【2022年版】姿勢制御とは?メカニズムからリハビリまで感覚入力 (安定性とオリエンテーション) 脳卒中/片麻痺

筋力や可動域は大切だと思うんですが、
バランスって定義がよくわかりません。
姿勢を制御するメカニズムをおしえてもらいたいです。

詳しく解説します!
目次
姿勢制御とは?
姿勢制御とは,人間の中枢神経系(CNS)が他のシステムからの感覚情報を調節して,適切な運動出力を生み出し,制御された直立姿勢を維持する方法を示す用語です。姿勢制御とバランスに関わる主な3つの感覚システムは、視覚、前庭、体性感覚です。
姿勢制御の2つの主な機能目標は、姿勢の安定性とオリエンテーションです (図1)。
姿勢の安定性 (Postural Stability):自分で起こした内部刺激(内乱)と外部から起こされた刺激(外乱)の両方において、身体の重心を安定させるための感覚運動戦略の調整といえます。
姿勢のオリエンテーション(Postural Orientation):重力、支持面、視覚環境、および内部参照に対する身体のアライメントと筋緊張を制御します。
図1 図引用:金子 唯史:脳卒中の動作分析 医学書院より
適切な姿勢制御とは、座る、立つ、膝をつく、四つん這いになる、這う、歩く、走るなどの様々な静的・動的活動を行う際に、正中線保持に必要な筋収縮を生み出せる能力です。
加えて、位置や動きの変化に応じて、代償動作を使わずに小さな調整を行う能力を持つことです。
上記の3つのシステムのうち、1つでも本来の働きが不十分な場合、姿勢制御やバランスに影響を及ぼします。
しかし、1つのシステムが影響を受けても、他の2つのシステムを訓練して代償することができます。
もし、複数のシステムが影響を受け、さらにCNSが関与している場合、姿勢制御はより大きな影響を受けます。
例えば、脳卒中患者の場合、発症部位において、体性感覚システムに加え、注意障害や無視、半盲などの影響を受けると、歩行の自立が難しくなる場合です。
姿勢制御には、頸反射(CCR)、前庭眼球反射(VOR)、前庭脊髄反射(VSR)として知られる重要な反射があり、前庭核や小脳と連携して働きます。
このように、視覚、前庭、体性感覚の3つのバランスシステムは、姿勢制御に密接に関連しています。
視覚システム
視覚システムは、姿勢のバランスを維持するための感覚情報の主要なシステムであり、そのため、視覚環境の改善によって姿勢の安定性が向上します。
眼球運動には、頭部が動いたり、動いているように見えるときに眼球を安定させるもの(視線安定化)と、視覚対象が変化・移動したときに視覚対象の網膜像を眼球の焦点に合わせ続けるもの(視線移動)の2つの機能分類があります。
視線の安定化
頭部の移動時には、前庭-眼球系と視運動系という2つの視線安定化システムが作動します。
視線安定化を効果的に行うには、両眼が同じ方向に動く共同運動が必要です。
視線移動
3つの視線移動システムは、画像を焦点に合わせるために機能します。
①追従眼球運動は、自発的で滑らかな連続した共同の眼球運動であり、速度と軌道は移動する視覚標的によって決定されます。
②輻輳は、視覚標的からの距離の変化を調整するために両目の間の角度を変えます。
遠くのものから近くのものに視線を移すときには、両眼の焦点に対象物の像が合うように、眼球を輻輳させます(鼻側に向けます)。
③サッケードとは、眼球を対象物に向けるための、あらかじめ決められた軌道に沿った、短く、速い、弾道のような動きのことです。眼球運動は、関心のある対象物を視界に入れるために開始されます。
前庭系
前庭系は、患者が傾斜面に立ったり、でこぼこの路に立ったり、目を閉じた状態で立ったりするなど、さまざまな感覚環境下で、感覚の方向性と適切な感覚の手がかりの重み付けを用いて、体幹を垂直に向けます。感覚の重みづけの記事は↓↓↓
また、患者が立ったり歩いたりするような姿勢反応を介して、静的および動的な位置における身体の重心(COM)を制御し、患者が傾いたりするような姿勢運動の際に頭部を安定させます。
図2 引用:金子 唯史:脳卒中の動作分析 医学書院より
前庭系と視覚システムが相互に脳内で調整されることで、寝返りや起き上がりなど、複雑な頭頚部と体幹、四肢の協調運動が成立します(図2)

動画で学ぶ!前庭系への歩行・寝返りへの理解
体性感覚(特に固有受容感覚)
体性感覚システムは、感覚ニューロンと経路からなる複雑なシステムで、身体の表面や内部の変化に反応します。
また、身体の位置に関する情報を脳に伝え、脳が適切な運動反応や動作を起こすことで、姿勢のバランスを保つことにも関与しています。
体性感覚は、以下のサブモダリティを含む包括的な感覚です。
温覚
痛み
バランス
メカノレセプション(振動、識別用の触覚、圧力)
固有受容感覚感覚(位置と動きなど)
これらの感覚を総合することで、私たちは、怪我の可能性を最小限に抑えながら、動きを誘導することで、日常生活動作(ADL)に参加することができます。
体性感覚は複合的な感覚カテゴリーであり、体性感覚皮質と頭頂葉後部領域によって部分的に媒介されています。
これらの皮質は、周囲の環境の触覚的特徴を識別し、感覚に関する意味を生み出し、感覚に関連した身体的行動を形成する能力を支えています。
これらの様々な感覚は、環境と相互作用するための基盤として、身体的側面のボディースキーマ(body schema)に貢献します。
ボディースキーマは、特に運動前皮質、頭頂葉後部領域、被殻などの多感覚皮質および皮質下領域に依存しています。
また、感覚の体験は、体性感覚入力のより複雑な統合を伴うことが多く、感情や社会的文脈にも影響される可能性があることにも注意が必要です。
ある研究では、運動感覚、触覚、立体認識などの体性感覚の構成要素が、特に糖尿病の高齢者では加齢の結果として影響を受けることが報告されており、加齢に伴う変化がこのシステムに影響を与える可能性があります。
機械受容器【メカノレセプター】は、筋紡錘にある特定の感覚受容器です。筋紡錘は,筋肉の長さや収縮速度などの情報を神経系に提供し,個人の関節運動や位置感覚の識別に貢献しています。
メカノレセプターに関する記事は↓↓↓
また,筋紡錘は,適切な反射や随意運動に変換可能な求心性フィードバックを提供します.
筋紡錘の機械受容器は頸部の後頭下筋群に非常に多く存在し、中枢神経系との間で情報を送受信する役割を担っています。
後頭部からC3(特に上部頸椎の筋肉)までの機械受容器の信号は、視覚と首の動きを調整する反射センターである前庭核(VNC)に直接アクセスします。
また、この同じ機械受容器の入力は、中枢部の頸部核(CCN)にも収束します。
CCNは、前庭、眼球、自己受容情報を統合する小脳への実質的な経路であり、前庭核(VNC)も中枢部の頸部核(CCN)に接続しているため(図3)、すべてのシステムの間には相互に関連する経路があります。
一言で言えば、上部頸椎からの機械受容器の入力は、効果的な姿勢制御のために、視覚、バランス、頸部の動きを調整するのに役立ちます。
図3 引用:金子 唯史:脳卒中の動作分析 医学書院より
上部頸椎にはより多くの筋紡錘があり、視覚系や前庭系との関連性が高く、反射活動が活発であるため、下部頸椎よりも上部頸椎に損傷やむち打ち症があると、より多くの感覚運動機能障害が発生します。
その他で姿勢制御のオリエンテーションと安定性に関連する論文を紹介します。
タイトル
姿勢の定位(オリエンテーション)と平衡(安定性):転倒予防のためにバランスの神経コントロールについて何を知るべきか?
Postural orientation and equilibrium: what do we need to know about neural control of balance to prevent falls?
?Pubmed Horak FB Age Ageing. 2006 Sep;35 Suppl 2:ii7-ii11.
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・姿勢制御に興味があり、姿勢制御にどんなサブシステムがあるか知りたいと思ったため。
内 容
バランスの評価と介入における姿勢制御の考え方
・バランスの評価をする際、立位が取れる、タンデム肢位が取れると動作の可否のみ着目していないだろうか?姿勢保持ができない場合、ただその姿勢を反復するのではなく、姿勢制御のサブシステムを基に、原因に着目しアプローチできているだろうか?
・姿勢制御の目的は姿勢のオリエンテーションと安定性である。
・姿勢のオリエンテーションとは重力、支持面、視覚環境、内部表象によって動的に身体アライメントと筋緊張をコントロールすることである。
・また、姿勢の安定性とは内的もしくは外的な力からCOMを安定させるための感覚運動戦略の協調を意味する。
・高齢者は感覚障害、筋力低下、整形外科的問題、認知症などでバランス障害を呈することがあるが、その他の戦略で補うこともできる。
また、ニュロパチーを持つ患者は視覚で代償することで日常生活を送れるが、夜は視覚情報をうまく使えずバランス障害が顕著になる場合がある。
これらのことから、バランス障害は課題に応じてどの戦略を使うのか、使えるのかが重要であり、課題依存的であると言える。
・バランス能力を評価する場合は、以下の6つのサブシステムを理解することが重要である。
図1:6つのサブシステム
Horak (2006) より引用
バイオメカニクス的制限・運動戦略
・支持基底面の大きさが重要であり、その基底面上にCOMをコントロールすることができるかが、最も大事。
・COMを維持するために足関節戦略、股関節戦略、ステッピング戦略どれを使うのか?
・安定性限界はどれくらいの大きさなのか?足関節制御では安定性限界は比較的大きいと判断できる。狭い場合は股関節・ステッピング戦略が生じる。
・足関節制御ができない場合は、可動域・筋力・感覚どこに問題があるのか?
・また、中枢からの影響はないのか?中枢は内部表象として安定性限界を把握しているのか?
・基底核障害のパーキンソン病などは安定性限界の把握や予測的姿勢制御に不備が生じるため、姿勢不良やバランス障害を呈する。
感覚戦略
・明るい環境下でしっかりとした支持面があれば、健常成人は体性感覚に70%、視覚に10%、平衡覚に20%依存する。
・しかし、不安定面上で立つならば、前庭覚と視覚に重きが置かれる。
・中枢にて自動的に3つの経路を使い分けている。どれかが障害されればバランス能力は低下することになる。
・中枢の障害として、アルツハイマー型認知症では3つの戦略の切り替えが素早くできないといった症状を呈する。
空間での定位
・重力、支持面、視覚情報、内部表象から身体部位を位置づける能力は姿勢制御に必要である。
・身体の垂直性は視覚、体性感覚、平衡覚のどれに依存しているかが重要であり、状況と課題によって使い分ける必要性がある。健常者であれば神経系によって自動的にコントロールされている。
動的コントロール
・動的な場面ではCOMは支持面の直上に位置しない
・歩行において矢状面上のCOMの前方落下は下肢の振り出しにより制御されるが、前額面上の安定性は体幹と足部接地位置のコントロールによって成される。
・転倒しやすい高齢者では外側へのCOMの変位が大きく、足部接地位置も不安定となる
認知過程
・認知機能は姿勢制御において重要である。
・より難しい姿勢では反応時間と認知機能の低下が認められており、両者の関係性を示唆している。
私見・明日への臨床アイデア
sway(重心動揺)の評価は姿勢の平衡をみていると解釈でき、例えば重心が右方へ大きく動くならば、
①重心の右方変位を感知できない→足部の圧覚や筋紡錘(体性感覚)の低下
②感知できても修正するに十分な筋収縮が得られない、収縮が遅いなどが問題として挙げられるのではないだろうか。
・静的姿勢の崩れ(COMの上下左右の偏位)は姿勢の定位の異常であり、①感覚情報や内部表象の異常②特定の筋の抗重力活動の低下が原因なのではないか。
・対象者のどのシステムが障害されているのか、ひとりひとり丁寧に評価していきたい。また、どんな状況でバランス障害を呈するのかを考え、その場に適切な代償戦略を見つけていきたい。
まとめ
前庭系、体性感覚系、視覚系はそれぞれ単独で機能しているわけではなく、複雑な姿勢制御システムであり、バランスをとるために協働しています。
姿勢の安定は、上部頸椎、視覚、前庭間の良好な感覚運動統合によって起こります。
姿勢制御不全は、感覚のミスマッチがある場合に起こります。言い換えれば、中枢神経系はこれらのシステムの1つ以上からの正確な感覚情報と不正確な感覚情報を区別することができず、その結果、めまい/不安定感/バランス不良の感覚が生じ、感覚入力の予測タイミングが乱れます。
これらの患者は、頭痛、めまい、視界のぼやけ、眼精疲労、バランスの問題を訴えることが多いです。このような患者は、読書が困難になることが多く(水平方向の障害)、ノートを取るときにボードを見上げたり、机を見下ろしたりすると頭痛やめまいがします(垂直方向の障害)。
このような患者は、バランスの欠如を補おうとするために筋の活動が活発になり、首が痛くなることもあります。また、ボールなどの目標物に向かって走っているときにも症状が出ることがあります。
また、慣れない街で車を運転しているときや、トンネルの中で車を運転しているとき、食料品店の通路でカートを押しているときなどに、方向感覚の喪失や圧倒されるような感覚を訴える患者もいます。
運転機能の評価は視野だけでなく、順応や適応も評価しなければなりません。
脳卒中患者においてシルバーカーや歩行器を活用する際は、注意深く姿勢制御を観察する必要があります。他にも書字や読書課題などで、眼精疲労を訴える脳卒中患者もおり、注視作業への疲労管理は重要といえます。
バランス評価に役立つ動画
ミニベステスト
バーグバランススケール
トランクインペアメントスケール
参考論文
・Alcock L et al :Association between somatosensory, visual and vestibular contributions to postural control, reactive balance capacity and healthy ageing in older women. Health care for women international. 2018 Dec
・金子唯史:脳卒中の動作分析 医学書院 2018
・Horak, F.B.: Postural orientation and equilibrium: What do we need to know About neural control of balance to prevent falls? Age and Ageing, 2016
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 4万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018)