視床後外側腹側核の役割とは?:感覚障害のリハビリ戦略を解説!
視床VPLが壊れると、なぜ「触れた場所」がわからなくなるのか。
視床VPL(後外側腹側核)は、体幹・四肢の感覚を大脳皮質へ中継する核です。ここが傷つくと、触覚・位置覚・痛みの受け取り方が変わります。この記事では、解剖から評価、感覚再教育までを明日の臨床で使える順に整理します。
— 「リハビリテーションのための臨床脳科学シリーズ」より、VPLを意識したリハビリの展開例です。

— 本記事は、金子唯史が執筆する『脳の機能解剖とリハビリテーション』(医学書院)の内容を元に、具体的な訓練を示します。
要点5項目。
エビデンス表記:[SR/MA]=系統的レビュー・メタ分析 / [複数RCT] / [単独RCT] / [観察研究](症例報告を含む) / [専門家合意](出典が教科書的知識・臨床の目安のもの)。
「持った感覚がない」に、どう向き合うか。
60代・男性。右視床の梗塞で、発症から約3週の回復期です。BRS(Brunnstrom stage:麻痺の回復段階)は、上肢・手指・下肢ともⅤです。NIHSSの感覚項目は1点(軽度〜中等度の感覚低下)です。主訴は「左手で持った感覚がない。気づくと落としている」です。
初回評価では、視覚を遮ると触れた部位の正答率は40%でした。綿には「ふわふわ」、金属には「冷たい」と反応できます。一方で、場所は「手の甲?指先?」と迷います。冷たさは分かるのに、場所が分からない。この乖離が読みどころです。
※年齢・発症時期・BRS・NIHSSは原稿に記載がないため、教育用に補足した設定です。部位識別40%などの数値は原記事に基づきます。
感覚障害は、運動麻痺ほど目立ちません。見逃されたまま、「使わない手」になることがあります。
この症例の手は、握れても「持った感じ」がありません。だから、握っているのに落とします。
視床後外側腹側核(VPL:体幹・四肢の感覚を皮質へ中継する視床の核)が傷つくと、この状態が起こりえます。脳卒中後の体性感覚障害の頻度は、報告により幅があります[観察研究:Kessner 2016]。
この記事は、解剖(02–03)、鑑別(04)、評価(05)、介入(06–08)、予後(09)の順です。そのまま、評価と練習の手順として使えます。
VPLの位置・血流・上行路を、一本の線でたどる。

視床後外側腹側核(VPL:Ventral Posterolateral nucleus)は、視床の後腹側部にある核です。後内側腹側核(VPM:主に顔面の感覚を中継)の、やや外側・後方に位置します。体幹・四肢の体性感覚を、一次体性感覚野(S1:頭頂葉の中心後回)へ中継します。

— VPLは視床の後腹側部にあり、VPMのやや外側・後方に位置します。
血流:後大脳動脈の枝が担う
VPLは、後大脳動脈(PCA)の枝である視床膝状体動脈(thalamogeniculate artery)から血流を受けます。だから臨床では、PCA領域の症状も一緒に見ます。後述の症例は、右PCA(P1)の閉塞に、左の同名半盲と感覚障害が併存しました。

— VPLは、後大脳動脈の枝である視床膝状体動脈から血流を受けます。
後索内側毛帯路(DCML)と脊髄視床路(STT)の両方が、VPLに集まります。識別触覚・振動覚・固有感覚と、痛覚・温度覚・粗大触覚が、ここで統合されてS1へ送られます。
受容器から皮質まで:3ステップ
起点は、機械受容器(触覚・圧・振動)、温度受容器、侵害受容器(痛覚)、固有受容器(筋紡錘・腱・関節)です。信号は末梢神経、後根を通って脊髄後角に入り、最初の情報処理を受けます。
【A】DCML(後索内側毛帯路)は、識別触覚・振動覚・固有感覚を運びます。同側の後索(上肢は楔状束、下肢は薄束)を上行し、延髄の楔状束核・薄束核でシナプスします。内側毛帯となって延髄で対側へ交差し、VPLへ投射します。

— DCMLは、延髄で対側へ交差し、内側毛帯としてVPLへ向かいます。
【B】STT(脊髄視床路)は、痛覚・温度覚・粗大触覚を運びます。脊髄後角でシナプスし、すぐに対側へ交差して前外側系として上行します。VPLに終止し、一部は他の視床核にも枝を出します。

— STTは、脊髄で対側へ交差し、前外側系としてVPLに終止します。
両経路の情報は、VPLで統合されてS1(Brodmann領野3a・3b・1・2)へ投射します。3aは固有受容感覚(筋紡錘入力)、3bは触覚、1は触覚の統合、2は触・深部感覚の統合と空間的認識を担います。

— VPLからの投射は、S1のBrodmann領野3a・3b・1・2に届きます。
S1は、体性感覚ホムンクルス(身体部位と皮質面積の対応)で構成されます。手指や顔面は、機械受容器が密なため、S1内で不釣り合いに大きな面積を占めます。これが、精緻な触覚と動きの認識を支えます。

— 2023年のNature誌では運動ホムンクルスの更新が報告されました。体性感覚野の図は今後更新予定です。
血管支配と症候[専門家合意]:Schmahmann JD. Stroke 2003。視床の血管症候群を整理したナラティブレビューです。視床膝状体動脈領域の梗塞では、対側の感覚障害が特徴とされます。
ホムンクルスの更新[観察研究]:Gordon EM ら. Nature 2023。健常者のfMRIデータから、運動野に体性-認知行動ネットワークが、従来の部位対応領域と交互に並ぶことを報告しました。
疫学[観察研究]:Kessner SS ら. Top Stroke Rehabil 2016(スコーピングレビュー)。体性感覚障害の頻度は、対象や検査法で大きく異なると整理されています。
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感覚が壊れる場所を、画像で読む。
1つ目は、対側の感覚鈍麻・消失です。触覚・痛覚・温度覚・位置覚などの体性感覚が障害されます。
2つ目は、遅れて出る中枢性疼痛(視床痛)です。Dejerine-Roussy症候群として知られ、持続的で耐えがたい灼熱感・異常感覚を伴います。
MRIでVPLを探す、4つのランドマーク
1. 第三脳室を確認する。視床の中心にある、縦に細長い空間です。VPLはその外側に位置します。

— 視床中心の縦長の空間が第三脳室で、VPLはその外側にあります。
2. 内包後脚との位置関係を見る。VPLは内包後脚のすぐ内側にあります。内包は、視床の外側輪郭をつくる白質のランドマークです。

— VPLは内包後脚のすぐ内側にあり、内包は視床外側輪郭の目印になります。
3. 視床枕との位置関係を見る。最大の視床核である視床枕(Pulvinar)は、視床の後方にあります。VPLはその前下方です。

— VPLは、最大の視床核である視床枕の前下方に位置します。
4. 断面ごとの見え方を押さえる。冠状断では、視床枕の前方かつ内包の内側です。矢状断では、視床の腹側表面と第三脳室の間です。

— 冠状断では視床枕の前方・内包の内側、矢状断では視床腹側表面と第三脳室の間に位置します。
感覚入力の断絶は、身体像にも及ぶ
右VPLの虚血性病変で、巨体失認(体の一部が実際より大きく感じられる知覚異常)を呈した症例報告があります[Amir Hら 2020]。確率的トラクトグラフィー(MRIで線維の接続確率を推定する手法)では、右視床病変に強い接続低下が見られました。
低下した接続先は、右後頭葉、頭頂皮質・上頭頂小葉、一次運動野、楔前部(頭頂葉内側面。自己処理・記憶に関与)です。感覚入力と高次認知領域の接続障害が示唆されます。

— 右視床病変は、右後頭葉・頭頂皮質・一次運動野・楔前部との接続低下を示しました。
決定論的トラクトグラフィー(線維の走行を確定的に追跡する手法)では、楔前部への線維路が約80%、上頭頂小葉への線維路が約90%減少しました。ただし、症例報告(n=1)です。因果関係は断定できません。

— 楔前部への線維路は約80%、上頭頂小葉への線維路は約90%減少しました。
だから臨床ではこうします。画像を見たら「VPLは、第三脳室の外側、内包後脚の内側」と即答できるようにします。そのうえで、視野・身体像の訴えも聞き取ります。
視床梗塞の症候[観察研究]:Carrera E, Bogousslavsky J. Neurology 2006。視床梗塞を血管支配域ごとに分け、感覚・行動面の症候を整理しています。
血管症候群[専門家合意]:Schmahmann JD. Stroke 2003。視床膝状体動脈領域の症候と、視床痛の位置づけを整理したレビューです。
右VPL病変と巨体失認[観察研究]:Amir Hら 2020(症例報告 n=1、45歳男性)。右PCA P1閉塞に伴う右視床VPL病変と、15か月の経過・トラクトグラフィーを報告しています。
視床症候群の原典[専門家合意]:Dejerine J, Roussy G. Rev Neurol 1906。視床痛を含む視床症候群の古典的記載です。
「感覚が悪い」を、どこで途切れているかで切り分ける。
「感覚障害」と一括りにすると、原因の場所を見誤ります。経路のどこで途切れているかを考えると、鑑別しやすくなります。
巨体失認(macrosomatognosia)にも注意します。不思議の国のアリス症候群(AIWS)の一症状として知られます[Todd 1955]。原記事の症例は、左上半身が実際より拡大して感じられました。中等度の左同名半盲と、長期の誤認妄想に近い状態も伴いました。

| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 内包後脚病変(ラクナ梗塞など) | 対側の半身の感覚障害(純粋感覚性の型もある) | 臨床像だけでは視床と区別しにくい。運動麻痺・顔面麻痺の合併が手がかりで、確定は画像による。 | MRI(DWI)、運動麻痺の評価(BRS・FMA) |
| 頭頂葉(S1〜上頭頂小葉)病変 | 対側の感覚障害、位置覚・部位識別の低下 | 皮質性では基本感覚が比較的保たれ、識別・立体覚の障害が目立つ傾向がある。 | 立体覚、2点識別、書字感覚、MRI |
| 脊髄・延髄病変(後索/STT) | 位置覚・振動覚、または温痛覚の低下 | 深部感覚と温痛覚の障害が分かれる(解離性)。脊髄では感覚レベルがある。 | 感覚レベルの確認、閉眼立位、脊髄・脳幹MRI |
| 末梢神経障害(手根管症候群・ニューロパチー) | 手指のしびれ・感覚低下 | 分布が末梢神経の支配域や手袋靴下型で、半身全体には及ばない。 | Tinel徴候、Phalenテスト、神経伝導検査 |
| 半側空間無視・身体失認 | 片側の刺激に反応しない、身体像の歪み | 単独の触刺激には反応できるが、両側同時刺激で無視側を落とす(消去現象)。 | 両側同時刺激、BIT(行動性無視検査)、身体イメージの聴取 |
AIWSの整理[SR/MA]:Blom JD. Neurol Clin Pract 2016(系統的レビュー)。AIWSの症例を系統的にまとめた報告です。
純粋感覚性脳卒中[専門家合意]:Fisher CM. Neurology 1965。顔面・上肢・下肢に及ぶ純粋感覚性脳卒中の古典的記載です。
無視の評価[観察研究]:Wilson B, Cockburn J, Halligan P. Arch Phys Med Rehabil 1987。BITの開発報告です。
何を、どう測り、どこで判断するか。
評価の原則は3つです。視覚を遮る。左右を比べる。同じ手順で繰り返す。開眼では視覚が感覚障害を隠すため、まず視覚遮断が必要です。

臨床の入口:5つの観察ポイント
1. 触れた場所を特定できるか。軽い触刺激に「どこを触られたか」を即答できず、反応が遅れることがあります。
2. 身体認識は保たれているか。手足の位置や動きを直感で把握できず、視覚確認が必要になります。閉眼で動作の正確性が著しく低下します。
3. 感覚の低下やしびれはあるか。特に手や指に現れやすく、物を持つ感覚が薄れて落とします。
4. バランスはどうか。感覚入力の低下で、姿勢保持や歩行が不安定になります。暗所で増悪し、視覚による補正に頼ります。
5. 痛覚の反応はどうか。反応が鈍く、外傷に気づかない、訴えが遅れることがあります。逆に、慢性疼痛や異常感覚へ移行する例もあります。
感覚機能の採点基準(FMA感覚項目・臨床課題)
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| FMA感覚(上肢) 軽い触覚:上腕・手掌 | 各部位0〜2点(0=脱失、1=鈍麻または異常感覚、2=正常)。計4点 | 標準化されたカットオフ値は確認できず | 手掌の低下は、把持・手内操作の手がかり不足を示す。 |
| FMA感覚(上肢) 位置覚:肩・肘・手関節・母指 | 各0〜2点(0=感じない、1=4回中3回正答または健側との差が大きい、2=全て正答)。計8点 | 同上 | 低下すると、閉眼時の動作精度が落ちやすい。 |
| FMA感覚(下肢) 軽い触覚:大腿・足底 | 上肢と同じ0〜2点基準。計4点 | 同上 | 足底の低下は、荷重感覚と立位の安定性に影響しうる。 |
| FMA感覚(下肢) 位置覚:股・膝・足関節・母趾 | 上肢の位置覚と同じ0〜2点基準。計8点 | 同上 | 閉眼立位の不安定さと合わせて解釈する。 |
| FMA感覚 合計 | 上肢12点+下肢12点=24点 | 24点=感覚障害なし。重症度の区分は未確立 | 同一評価者・同一手順での経時変化を見る。 |
| 部位識別課題 | 視覚遮断下で複数回触れ、正答率(%)を算出 | 標準値なし。臨床目標は70%以上(原記事の短期目標) | 40%→78%のように、経時変化で効果を確認する。 |
| 素材・温度識別課題 | 視覚遮断下で綿・紙・冷温物を提示し、正誤を記録 | 標準値なし | 冷温は分かるのに部位が不明、といった乖離を把握する。 |
| 閉眼立位保持(Romberg準拠) | 開眼・閉眼で立位保持を比較(各30秒) | 各30秒保持を目安[専門家合意] | 閉眼で動揺が増すと、視覚代償への依存を示す。転倒に備えて実施する。 |
| 患側手の自発使用頻度 | 日常でのタオル・コップ操作などの回数/日 | 短期目標は日常3回以上(原記事) | 感覚の変化と実生活を結ぶ指標になる。 |
触圧覚・神経障害性疼痛・痛みの強さの採点基準
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| Semmes-Weinstein:正常 | 感知できた最小のフィラメント番号で分類 | 1.65〜2.83 | 軽い触圧覚は保たれている。 |
| Semmes-Weinstein:軽触覚の低下 | 同上 | 3.22〜3.61 | 軽い触れの検出が低下している。 |
| Semmes-Weinstein:防御知覚の低下 | 同上 | 3.84〜4.31 | 強めの圧でのみ検出。外傷のリスクが上がる。 |
| Semmes-Weinstein:防御知覚の喪失 | 同上 | 4.56〜6.65 | 外傷・熱傷への防御が乏しい。環境調整が必須。 |
| Semmes-Weinstein:測定不能 | 最大のフィラメントでも感知できない | 6.65を超える | 重度の感覚障害。他の検査や画像と併せて判断する。 |
| DN4 問診7項目 | 焼けるような/痛みを伴う冷感/電気ショック様/ちくちく/針で刺される/しびれ/かゆみ。該当を各1点 | 合計4点以上(10点満点) | 神経障害性疼痛を疑う。診断は医師が行う。 |
| DN4 診察3項目 | 触覚の低下/針刺激での感覚低下/ブラッシングで痛みが誘発される。該当を各1点 | 問診と合算して4点以上 | 脳卒中後疼痛に限定した検証ではない点に注意する。 |
| NRS(痛みの数値評価) | 0(痛みなし)〜10(想像できる最悪の痛み)の11段階 | 1〜4=軽度、5〜6=中等度、7〜10=重度(Serlin 1995) | がん疼痛での区分。前後比較で使い、施設内で基準を統一する。 |
DN4[観察研究]:Bouhassira Dら. Pain 2005(n=160)。カットオフ4点以上で感度82.9%、特異度89.9%でした。スクリーニング用のため、MCIDは定義されていません。
Semmes-Weinstein[専門家合意]:Bell-Krotoski J, Weinstein S, Weinstein C. J Hand Ther 1993。触圧覚検査の方法と分類を整理した報告です。脳卒中に特化した信頼性・MCIDは、本稿では確認できていません。
FMA感覚項目[観察研究]:Fugl-Meyer AR ら. Scand J Rehabil Med 1975。原典の感覚項目は上下肢計24点です。感覚項目単独のカットオフ・MCIDは、本稿では確認できていません。
NRS区分[観察研究]:Serlin RC ら. Pain 1995。痛みの強さと機能への干渉から、重症度区分を検討した研究です(がん疼痛)。
感覚再教育のエビデンスは、どこまで進んだか。
先に結論です。感覚再教育は有望ですが、標準プロトコルは確立していません。系統的レビューは、研究の質と介入内容のばらつきが大きいと指摘しています。
だから臨床では、小さく介入して、こまめに再評価します。以下に、原記事の実施項目を4ステップで整理します。数値は臨床の目安[専門家合意]です。個別に調整してください。

目的:触覚と部位認識の一致を促し、感覚を再構築します。方法:視覚遮断下で、綿・筆・冷却金属・紙やすりなどを当て、素材と部位を答えてもらいます。
パラメータ:1回10〜15分、週3〜5回、1課題10〜20試行です。正答率が70〜80%になるよう、素材差と部位数を調整します。温刺激は、前腕内側で温度を確認してから使います。
声かけ:「今は“感じた”ことを大事にしましょう。“どこか”は後からついてきます」。
目的:視覚・言語・運動を統合し、「手の存在」の再認識と自発使用を促します。方法:タオル・コップ・洗濯ばさみで、握る・つまむ・持ち替える操作を、視覚あり/なしで繰り返します。
パラメータ:1回10分、日用品3〜5種、各動作5〜10回です。視覚ありから始め、安全な物品のみ視覚なしへ進めます。「左手が、タオルを握っている」と声に出す自己対話を加えます。
目的:手からの触覚フィードバックで、姿勢制御と身体位置認知を改善します。方法:立位・ステップ姿勢で、バーに軽く触れる条件と触れない条件を比べます。Biodex Balance Systemを併用します。
パラメータ:1回5〜10分、各条件30秒×3回です。接触は1 N未満(約100 g以下)の「触れるだけ」にします[Jeka 1994]。開眼から始め、安全確保のうえで閉眼へ進めます。手すりと近位監視を確保します。
自主練習は、セルフマッサージ、ローション塗布、綿・羽毛・紙やすりでの材質と部位の特定です。ボディスキャン(身体部位へ順に注意を向ける練習)も使えますが、脳卒中での効果検証は限られます。
パラメータ:1日1〜2回、各5〜10分です。4週ごとに、部位識別の正答率などで再評価します。刺激の強さは、患者の不快感を見て調整します。
感覚再教育のSR/MA[SR/MA]:Serrada I, Hordacre B, Hillier SL. Front Neurosci 2019。感覚再教育の効果を統合しました。改善が示唆される一方、研究の質と介入内容のばらつきが大きく、確実性は限定的です。
Cochraneレビュー[SR/MA]:Doyle Sら. Cochrane Database Syst Rev 2010。上肢の感覚障害への介入を検証し、有効性を結論づけるには根拠が不十分としました。
系統的レビュー[SR/MA]:Schabrun SM, Hillier S. Clin Rehabil 2009。感覚再教育の根拠を整理し、小規模研究が中心であることを示しています。
SENSe試験[単独RCT]:Carey LM, Macdonell R, Matyas TA. Neurorehabil Neural Repair 2011(n=49)。脳卒中後の感覚障害に対し、感覚識別訓練の効果を検証しました。実施量と主要結果は、原著で確認してください。
視床症候群への感覚統合トレーニング[単独RCT]:Amirら 2022(n=30、視床損傷の45〜65歳)。従来の理学療法に感覚統合トレーニングを追加しました。姿勢の安定性が向上し、感覚異常も軽減しました(評価はBiodex Balance System)。小規模で、介入量の詳細は原記事に記載がありません。
指先の軽い接触と姿勢制御[観察研究]:Jeka JJ, Lackner JR. Exp Brain Res 1994(健常成人)。1 N未満の軽い指先接触で、姿勢動揺が減ることを報告しました。

退院後は、「何が原因で困っているのか」が曖昧なまま、練習だけが続くことがあります。私たちは、脳の機能解剖をもとに原因を整理し、次の一手を一緒に考えます。
感覚障害は、チームで見て、チームで守る。
日常に感覚を戻す、環境調整の4原則
入浴時の温度変化、衣類の材質、石鹸の感触。日常の感覚を意識してもらうこと自体が、練習になります。
- 温度:入浴・調理の前に、健側の手で温度を確認します(熱傷予防)。
- 皮膚:毎日、小さな傷や発赤を確認します。痛覚が鈍く、気づきにくいためです。
- 照明:暗所では不安定さが増します。夜間の動線に照明を確保します。
- 把持:落としやすい物は、滑りにくい素材を選びます。視覚で確認しながら持ちます。
「看護師さんに、『左手は熱さや小さな傷に気づきにくい』と一言伝えてください。ケアの安全性が上がります。」
「医師には、痛みの質(灼熱感・電気が走る感じ)と時間経過を、NRSの数値と一緒に共有します。」
| 職種 | この症状における評価項目 | 主な介入内容 | 他職種との連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 閉眼立位、暗所での安定性、足底感覚、歩行 | 触覚キューを使った姿勢制御練習(接触1 N未満)、荷重感覚の練習 | 足底・下肢の感覚所見をOTへ、転倒リスクを看護へ共有する。 |
| OT | 部位識別、素材識別、患側手の自発使用頻度、把持の安全性 | 触覚弁別訓練、日用品での統合練習(週3〜5回)、自主練習の指導 | 安全な把持物品を看護・家族へ、手の使用状況をMSWへ共有する。 |
| ST | 指示理解、注意、記憶、言語での感覚報告の確かさ | 自己教示(「左手が握っている」)の言語化支援、注意課題の調整 | 視床病変は注意・記憶・言語にも影響しうるため、理解度をPT・OTへ共有する。 |
| 看護師 | 皮膚の傷・熱傷の有無、疼痛の訴え(NRS)、夜間の動線 | 入浴温度の確認、皮膚保護、体位・環境の安全管理 | 疼痛や外傷の変化を、医師・セラピストへ速やかに共有する。 |
| 医師 | 画像(MRI)、神経学的所見、神経障害性疼痛の診断 | 疼痛への薬物療法の判断(薬の選択は医師が行う) | リハ側から、感覚・疼痛の経時変化(DN4・NRS)を受け渡す。 |
| MSW | 生活環境、家族の支援体制、就労・復職の状況 | 退院後の社会資源(介護保険・障害福祉サービスなど)の調整 | OTから患側手の使用状況を受け、生活場面の課題を共有する。 |
神経障害性疼痛の薬物療法[SR/MA]:Finnerup NBら. Lancet Neurol 2015(系統的レビュー・メタ分析)。神経障害性疼痛の薬物療法を統合しています。薬の選択は医師の判断です。
視床病変の行動面への影響[観察研究]:Carrera E, Bogousslavsky J. Neurology 2006。視床梗塞が、感覚だけでなく行動・認知にも影響しうることを整理しています。
チーム医療[専門家合意]:脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2023]。多職種による包括的なリハビリテーションの重要性を示しています。
新人が陥りやすい3つの落とし穴と、判断のコツ。
感覚障害の練習は、刺激が強すぎると逆効果になります。評価で見落とすと、外傷にもつながります。よくある失敗を、先に共有します。
迷ったときの3つの問い
- 視覚を遮っても、できるか。
- 左右で、差はあるか。
- いまの刺激は、痛みや不快につながっていないか。
「『できない』で終わらせないでください。『どの条件ならできるか』を探すのが評価です。」
「答えが外れても、責めません。『感じた』ことをまず認めると、次の試行に前向きになれます。」
中枢性疼痛の臨床像[専門家合意]:Klit H, Finnerup NB, Jensen TS. Lancet Neurol 2009(レビュー)。中枢性脳卒中後疼痛では、触刺激で痛みが誘発される症状(アロディニア)などを伴うことがあります。
介入根拠の限界[SR/MA]:Doyle Sら. Cochrane Database Syst Rev 2010。有効な介入を断定できないため、患者ごとの反応を見て調整する必要があります。
どこまで戻るか、どこを目標にするか。
予後を高い精度で予測できるデータは、限られています。だから、経過を追える症例に学び、短い期間の目標を置きます。

— 急性期の灌流画像から10週後のMRIまで、右視床VPLに限局した病変が残存しました。
15か月追跡された症例報告の経過です[Amir Hら 2020]。
- 0日目:頭部CT灌流画像で、右内後頭葉・右視床にTmax延長(血流遅延)を確認しました。虚血半影が示唆されます。神経所見は中等度の左同名半盲のみでした。
- 1〜2日目:右PCA領域のTmax延長が進行し、神経学的に悪化しました。
- 2日目:右椎骨動脈経由で再灌流処置を実施しました。右PCAのP1閉塞を確認しました。MRI(DWI)で、小脳・右視床・右海馬・右後頭葉・内包などに急性虚血病変を認めました。
- 10週:3T MRIで、後頭蓋の病変は消失傾向でした。右視床VPLに限局した病変が残存しました。
- 6か月:巨体失認と感覚異常への評価・訓練の結果、大幅に改善しました。自宅退院と部分的な社会復帰が可能になりました。
短期目標(2週間以内):患側手で触れた部位を、70%以上の正答率で識別できる。患側手の自発使用が、日常3回以上に増える(例:コップ・タオル操作)。
長期目標(1〜2か月):患側手で物を握って運べる。両手での操作(洗顔、簡単な更衣)が、安全にできる。
仮想症例の4週後は、部位の正答率が40%から78%へ改善しました。皿の固定や洗顔時のタオル操作が、日常化しました。「手が動いている感じが、前よりはっきりしてきました」という言葉も得られました。
経過の追跡[観察研究]:Amir Hら 2020(症例報告 n=1)。15か月の追跡で、6か月時点に大幅な改善を確認しました。一般化はできません。
疼痛の遅発[専門家合意]:Klit H, Finnerup NB, Jensen TS. Lancet Neurol 2009。中枢性脳卒中後疼痛は、発症時期の個人差が大きく、遅れて出る例があります。改善後も、追跡を続けます。
リハビリの枠組み[専門家合意]:脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2023]。目標設定と定期的な再評価を含む、包括的なリハビリテーションを示しています。
よくある質問。
VPLは、体幹と四肢の体性感覚を大脳皮質へ中継する視床の核です。識別触覚・振動覚・固有感覚と、痛覚・温度覚・粗大触覚の両経路が集まり、一次体性感覚野(S1)へ送られます。
対側の体幹・四肢で、触覚・痛覚・温度覚・位置覚が鈍くなったり失われたりします。手指では、物を持っている感覚が薄れて落としやすくなります。閉眼や暗所でバランスが不安定になることもあります。
必ず起こるわけではありません。損傷後しばらくして、持続的で耐えがたい灼熱感や異常感覚が出ることがあります。前向き研究では、脳卒中後の中枢性疼痛は約8%と報告されています(Andersen 1995)。出現時は医師へ早めに共有します。
視覚を遮った状態で、触れた部位の識別、素材や温度の識別、位置覚、閉眼での立位保持を確認します。左右を比べ、同じ手順で繰り返します。疼痛があればDN4やNRSも併用します。
確立された標準プロトコルはありません。臨床の目安は、1回10〜15分を週3〜5回、正答率が70〜80%になるよう難度を調整し、4週ごとに再評価する設定です(専門家合意)。
入浴時は温度を健側の手で確認し、皮膚の傷を毎日確認します。暗所は不安定さが増すため、照明を確保します。立位では、手すりなどに軽く触れる触覚キューが役立つ場合があります。
STROKE LABのプログラム。
退院後に、「手の感覚が戻らない」「どう練習すればいいかわからない」と悩む方は少なくありません。STROKE LABは、脳神経疾患や整形外科疾患のスペシャリストが、お悩みの解決をお手伝いする自費リハビリ施設です。詳しくはHPメニューをご覧ください。

— STROKE LABは、脳神経疾患・整形外科疾患のリハビリに対応します。
金子唯史が執筆する『脳の機能解剖とリハビリテーション』(医学書院)の内容を元に、具体的なトレーニングを提示しています。

— 同書の内容を元にした、具体的トレーニングの紹介です。
「左手をよく落とす方を担当しました。麻痺は軽いのに、視覚を遮ると触れた場所をほとんど答えられませんでした。そこで運動練習の前に、素材と部位を当てる課題から始め、正答率が7割前後になるよう素材差を調整しました。『握っている感じが出てきた』と言葉が変わり、まず感覚を測ってから運動を選ぶ大切さを学びました。」— STROKE LAB セラピスト(作業療法士・脳卒中の上肢・感覚リハビリ担当)
「立位でバーに触れると落ち着く、と話す方がいました。以前は転倒が心配で手すりを強く握らせていましたが、触れるだけの軽い接触に切り替え、開眼と閉眼で揺れを比べました。閉眼で揺れが増える条件を本人が実感でき、自主練習に前向きになりました。『力で支えない』触覚の使い方を学びました。」— STROKE LAB セラピスト(理学療法士・バランス・歩行担当)
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諦めないでください。

感覚が戻らない手は、動かせても「自分の手」と感じにくいものです。だからこそ、いま何が起きているのかを、一緒に確認することが大切だと考えています。
感覚は、適切な刺激と課題の積み重ねで、変わる可能性があります。私たちは、脳の仕組みにもとづき、いまの状態に合った練習を組み立てます。
退院後も、回復を諦める必要はありません。まずは無料相談で、いまのお悩みをお聞かせください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)
