【2026年版】多裂筋の浅層と深層の役割の違いとは?上肢挙上時の活動特性から体幹安定化メカニズムを解説
深層多裂筋は、なぜ運動の方向に左右されないのか。
腰部多裂筋には深層と浅層があり、その役割は根本的に異なります。深層線維は椎間の分節間制御を方向非依存で担い、浅層線維は脊椎の向き(方向)制御を担います。この違いを理解することが、効果的なコア安定化訓練の出発点です。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
脳梗塞後のAさん(60代・男性)は座位での上肢リーチ動作時に著しく体幹が傾きます。担当PTは腹筋群の強化運動を処方しましたが、なかなか改善が見られません。
この状況を見た先輩OTからひとこと:「浅層の強化だけでは分節制御は変わらない。深層多裂筋の特性を理解して介入しよう。」
臨床で「体幹が不安定な患者さん」に出会ったとき、あなたはどの筋に着目しますか。多くの新人セラピストは腹直筋や脊柱起立筋を思い浮かべます。しかし腰椎安定性の核心にある筋は、より深部にある多裂筋です。
多裂筋(Multifidus:複数の椎骨をまたいで走行する後方体幹筋)は、腰椎安定に不可欠な筋です。しかし「多裂筋」とひとくくりにしてしまうと、深層・浅層の役割の違いを見落としてしまいます。この違いを知ることが、コア安定化介入の精度を大きく高めます。
多裂筋の解剖と疫学。
腰部多裂筋(Lumbar Multifidus)は脊椎後方の最内層に位置する筋です。椎骨の棘突起から起始し、2〜4椎骨を越えて下方の乳頭突起・横突起・仙骨に停止します。その解剖学的特徴から、深層と浅層でまったく異なる機能を持ちます。
①多裂筋は腰椎の最内側後方に存在し、腰椎関節の回転中心に最も近い筋です。この位置関係が、深層・浅層それぞれの機能を決定します。
②浅層線維は3〜4椎間にわたるため、より広い範囲の姿勢制御(脊椎の向き)を担うのに適した構造です。
③深層線維は1〜2椎間にとどまるため、椎間の微細な分節制御に特化しています。腹横筋との協調関係もこの特性と関連します。
腰痛・体幹機能障害の疫学的背景
腰痛は生涯有病率が80〜85%ともいわれる極めて一般的な問題です(van Tulder MW et al., 2006)。そのうち、深層多裂筋の萎縮や活動遅延が関与する「非特異的腰痛」が大多数を占めます。
脳卒中後は麻痺側の深層体幹筋活動が著しく低下することが知られており、体幹の非対称性・不安定性の原因となります(Dickstein R et al., 2004)。コアの安定性を理解することは脳卒中リハビリの基盤です。
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深層・浅層の神経生理学的メカニズム。
深層多裂筋は「どの方向に腕を動かしても活動する」局所安定筋です。浅層多裂筋は「動く方向によって活動が変わる」全体安定筋です。この違いは腰椎関節の回転中心との距離と、それぞれの筋の走行角度に起因します。
Moseley らの研究知見(2002年)
Moseley GL らは、健常者における単回および反復上肢運動中の深層・浅層多裂筋、腹横筋、脊柱起立筋、三角筋の筋電図(EMG)活動を詳細に記録しました(Spine, 2002)。
研究デザイン:健常成人を対象に、単回・反復上肢運動中(屈曲・伸展)の各筋の筋電図開始潜時と活動パターンを比較解析。
主要結果①:片側上肢運動において、三角筋に対し脊柱起立筋と浅層多裂筋の筋電図は運動方向に依存して変化した。一方、深層多裂筋と腹横筋は運動方向に依存しない活動パターンを示した。
主要結果②:反復上肢運動では、浅層多裂筋と脊柱起立筋の筋電図ピークは屈曲時のみ発生したが、深層多裂筋の筋電図ピークは屈曲・伸展の両方向で発生した。
結論:データは「浅層多裂筋=脊椎の向き制御、深層多裂筋=分節間制御」という仮説を強く支持する。エビデンスレベル:観察研究(レベルIV)
この知見の臨床的含意は大きいです。深層多裂筋を活性化するには、上肢運動の方向を屈曲・伸展の両方に設定した訓練が必要です。一方向のみの反復では浅層・起立筋は強化されても、深層の分節制御能力は向上しにくい可能性があります。
腹横筋との協調関係と予測的姿勢調整
腹横筋(Transversus Abdominis:腹部の最深層に位置する筋)も深層多裂筋と同様に、上肢運動方向に依存しない活動パターンを示します。この2つの筋は機能的に連動しており、四肢運動に先行して活性化する「予測的姿勢調整(APA:Anticipatory Postural Adjustment)」の中核を担います。
APAとは、四肢が動く前に体幹が先行的に硬直化して脊椎を保護するメカニズムです。脳卒中後はこのAPAが障害されることが多く、動作開始前の体幹安定性が損なわれます(Dickstein R, 2010)。
局所安定筋 vs. 全体安定筋の鑑別。
腰椎を安定させる筋は「局所安定筋(Local stabilizer)」と「全体安定筋(Global stabilizer)」に分類されます。臨床でこの分類を理解することで、どの筋から介入を始めるべきかが明確になります。

| 特徴 | 局所安定筋(深層) | 全体安定筋(浅層) |
|---|---|---|
| 代表例 | 深層多裂筋・腹横筋・横隔膜・骨盤底筋 | 浅層多裂筋・脊柱起立筋・腹直筋・腸腰筋 |
| 主な役割 | 椎間の微細な分節制御・腹腔内圧維持 | 脊椎全体の姿勢・向き制御・動作生成 |
| 運動方向依存性 | 非依存(どの方向でも活動) | 依存(方向によって活動が変わる) |
| 活性化タイミング | 四肢運動に先行(予測的姿勢調整) | 運動中または運動後に反応的に活動 |
| 介入の優先順位 | まず深層から(段階的コア活性化の第一歩) | 深層の安定が確立した後に強化 |
評価アプローチと臨床判断基準。
深層多裂筋の機能を臨床で評価するには、超音波エコーや機能的観察評価を組み合わせます。以下の評価方法を把握しておきましょう。
TIS構成(合計23点):静的座位バランス(7点)+動的座位バランス(10点)+協調性(6点)の3下位尺度で構成。
カットオフ値:TIS合計≤12点は体幹機能重度障害の目安(Verheyden G et al., 2007)。歩行自立の指標としても使用される。
エビデンスレベル:SR・メタアナリシス複数あり。脳卒中後体幹評価の標準的ツールとして強く推奨。
段階的介入とエビデンス。
コア安定化訓練は「深層から浅層へ」という段階的な進め方が原則です。以下の4フェーズに沿って介入を構造化しましょう。
臥位・座位でのドローイン(腹横筋の意識的収縮)から開始。深層多裂筋と腹横筋の協調活性化を学習させます。パラメータ:10秒保持×10回、1日2セット。呼吸を止めないことが条件。
座位または四つ這い位で、上肢の屈曲と伸展の両方向を交互に行います。深層多裂筋は両方向でピーク活動を示すため、一方向のみでは不十分です。パラメータ:10〜15回×3セット、週3回以上。体幹の代償運動がないことを確認しながら実施。
ブレーシング(腹腔内圧を高める体幹の硬直化)を用いた動的課題へ移行。腹腔内圧を2倍にすると脊椎安定性が平均1.8倍上昇することが報告されています。パラメータ:負荷増大しながら週2〜3回。浅層筋群の過緊張が生じないよう注意。
立位歩行・階段・物の持ち運びなど、実生活課題の中にコア活性化を統合します。「コアを意識して歩く」ではなく「課題の中でコアが自然に使われる」状態を目指します。パラメータ:個別設定。ADL場面でのコア制御の般化を確認。
Hodges & Richardson (1996):健常者では腹横筋は四肢運動開始の30ms以上前に予測的に活性化する。腰痛患者ではこの先行活性化が遅延することが確認された(エビデンスレベル:観察研究)。
Wang et al. (2012):脳卒中後患者への体幹筋強化訓練(週5回×4週)でTISスコアと歩行速度が有意改善(RCT、エビデンスレベル:強く推奨)。
部分活性化の限界(先行研究の示唆):部分的なコア筋のみを活性化しても、体系的な脊椎安定性の向上は得られにくいことが示唆されており、コアボックス全体の協調的活性化が推奨される(エビデンスレベル:弱く推奨)。

脳卒中後のコア機能低下は、歩行・移乗・上肢使用のすべてに影響します。STROKE LABでは深層多裂筋の活性化から機能的動作の獲得まで、段階的なプログラムで丁寧にサポートしています。
多職種連携と環境調整。
各職種の役割分担
| 職種 | 主な役割 | 連携ポイント |
|---|---|---|
| PT | コア評価・段階的筋活性化訓練・歩行への統合 | 訓練目標・進捗をOT・STと共有 |
| OT | ADL動作へのコア安定化統合・上肢課題での体幹観察 | 食事・更衣・移乗時の体幹代償パターンをPTへ報告 |
| ST | 嚥下時の体幹姿勢確認・呼吸と体幹制御の関係観察 | 嚥下時の頸部・体幹アライメントをPT・OTと情報共有 |
| 看護師 | 病棟でのポジショニング管理・体幹支持での介助 | PT指示の座位・臥位ポジションを一貫して実施 |
| 医師・MSW | 骨粗鬆症・椎体骨折リスク評価・退院後サービス調整 | 体幹訓練の禁忌・負荷制限を全スタッフで共有 |
「病棟でのポジショニングがバラバラだと、いくらリハビリで整えても翌日には崩れています。看護師さんへの申し送りは具体的に、図を使って伝えましょう。」
「OTが食事場面で観察した体幹偏位パターンは、PTのコア訓練の直接的なヒントになります。チームで同じ視点を持つことが体幹安定化への近道です。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
多裂筋とコア安定化に関する介入では、新人セラピストが陥りやすい落とし穴があります。これらを先に知っておくことで、よりよい介入につながります。
臨床判断の分岐点:ドローインとブレーシングの使い分け
「ドローインは深層コアの活性化を学習させる段階で使います。日常の重い負荷(荷物持ち・階段)ではブレーシング(コア全体の硬直化)が適切です。混同しないように。」
「超音波エコーで腹横筋の厚さを測ると、患者さんへのフィードバックにもなります。収縮率15〜20%以上が一つの目安です。視覚的フィードバックは学習を加速させます。」
予後とゴール設定。
コア機能の回復予後は疾患の重症度・発症からの期間・介入開始時期によって異なります。しかし、深層多裂筋と腹横筋は神経可塑性による回復が期待でき、適切な介入で改善が見込まれます。
短期ゴール(2〜4週):ドローイン動作の習得(腹横筋の意識的収縮)、安静座位での体幹対称性の改善。
中期ゴール(1〜3ヶ月):上肢両方向課題時の体幹安定性向上、TISスコアの改善、バードドッグテスト5秒保持の達成。
長期ゴール(3〜6ヶ月):歩行・階段・ADL動作へのコア安定化の般化、コアを意識しなくても体幹が安定した動作の実現。
よくある質問(新人の疑問)。
深層線維は上肢運動の方向に関わらず常に活動し、椎間の微細な運動(分節間制御)を担います。浅層線維は脊柱起立筋と同様に運動方向に依存して活動し、脊椎全体の向きや姿勢制御を担います。
臨床では「深層=局所安定、浅層=全体制御」と覚えておくと実用的です。
上肢の屈曲・伸展両方向の反復運動を意識的に行うことが有効です。深層多裂筋は運動方向に依存しない特性を持つため、一方向のみの訓練では活性化が不十分になります。
腹横筋との同時活性化を意識し、腹腔内圧を適度に高める呼吸制御を組み合わせると効果的です。
腹腔内圧が2倍になると脊椎の安定性は平均1.8倍増加すると報告されています。ただし、一部の筋のみを部分的にアクティブにしても体系的な安定性は高まらないことが示唆されています。
多裂筋・腹横筋・横隔膜・骨盤底筋群を含む「コアボックス」全体を協調的に活性化することが重要です。
どちらも上肢運動の方向に依存して活動するという点では類似しています。しかし、多裂筋浅層は椎骨の後方要素に付着し、主に腰椎の伸展方向制御と椎間関節への圧縮力提供を担います。
脊柱起立筋はより長い筋腹を持ち、複数椎間をまたいだより大きな姿勢制御を担う点が異なります。
脳卒中後は体幹の非対称性や麻痺側の深層筋活動低下が顕著なため、まず深層多裂筋と腹横筋の協調活性化を目指します。
上肢の両方向運動(屈曲・伸展)を課題として用い、麻痺側の分節制御を引き出すアプローチが有効です。その後、浅層筋群を含む動的な体幹制御訓練へ段階的に移行します。
臨床では超音波エコーによる多裂筋・腹横筋の厚さ計測(収縮率の評価)、四つ這い位での対側上下肢挙上テスト(バードドッグ)、ドローインとブレーシングの比較などが用いられます。
脳卒中患者では座位での上肢挙上時の体幹偏位や重心動揺の観察も有用な臨床指標となります。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経系リハビリに特化した自費リハビリ施設です。脳卒中後の体幹安定化・コア機能の回復から、歩行・上肢機能の改善まで、最新のエビデンスに基づいた個別プログラムを提供しています。深層多裂筋の活性化から始まる段階的アプローチで、日常生活の改善を目指します。

— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。
「深層多裂筋の活性化を重視してから、患者さんの体幹の変化スピードが明らかに変わりました。浅層だけ鍛えていた頃とは別物の安定感が出てきます。」— PT・経験12年・神経リハビリ専門
「コアボックスという概念を臨床で使うようになってから、チームへの説明も変わりました。腹筋だけの話ではなく、横隔膜や骨盤底も含めた統合的な視点が患者さんの回復に直結しています。」— OT・経験8年・脳卒中リハビリ担当
諦めないでください。

脳卒中後の体幹不安定性は、歩けない・動けないという現実の壁として患者さんやご家族を苦しめます。しかし、適切な介入で深層のコアから立て直すことができます。
STROKE LABでは、深層多裂筋の活性化から始まる段階的なリハビリプログラムを通じて、多くの方の機能回復をサポートしてきました。
まずは無料相談で、現在の状況をお聞かせください。あなたのご家族に合ったプログラムをご提案します。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)