【2026年版】脳卒中患者の歩行改善!効率的な股関節伸筋トレーニングとそのメカニズムを徹底解説
股関節伸展筋の機能不全が、歩行推進力を奪う理由。
大殿筋・ハムストリングスの筋力低下は、起立動作・歩行速度・バランスの3領域に同時に影響します。評価から段階的トレーニングまで、臨床現場で迷わないための実践ガイドです。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
65歳男性。脳梗塞(右被殻)発症後3ヶ月、回復期から生活期への移行段階。Brunnstrom Stage下肢IV、FIM運動項目の歩行は3点(中等度介助)。主訴は「歩くとすぐ疲れて休みたくなる」「外出が怖い」。
初回評価所見:歩行観察で立脚後期の股関節伸展可動域低下と骨盤後傾増強を確認。麻痺側股関節伸展筋MMT3、5回立ち上がりテスト18.2秒、10m歩行テスト0.42m/s。非麻痺側への過剰な荷重移動も観察された。
新人療法士がこのケースに出会ったとき、まず「どこが原因か」を一つに絞り込もうとしがちです。しかし股関節伸展筋の機能不全は、神経学的要因とバイオメカニクス的要因が重なって生じます。本記事では評価から介入まで、臨床判断の道筋を順に整理します。
定義と疫学。
股関節伸展筋とは主に大殿筋とハムストリングス(半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋)を指し、立ち上がりや歩行など基本動作の土台を担う筋群です。脳卒中後は片麻痺により、これらの筋に筋力低下と筋活動の協調性低下が高頻度で生じます[専門家合意]。

股関節伸展筋は単一動作ではなく、起立・歩行・立位バランスという臨床上の主要評価項目すべてに関与します。1つの筋力低下が複数の機能低下として現れる点が、新人療法士が見落としやすいポイントです。
動作への波及経路
股関節伸展筋が弱いと座位から立位への移行時に十分な力を発揮できず、上肢への代償依存が強まります。
股関節伸展筋は立脚後期(プッシュオフ)の推進力に関与し、筋力低下は歩行速度・効率の低下を招きます。
股関節伸展筋は体幹安定性の維持にも関与するため、弱化は重心コントロール能力の低下に直結します。
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STROKE LABでは保険の枠を超え、一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドのリハビリプランをご用意しています。神経疾患に精通したスタッフが集中的にサポートします。
神経メカニズム・責任病巣。
股関節伸展筋の機能障害は皮質脊髄路の損傷が主要因とされます。運動皮質や皮質脊髄路の損傷により運動指令の伝達効率が低下し、麻痺側の筋力発揮が妨げられます。下肢近位筋群、特に股関節筋群でこの傾向が強く現れることが報告されています[専門家合意]。
バイオメカニクス的視点
股関節伸展筋は骨盤と下肢のアライメントを保つ役割を担います。歩行中に適切に働かないと骨盤が過度に後傾し、歩行効率が低下します。さらに筋活動不足により膝が過伸展しやすくなり、関節への負担が増大します。立ち上がり動作では足底の床反力を全身へ伝達するために股関節伸展筋が不可欠です。
Veerbeek JM, et al. PLoS One. 2014[SR/MA]:脳卒中後理学療法に関する系統的レビュー・メタ分析。課題志向型・反復練習を含む介入が運動機能・歩行能力の改善に有効であり、神経筋促通技術単独より反復練習を組み込んだプログラムが推奨されている。
鑑別診断。
「股関節が伸びていない」歩行パターンは脳卒中片麻痺特有のものとは限りません。整形外科的疾患や末梢神経障害でも類似した所見が出るため、責任病態を見誤らないよう鑑別の視点を持つことが重要です。
| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 変形性股関節症 | 立脚後期の股関節伸展制限 | 片麻痺所見なし、関節可動域の他動制限・疼痛を伴う | 単純X線、Thomasテスト |
| L5-S1神経根症 | 片側性の股関節伸展筋力低下 | 感覚障害が皮膚分節に一致、深部腱反射の左右差 | SLRテスト、腰椎MRI |
| 廃用性筋力低下 | 起立・歩行困難、筋力低下 | 両側性かつ全身性、長期臥床歴の有無 | MMT全身評価、ADL聴取 |
| パーキンソン病 | 前傾姿勢、歩幅減少 | すくみ足・小刻み歩行、安静時振戦の有無 | UPDRS、神経内科診察 |
評価尺度と採点基準。
股関節伸展筋の機能不全は、筋力単独でなく動作レベルの指標と組み合わせて評価します。以下の4指標は脳卒中リハビリ領域で広く検証されています。
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 5回立ち上がりテスト | 椅子から5回連続起立にかかる時間(秒)を計測 | 12秒以上で転倒リスク増大 | 下肢筋力と動作の素早さを反映 |
| 10m歩行テスト | 快適歩行速度(m/s)を計測 | MCID 0.16m/s(発症60日以内) | 地域歩行自立の目安は概ね0.8m/s以上 |
| Berg Balance Scale | 14項目、各0〜4点の5段階評価(満点56点) | 45点未満で転倒リスク増大 | 静的・動的バランス能力を総合的に反映 |
| Brunnstrom Stage(下肢) | 共同運動から分離運動への回復過程をI〜VIで段階評価 | IV以上で分離運動の一部出現 | 運動麻痺の重症度分類として広く使用 |
Tilson JK, et al. Phys Ther. 2010[単独RCT]:発症60日以内の脳卒中患者408名を対象とし、10m歩行テストの臨床的に意味のある最小変化量(MCID)は0.16m/sと報告された。歩行速度に基づく目標設定の根拠として活用できる。
Berg K, et al. Can J Public Health. 1992[観察研究]:BBSの開発・検証論文。検者間信頼性は高い(ICC>0.9)ことが報告されている。脳卒中患者特有のMCIDについては別途文献確認が望ましい。
介入のエビデンス。
股関節伸展筋トレーニングは、非荷重位から荷重位へ段階的に進行させます。各段階でパラメータ(回数・セット・頻度)を明確にし、代償動作の有無を毎回確認してください。
安定した仰臥位・側臥位を確保し、PNF(固有受容性神経筋促通法)を用いて大殿筋の筋活動を引き出します。レジスタンスをかけながら促通を行います。
仰臥位ヒップブリッジ(膝90度屈曲位で骨盤挙上)を10回×2セットから開始。骨盤の歪みや非麻痺側の過剰な代償動作を防ぐため、正しいフォームを優先します。
平行棒を使用した部分免荷スクワット(10回×3セット)とステップ動作訓練に移行します。麻痺側膝関節の過伸展がないよう常時モニタリングします。
片脚立位保持(20秒×3セット)、前後・左右方向のランジ、負荷を加えた歩行訓練へ進め、実用歩行への汎化を図ります。
Park BS. J Phys Ther Sci. 2015[単独RCT]:脳卒中者15名を対象に、股関節伸展・骨盤後傾運動、両下肢伸展回旋運動、セラピーボールを用いた股関節骨盤運動、側臥位/腹臥位での股関節伸筋力トレーニングの5種目を週3回・4週間実施。10m歩行テスト、BBS、歩行速度、麻痺側立脚時間、歩行対称性(symmetry index)を計測した結果、歩行速度・麻痺側立脚期・対称性が介入前後で有意に改善した。
骨盤運動の併用により腹圧上昇や体幹・股関節の選択的運動が促進されたと考えられ、股関節伸展筋トレーニング単独よりも骨盤コントロール運動を組み合わせる設計が支持される。
「ヒップブリッジは“骨盤を持ち上げる”だけの運動に見えますが、骨盤後傾と腹圧の関係を意識させると介入の質が変わります。」
「フォームが崩れた状態で回数を増やしても、代償動作を強化するだけです。回数より質を優先しましょう。」

発症から時間が経過していても、適切な負荷設定とトレーニング継続によって機能的な改善が見込めるケースは数多くあります。STROKE LABでは最新のエビデンスに基づき、お一人おひとりに合わせたプログラムを構築します。
多職種連携と環境調整。
股関節伸展筋機能不全は単一職種で完結しない
股関節伸展筋トレーニングの効果を生活へ汎化させるには、評価情報の共有と役割分担が不可欠です。新人療法士は「自分の担当範囲」だけに視野が狭まりがちなので、他職種が見ている指標を意識しましょう。
「看護師からの夜間の転倒ヒヤリハット情報は、日中のリハビリだけでは見えないバランス能力の変動を教えてくれます。カンファレンス前に一度確認しておくと評価の精度が上がります。」
| 職種 | 主な評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 股関節伸展筋MMT、歩行速度、BBS | 段階的筋力強化、歩行訓練 | OTへ起立・移乗時の代償動作情報を共有 |
| OT | ADL場面での起立・移乗動作 | トイレ動作・更衣動作への汎化訓練 | PTの訓練で習得した動作パターンを生活場面で再現 |
| ST | 高次脳機能、注意機能、嚥下機能 | 注意障害への配慮を含む動作指導の補完 | 注意機能低下時の歩行指導における声かけ方法を統一 |
| 看護師 | 日常生活での転倒リスク、夜間の活動状況 | 病棟内移動の見守り、環境調整 | 転倒ヒヤリハット情報をPTへ即時共有 |
| 医師 | 画像所見、全身状態、合併症 | 負荷量の医学的許容範囲の判断 | 荷重訓練開始基準を事前にPTと擦り合わせ |
| MSW | 退院後の生活環境、家族の介護力 | 住宅改修・介護サービス調整 | 退院時の実用歩行レベルをPTから事前共有 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
股関節伸展筋トレーニングは「やればやるほど良い」わけではありません。新人療法士が陥りやすい失敗パターンを知っておくことで、回り道を減らせます。
回数を増やす前に、フォームを疑う
「効果が出ないとき、新人はすぐ回数を増やそうとします。でも先に確認すべきは骨盤の動きと非麻痺側の代償です。原因を一つずつ消していく順番が臨床推論の基本です。」
予後とゴール設定。
「発症から時間が経ったから、もう改善しない」という思い込みは禁物です。発症6ヶ月以降でも機能改善が報告されており、ゴール設定はこの前提に立って行います。
Hatemら(2016)のシステマティックレビュー[SR/MA]では、発症6ヶ月以降でも上肢運動機能評価(FMA・ARAT)が有意に改善する技術が多岐に存在することが示されています。下肢機能においても、継続的な負荷設定により自然回復曲線の頭打ちを押し上げられる可能性があります。また、David FJら(2015)のRCT[単独RCT](パーキンソン病患者48名、24ヶ月)では、運動負荷の継続が注意機能・ワーキングメモリの改善にも寄与することが報告されており、運動と認知の相互作用も考慮したゴール設定が望まれます。
よくある質問。
MMT3は重力に抗して関節可動域を動かせるレベルであり、非荷重位での自動運動が安全に行えます。荷重位への移行は5回立ち上がりテストや片脚立位保持時間など機能的指標を併用し、膝関節の過伸展や代償動作の有無を確認しながら段階的に進めます。単独の筋力値だけで荷重訓練の可否を判断しないことが重要です。
Park(2015)のプロトコルでは週3回・4週間の介入で歩行速度と対称性に有意な改善が報告されています。臨床では初期段階として10回×2セットから開始し、フォームが崩れない範囲で頻度・負荷を漸増させます。疲労による代償動作の出現を毎回確認してください。
立脚後期(プッシュオフ)で骨盤前傾や腰椎過伸展が観察される場合、大殿筋の収縮タイミングの遅延を疑います。歩行観察に加え、触診で立脚後期の収縮開始タイミングを確認し、リズムトレーニングやメトロノームを用いた促通で改善を図ります。
非麻痺側の股関節伸展筋が過用されると骨盤の歪みや腰痛などの二次障害につながります。鏡やビデオによる視覚フィードバックを用いて麻痺側への意識的な荷重を促し、非麻痺側のトレーニング量を一時的に制限するプログラム設計が有効です。
Hatemら(2016)のシステマティックレビューでは発症6ヶ月以降でも運動機能評価スコアの有意な改善が報告されています。自然回復曲線が頭打ちになった後も、適切な負荷設定とトレーニング継続によって機能的な改善が期待できます。
両者は測定する側面が異なるため併用が望ましいです。5回立ち上がりテストは下肢筋力と動作の素早さを、BBSは静的・動的バランス能力全般を反映します。股関節伸展筋トレーニングの効果判定には両指標を初回・再評価時にセットで記録することを推奨します。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中・パーキンソン病・脊髄損傷など神経疾患のリハビリに精通したスタッフが在籍する自費リハビリ施設です。保険の枠にとらわれず、お一人おひとりに合わせたオーダーメイドのプログラムをご提供しています。

— 利用者様の変化を撮影した動画でリアルな経過をご覧いただけます
「発症8ヶ月の利用者様で、股関節伸展筋MMT2、歩行は施設内のみという方を担当しました。当初は電気刺激と荷重訓練を併用しようと考えましたが、まず非荷重位でのPNF促通とヒップブリッジに絞り、骨盤の動きを丁寧に評価することに専念しました。3ヶ月後、10m歩行テストが0.3m/sから0.55m/sまで改善し、屋外歩行が可能になりました。回数を増やす前に質を見極める大切さを学んだ症例です。」— 理学療法士・経験8年・脳卒中リハビリ専門
「非麻痺側の過剰使用が著しい利用者様を担当した際、最初は単純に麻痺側の筋トレを増やそうとしました。しかし鏡を使った視覚フィードバックを導入したところ、ご本人が自分の代償動作に気づき、麻痺側への荷重意識が大きく変わりました。介入手技そのものより、気づきを引き出す工夫の重要性を実感しました。」— 作業療法士・経験6年・神経疾患リハビリ専門
諦めないでください。

脳卒中後のリハビリは、保険診療の期間内で終わるものではありません。発症から半年、1年と経過していても、適切なアプローチによって機能が改善する症例を、私たちは数多く見てきました。
股関節伸展筋の機能回復は、「歩ける」という自信を取り戻すための重要な一歩です。一人で悩まず、専門家にご相談ください。
STROKE LABは、東京(御茶ノ水)・大阪の2拠点と訪問・オンラインのハイブリッド体制で、全国の利用者様をサポートしています。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)