パーキンソン病で運動記録アプリの使い方|原因と対策・自宅でできる工夫
記憶は薄れても、記録は残ります。
「調子の良い日と悪い日がある」「いつ動きにくくなるのか、うまく説明できない」。パーキンソン病の症状は一日の中で波のように変わることがあり、それを診察室の短い時間だけで伝えるのは簡単ではありません。運動記録アプリを使えば、見えにくかった波を、見える形に変えられます。原因の考え方と、今日から自宅でできる使い方を整理します。

「うまく、説明できない」。
朝は動きにくいのに、お昼過ぎに受診すると調子が良い。逆に、夕方に急に足がすくんで転びそうになったことも、診察室では再現できない。本人に聞いても「いつだったか、よく覚えていない」——。ご家族から、こうした声をよく伺います。
でも、知ってほしいのです。その波は、記録すれば形になり、医師にもリハビリにも伝わる情報に変わるということを。
パーキンソン病の症状は、一日中同じ強さで出るわけではありません。薬がよく効いている時間帯と、効果が薄れて動きにくくなる時間帯が、交互にやってくることがあります。この変動は本人にも予測しづらく、記憶に残りにくいという特徴があります。だからこそ、記録という手段が力を発揮します。まずは、なぜ症状が波打つのか、その原因から見ていきましょう。パーキンソン病のリハビリ全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
症状が変動する、原因を知る。
パーキンソン病の症状変動には、いくつもの原因が重なっています。薬の効き方だけでなく、生活の中のさまざまな要因が影響することを知っておくと、記録すべきポイントが見えてきます。
| 原因 | どう影響するか |
|---|---|
| 薬の効き目の波(ウェアリングオフ) | 服薬から次の服薬までの間に、効果が切れて動きにくくなる時間帯ができる |
| 食事のタイミング | たんぱく質を多く含む食事の直後は、薬の吸収や効き方に影響することがある |
| 睡眠と疲労 | 睡眠不足や疲れがたまると、翌日の動きにくさが強まりやすい |
| ストレス・緊張 | 人前や慣れない場面など、緊張する状況で症状が強く出ることがある |
| 環境(すくみ足の誘因) | 狭い戸口、方向転換、人混みなど、特定の状況でとっさに足が出なくなることがある |
こうして見ると、「いつ・何をしていたときに・どう動きにくかったか」を記録すること自体が、原因を探る手がかりになるとわかります。次の章から、この視点を具体的な記録の手順にしていきましょう。

STROKE LABの視点:記録を「使える記録」に変える3ステップ。
記録は、ただ書き溜めるだけでは活きません。「誰が見ても、いつ何が起きたかわかる形」に整えることで、初めて診察やリハビリの材料になります。自宅のスマートフォンで、次の3ステップから始めてみてください。

ステップ1:服薬した時刻を記録する。まずはこれだけで構いません。薬を飲んだ時刻を、アプリの通知やワンタップで残します。これが、あとで変動と照らし合わせる基準線になります。
ステップ2:体調の変化を、簡単な言葉と時刻でメモする。「動きにくい」「すくんだ」「よく動けた」など、詳しい説明は不要です。短い言葉と時刻さえあれば、あとから波のパターンが見えてきます。
ステップ3:1〜2週間分をグラフや一覧でまとめ、通院時に持参する。多くのアプリには、記録を振り返る機能があります。印刷やスクリーンショットにして医師に見せると、限られた診察時間でも変動の様子が伝わりやすくなります。
最初から完璧に記録しようとする必要はありません。続けることのほうが、精度より大切です。数日抜けても、また再開すれば十分に役立つ記録になります。どの項目を優先すべきかは人によって異なるため、作業療法士や看護師と相談しながら、自分に合った記録の粒度を見つけていきましょう。
使い方と、アプリ選びのコツ。
運動記録アプリには、目的の異なるいくつかのタイプがあります。何を記録したいかによって、選ぶべき機能は変わります。代表的な機能を整理しておきましょう。

| 機能 | こんな場面で役立つ |
|---|---|
| 服薬リマインダー | 決まった時刻に通知し、飲み忘れや飲む時刻のばらつきを防ぐ |
| 症状日記(ON/OFF記録) | 動きやすい時間帯・動きにくい時間帯をワンタップで残す |
| 歩数・活動量の記録 | 一日の活動量の増減から、体力低下や活動不足への気づきになる |
| 動画の記録 | すくみ足や歩き方の変化など、言葉で説明しにくい様子をそのまま医師に見せられる |
アプリを選ぶときは、機能の多さより本人が無理なく続けられる操作性を優先してください。文字が大きく表示できる、タップの回数が少ない、といった使いやすさが、続けられるかどうかを大きく左右します。手が動かしにくいときは、ご家族が代わりに入力しても構いません。記録と並行して体を動かしておくことも、症状の波を穏やかにする助けになるので、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。
スマートフォンのセンサーや簡単な操作課題を使って日常的にデータを集めた研究では、こうした日常記録から得られる指標が、専門家による症状の重さの評価と関連していたと報告されています。診察室の一時点だけでなく、日常の記録を組み合わせる意義を示す研究のひとつです。
限界:研究段階の技術を含み、市販の記録アプリすべてに同じ精度を保証するものではありません。効果や有用性には個人差があり、記録アプリは診断や治療の代わりにはなりません。
自宅での記録が、症状の波を見える化することだとすれば、専門施設で目指すのは、その記録をもとに「動きやすい時間帯」に合わせて運動を組み立てる、実践的な活用です。記録データへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 動きやすい時間帯の特定。記録から見えたパターンをもとに、リハビリや自主トレを行う時間帯を、本人が最も動きやすい時間に合わせて設計します。
2. すくみ足の誘因への対策。記録された「すくんだ場面」を再現・分析し、方向転換や戸口の通過など、誘因となる動作への対策を個別に練習します。
3. 記録の医療連携への橋渡し。記録データを、通院時に医師へ的確に伝わる形に整理し、薬の調整を担う主治医との連携をサポートします。
STROKE LABが軸足を置くのは、記録を分析し、動きやすい時間帯に合わせて運動と生活のリズムを組み立て直すという流れです。記録はゴールではなく、次の一手を決めるための材料として活用します。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
加速度センサーなどを用いて日常生活の動きを連続的に記録した研究では、短時間の診察では捉えきれない症状の変動を、より詳しく把握できる可能性があると報告されています。記録という行為そのものが、診察を補う視点を提供することを示す一例です。
限界:研究用の機器を用いたものを含み、一般に市販されているすべてのアプリ・デバイスで同様の精度が得られるとは限りません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。記録機器の活用は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
脳リハ.comのYouTubeでは、自宅でできる体操を配信しています。記録で見つけた「動きやすい時間帯」に合わせて、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、記録されたデータをもとに、その人の一日のリズムに合わせて運動プログラムを組み立てます。「記録の中に、どんなパターンがあるか」を一緒に読み解くことが、実践的なアプローチの出発点です。薬の調整は主治医の役割で、私たちは記録データと生活の側から支えます。

受診の目安は、動きにくい時間帯が増えてきた、転倒やすくみ足の頻度が増えた、記録していても波のパターンがつかめず生活に困っている、といったときです。記録はあくまで手がかりであり、原因の特定と薬の調整は医師の診断が必要です。自己判断で薬の量やタイミングを変えず、記録を持って神経内科に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. 運動記録アプリは、パーキンソン病のどんな場面で役に立ちますか?
Q. どんな症状を記録すればよいですか?
Q. 紙の記録ノートではだめなのでしょうか?
Q. 記録を続けると、症状は良くなりますか?
Q. 家族が本人の代わりに記録してもよいですか?

Q. どのアプリを選べばよいかわかりません。基準はありますか?
記録の活かし方は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。記録されたデータを一緒に読み解き、動きやすい時間帯に合わせた運動プログラムや、すくみ足の誘因への対策を、その人に合わせて組み立てます。記録を通院時にどう共有すればよいかのご相談も承ります。薬の調整は主治医を尊重し、記録データと生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
小さな一歩です。

「うまく説明できない」というもどかしさは、症状そのものと同じくらい、患者さんやご家族の心を疲れさせます。診察のたびに、伝えたいことがうまく言葉にならない——そんな悔しさに、これまで何度も向き合ってきました。
お伝えしたいのは、記録は、言葉にできなかったことを、代わりに語ってくれるということです。服薬時刻と体調のメモ、それだけで十分。小さな記録の積み重ねが、より良い治療とリハビリへの扉を開きます。
記録の続け方や活かし方でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。記録から見えてきたパターンをもとに、その方に合う生活のリズムを一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。特定のアプリ・製品の推奨を目的とするものではありません。症状の変化や薬の調整は、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年9月13日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Zhan A, et al. Using Smartphones and Machine Learning to Quantify Parkinson Disease Severity. JAMA Neurology. 2018;75(7):876-880.(日常のスマートフォン記録と症状の重さの指標との関連を示した研究として、第1のエビデンスボックスで言及)
- Maetzler W, et al. Quantitative wearable sensors for objective assessment of Parkinson’s disease. Mov Disord. 2013;28(12):1628-1637.(ウェアラブルセンサーによる連続記録の意義を示した研究として、第2のエビデンスボックスで言及)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.
※本記事の作成にあたり、著者はインターネット検索を行っておりません。引用文献の書誌情報には誤りが含まれる可能性がありますので、実際の治療やリハビリの検討にあたっては、原著論文をご自身でご確認ください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)