足底内在筋と内側縦アーチの連動:歩行機能改善に向けたリハビリ戦略【2024年版論文サマリー】
論文を読む前に
丸山さん(新人療法士):
「金子先生、歩行中の足底内在筋と内側縦アーチの関係について、もう少し詳しく教えていただけませんか?私、患者さんの足部アーチが崩れているケースで、どこに着目すべきかまだ掴みきれていなくて……。」
金子先生(リハビリテーション医):
「いい質問ですね、丸山さん。それでは、足底内在筋と内側縦アーチの動的な関係について、論文を基に説明しましょう。」
足底内在筋の役割
金子先生:
「まず、足底内在筋は、歩行中に内側縦アーチの動的なサポートを行います。内側縦アーチというのは、足底の弾力性と安定性を提供する重要な構造であり、このアーチが正常に機能することで、歩行時に効果的な衝撃吸収と推進力を得ることができるんです。」
丸山さん:
「なるほど。足底内在筋は具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか?」
金子先生:
「足底内在筋は、主に2つの重要な役割があります。まず一つ目は、内側縦アーチをサポートしてその形状を維持すること。歩行時には、足が接地した瞬間にアーチが沈み込みますが、このとき内在筋が反射的に働き、アーチの崩れを防ぎます。これにより、足部の安定性が確保され、全身のバランスを保つことができます。」
丸山さん:
「足が接地したときにアーチが沈むのは自然な現象なんですね。でも、それが崩れすぎないように内在筋が調整しているということですか。」
足底内在筋と内側縦アーチの連動
金子先生:
「その通りです。そして二つ目の役割は、アーチが持ち上がるタイミングに合わせて筋力を発揮し、足底の張力を維持することです。歩行中、踵接地から足趾離床(トウオフ)までの一連の動きで、内側縦アーチは動的に変形します。この際、足底内在筋が適切に働かないと、アーチが適切に機能せず、歩行の推進力が弱くなってしまうんです。」
丸山さん:
「なるほど、つまり、内在筋が弱いとアーチが崩れて、足全体の機能が低下するということですね。」
金子先生:
「その通りです。特に、脳卒中患者では、足底内在筋の活動が低下することが多く、アーチの崩れや歩行時のバランス不全が見られます。こういった患者に対しては、足底内在筋を強化することで、内側縦アーチのサポート力を高めるリハビリが重要です。」
具体的なリハビリ介入の考え方
丸山さん:
「では、足底内在筋を強化するためには、どのような介入が効果的なんでしょうか?」
金子先生:
「具体的には、足趾の屈曲運動や足部のドームエクササイズが効果的です。これらのエクササイズにより、足底内在筋が鍛えられ、内側縦アーチの機能が向上します。また、感覚入力を意識させるために、足底に刺激を与えるインソールを使用することも、感覚のリハビリには有効です。」
丸山さん:
「なるほど!足底への刺激も重要なんですね。インソールを使うと、感覚フィードバックが増えることで筋肉の働きが促進されるんですか?」
金子先生:
「そうです。特に、足底の触覚と筋肉の反応は非常に密接に関係しています。インソールを用いたリハビリにより、足部の感覚フィードバックが増し、それに応じて内在筋が反応しやすくなるんです。これが、歩行の安定性やバランスを改善する一助になります。」
臨床応用のポイント
金子先生:
「丸山さん、ここまでの内容を基に、脳卒中患者における足底内在筋と内側縦アーチのリハビリをどう進めるか考えてみましょう。最も重要なのは、動的なサポートを重視することです。単に筋力を鍛えるだけでなく、機能的な動きの中で筋肉がどう働いているかを評価しながら、段階的に負荷をかけていくことが大切です。」
丸山さん:
「動的なサポートというのは、具体的にどのようなことを意味しますか?」
金子先生:
「例えば、歩行時の各ステージで内側縦アーチがどのように変形するか、それに応じて内在筋がどう反応するかを観察しながら、介入を行うということです。リハビリの中で、静的なエクササイズに加え、歩行時の動きを再現したトレーニングを取り入れていくことが重要です。」
結論
金子先生:
「最後にまとめますと、足底内在筋は内側縦アーチの動的なサポートに重要な役割を果たしています。脳卒中患者において、歩行時にアーチが適切に働かない場合、足部の機能が低下し、バランスや安定性が損なわれることがあります。したがって、足底内在筋を強化し、内側縦アーチの機能を回復させることが、歩行機能の改善につながるということです。」
丸山さん:
「とても勉強になりました。足部の機能を見落としがちでしたが、これからはしっかりと足底内在筋の重要性を意識してリハビリに取り組みたいと思います!」
金子先生:
「いいですね。これからもどんどん知識を深めていきましょう。」
論文内容
タイトル
●歩行時に足底内在筋は内側縦アーチを補助している!?歩行・ランニング時の足底内在筋の活動
●原著はActive regulation of longitudinal arch compression and recoil during walking and runningこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●足部から介入することが多々あるが、その際の足部内在筋の扱い方のイメージが不十分であったため、学習の一助として本論文に至る。
内 容
背景
●人間の足部の縦アーチ(LA)は、周期的に負荷がかかると、それに応じ圧縮および反動する。これは通常、受動的プロセスと考えられてきたが、足部内在筋がLAの制御を積極的にサポートする能力を持っていることが最近示された。アクティブなMTUの伸張は、外部から負荷をかけることで達成され、筋を強制的に伸ばします。この筋の働きは、機械的エネルギー(力)を吸収する働きをします。逆に、アクティブなMTU短縮(または収縮)は、機械的な力を生成します。
●ここでは、足部内在筋の母趾外転筋(AH)、短指屈筋(FDB)および足底方形筋(QP)が、足部の負荷に応じ歩行の立脚中に活動的に伸張または短縮するという仮説をテストした。
方法
●9名の参加者が1.25 m /sで歩行し、床反力計を備えたトレッドミルで2.78および3.89 m /sで走行した。足の運動学から決定される筋腱複合体(MTU)の長さ、および筋電図(EMG)信号は、ウォーキングおよびランニングの試行中に同時に収集され、筋はAH、FDBおよびQPから記録された。EMGの振幅のピークは、各歩行速度で各参加者の立脚中に測定された。
●9人の健康な男性(32±5歳の平均±標準偏差;身長:181±8 cm;体重:81±11 kg)が参加した。
結果
●すべての筋は、LAの圧縮中にゆっくりとアクティブに伸張されるプロセスを受けた。その後、推進期に反動で急速に短くなる様子が観察された。MTUの長さおよびピークEMGの変化は、すべての筋において歩行速度の増加とともに大幅に増加した。これは、足部内在筋が足底腱膜と並行して機能し、歩行中に遭遇する力の大きさに応じ足の硬さを能動的に調節するという、最初の生体内における証拠です。これらの筋肉は、足での力の吸収と生成に寄与し、足底腱膜への負担を制限し、効率的な足の接地力伝達を促進する。
論文の結果に対する考察と臨床アイデア
理論的背景
本論文の結果の理論的背景は以下のように考えられる。
足部内在筋と足底腱膜の協調機能:
足部内在筋は、足底腱膜と並行して機能し、足が歩行中に受ける負荷に応じて足部の剛性を調整します。これにより、足部の安定性と衝撃吸収が促進されます。この機能が弱まると、足底腱膜に過度の負荷がかかり、足底筋膜炎などの障害を引き起こす可能性があります。
筋機能の強化と負荷の分散:
-
- 足部内在筋は、歩行時の足の力の吸収と生成に重要な役割を果たしており、適切な筋機能を保つことで足底腱膜への負荷を軽減し、効率的な歩行が促進されます。
臨床応用の具体的アイデア
足底内在筋を促通し、内側縦アーチの機能を高めるリハビリを行う際には、以下のポイントに留意すると効果的です。
1. 足趾屈曲運動の強化
足趾の屈曲運動(グリップ運動)を強化することで、足底内在筋を直接的に鍛え、内側縦アーチのサポート力を向上させます。足の指を使ってタオルを掴むような運動や足趾の屈曲トレーニングを取り入れましょう。
タオルを引き寄せる(towel gather)トレーニングは外在筋群が優位に働きやすいため、内在筋を活性化させるうえでは慎重になる必要はあります。麻痙や短縮などの影響で内在筋群が機能不全に陥っている脳卒中患者の場合、まずは立位や重心移動のなかで足指が代償せずに支持できるような足部アーチの確保が重要です。
2. ドームエクササイズの導入
ドームエクササイズ(アーチを形成する運動)を取り入れることで、足底内在筋を意識的に活性化させ、内側縦アーチを安定させます。足を地面に置いたまま、足趾を引き寄せる動きでアーチを持ち上げる練習を行います。
3. 感覚フィードバックの活用
足底に感覚フィードバックを与えるために、凸凹した表面やバランスボード、インソールを使用し、筋肉の反応を引き出します。これにより、内在筋が反応しやすくなり、リハビリの効果が高まります。
4. 適切な靴の選定
リハビリ中も、アーチサポートを意識した靴やインソールを使用することが重要です。靴の形状やインソールがアーチを適切にサポートすることで、足底内在筋がより効果的に機能するよう促します。
5. 負荷の漸増
足底内在筋は小さな筋肉群であるため、段階的に負荷を増やすことが大切です。最初は軽い屈曲運動や抵抗のない状態でのトレーニングを行い、徐々に強度を上げていきます。
6. バランス練習の併用
内側縦アーチの安定性は全体のバランスにも関連しています。片足立ちやバランスボードでのトレーニングを行い、アーチと足底内在筋の連動を意識させます。動的なバランス練習は特に有効です。
7. 歩行トレーニングと連動
リハビリの中で、歩行中の内側縦アーチの動きを観察し、筋肉の反応を確認します。歩行時に足底内在筋が適切に働くようにするため、足の着地や体重移動の際の動作を修正しながらトレーニングします。
8. アーチの動的安定化を意識
静的なエクササイズだけでなく、動的な動きの中でアーチを安定させることを意識しましょう。ランニングやジャンプのような動作を加え、筋肉の反射的な活動を引き出すことで、内側縦アーチの動的安定化が図れます。
9. 足底の柔軟性確保
内側縦アーチの柔軟性を高めるために、足底筋や足趾のストレッチを取り入れます。筋肉や腱が硬くなると、アーチの動きが制限されるため、適度な柔軟性を保つことが重要です。
10. 足底筋膜のリリース
足底筋膜が硬くなると内側縦アーチが崩れやすくなります。足底筋膜のストレッチやマッサージ、ローラーを使用して筋膜の柔軟性を維持し、アーチの機能を改善します。
内在筋はダイナミックなバランス活動のなかでアクティブになる傾向があり、片脚立位や歩行時の足部のアーチや足趾の代償を確認しながら、足底からの感覚や床反力まで評価していく必要があります。
足底内在筋から歩行を変えるための知識
足底内在筋に関する知識を紹介します。これらの知識を活用することで、歩行機能の改善に役立つリハビリ介入が可能です。
足底内在筋は足部の基礎構造を支える
足底内在筋は内側縦アーチをサポートし、歩行時のバランスと安定性を維持します。これらの筋肉が弱くなるとアーチが崩れ、足部全体の構造が不安定になります。
足底内在筋は衝撃吸収に貢献
足底内在筋は足が接地した際にクッションのように機能し、地面からの衝撃を吸収します。これにより、歩行時の膝や腰など上肢への負担を軽減します。
内在筋の筋力低下は歩行時のエネルギー効率を低下させる
足底内在筋が弱いと、歩行時にエネルギーの消費が増加します。内在筋を強化することで、歩行が効率的になり、患者の疲労感を軽減することができます。
歩行中の足趾屈曲は内在筋の活性化に重要
足趾屈曲運動は足底内在筋を直接刺激します。特に地面を蹴る際の足趾の屈曲は、足底内在筋の強化につながります。これを意識したトレーニングは、歩行時の推進力を高めます。
足底内在筋は足趾の安定性を高める
足底内在筋は足趾の分離と安定性を提供します。足趾の運動が滑らかに行われることで、地面への接地が均等になり、歩行時のバランスを保ちやすくなります。
アーチサポートと足底内在筋の関連性
内側縦アーチは足部の安定性に不可欠です。足底内在筋が適切に働くことで、アーチの沈み込みが制限され、過度な崩れを防ぎます。特に歩行時にアーチが崩れると、足部全体のバイオメカニクスが乱れます。
インソールによる足底内在筋の刺激
適切なインソールを使用することで、足底内在筋への感覚刺激が強化され、筋肉の働きが改善されます。特に足部のアーチが崩れた患者にとっては、インソールが有効なリハビリツールとなります。
脳卒中後の足底内在筋の弱化は歩行能力に直結
脳卒中患者では足底内在筋の機能低下がよく見られ、それが歩行能力の低下につながります。足底内在筋を強化することで、歩行の安定性やバランスが改善されるため、早期介入が推奨されます。
足底内在筋は歩行速度と密接に関係
足底内在筋の強化により、歩行速度が向上することが報告されています。内在筋が歩行時に効果的に働くことで、歩幅が広がり、より安定したリズムで歩行できるようになります。
足底内在筋の強化は足部の疲労を軽減する
足底内在筋が弱いと、歩行時に足部が過度に疲れやすくなります。筋力強化により、足部が持続的に安定し、長時間の歩行でも疲労が軽減されます。
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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
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STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)