調理中に立ち続けられない|原因と対策・自宅でできる工夫
立てないのは、怠けではありません。
台所に立つと、数分でつらくなって座り込んでしまう。それはパーキンソン病でよくみられる状態です。原因は一つではなく、姿勢を保つ働き・血圧の変動・筋肉の疲れやすさなどがいくつも重なって起こります。しくみと、今日から台所でできる立て直し方を整理します。

気づいたら、座り込んでいた。
鍋の前に立って数分すると、足が重くなり、腰も曲がってくる。フライパンを振りながら次の手順を考えていたら、急に目の前が暗くなった——。長年台所に立ってきた方ほど、「これくらいできて当たり前」と自分を責めてしまいがちです。
でも、知ってほしいのです。「立てない」の裏には複数の原因が重なっていて、その組み合わせを知ることで、台所仕事はまだ続けられるということを。
パーキンソン病では、調理中に立ち続けられないという困りごとが多く聞かれます。台所は、立つ・手を動かす・火加減を見る・段取りを考えるという作業が同時に重なる場所で、生活の中でも特に負担が集中しやすい空間です。まずは「なぜ立てなくなるのか」を整理し、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
立てなくなる、5つの原因。
「調理中に立てない」は、ひとつの症状ではありません。複数の要因が重なって起こる、いわば”合わせ技”です。混同すると対処がずれてしまうため、一つずつ整理しておきましょう。
| 原因 | 気づきやすいサイン |
|---|---|
| 姿勢保持の低下 | 立っているうちに前かがみになる、体が揺れる、支えがないと不安になる |
| 起立性低血圧 | 立ち続けていると目の前が暗くなる、ふらつく、湯気や暑さで悪化する |
| 筋固縮・易疲労性 | 短時間で足や腰が重だるくなる、休むと少し楽になる |
| 薬効の波(ウェアリングオフ) | 時間帯によってつらさが大きく変わる、次の服薬が近いと特に強い |
| 二重課題の負荷 | 手を動かしながら考えると、急に足がすくむ・体が固まる |
姿勢保持の低下は、パーキンソン病の姿勢反射障害によるものです。立位を微調整し続ける働きが弱くなり、立っているだけで体力を使います。起立性低血圧は自律神経症状のひとつで、立ち続けることで血圧が下がりやすくなります。台所は熱がこもりやすく、症状が出やすい環境でもあります。
筋固縮・易疲労性は、筋肉のこわばりにより少ない動作でも疲れやすくなる状態です。薬効の波は、薬の効果が続く時間に限りがあるために生じます。そして二重課題の負荷は、「立つ」という動作に「手先の作業」や「段取りを考える」ことが重なると、脳の処理が追いつかず、動きがぎこちなくなったり、すくんだりするために起こります。台所仕事は、まさにこの二重課題の代表例なのです。

STROKE LABの視点:台所を「休み方つき」に変える。
原因が重なっているからこそ、対策も一つに絞らず台所そのものを「休みながら作業できる場所」に変えるのが近道です。特別な工事は要りません。次の3ステップで、今日から始められます。

ステップ1:台所に「座れる場所」を1か所つくる。調理台の横に、高さのあるスツールやキッチンチェアを置きます。座ったまま作業台に手が届く高さに調整しておくと、途中で座って続けられます。
ステップ2:作業を「立つ工程」と「座れる工程」に仕分ける。野菜を切る・皮をむくなど手元中心の作業は座って、炒める・煮るなど火の前での作業は立って、と役割を分けます。全部を立ってこなそうとしないことが要です。
ステップ3:タイマーで「区切る」習慣をつくる。「5分立ったら一度座る」など、自分なりの区切りを決め、キッチンタイマーで知らせるようにします。つらくなってから座るのではなく、つらくなる前に座るのがポイントです。
この3ステップの狙いは、「頑張って立ち続ける」から「無理なく作業を続ける」へ発想を変えることです。座る場所と区切りがあらかじめ用意されていれば、途中で座ることへの後ろめたさも減ります。合う配置や時間の区切り方は人それぞれなので、作業療法士と一緒に自宅の台所を見ながら調整すると近道です。
姿勢・動き方・道具の工夫。
台所の配置を整えたら、立ち方と動き方でさらに安定します。合言葉は「支える面を増やし、一つずつ動く」ことです。
立つときは、足を軽く前後・左右に開いて支持基底面(体を支える足の面積)を広げると安定します。作業台やシンクの縁に軽く手を添えるだけでも、支えが増えて疲れにくくなります。振り返る、方向を変えるといった動作は、その場で足踏みをしてから一歩ずつ向きを変えると、すくみにくくなります。
道具では、滑り止めマットを足元に敷く、よく使う調味料や道具は手を伸ばさず届く高さに集める、片手鍋より両手鍋(軽いもの)を選ぶといった工夫が負担を減らします。特に火を使う工程は転倒のリスクが高い場面のため、無理に急がず、体調がすぐれない日は電子レンジ調理に切り替えるなど、日によって手段を変える柔軟さも大切です。運動で下肢や体幹を動かしておくと立位も安定しやすくなるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

パーキンソン病の方を対象にした運動学の研究では、立位や歩行に別の作業(計算・会話・物を運ぶなど)を重ねる二重課題条件で、姿勢の揺れや歩行の乱れが単一課題時より大きくなりやすいことが繰り返し報告されています。台所仕事のように「立つ+手を動かす+考える」が同時に起こる場面は、まさにこの二重課題そのものです。
限界:研究によって課題の設定や対象者の重症度が異なり、効果の大きさには幅があります。個々の場面での実際の負担は、体調や薬効のタイミングによっても変わります。本記事の出典は生成AIにより整理したものであり、正確な文献は改めて一次資料でご確認ください。
台所の工夫が環境を変えることでその場の負担を減らす代償だとすれば、専門施設で目指すのは、立ち続ける体力そのものと、二重課題への耐性を育てる回復的アプローチです。立位保持への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 姿勢制御の練習。立位でのバランス反応や体幹の使い方を、動作分析にもとづいて評価し、崩れやすい方向を狙って練習します。
2. 二重課題トレーニング。立ちながら手を動かす・考えるという組み合わせを、段階的に難易度を上げながら練習し、台所仕事に近い場面への耐性を育てます。
3. 持久力と自律神経面への配慮。易疲労性や起立性低血圧の傾向がある場合は、無理のない範囲で立位・歩行の持久力を高める運動を取り入れつつ、必要に応じて主治医と情報共有しながら進めます。
STROKE LABが軸足を置くのは、環境調整で「今できること」を確保しながら、並行して体そのものの余力を育てていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
脳リハ.comのYouTubeでは、下肢・体幹の持久力を高める体操を配信しています。台所仕事の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際の台所での動きを見ながら、どの原因が強く出ているかを見極め、環境調整・姿勢の練習・二重課題トレーニングの配分を、その人に合わせて組み立てます。「実際に困っている台所」を題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活環境の側から支えます。
受診の目安は、立ち上がりや立位中に目の前が暗くなる・動悸を伴う、転倒したことがある、症状が急に悪化した、といったときです。立てなくなる原因が起立性低血圧など血圧の問題であれば、薬の調整や生活指導が必要になることがあります。自己判断せず、神経内科・主治医に確認してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 調理中に立っているのがつらくなるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 台所で急にふらつく・目の前が暗くなるのはなぜですか?
Q. 料理中だけ特につらいのはなぜですか?

Q. 台所でできる工夫はありますか?
Q. 薬の効いている時間と台所仕事は関係がありますか?

Q. 立位保持のリハビリで良くなりますか?
台所の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている台所での場面を一緒に確認し、環境の配置・立ち方・二重課題への練習を、その人に合わせて組み立てます。実際の生活動作を題材にするので、練習がそのまま暮らしに活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活環境の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
台所は変わります。

台所に立てなくなると、長年当たり前にやってきた家事から遠ざかり、「自分はもう役に立てない」と感じてしまう方に、たくさん出会ってきました。ですが、立てない理由は一つではなく、体力の問題だけでも、気持ちの問題だけでもありません。
お伝えしたいのは、椅子を1脚置き、作業を仕分け、休むタイミングを決めるだけで、台所仕事はまだ続けられるということです。全部を立ってこなす必要はありません。座れる工程は座っていい。それだけで、負担はぐっと軽くなります。
台所仕事でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う立ち方・休み方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。立位保持のつらさには複数の要因が関わります。立ちくらみや転倒を伴う場合は、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年7月6日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- 二重課題(デュアルタスク)が姿勢制御・歩行に与える影響に関する研究群(要一次資料確認)。本記事のエビデンス欄はAIによる整理であり、正確な出典は改めてご確認ください。
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)