Vol.413.脳梗塞後の回復における睡眠の役割とは?睡眠と認知機能の改善との関係性
目次
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タイトル
脳梗塞後の回復における睡眠の役割とは?
●原著はThe Role of Sleep in Recovery Following Ischemic Stroke: A Review of Human and Animal Dataこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●脳卒中患者や高齢者において夜中に何度も起きるという話を聞く。睡眠時間やその質が体やパフォーマンスにどのように影響するか学習する為、本論文に至った。
内 容
背景
●睡眠呼吸障害、不眠症、むずむず脚症候群などの睡眠障害が脳卒中者で頻繁に観察され、脳卒中後の回復不良と心血管疾患罹患率の増加に関連しているという証拠が増えている。
●動物と人間の実験的および臨床的研究は、健康的な睡眠が神経可塑性を促進し、学習と記憶の改善をもたらすことを示唆している。
●このレビューでは、脳卒中に関連する身体機能および認知機能の障害の回復とそれらに対する睡眠の役割を調べる。
神経可塑性と脳卒中の回復
●動物実験と比較したヒトの脳卒中研究から得られたデータの解釈は、病変部位、脳卒中の重症度、危険因子および合併症等に関する患者の不均一性、病因および薬の併用、さらに治療の選択に加え、患者が治療を受ける時間は患者間で著しく異なる。
●それら脳卒中患者における不均一性にもかかわらず、脳卒中回復後の人間の神経可塑性変化に関する一貫した所見がある。虚血性病変が大きくなると、失われた機能を補うために対側の半球がより使われます。対側による代償は機能回復の悪化を伴うことが多い。
●脳卒中の亜急性期では、運動機能または認知機能障害の原因となる神経ネットワークを形成する脳領域が関わる、病変周囲および対側の病変領域の神経活動の増加が観察され、この活動の増加は神経学的回復の改善と関連しているという証拠がある。
●病変半球の抑制の背景にある理論的根拠は、脳卒中後の病変半球の活性化の減少と同時に、対側半球の活性化が持続し、半球間抑制が機能的回復を妨げることです。
機能回復における睡眠の重要性
●睡眠の役割はまだ完全には理解されていないが、多くの文献が、特に学習と記憶に関して、神経ネットワークの再編成と修復における睡眠の重要な役割を示唆している。それにも関わらず、睡眠の促進は脳卒中管理とリハビリテーションプロトコルにおいて一般的に考慮されていない。
睡眠は学習と記憶を促進する
●人間では、深い徐波睡眠(SWS)とレム睡眠がさまざまな種類の記憶を促進することが示唆されている。SWSは宣言的記憶(人間の記憶の一種で、事実と経験を保持するもの)の統合をサポートすると考えられているが、エピソード記憶と意味記憶(特定の場所や時間に関係せず,物事の意味を表わす)は、側頭葉内側の構造に依存している。
●REM睡眠は、手続き記憶、側頭葉内側に依存しない運動と知覚の記憶をサポートすると想定されている。
●単語ペアの学習とノンレム睡眠を含むミラートレース課題のトレーニングに続く昼寝は、単語ペアの検索パフォーマンスを向上させたが、ミラートレースのパフォーマンスは向上させなかった。しかし、知覚の学習は、レム睡眠とノンレム睡眠を含む昼寝後にのみ改善した。
●脳卒中患者の学習に対する睡眠の影響を体系的に調査した研究はわずかですが、睡眠は運動課題のパフォーマンスを高めることが示唆されている。
●上記の結果は、神経リハビリテーションにおける記憶統合のための睡眠の潜在的な重要性を強調している。
睡眠による学習促進の理論(一部抜粋)
●覚醒時に生物は偶然または意図的に新しい知識と技術を身につけ、環境のニーズに柔軟に適応する。この経験依存型の学習には長期増強(LTP:化学シナプスの高頻度刺激の後に起きるシナプス結合強度の持続的増加のことである。)が関与し、一般的に活性化されるニューロン間のシナプス接続が強化される。
●アクティブシステム統合理論では、新たに獲得した知識または技術の強化は、その後の睡眠中にコード化に関与する神経ネットワークが繰り返し再活性化することから生じると想定されている。
脳卒中後の睡眠障害について
●脳卒中後の睡眠障害は、脳卒中の急性期に有害な影響を与える可能性がある。不十分な睡眠または断片的な睡眠と悪い結果を結びつける可能性のあるメカニズムは、いくつかあり、交感神経の活性化、断続的な低酸素血症、酸化ストレス、頻繁な覚醒と睡眠の調節の乱れによる炎症性変化などがある。
●脳卒中後の睡眠障害は、脳卒中の亜急性期および慢性期(および神経可塑性プロセス)にも有害な影響を与える可能性がある。睡眠障害は、SWSおよびREM睡眠の減少に関連し、注意力および認知能力の低下に関与する。結果、新たに獲得された手続き的および宣言的記憶の神経可塑性に依存した統合が損なわれる可能性がある。
●不眠症の影響に関する大規模な研究は欠けているが、いくつかの研究では不眠症患者において機能的自立スコア、日常生活活動を評価するスコアおよび健康関連の生活の質によって評価される脳卒中患者の回復をより妨げるという証拠が示されている。最近の研究では、脳卒中後の2週間以内に不眠症重症度指数のスコアが高くなると、上肢運動機能が低下することも判明した。
●脳卒中の急性期に長時間睡眠をとることは有益(睡眠の神経保護機能)ですが、亜急性期と慢性期のトレーニングによる誘発される神経可塑性を促進するためにも重要となる可能性がある。
●睡眠障害の早期発見と治療は重要です。脳卒中急性期におけるCPAPによる睡眠時無呼吸症候群の治療を調査し、少なくとも部分的に神経学的回復に対する有益な効果を示唆している。睡眠時無呼吸症候群の治療による脳損傷周辺部の保護効果も示唆されている。
私見・明日への臨床アイデア
●脳卒中患者の多くが睡眠障害を呈すると言われます。その背景には、生理学的要因、統合失調症やうつ病など精神医学的要因、薬理学的要因、睡眠時無呼吸症候群などの身体的要因、ストレスなどの心理学的要因など非常に多くの要因があり、個人個人でその要因は異なります。そのため、個々に応じた対応が必要です。
●長期的な運動は寝つき(入眠潜時)を改善させ、夜間中途覚醒が減り、徐波睡眠が増え、全体の睡眠時間が長くなるとの報告があり、療法士として関わる中で運動習慣をつけていくということは基本姿勢としたい。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 4万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018)