パーキンソン病で料理の下ごしらえがしにくい|原因と対策・自宅でできる工夫
まな板を固定するだけで、手はまた動き出します。
玉ねぎのみじん切りに30分かかる。皮むきの途中で手が止まる。包丁を持つのが怖い——。パーキンソン病では、料理の下ごしらえがしにくくなることがあります。原因は一つではなく、動作緩慢・固縮・振戦・両手の協調・すくみなど、複数の症状が重なって起きています。しくみを知り、今日から台所でできる工夫を整理します。

「切る」のが、怖くなった。
長年台所に立ってきたのに、包丁を握る手に力が入らない。皮むきの途中で、次にどう動かせばいいか分からなくなる。急いで刻もうとすると、かえって指が思うように動かない——。毎日のことだけに、できなくなっていく実感はつらいものです。
でも、知ってほしいのです。下ごしらえのしにくさには理由があり、台所と道具、そして動き方を変えるだけで、また手を動かせる場面が増えるということを。
下ごしらえは、皮をむく・切る・混ぜる・計量するなど、いくつもの細かい動作の積み重ねです。それぞれの動作に、指先の細かい動き、両手を別々に使う協調、立ったまま姿勢を保つ力、次の手順を考える力が関わっています。パーキンソン病では、これらのどこか、あるいは複数が影響を受けることで、下ごしらえ全体がしにくくなります。まずは、何が起きているのかを整理していきましょう。全体のリハビリの考え方はリハビリ完全ガイドにまとめています。
下ごしらえが、難しくなる原因。
「手先が不器用になった」とひとくくりにされがちですが、実際には性質の異なる複数の症状が、それぞれ違う形で下ごしらえに影響します。原因によって効く工夫も変わるため、まずは自分(またはご家族)がどれに当てはまりそうか、照らし合わせてみてください。
| 原因 | 下ごしらえで起きること |
|---|---|
| 動作緩慢 | 動きが小さく・遅くなり、皮むきや刻む動作に想像以上の時間がかかる |
| 固縮(筋肉のこわばり) | 手首や指がこわばり、包丁やピーラーを滑らかに動かしにくくなる |
| 振戦(ふるえ) | じっとしているときに手が震え、包丁や熱いものを扱う不安が増す |
| 両手の協調(バイマニュアル) | 「片手で押さえて片手で切る」など、左右で違う動きを同時に行うのが苦手になる |
| すくみ(動作の途中で止まる) | 次の食材に手を伸ばす、道具を持ち替えるといった切り替えの瞬間に動きが止まる |
| 姿勢反射障害・立位バランス | シンクの前に立ち続けるのが不安定で、作業に集中しにくい |
| 遂行機能(段取り) | 複数の食材を同時に進める、順序を組み立てるのが負担に感じられる |
| 薬の効果の波(オン・オフ) | 同じ日でも、時間帯によって下ごしらえのしやすさが大きく変わる |
大切なのは、「不器用になった」で終わらせず、どの要素が強く出ているかを見極めることです。固定すれば楽になるのか、区切れば楽になるのか、時間帯を変えれば楽になるのか。次の章から、原因に対応した具体的な工夫を見ていきます。

STROKE LABの視点:台所を「分割式」に変える。
下ごしらえの工夫でいちばん手早く効くのが、一つの複雑な作業を、小さく区切られた単純な動作に分けることです。分けることで、両手協調やすくみの負担が減り、一つひとつの動作に集中できます。今日から台所で試せる3ステップにまとめました。
ステップ1:まな板と食材を「固定する」。まな板の下に滑り止めシートを敷き、可能ならくぎ付きのまな板(食材を刺して固定できるもの)を使います。食材が動かなければ、片手で押さえる動作そのものが要らなくなり、両手協調の負担が大きく減ります。
ステップ2:作業を「区切る」。「玉ねぎの皮をむく」「半分に切る」「みじん切りにする」のように、一連の作業を細かい工程に分け、一工程ごとに手を止めて一呼吸おきます。次の工程に移る前に「次は、切る」と声に出すのも、すくみの予防に役立ちます。
ステップ3:刻む動作に「リズム」をつくる。「トン、トン、トン」と声に出しながら、あるいはキッチンタイマーやメトロノームアプリの一定のテンポに合わせて刻みます。一定のリズムが動きの手がかりになり、動作が詰まりにくくなります。

この3つは、単独ではなく組み合わせて使うほど効果を感じやすくなります。まずは慣れた一品(味噌汁の具材など)で試し、うまくいった工夫を少しずつ他の料理にも広げていくのがおすすめです。合う工夫の組み合わせは人それぞれなので、作業療法士と一緒に調整すると近道です。

道具と、工程別の工夫。
3ステップの考え方に加えて、工程ごとに合う道具を選ぶと、さらに負担が減ります。道具は「できないことを補う」ためのものであり、頼ることは決して後ろ向きな選択ではありません。
切る工程には、刃を上下に押し出して切るロッカーナイフや、握りが太く力の入りやすい柄のついた包丁が向いています。振戦が強いときは、食材を刺して安定させるフォーク付きのまな板を併用すると安心です。皮むきには、Y字型よりもT字型のピーラーのほうが力を伝えやすい方もいます。瓶や袋を開ける工程には、滑り止め付きのオープナーや電動缶切りが有効です。計量する工程には、目盛りの大きい計量カップや、こぼれにくい注ぎ口のついた容器が扱いやすくなります。

立位バランスに不安があるときは、椅子やスツールに座って作業するだけで、注意を作業そのものに向けやすくなります。薬の効果に波があるときは、薬がよく効いている時間帯に下ごしらえをまとめて行い、保存容器で冷蔵・冷凍しておくという段取りも現実的です。同時に二つの作業を進めようとすると動きが乱れやすいため、一つの作業に集中し、次の作業に移ってから前の作業を思い出すくらいのペースを心がけてみてください。手や体を動かしておくと下ごしらえの土台も安定しやすいので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。フードプロセッサーや電動ピーラーなど電動調理器具に任せる工程を増やすのも、賢い選択です。
パーキンソン病の方103名を対象にした無作為化比較試験では、生活動作に即した課題を用いた自宅での巧緻動作訓練を4週間行った群は、一般的な運動を行った群に比べて、手先の巧緻性と、それに関連する生活動作(ADL)が有意に改善したと報告されています。
限界:改善の効果は12週間後の追跡評価では維持されておらず、継続した練習が必要であることが示されています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。訓練は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、固定や道具でその場で作業をしやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、道具の助けを減らしても動ける状態に近づける回復的アプローチです。下ごしらえへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 個々の症状を見極めた評価。動作緩慢・固縮・振戦・両手協調・すくみのどれが強く出ているかを動作分析で確認し、その方に必要な工夫だけに絞り込みます。
2. 大きく動く運動学習と両手協調練習。あえて大きな動作を繰り返し、縮こまった動きの幅を上肢全体から立て直しながら、左右で違う動きを同時に行う両手協調の練習を段階的に行います。
3. 実際の台所を使った練習。その方の台所の高さ・道具・よく作る料理を題材にして練習することで、練習の成果がそのまま生活に活きやすくなります。
STROKE LABが軸足を置くのは、大きく確実な動きを繰り返して運動を学習し、成功体験を積みながら、少しずつ道具への依存を減らしていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方を対象にした無作為化比較試験では、大きく確実な動きに焦点をあてた課題指向型の訓練を通常の作業療法に組み合わせた群は、通常の作業療法のみの群に比べて、利き手・非利き手いずれの手の機能も改善し、生活動作(ADL)もより大きく改善したと報告されています。
限界:対象者数は14名と多くなく、より大規模な検証が必要とされています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。集中的な訓練には専門的な評価と指導が前提です。
脳リハ.comのYouTubeでは、手や体を大きく動かす体操を配信しています。下ごしらえの土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その方が実際に困っている台所の様子や、よく作る料理を確認したうえで、固定具・道具・動作の順序を、その人に合わせて組み立てます。「実際に困っている工程」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診・相談の目安は、工夫をしても改善が見られない、切る・熱を扱うといった場面で危険を感じることが増えてきた、下ごしらえ以外にも動作の変化が広がってきた、といったときです。手の使いにくさの原因は、パーキンソン病だけとは限りません。自己判断せず、神経内科や主治医に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 野菜を切る、皮をむくといった下ごしらえが急に苦手になりました。パーキンソン病のせいですか?
Q. 包丁を使うのが怖くなってきました。もう料理はできないのでしょうか?

Q. 自宅でできる、台所の工夫はありますか?
Q. 下ごしらえの練習は、リハビリとして意味がありますか?
Q. 家族はどこまで手伝えばよいですか?
Q. 下ごしらえのしにくさは、いつ受診・相談すべきサインですか?
台所の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている台所の場面を一緒に確認し、固定具・道具・動作の順序を、その人に合わせて組み立てます。よく作る料理や実際のキッチンを題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
台所はまた動ける場所になります。

台所に立てなくなると、長年続けてきた「家族のために作る」という役割そのものが揺らぎます。「もう料理はできないかもしれない」と、道具を片づけかけていた方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、まな板を固定し、作業を区切り、リズムをつくるだけで、また動かせる場面が驚くほど増えるということです。原因を一つに決めつけず、その方に合う工夫を積み重ねていく。そうすると、台所は少しずつ「怖い場所」から「動ける場所」に変わっていきます。
下ごしらえでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際の台所とよく作る料理を題材に、その方に合う動き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。手の使いにくさには他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月29日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Vanbellingen T, Nyffeler T, Nigg J, et al. Home based training for dexterity in Parkinson’s disease: A randomized controlled trial. Parkinsonism Relat Disord. 2017;41:92-98.(生活動作に即した自宅での巧緻動作訓練が手先の巧緻性と関連ADLを改善したが、12週後は効果が持続しなかったと報告。第1エビデンスボックスの出典)
- Choi Y, Kim D. Effects of Task-Based LSVT-BIG Intervention on Hand Function, Activity of Daily Living, Psychological Function, and Quality of Life in Parkinson’s Disease: A Randomized Control Trial. Occup Ther Int. 2022;2022:1700306.(課題指向型の大きく動く訓練が手の機能とADLを改善したと報告。第2エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)