痙縮筋に対するボトックス治療が脳活動と運動機能に与える影響とは? 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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タイトル
集中的痙縮筋のボトックス治療後の脳卒中患者における脳皮質活性変化と運動機能の改善ー連続的にfMRIを用いた介入研究
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●脳卒中患者のボトックス治療後の集中的な痙縮筋への治療に関わることがあり、筋だけでなく脳活動にはどのような影響を与えているのか知りたいと思ったため。
内 容
背景
●手指機能に障害を負った脳卒中患者は臨床上の問題としてよく見られる。集中的な痙縮筋への治療後の機能改善は立証されているが主要な関連性についての知識は乏しい。そのため脳活動を連続的FMRIを用いて治療中も継続して調査した。
●研究目的は標準的運動課題に応答する包括的な集中的痙縮筋治療後の脳卒中患者の運動機能と中枢神経システム(CNS)の関連性を分析すること。
方法
●6名の右上肢麻痺と痙縮を有する慢性期の脳卒中患者(平均年齢66歳の女性4名)が研究に参加した。筋肉内ボツリヌスAタイプ(BoNT-A)注射を含む集中的痙縮筋の治療後の影響は機能検査で3つの時期(ベースライン・6週・12週)に評価された。
●脳への影響はfMRIを用いた血中酸素濃度依存(BOLD)手技によって,同じ時期に標準運動課題中の運動野と前運動野にフォーカスして評価(ブロードマンエリア4a、4p、6)された。対象群として、10名の健常者(平均年齢51歳の女性5名)は6週の間隔で2度調査された。
結果
●痙縮筋の治療後、5~6名の患者に有意な痙縮の減少と機能改善が見られた。運動課題に応答して脳活動では運動野と運動前野に1.5-3%の上昇が見られた。
●ベースライン時に対側半球で比較すると、より非障害側(同側)でこれらの上昇が大きかった。健常者と比較すると患者では,特に同側で有意に高い脳活動(2–4.5 times)が示された。治療後、同側で大きな減少、対側で少ない減少が見られた。
(a)介入前(b)介入後 (出典:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4450484/)
●すなわち、全てのエリアにおいて正常な方向に左右で明らかな側性化がみられた ※側性化:特定の知的活動は左右いずれかの半球に偏在すること。
まとめ
●包括的な集中痙縮治療は運動機能の改善に加えて左右の側性化を“正常化”するという脳の再組織化に関連した。特定のブロードマンエリアにおいてBOLD強度の数値は治療後の損傷側の脳においてニューロンの過活動の抑制を示した。
私見・明日への臨床アイデア
●セラピストの介入ではないが,痙縮筋の治療が運動機能だけでなく脳の再組織化に関与している興味深い文献であった。痙性治療において変化を知覚することが,脳の可塑性を急速に進めていると思われる。そこで,私たちセラピストでもこのようなことが可能か?という問いを自分自身に投げかけたい。私たちからボツリヌス毒素は出せないが、脳神経科学の観点から私たちが患者様に対して感覚や運動や自分自身に生じる変化を知覚させることは可能であり、そのことが脳の可塑化を促進に繋がることも周知の事実となってきている。逆説的考え方ではあるが,痙性の抑制治療は対象者に知覚を変化させ,脳の可塑性を促すことが重要とも言えるのではないでしょうか?そう考えると普段の声かけから変わりそうです。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)