vol.89:脳卒中後の半側空間無視の基礎から介入まで 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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半側空間無視に役立つ動画
カテゴリー
歩行・神経系
タイトル
脳卒中後の半側空間無視の基礎から介入までSpatial neglect?PMCへKorina Li,Paresh A Malhotra(2015) Practical Neurology
内 容
半側空間無視と視覚の問題
●半側空間無視は、視覚の脱失による現象とは区別されるべきである。半側空間無視は下図にように両側に視覚的な刺激が出された際に、障害側と反対側の刺激にのみ反応を示します。
●下図は左の同名半盲(中央のパネル)および左空間無視(下のパネル)の人々に視覚的シーンがどのように現れるかの概略図です。半盲像は正中線に沿い、反対側の視野のみに影響を及ぼします。半側空間無視では反対側の領域への影響に加え、病変側に注意を向けるような反応があります。
標準的テスト
●臨床的な使いやすさから下記のキャンセルテストのようにペンとペーパーで済むテストを採用しています。これには、抹消試験、線分二等分試験、模写試験と描画試験が含まれます。
●その他、中程度から重度の半側空間無視を持つ人々は、多くの場合、御家族および臨床スタッフにはっきりと見える多くの行動を示しています。例えば、車椅子の使用者は、無視された側の壁や物体に繰り返し衝突したり、ページの一方の側でテキストを読むときに単語を省略したり、個々の単語の片側を誤読することがあります。
●興味深いことに、個々の患者の無視の度合いは、同じ日にさえも著しく変動する可能性があります。これは、右脳卒中によって影響を受けることが知られている覚醒のような要因に依存します。
●さらに、多くの人々が2つ以上の課題で同様に無視しているようであるが、一部の患者は解離を示し、1つのみの試験で無視を示し、他のタスクでは正常のパフォーマンスを示すことがあります。時間とともに変化する可能性があります。この変動はおそらく、各個人の認知障害の根底にある異質性を反映しています。
●大部分の患者は自発的に回復し、標準的な作業のパフォーマンスが向上します。しかし、これは部分的に代償戦略である可能性がある。実際には、明らかに回復したと思われる患者でも、より精密なタスクで試験した場合でも注意障害を示す可能性があるという証拠が増えています。
●いくつかの研究では、異なる種類のタスクに対する障害が、異なる領域に位置する可能性が高いことを示唆している。 さらに、半側空間無視は注意喚起に関与する領域のネットワークの損傷に起因するものであり、近年の研究では、白質、特に上縦束、ならびに個々の皮質および皮質下領域の損傷の結果としても生じることが示されています。
半側空間無視への様々な介入方法
●リハビリテーションで繰り返し追求されている主なアプローチは、無視の欠点に直接対処し、無視された側に注意を向けることを試みることです。主に視覚的手がかりの助けを借りて、空間の左側を探索するように促すことを主な目的としている。しかし、長期的な効果が顕著であるという説得力のある証拠はほとんどありません。
●電気刺激等による前庭刺激は注意をうまく調整し問題を一時的に減らします。首の左側の触覚振動は同様の効果を有し、他の技法と組み合わせると最も効果的であります。 さらに、無視された四肢の受動的および能動的な動きによる四肢の活性化が時として助けになることがあります。
●無視の変化を長く維持する方法としてプリズム適応療法があり、プリズム適応は、過去20年間の最も有望な治療の1つであると思われています。
●最近の治療は、脳刺激技術を伴う。 脳の非対称化に対する治療では 病変半球を活性化するか、または過活動性半球を抑制する必要がある。 初期の研究では、左半球を抑制するためにθバースト刺激を用いた方法は左無視の回復を加速し、日常生活活動において障害を減少させることを示唆しています。
●ノアドレナリン作動薬であるグアファシン(ADHD治療薬)を用いて試みたところ、無視患者の視覚探索を改善しました。
●現在では、予想される金銭的利得、快活な音楽の受動的な聞き取り、音楽的の演奏など、さまざまな形の動機づけと報酬のある刺激を用いた無視の改善を示す実証的研究がある。複数のメカニズム、報酬処理および音楽聴取は、ドーパミン作動系に繰り返し関連しており、ドーパミンは、動機づけの介入に重要な役割を果たす可能性がある。
私見・明日への臨床アイデア
●空間無視の影響は体調によって変動したり、一つの課題だけでは陰性になってしまう事がある、より複雑になると表れてくることがある等が報告されており、日々の関わる中での観察や実際患者に必要となるタスクの中で可能性を留意し介入する必要がある。
●無視側から話しかける等はよく聞かれることであるが、その刺激が効果的かは動機付け・報酬などが大事で、患者にとってより意味のあるものであることが望ましい。例えば、患者にとって何とも思っていない人が話しかけるより孫であったり好きな人の方が良いと思われ、声をかけた先に好きな絵画等がある等でも良いと思われる。実際手で触る等、他の感覚と組み合わせて認識することも大事と思われる。
臨床後記:更新20201/2/22
●半側空間無視なのか、脳卒中後の視覚の問題なのか、加齢による視覚の問題なのかの棲み分けは大事。半側空間無視であれば、空間認知を働きかけるように、日常生活や課題指向型トレーニング始め行っていくことは重要である。半側空間無視でも言えるが、視覚の問題の場合はその補償手段なども検討していくことも重要。評価により根本的な問題にしっかりアプローチしたい。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)