片麻痺の子どもの手を育てる|CI療法・両手動作の家庭での考え方
片麻痺の手を、片手と両手動作のバランスで育てる
「麻痺側の手を使わせた方がいいのか、無理に使わせない方がいいのか」。片麻痺のあるお子さんの手について、保護者の方が迷うのは自然なことです。大切なのは、手だけを見て頑張らせることではありません。肩甲帯・体幹・視線・物の位置を整え、使いにくい手が生活に参加しやすい条件をつくることです。CI療法と両手動作練習の考え方を、家庭での関わりに翻訳して整理します。

片麻痺の手は、「動かない手」ではなく「参加しにくい手」として見る。
片麻痺のあるお子さんは、使いやすい手で素早く済ませることが増えます。保護者としては「麻痺側の手をもっと使ってほしい」と思う一方で、声をかけすぎると嫌がる、どこまで促してよいかわからない、という悩みが出てきます。
ここで大切なのは、使いにくい手を根性で動かすことではありません。その手が参加できる姿勢、道具、課題、声かけをつくることです。
片麻痺の手は、単に筋力が弱いから使いにくいわけではありません。手を前に出すには、肩甲骨が前方へ滑ること、体幹が支えること、目で対象を見ること、手からの感覚を受け取ることが必要です。どこか一つがうまく働かないと、手は届きにくくなり、つかみにくくなり、生活の中で出番が減っていきます。
だから、片麻痺の手を育てる第一歩は、手だけを見るのではなく、その手が参加しやすい全身の条件を見つけることです。机の高さ、椅子の安定、物の置き場所、課題の大きさ、声かけの量が少し変わるだけで、使いにくい手が自然に出てくることがあります。
片麻痺のあるお子さんが麻痺側の手を使わないとき、本人のやる気だけの問題に見えることがあります。しかし実際には、姿勢が崩れる、肩が引ける、物が遠い、感覚がわかりにくい、課題が難しすぎるなど、使いにくい理由が隠れていることがあります。
麻痺側の手を使わない状態が続く背景には、「学習性不使用」という考え方があります。本記事では詳しいメカニズムに入りすぎず、家庭での上肢練習の考え方に絞ります。詳しい解説は、公開後にNo.81「片麻痺の子が麻痺側を使わない」へ内部リンクします。
CI療法とは、使いにくい手を引き出す「時間」をつくる考え方。
CI療法は、Constraint-Induced Movement Therapyの略で、日本語では拘束誘導運動療法と呼ばれます。基本的な考え方は、使いやすい手を一定時間制限し、使いにくい手を使う機会を増やすことです。小児では年齢や発達段階に合わせて、遊びや生活動作の中で修正して行われることがあります。
ただし、CI療法は「家で反対の手を縛ればよい」という単純な方法ではありません。時間、課題の難しさ、休憩、本人の意欲、姿勢、感覚、手指の状態を見ながら調整する必要があります。自己流で長時間行うと、嫌がり、疲労、代償動作の固定、手そのものへの苦手意識につながることがあります。
| 目的 | 家庭で考えるときの注意 |
|---|---|
| 麻痺側の手に出番をつくる | 短時間の遊びや生活場面から始める。できる経験を積み、嫌な練習にしない |
| 手の到達・把持・離す動きを引き出す | 物を大きくする、近くに置く、机を安定させるなど、成功しやすい条件にする |
| 手を使う感覚を増やす | 手で触れる、支える、押さえる、持つなど、段階を小さく分ける |
| 生活動作につなげる | 練習の中でできた動きを、食事、着替え、遊び、学習の中へ戻す |

両手動作練習とは、生活の中で「左右の役割分担」を育てること。
子どもの生活は、両手を使う場面であふれています。ご飯茶碗を支える、紙を押さえる、服の端を持つ、ファスナーを引く、ブロックを支える、鉛筆を使うときにノートを押さえる。片麻痺の手は、いつも主役でなくても構いません。まずは、生活の中で支える手、押さえる手、添える手として参加することが大切です。
両手動作練習は、使いにくい手だけを集中的に使う時間とは役割が違います。片方の手で物を操作し、もう片方の手で支える。片方の手で引き、もう片方の手で押さえる。このような左右の役割分担を、遊びや生活の中で自然に経験していくことが目的です。
CI療法で麻痺側の手の出番を増やしたら、その動きを両手動作に戻す必要があります。生活で必要なのは、片手だけが上手に動くことではなく、左右の手がその子らしく協力できることだからです。
STROKE LABの視点:手の前に、肩甲帯・体幹・視線を見る。
手を伸ばす動きは、手だけで完結していません。肩甲骨が後ろに引けたままだと、腕は前に出にくくなります。体幹が不安定だと、手で細かい操作をする前に姿勢を守ることで精一杯になります。視線が対象から外れていると、手は物の位置を探しにくくなります。
STROKE LABでは、使いにくい手を「動かない場所」として見るのではなく、姿勢、肩甲帯、体幹、視線、感覚、道具の位置がつながった結果として見ることを大切にしています。手が前に出ないとき、手指だけを揉む、伸ばす、握らせるのではなく、どの条件が整うと手が参加しやすくなるかを観察します。

例えば、机に近づくと手が出るのか、椅子に深く座ると支えられるのか、物を少し大きくするとつかめるのか、反対側から声をかけると目線が向くのか。家庭での観察は、療法士が練習内容を調整する大切な材料になります。
研究でわかっていること:片麻痺の上肢には、目的のある練習が重要。
一側性の脳性麻痺・片麻痺のある子どもに対して、CI療法は使いにくい上肢の使用を増やし、両手での動作にもよい影響を与える可能性が示されています。また、上肢の練習では、目標志向、課題ベース、十分な練習量、家庭や学校への橋渡しが重要とされています。
限界注記:研究の対象は、年齢、麻痺の程度、感覚、認知、家庭環境によって異なります。効果には個人差があり、成長や発達段階によって変動します。この記事は治療の代替ではなく、診断・投薬・ボツリヌス療法・手術・装具処方などの医学的判断は主治医に確認してください。
出典:Hoare BJ, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019;4:CD004149./Sakzewski L, et al. Pediatrics. 2014;133(1):e175-e204./Jackman M, et al. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536-549.
専門リハで取り組めること。
診断、投薬、ボツリヌス療法、手術、装具処方などの医学的判断は主治医の領域です。STROKE LABは、医療機関での方針を尊重しながら、片麻痺のあるお子さんの生活と動きの側から併走します。
片麻痺の手のリハビリでは、手指だけを練習するのではなく、姿勢、肩甲帯、体幹、視線、感覚、生活場面を合わせて見ます。お子さんが嫌がらず、成功を感じながら続けられるように、練習の量と難しさを調整します。
1. 使いにくい手を引き出す練習
肩甲帯や体幹の準備を整え、到達、把持、離す、支えるなど、手の出番を小さな成功に分けて練習します。CI療法の考え方を使う場合も、本人の負担と生活へのつながりを確認します。
2. 両手の協力を育てる練習
食事、着替え、遊び、学習の中で、左右の手がどう役割分担できるかを見ます。麻痺側の手を主役にする場面と、支える手として参加する場面を分けて設計します。
3. 家庭・学校プログラムと保護者コーチング
家庭や学校で続けやすい課題を一緒に選びます。机、椅子、道具、声かけ、介助量を調整し、本人が「できた」と感じられる場面を増やします。
効果や経過には個人差があります。練習の内容は、年齢、麻痺の程度、感覚、筋緊張、痛み、本人の意欲、学校生活によって調整します。急な症状や体調変化がある場合は、リハビリより医療機関への相談を優先してください。
小児片麻痺の上肢リハでは、CI療法、両手動作練習、目標志向の課題練習が、上肢機能や日常動作の向上に役立つ可能性が報告されています。
出典:Hoare BJ, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019;4:CD004149./Sakzewski L, et al. Pediatrics. 2014;133(1):e175-e204./Jackman M, et al. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536-549. ただし、対象や練習量が異なるため、家庭での実施は専門家と相談して調整してください。
家庭でできる関わり:生活の中に「少し参加する手」をつくる。
家庭で大切なのは、練習時間を長くすることより、日常の中で使いにくい手の出番を見つけることです。本人が嫌がらず、成功しやすい場面を一つ選び、少しずつ広げます。最初から完璧に使わせようとせず、支える、押さえる、触れる、持つ、離すなど、小さな参加から始めます。
| 生活場面 | 麻痺側の手の参加例 | 見守るポイント |
|---|---|---|
| 食事 | 器を支える、袋を押さえる、コップに軽く添える | 肩が引けすぎないか、体が横へ崩れていないか |
| 着替え | 服の端を持つ、袖を通す前に手を見つける、ファスナーの下を支える | 急かさず、手が見える位置で行う |
| 遊び | ブロックを支える、紙を押さえる、ボールを両手で受ける | 成功しやすい大きさ・重さ・距離にする |
| 学習 | ノートを押さえる、定規を支える、紙をめくる | 疲れたら休む。学習の集中を妨げない量にする |

強く嫌がる、痛みを訴える、疲労が強い、顔色や呼吸がいつもと違う、けいれん様の動きがある、急に片側の手足が動かしにくくなる。このようなときは、家庭練習を中止してください。
急な片麻痺、顔のゆがみ、意識の変化、強い頭痛や嘔吐、けいれん様の動きがある場合は、様子見ではなく医療機関が優先です。症状が戻ったように見えても、自己判断せず主治医や救急に相談してください。
よくある質問。
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。小児片麻痺の手の使い方について、機能解剖と動作分析の視点から、肩甲帯・体幹・視線・感覚・生活動作をつなげて評価します。医療機関でのリハビリと併用しながら、家庭や学校で続けやすい関わりを一緒に整理します。
生活に参加できる手へ。

片麻痺の手について、保護者の方は「もっと使わせた方がよいのか」「嫌がるならやめた方がよいのか」と迷いやすいものです。
私たちは、使いにくい手を無理に頑張らせるのではなく、その手が生活の中で参加できる条件を一緒に探すことを大切にしています。
医療機関での治療とあわせて、家庭・学校での関わりを整理したい方は、一度ご相談ください。お子さんの育ちに寄り添いながら、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

片麻痺の手を、手指だけの問題としてではなく、脳・姿勢・感覚・生活動作のつながりとして見る視点は、お子さんの上肢リハビリを考えるうえでも土台になります。
- 子どもの片麻痺|成人とは違う小児のリハビリの考え方
- 片麻痺の子が麻痺側を使わない|学習性不使用と家庭での関わり
- 赤ちゃんが片方の手ばかり使う・左右差がある|片麻痺の入口として知っておきたいこと
- STROKE LABの小児リハビリ
- Hoare BJ, Wallen MA, Thorley MN, Jackman ML, Carey LM, Imms C. Constraint-induced movement therapy in children with unilateral cerebral palsy. Cochrane Database Syst Rev. 2019;4:CD004149.
- Sakzewski L, Ziviani J, Boyd RN. Efficacy of upper limb therapies for unilateral cerebral palsy. Pediatrics. 2014;133(1):e175-e204.
- Jackman M, et al. Interventions to improve physical function for children and young people with cerebral palsy: international clinical practice guideline. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536-549.
- NICE. Cerebral palsy in under 25s: assessment and management. NICE guideline NG62. Last reviewed 2024.
- CDC. About Cerebral Palsy. Updated 2026.
- NHS. Cerebral palsy: Treatment. Occupational therapy section.
- 金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院. 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)