ボツリヌス療法・SDR後のリハビリ|処置のあとに大切な運動
処置後の体を、使える動きへつながるリハビリの考え方
「ボトックスを打ったあと、何をすればいいのか」「SDR後は、歩き方がどう変わるのか」。処置でつっぱりが下がっても、動きが自動的に整うわけではありません。大切なのは、広がった可動域を、立つ・歩く・階段・遊びの中で使える動きへ変えることです。診断・投薬・ボツリヌス療法・SDRなどの医学的判断は主治医が担い、STROKE LABは生活と動きの側から併走します。

「柔らかくなったのに、動きが変わらない」と感じたとき。
ボツリヌス療法やSDRを受けると、つっぱりが下がり、足首や膝が動かしやすくなることがあります。一方で、保護者の方からは「前より柔らかいのに、歩き方はまだ不安定」「力が抜けたように見える」「装具が合っているのかわからない」という相談も多く聞かれます。
これは、処置がうまくいっていないという意味だけではありません。緊張が下がったことで、これまで隠れていた筋力・バランス・感覚の課題が見えやすくなることがあります。だからこそ、処置後のリハビリでは「柔らかさ」だけでなく「使い方」を見ます。
脳性麻痺の痙縮に対するボツリヌス療法やSDRは、医師が適応を判断する医療的な選択肢です。この記事では、治療の是非や適応を判断するのではなく、処置後に広がった可動域を、日常の動きへどうつなげるかを整理します。
医療・健診が先、私たちは併走役です。痛み、発熱、注射部位の異常、呼吸や顔色の変化、けいれん様の動き、急な脱力がある場合は、リハビリより医療機関への相談を優先してください。
処置で変わるのは、ゴールではなく「入口」です。
ボツリヌス療法は、注射した筋肉の過剰な緊張を一定期間弱めることを目的とします。SDR(選択的後根切断術)は、痙縮に関わる感覚神経の一部を選択的に処理し、下肢のつっぱりを下げる手術です。どちらも「筋緊張を下げる」という共通点がありますが、対象、目的、リスク、経過は異なります。適応や方法は主治医・専門医が判断します。
処置によって足首が動きやすくなる、膝が曲げ伸ばししやすくなる、股関節の開きが変わるなどの変化が出ることがあります。ただし、動きやすくなった関節を、実際の動作で使えるかは別の問題です。ここに、処置後リハビリの意味があります。
| 処置で変わりやすいこと | リハビリで見ること |
|---|---|
| 足首や膝のつっぱりが下がる | 足裏接地、立位での膝の向き、歩行中のかかと接地へつなげる |
| 力が抜けたように見える | 隠れていた筋力・バランス課題を見て、支え方と練習量を調整する |
| 装具の当たり方が変わる | 医師・義肢装具士と連携し、歩行と成長に合わせて見直す |

処置後は「足首」だけを見ない。
保護者の方は、つま先歩きや尖足が気になるため、どうしても足首に目が向きます。もちろん足首は重要です。しかし歩行は、足首だけで決まりません。骨盤が後ろに倒れる、股関節が十分に伸びない、膝が内側へ入りすぎる、足裏で床を感じにくいなど、複数の要素がつながって歩き方を作ります。
処置後に足首が動きやすくなったら、次に見るのは、その足首を、骨盤・股関節・膝・足部の連鎖の中で使えているかです。ここを見ないと、「柔らかくなったのに、歩き方は以前と同じ」という状態になりやすくなります。
STROKE LABでは、かかとがつくかだけでなく、足裏に体重が乗ったときに骨盤が逃げないか、膝が内側へ入りすぎないか、股関節が支えられているかを見ます。処置後の新しい可動域を、立位・歩行・段差の中で使えるようにするためです。

可動域を「使える動き」へ変換する。
処置後のリハビリで最も大切なのは、単に筋肉を伸ばすことではありません。つっぱりが下がったことで生まれた余白を、生活で使う運動へ変換することです。たとえば、足首が動きやすくなったら、足裏で床を感じながら立つ、膝を過度に突っ張らずに体重を受ける、段差で片脚支持を作る、といった具体的な課題へ落とし込みます。
このとき、練習量をただ増やすだけでは不十分です。子どもは成長途中にあり、骨の長さ、筋力、感覚、集中力、学校生活の負荷が変わります。だから一度の評価で決めず、処置後の節目ごとに「今どの動きが育とうとしているか」を見直します。

研究でわかっていること。
痙直型両麻痺の歩ける子ども46名を対象にした研究では、下肢へのボツリヌス毒素A注射に加えて2週間の集中的な理学療法を行った群で、粗大運動機能スコアの改善がより大きく示されました。52週後の改善は、理学療法を追加した群で19.4%、追加しない群で5.5%でした。
限界注記:対象は痙直型両麻痺で歩行可能な子どもであり、すべてのお子さんに同じ効果を保証するものではありません。効果は年齢、GMFCS、注射部位、装具、筋力、家庭環境、成長段階で変わります。医療処置の適応判断や治療の代替ではありません。出典:Flemban A, Elsayed W. Journal of Physical Therapy Science. 2018;30(7):902-905.
SDRは主に歩行可能な痙直型脳性麻痺のお子さんで検討されることがあり、長期のリハビリを前提に評価されます。英国の報告では、GMFCS II・IIIのお子さんで24か月後の機能や生活の質の改善が示されていますが、対象選択と術後リハビリの継続が重要です。
限界注記:SDRは不可逆的な手術であり、適応・時期・リスク・術後管理は専門医療機関での判断が必要です。経過には個人差があり、術後の運動制限やリハビリ量は主治医の指示に従います。出典:Summers J, et al. Developmental Medicine & Child Neurology. 2019;61(11):1303-1308. NICE Clinical Guideline 145.
専門リハで取り組めること。
つっぱりが下がったあと、子どもは新しい姿勢・感覚・力の使い方を学び直します。STROKE LABでは、処置後の変化を一時的な柔らかさで終わらせず、歩く、立つ、階段、遊ぶ、学校で過ごす動きへつなげます。
足首・膝・股関節が動きやすくなった時期に、立ち上がり、立位、歩行、段差の中で使う課題を作ります。
足首だけでなく、骨盤、体幹、股関節、膝、足部のつながりを見て、安定して体重を乗せる練習へつなげます。
短時間で続けやすい練習、動画での観察、装具や靴の見直し相談、学校生活での動き方まで整理します。
効果や経過には個人差があり、成長に伴って目標も変わります。医学的判断は主治医を尊重しながら、今のお子さんに必要な運動経験を一緒に組み立てます。
ボツリヌス療法後に理学療法を組み合わせることで粗大運動機能の改善が大きかった報告があります。また、NICEは痙縮管理において、本人・家族の目標、活動と参加、環境因子を含めて管理計画を立てることを重視しています。対象や効果には個人差があり、治療の代替ではありません。

家庭・学校で見るポイント。
処置後は、家庭での観察がとても役立ちます。特別な検査ではなく、毎日の立ち上がり、歩き出し、疲れた夕方の歩き方、階段、靴の減り方を見ます。短い動画を同じ角度で残すと、医師や療法士と共有しやすくなります。
| 見る場面 | 観察ポイント |
|---|---|
| 立ち上がり | 足裏が床につくか、膝が内側へ入りすぎないか、体幹が後ろへ倒れないか |
| 歩き出し | 最初の数歩でつま先が先に出すぎないか、かかとや足裏が使えているか |
| 疲れた時間帯 | 歩幅、膝の突っ張り、つま先の引っかかり、転びやすさが変わらないか |
| 装具・靴 | 当たり、赤み、かかとの浮き、靴底の減り方、歩行中の安定感 |

よくある質問。
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。脳性麻痺のお子さんに対して、診断名だけでなく、姿勢・感覚・筋緊張・関節可動域・運動学習・生活環境を合わせて見ます。ボツリヌス療法やSDR後も、医学的判断は主治医を尊重しながら、生活の「できた」を増やすための運動課題を一緒に組み立てます。
生活で使える動きへ。

ボツリヌス療法やSDRのあと、ご家族は「この変化をどう活かせばよいのか」と迷うことがあります。私たちは、つっぱりが下がった今だからこそ育てられる動きを、機能解剖と動作分析から見つけます。
足首だけでなく、骨盤、体幹、股関節、膝、足部の連鎖を見ながら、立つ、歩く、階段、遊ぶ、学校で過ごす動きへつなげていきます。医療機関での治療と並行し、お子さんの生活に合わせたリハビリを組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。処置後の運動を「足首が柔らかい」で終わらせず、姿勢・感覚・運動の連鎖として見る視点は、お子さんのリハビリを支える土台になります。
Flemban A, Elsayed W. Effect of combined rehabilitation program with botulinum toxin type A injections on gross motor function scores in children with spastic cerebral palsy. Journal of Physical Therapy Science. 2018;30(7):902-905.
National Institute for Health and Care Excellence. Spasticity in under 19s: management. NICE Clinical Guidelines, No.145. 2016 update.
Summers J, et al. Selective dorsal rhizotomy in ambulant children with cerebral palsy: an observational cohort study. Developmental Medicine & Child Neurology. 2019;61(11):1303-1308.
Centers for Disease Control and Prevention. Treatment and Intervention for Cerebral Palsy. Updated 2026.
金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院. 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)