【2026年版】PASS(脳卒中姿勢評価スケール)とは?評価方法・カットオフ・臨床活用まで徹底解説
PASSの採点基準を、臨床判断に落とし込む。
脳卒中後の姿勢制御評価において、PASSは臥位から立位まで連続的に評価できる唯一の標準化ツールです。12項目・36点満点の採点基準を完全に理解することが、退院支援や転倒リスク管理の質を決定づけます。本記事では新人臨床家が迷いやすい採点の分岐点を丁寧に解説します。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
端座位で体幹が左に傾く患者さん。「少し支えれば座れる」のか「支えなしでは危険」なのか、担当セラピストとして初回評価でどう判断すればよいか迷うことはありませんか。
こうした場面でPASSの採点基準を正確に知っていることが、離床計画・転倒リスク管理・退院先の判断を支える根拠になります。
脳卒中後の姿勢障害は、急性期から亜急性期にかけて最も頻繁に遭遇する問題の一つです。体幹の非対称性や姿勢変換の困難さは、ADL自立度・転倒リスク・退院先選択に直結します。セラピストとして「今この患者さんのバランスはどのレベルにあるのか」を客観的に伝える手段が必要です。そこで登場するのがPASS(Postural Assessment Scale for Stroke)です。
PASSの定義と疫学。
PASS(Postural Assessment Scale for Stroke:脳卒中姿勢評価スケール)は、脳卒中後の姿勢制御能力を定量化するために開発された標準化評価尺度です。Benaim et al.(1999, Stroke)により信頼性・妥当性が検証されました。臥位・座位・立位の姿勢維持と姿勢変換の両側面を評価できる点が、脳卒中専門評価として他の尺度にない強みです。

【評価項目数】12項目(姿勢維持5項目+姿勢変換7項目)
【採点範囲】各項目0〜3点の4段階 / 合計0〜36点(高得点ほど良好)
【所要時間】約10分
【必要器具】高さ50cmの診察台・ストップウォッチ・鉛筆1本
【対象】脳卒中患者(急性期〜回復期。重篤例にも適用可能)
PASSの3つの特徴
BBSは立位重視ですが、PASSは臥位の側臥位変換から始まります。重篤な症例でも0点ではなく「どこまでできるか」を段階的に捉えられます。
「座っていることはできるが、座位から立位への移行が難しい」という臨床像を、スコアの内訳で定量化できます。介入計画の焦点を絞るために有用です。
PASSは急性期・回復期にわたって変化量を感知しやすく、リハビリ効果判定に適しています。Hsueh et al.(2013)の研究で個人レベルの反応性が確認されています。
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姿勢制御の神経メカニズム。
PASSの採点が「なぜそのスコアになるのか」を理解するには、姿勢制御の神経メカニズムを知ることが不可欠です。バランス(姿勢制御)とは、支持基底面(BOS:Body of Support)内で重心を維持する能力のことです。これを支えるのが次の3つの感覚システムです。

安定した固い路面:体性感覚70%・前庭系20%・視覚系10%
不安定な路面(泡ゴムなど):前庭系60%・視覚系30%・体性感覚10%。脳卒中後に体性感覚が障害されると、前庭系・視覚系への依存が高まります。しかし、視覚情報には150〜200msの時間遅延があり、不安定な状況への応答が遅くなります。
①体性感覚(Somatosensory)
脊髄-小脳路からの体性感覚情報は、無意識に処理されます。単シナプス経路では40〜50msという非常に速い速度で情報処理が行われ、通常の姿勢制御に最も大きく貢献します。脳卒中後に体性感覚が障害されると、このシステムへの依存が低下し、姿勢制御が大きく不安定になります。
②前庭系(Vestibular System)
前庭系は主に頭部の動きに対する代償反応を生成します。①前庭脊髄反射(体幹・下肢の伸展による転倒防止)、②前庭動眼反射(頭部運動中の視線安定化)、③前庭頸反射(頭頸部の安定化)の3種類の反射を介して姿勢制御に関与します。三半規管が頭部回転を、耳石器が頭部加速度を検出します。
③視覚系(Visual System)
視覚情報は150〜200msの処理時間を要するため、姿勢制御への寄与は補助的です。ただし、脳卒中後に体性感覚が低下した場合、視覚系への代償的依存が増大します。視覚障害のある成人は、前庭系・体性感覚・小脳系への適応的処理により、良好な姿勢制御を維持できる場合があります。
静的バランス(Static Balance):重心が支持基底面の上にあり、身体が静止した状態での姿勢の安定性(スタビリティ)と方向性(オリエンテーション)を維持する能力です。下肢・体幹の筋力、固有受容感覚、前庭迷路からの正常な信号、小脳虫部を中心とした調整機構が関与します。
動的バランス(Dynamic Balance):重心の垂直線を支持基底面の周りに移動させながら姿勢の安定性を維持する能力です。小脳と大脳基底核を含む中枢調整機構、随意的・不随意的な高次中枢活動が必要です。PASSの姿勢変換セクション(項目6〜12)は主に動的バランス能力を反映します。
類似評価尺度との鑑別。
バランス評価尺度は複数あります。PASSを選ぶべき場面と、他の尺度が適している場面を整理しておきましょう。適切な場面でPASSを選択することが、評価の信頼性を高めます。

| 比較項目 | PASS | BBS(Berg Balance Scale) |
|---|---|---|
| 項目数・満点 | 12項目・36点満点 | 14項目・56点満点 |
| 評価できる姿勢 | 臥位〜立位(全レベル) | 立位中心 |
| 適している対象 | 急性期〜回復期・重篤例 | 回復期〜在宅・軽度〜中等度 |
| 天井効果 | BBSより低い | 高い(軽症例で満点になりやすい) |
| 転倒リスクCutoff | 22点以下(Persson 2011) | 45点以下で転倒リスク増加 |
採点基準・完全ガイド。
PASSは2つのセクション(姿勢維持5項目+姿勢変換7項目)で構成され、合計12項目・0〜36点で評価します。以下で全項目の採点基準を完全に解説します。

【セクションA】姿勢維持(Maintaining a posture):項目1〜5
0点:座れない
1点:片手などのわずかなサポートがあれば座れる
2点:サポートなしで10秒以上座っていられる
3点:サポートなしで5分間座っていられる
0点:支えがあっても立てない
1点:2人の手厚いサポートがあれば立てる
2点:1人の適度なサポートがあれば立てる
3点:片手で支えながら立てる
0点:支えなしでは立てない
1点:支えなしで10秒間立てる、または片足に大きく荷重偏倚がある状態で立てる
2点:支えなしで1分間立てる、またはわずかな非対称姿位で立てる
3点:1分以上サポートなしで立て、かつ肩関節屈曲90度以上の挙上ができる
0点:その脚では片脚立位できない
1点:数秒間、片脚立位できる
2点:5秒以上、片脚立位できる
3点:10秒以上、片脚立位できる。麻痺側(項目5)でのスコアは介入効果判定の重要指標になります。
【セクションB】姿勢変換(Changing a posture):項目6〜12
実施環境:項目6〜12は高さ50cmの診察台で実施します。項目10〜12(座位→立位、立位→座位、鉛筆拾い)は支持物なしで行います。その他の制約はありません。
0点:その動作を行うことができない
1点:多くの助けを借りて動作ができる
2点:少しの助けで動作ができる
3点:誰の助けも借りずに動作ができる
| 項目番号 | 動作内容 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 項目6 | 背臥位→麻痺側を下にした側臥位 | 体幹回旋能力・麻痺側への荷重意識 |
| 項目7 | 背臥位→非麻痺側を下にした側臥位 | 寝返り能力(非麻痺側への代償) |
| 項目8 | 背臥位→端座位 | 離床の根幹動作。立位獲得の前提 |
| 項目9 | 端座位→背臥位 | 離床の逆方向。体幹の eccentric 制御 |
| 項目10 | 座位→立位(支持なし) | STS(Sit-to-Stand)能力。ADL自立の鍵 |
| 項目11 | 立位→座位(支持なし) | 離心性筋収縮の制御能力 |
| 項目12 | 立位のまま床の鉛筆を拾う(支持なし) | 立位動的バランス・転倒リスクの実際的評価 |
介入の段階とエビデンス。
PASSスコアに基づいて介入の段階を設定することで、過負荷・過小負荷のリスクを減らせます。以下の4フェーズを参考に、目標設定と介入を系統的に組み立てましょう。
目標:寝返り・背臥位から端座位への安定的遂行。体幹筋の賦活(1日2〜3回・20〜30分/回)。感覚入力の最大化(体性感覚・前庭刺激)。安全管理最優先で転倒ゼロを目指す。
目標:支持ありで立位保持1分間、STS動作の介助量軽減。課題指向型訓練を週5日・45分/日以上。立位バランス訓練で荷重対称性を高める。転倒リスクの定期的再評価(週1回PASS実施)。
目標:支持なしSTS・立位から床のもの拾い上げ。デュアルタスクを組み合わせた難易度漸増訓練。週5日・60分/日の集中訓練。歩行補助具の適合評価(PT中心)。
目標:地域環境での安全な活動参加。片脚立位10秒以上、鉛筆拾い自立。転倒予防プログラムへの移行。自主訓練計画の立案と家族指導。
Benaim et al. (1999, Stroke):PASSの原著検証。脳卒中患者74名を対象に信頼性(ICC=0.97)・妥当性を確認。PASS 28点以下でFIM歩行項目の自立が困難になる傾向を示しました。エビデンスレベル:RCT準拠の信頼性研究。
Hsueh et al. (2013, Phys Ther):SFPASS(短縮版5項目)とPASSの反応性を比較。両者は個人レベルで同等の反応性を示し、SFPASSが急性期スクリーニングに推奨されました。エビデンスレベル:コホート研究。
Peterka RJ (2002, J Neurophysiol):健常者18名を対象とした感覚統合研究。安定面vs.不安定面での体性感覚・前庭・視覚の依存割合を定量化し、姿勢制御の感覚重み付けモデルを提唱しました。エビデンスレベル:基礎実験研究(被引用数1,000超)。

脳卒中後のバランス障害は、適切な評価と段階的な訓練で多くの場合に改善が期待できます。STROKE LABでは、PASSなどの標準化評価を用いてお一人おひとりの現在地を把握した上で、個別最適化されたプログラムを提供しています。「どこに相談すればよいか分からない」という方も、まずはお気軽にご連絡ください。
多職種連携と環境調整。
PASSの結果を多職種でどう共有し、それぞれの専門性を活かすかが、介入効果を左右します。スコアを「共通言語」として使うことが重要です。
多職種の役割分担
| 職種 | PASSを踏まえた役割 | 具体的なアクション |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 主評価者・バランス訓練立案 | 定期的PASS実施・歩行補助具の適合・姿勢変換訓練 |
| OT(作業療法士) | ADL文脈でのバランス評価・応用訓練 | 食事・更衣・入浴動作でのバランス要求の評価・自助具選定 |
| 看護師 | ベッドサイドでの安全管理 | 夜間の転倒リスク観察・体位変換支援・PASSスコアに基づく観察頻度調整 |
| 医師 | 予後判断・退院支援 | PASSスコア推移をもとに退院先・転院先の判断材料に活用 |
| MSW(医療ソーシャルワーカー) | 在宅環境調整・福祉サービス調整 | PASSスコアを手すり設置・段差解消などの住環境整備の根拠として活用 |
環境調整のポイント
「PASSスコアが22点以下のうちは、ナースコールをベッドの健側に設置することを必ず看護師に伝えます。転倒が起きてからでは遅い。」
「項目10(STS)が1点以下の患者さんには、在宅退院前にトイレ動作での手すり位置を現地確認します。PASSのスコアを退院前カンファで共有するだけで、MSWへの説明がずっとスムーズになります。」
「体性感覚障害が強い患者さんには、訓練中に視覚フィードバックを意図的に活用します。鏡の前でのバランス訓練は、PASSスコアが低い段階から効果が出やすいです。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
PASSは構造化された評価尺度ですが、採点の判断が難しい場面があります。新人セラピストが陥りやすい3つの罠を先輩から後輩へ伝えます。
臨床判断の分岐点
「PASSの採点で迷ったら『その人が介助なしに、その動作を安全に繰り返せるか』という視点で判断するといいよ。一回できても毎回できないなら、それは3点ではなく2点です。」
「SFPASSを使うのは恥ずかしいことじゃない。急性期で時間がないときは積極的に使って。同等の反応性がエビデンスで示されているから。」
予後とゴール設定。
PASSの初回スコアは、機能回復の予後予測にも活用されています。以下の目安を参考にゴールを設定しましょう。ただし、あくまで統計的な傾向であり、個別の患者さんの回復ポテンシャルは多因子で決まります。
入院時PASS 28点以上:歩行自立・在宅退院が現実的な目標になります。退院前評価としてBBSを追加評価することを検討しましょう。
入院時PASS 15〜27点:歩行補助具を使用した歩行自立を目標に設定します。退院先として施設・在宅いずれも検討が必要です。PASSの週ごとの変化量が介入効果判定の指標になります。
入院時PASS 14点以下:姿勢変換の介助量軽減をまず目標にします。転倒リスク管理が最優先です。週2〜3回のPASS再評価で変化を丁寧に追いましょう。
よくある質問。
PASSの合計スコアは0〜36点の範囲です。12項目それぞれが0〜3点の4段階で評価され、満点の36点は全項目を介助なしで遂行できる状態を示します。
急性期では平均スコアが低く、回復とともに上昇します。週ごとの変化量をモニタリングすることで介入効果判定が可能です。
Persson et al.(2011)では、PASS 22点以下で転倒リスクが有意に上昇することが報告されています。
また、Benaim et al.(1999)の原著では、PASS 28点以下でFIMの歩行自立に困難が生じる可能性が示されています。臨床では22点と28点の2つのカットオフ値を意識して評価することが推奨されます。
BBSは14項目56点満点で立位バランスに重点を置き、地域在住高齢者や軽度〜中等度障害に適します。
PASSは12項目36点満点で臥位〜立位の姿勢維持と姿勢変換の両方を評価でき、急性期〜回復期の重篤な脳卒中患者に適用可能です。天井効果もBBSより低いため、脳卒中専門病棟での定期的な評価にはPASSが推奨されます。
PASSの実施時間は約10分です。特別な資格やトレーニングは不要ですが、転倒リスクへの安全管理の知識は必須です。
項目によって採点基準が異なるため、初めて使用する前にスコアシートを精読することを推奨します。より簡便な短縮版(SFPASS)も存在します。
SFPASS(Short-Form PASS)はPASSの12項目から5項目に短縮した評価尺度です。
Hsueh et al.(2013)の研究では、SFPASSはPASSと同等の個人レベルの反応性を示し、より効率的な評価が可能と報告されています。臨床時間が限られる急性期やスクリーニング場面での使用に適しています。
項目6〜12は高さ50cmの診察台(治療台)で実施します。項目10〜12(座位→立位、立位→座位、鉛筆拾い)は支持物なしで行います。
鉛筆1本と診察台、ストップウォッチがあれば実施可能で、特別な機器は不要です。安全確保のため、セラピストは常に患者の近くで見守る体制を整えてください。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳科学と徒手療法に特化した脳神経系専門の自費リハビリ施設です。脳卒中後のバランス障害・歩行障害・ADL障害に対して、PASSをはじめとした標準化評価を活用し、お一人おひとりの現在の機能レベルと目標に合ったプログラムを提供しています。

— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。
「PASSのスコアが低いことを、患者さんへの説明に使わないようにしています。スコアは私たちの介入計画のための数値。患者さんには『今こういう力があって、ここを目指しましょう』という前向きな言葉で伝えます。」— 理学療法士・臨床経験12年・急性期病院
「STROKE LABに来られる方の多くは、入院中に標準化評価をされたことがなく、自分の今の能力が分からないまま退院されています。PASSを初回に実施することで、患者さん自身が『自分の今地点』を理解してくれ、訓練への動機付けが変わる場面を何度も経験しています。」— 理学療法士・臨床経験8年・STROKE LABセラピスト
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諦めないでください。

脳卒中後のバランス障害は、多くの方にとって「どこまで回復するか分からない」という不安を生みます。しかし、PASSのようなエビデンスに基づいた評価を軸に、段階的な介入を続けることで、多くの患者さんが機能を回復されています。
「もう回復が止まった」と思われているご家族や患者さんほど、ぜひ一度ご相談ください。現状の丁寧な評価から始めます。
STROKE LABでは、初回無料相談を随時受け付けています。一緒に、回復への道筋を考えましょう。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)