが過ぎ、誰かを呼ぶことになった——。そんな経験をした方は、少なくありません。
でも、知ってほしいのです。立ち上がりには「順番」があり、その順番を体に覚えさせることで、床からの立ち上がりは立て直せるということを。
パーキンソン病では、床からの立ち上がりが難しくなることがあります。立ち上がる動作は、体幹・股関節・膝・足首を連動させる複雑な運動で、途中で力が抜けたり動きが止まったりすると、途端にうまくいかなくなります。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
立ち上がれなくなる、しくみ。
床からの立ち上がりが難しくなる背景には、複数の要因が重なって関わっていることがほとんどです。「筋力がないから」だけで片づけず、何が起きているかを分けて考えることが、対策の第一歩になります。
| 要因 | どんな影響が出るか |
|---|---|
| 動作緩慢・筋強剛 | 動きが小さく遅くなり、体を持ち上げる力を素早く出しにくくなる |
| 姿勢反射障害 | バランスを立て直す反応が遅れ、途中でぐらついて動作が止まる |
| すくみ | 立ち上がろうとした瞬間に、体が固まって動き出せなくなる |
| 起立性低血圧 | 急に立ち上がると血圧が下がり、ふらつきや立ちくらみが出る |
| 恐怖心・不安 | 「またできないかも」という不安が体を緊張させ、さらに動きにくくする |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。一気に立とうとするから、力とバランスの両方が同時に求められて破綻するのなら、動作をいくつかの段階に分ければよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:床を「通過点」に変える。
床からの立ち上がりでいちばん手早く効くのが、「一気に立つ」をやめて、動作を3つの通過点に分けることです。段階を踏むことで、力とバランスを同時に求められる場面が減り、すくみも起こりにくくなります。合言葉は「四つ這い→片膝立ち→立つ」です。
ステップ1:横向きから、四つ這いになる。座り込んだ状態から無理に立とうとせず、いったん横向きに体を倒し、うつ伏せに近い姿勢を経て、両手両膝をついた四つ這いになります。支える面が広がり、バランスが安定します。
ステップ2:片膝を立てて、片膝立ちになる。四つ這いから、片方の足を前に踏み出し、膝を立てます。もう片方の膝は床についたまま、上体を起こしていきます。ここで一度、呼吸を整えます。
ステップ3:支えを使って、体重を前に移してから立つ。椅子やベッドなど安定した家具に手を置き、体重を前足にゆっくり移しながら、足で床を押すようにして立ち上がります。急がず、一段階ずつ確認しながら進めるのがコツです。
この手順は、四足動物が立ち上がるときの姿勢に近く、体重を支える面積が広い分、途中で止まっても倒れにくいという利点があります。慣れてきたら、支えを使う量を少しずつ減らしていきます。合う手順やペースは人それぞれなので、作業療法士・理学療法士と一緒に自分の体に合わせて調整すると近道です。

手順の練習と、環境の工夫。
3つの通過点を身につけたら、練習の仕方と住環境でさらに立ち上がりやすくなります。合言葉は「焦らず、一段階ずつ、支えを使う」。すくみが出たときほど、急がないことが大切です。
動き出しがすくんでしまうときは、「いち、にの、さん」と声に出して数える、一定のリズムで足踏みしてから動き出す、といった合図が助けになります。練習は、畳やヨガマットなど膝をついても痛くない場所で、転んでもけがをしにくい環境を選んでください。住環境では、立ち上がりの支えにする椅子やベッドは膝の高さと同じかやや高めにし、足元が滑らない床材や、つかまりやすい位置の手すりを見直すと安全性が上がります。日頃から体を大きく動かす運動をしておくと、立ち上がりの土台も安定しやすいので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
パーキンソン病の方を対象に、自宅で音・視覚・体性感覚の合図を使った練習を行った無作為化比較試験(RESCUE試験)では、合図を使った練習を続けたグループで、歩行にかかわる日常動作の指標が改善したと報告されています。すくみが出やすい動作の切り替え場面で、外部からの合図が動き出しの助けになることを示す結果です。
限界:この研究は主に歩行関連の日常動作を対象にしたもので、床からの立ち上がりそのものを主要な指標にしたものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。合図の練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、動作を分けてその場で立ちやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、段階を減らしても立てる状態に近づける回復的アプローチです。床からの立ち上がりへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 個別のキューイング。声・リズム・視覚目印など、その人にいちばん響く合図の種類とタイミングを見極め、すくみが出にくい動作の切り替え方を一緒に探ります。
2. 大きく動く運動学習。股関節・体幹の伸展を中心に、あえて大きな動作を繰り返し、立ち上がりに必要な力とタイミングを全身の運動から立て直します。
3. バランスと転倒予防。姿勢を立て直す反応や、起立性低血圧のリスクを含めて評価し、実際の生活場面を想定した練習と住環境の見直しにつなげます。
STROKE LABが軸足を置くのは、合図で正しい順番の動作を引き出し、成功体験を積みながら、少しずつ合図を減らして身につけていくという流れです。段階を経ずに立てる場面を、少しずつ増やしていく設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
動きの「大きさ」に焦点をあてた集中的な運動療法(LSVT BIG)を検証した無作為化比較試験では、別の運動や自宅練習より運動症状の指標が大きく改善し、その効果が16週間後にも維持されていたと報告されています。座位からの立ち上がりを含む機能的な動作の土台として、大きな動きを繰り返し学習する意義を示す結果です。
限界:これは全身運動を対象とした研究で、床からの立ち上がりそのものを主要な指標にしたものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。集中的な訓練には決められた頻度や条件があり、専門的な評価と指導が前提です。運動療法は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。

脳リハ.comのYouTubeでは、股関節や体幹を大きく動かす体操を配信しています。立ち上がりの土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際に困っている場面(トイレ・お風呂・寝室など)を一緒に確認し、動作の分け方、合図の種類、家具の配置を、その人に合わせて調整します。「実際に困っている場所」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活環境の側から支えます。
受診の目安は、転倒を繰り返す、立ち上がるたびに強いふらつきや立ちくらみがある、けがを伴う転倒があった、といったときです。立ち上がりにくさの背景には、薬の効き方や他の症状が関わっていることもあります。自己判断せず、神経内科・主治医に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. なぜ急に床から立てなくなったのですか?
Q. すくみ足と関係がありますか?
Q. 家で今日からできる立ち上がりの練習はありますか?
Q. 家具の高さはどれくらいが良いですか?
Q. 起き上がるときにふらついて怖いです。対策は?

Q. 何度も転んで床に座り込みます。何科を受診すればよいですか?
立ち上がりの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている場面(トイレ・お風呂・寝室など)を一緒に確認し、動作の分け方・合図・住環境を、その人に合わせて組み立てます。実際の生活場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と環境の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
床は怖くなくなります。

床に座り込んでしまうと、それだけで気持ちが折れそうになります。「一人でお風呂に入れないかもしれない」「また転んで動けなくなったらどうしよう」と、外出や家事にまで不安が広がっていく方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、立ち上がりを3つの通過点に分けるだけで、驚くほど立ちやすくなることがあるということです。四つ這い、片膝立ち、それから立つ。焦らず、順番を体に覚えさせることで、床は敵ではなくなっていきます。
床からの立ち上がりでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場所そのものを題材に、その方に合う動作の分け方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。転倒を繰り返す・立ち上がり時に強いふらつきがあるといった場合は、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月17日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での合図(キューイング)練習が歩行関連の日常動作を改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Ebersbach G, et al. Comparing exercise in Parkinson’s disease—the Berlin LSVT BIG study. Mov Disord. 2010;25(12):1902-1908.(動きの大きさに焦点をあてた集中的運動療法が運動症状を有意に改善し、16週後も効果が維持されたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)