滑り止めマットの正しい使い方|パーキンソン病の転倒・すくみ足を防ぐ工夫
境目は敵、縞は味方です。
滑らないようにと敷いた滑り止めマットで、かえって足がすくんだりつまずいたりする。それはパーキンソン病でみられる、すくみ足という症状が関わっているかもしれません。マットの「ふち」は転倒の引き金にも、選び方次第で歩行の合図にもなります。しくみと、今日から自宅でできる敷き方の見直し方を整理します。

「敷いたのに、転びそうになった」。
転倒が心配で、玄関や浴室、廊下に滑り止めマットを敷いた。ところが、そのマットのふちにさしかかると、なぜか足が止まる。あるいは、マットの上でつまずきそうになる。「良かれと思って敷いたのに、かえって危なくなった気がする」というご家族の声を、私たちはよく耳にします。
実はこれ、マットそのものが悪いわけではありません。パーキンソン病では、床の変化そのものが足を止めるきっかけになることがあるのです。しくみを知れば、敷き方はいくらでも見直せます。
滑り止めマットは、転倒予防の代表的な工夫のひとつです。しかしパーキンソン病では、マットを敷く場所や敷き方によって、かえってつまずきやすくなることがあります。まずはそのしくみを整理し、そのうえで具体的な見直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
なぜ、マットでつまずくのか。
マットでのつまずきや転倒は、ひとつの原因だけで起きているとは限りません。パーキンソン病では、いくつかの症状が重なって、床の変化を危険なものに変えてしまいます。代表的なものを整理しておきましょう。
| 原因 | マットとの関わり方 |
|---|---|
| すくみ足 | 戸口やマットのふちなど、床が変わる境目で、足が一瞬止まってしまう |
| 姿勢反射障害 | マットのずれや厚みでバランスを崩したとき、とっさに立て直しにくい |
| 視覚・空間認知の変化 | 模様や色の急な切り替わりを、脳が実際の段差のように処理してしまうことがある |
| 起立性低血圧 | 立ち上がった直後にふらつき、浴室などマットの上でバランスを崩しやすい |
| 二重課題(ながら動作) | 物を持つ・話しながら歩くなど、注意が分かれると境目への反応が遅れる |
| 薬の効果の波(オフ状態) | 薬の効きが弱い時間帯は、すくみ足や姿勢反射障害が強く出やすい |
こう並べてみると、マットでのつまずきは「注意力の問題」でも「マットが悪い」わけでもなく、いくつもの原因が重なって起きているとわかります。だからこそ、原因を一つに決めつけず、敷き方そのものを見直すことが対策になります。次の章から、具体的な手順にしていきましょう。

STROKE LABの視点:床を「キュー付き」に変える。
対策の軸になるのは、境目をなくす工夫と、境目を歩行の合図に変える工夫を、場所によって使い分けるという考え方です。自宅にあるマットや床材で、次の3ステップから見直せます。
ステップ1:段差ゼロで固定する。マットの四辺を面ファスナーや滑り止めシートでしっかり固定し、ふちが浮いたりめくれたりしないものを選びます。厚みは薄いほど、境目の段差は小さくなります。
ステップ2:境目のコントラストを整える。床とマットの色が、真っ黒と真っ白のように急に切り替わらないよう、ほどよい明度差の落ち着いた色を選びます。複雑な柄や光沢のある素材は、境目を実際以上に目立たせてしまうため避けます。
ステップ3:すくみやすい場所には、縞模様を歩行の合図にする。廊下の曲がり角やトイレの前など、足が止まりやすい場所には、あえて進行方向に対して横向きの縞模様のマットやテープを敷き、またぐ目印として使います。これは視覚キューと呼ばれる方法で、次の一歩を踏み出す助けになります。
つまり、玄関や廊下のような「通り抜ける場所」は段差ゼロを優先し、すくみ足が特に出やすい特定の一点だけ、縞模様を合図として活用する、という使い分けです。どこにどの工夫を置くかは、実際につまずきやすい場所によって変わるため、作業療法士と一緒に自宅を確認しながら調整すると近道です。

場所別・選び方と敷き方。
同じ「滑り止めマット」でも、置く場所によって注意点は変わります。生活動線に沿って、要点を整理します。
玄関・上がり框。もともとの段差が大きい場所は、マットで埋めようとせず、手すりと明るい照明を優先します。段差にマットを重ねると、逆にふちが増えて危険になることがあります。
浴室・脱衣所。吸盤付きで厚み3mm前後の薄いマットを選び、濡れても乾きやすい素材にします。起立性低血圧が重なりやすい場所でもあるため、立ち上がりはゆっくりを心がけます。
トイレ。立ち座りの動線の真上にマットの境目が来ないよう配置します。便座の前後で床材が変わる場合は、色の切り替わりが急にならないよう調整します。
廊下。部分的なマットより、床材そのものを揃えるほうが、境目が減って安全なことがあります。どうしてもマットが必要な場合は、細長いランナータイプより、通路全体を覆う一枚敷きが境目を減らせます。
靴下・スリッパとの相性。滑りやすい靴下やスリッパの上に、滑り止めマットの摩擦だけで対処しようとせず、足元そのものの滑りにくさも合わせて見直すと安定します。夜間は照明が不十分だと境目が見えず危険が増すため、足元灯の設置も有効です。運動で体幹やバランスの土台を整えておくことも役立つので、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。

パーキンソン病の方を対象に、自宅で視覚(床の線など)・聴覚・体性感覚の合図を使う練習を行った研究では、合図を使った練習を続けたグループで、歩行に関わる生活の広がりや、すくみ足に伴う移動のしにくさが改善したと報告されています。
限界:効果には個人差があり、進行に伴って変動します。合図の効果は、練習を積み重ねるほど安定しやすいとされ、一時的に敷くだけでは十分でないこともあります。書字や運動の練習と同様、薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が環境を整える代償的アプローチだとすれば、専門施設で目指すのは、環境が変わっても足が止まりにくい体に近づける回復的アプローチです。すくみ足への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 個別のキューイング設計。視覚(線)だけでなく、聴覚(一定のリズム)や体性感覚の合図も試し、その人にいちばん反応がよいキューを見極めます。
2. 大きく踏み出す歩行練習。あえて歩幅を大きくとる練習を繰り返し、脳が縮めてしまう一歩の幅を、歩行全体から立て直します。
3. 姿勢とバランスの土台。とっさに立て直せる体幹の反応や、方向転換のときの重心移動を整え、境目で崩れにくい身体の下地をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、その人の自宅を実際に想定しながら、どの場所で、どんな合図が効くのかを一緒に見極め、環境の工夫と体の練習を同時に組み立てるという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
足元に線状の視覚キューを投影する方法を検証した研究では、すくみ足のエピソードが減り、歩く速さが上がったと報告されています。境目そのものではなく、あえて足を置く目印を用意することで、一歩を踏み出しやすくするという考え方です。
限界:これは対照群を置かない小規模な研究で、効果の大きさには個人差があります。すべての方に同じように効くわけではなく、キューの向きや間隔が合わないとかえって混乱を招くこともあります。導入は専門家の評価のもとで行うのが安全です。
脳リハ.comのYouTubeでは、バランスや大きく踏み出す歩行の体操を配信しています。環境の工夫とあわせて、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際にご自宅を確認しながら、どの場所で・どんなときに足が止まりやすいかを一緒に把握し、マットの選び方や配置、色のコントラスト、キューの種類を、その人に合わせて調整します。「実際につまずいた場面」を確認の題材にすると、対策がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは環境と動作の側から支えます。
受診の目安は、転倒やつまずきが増えてきた、すくみ足が強くなってきた、立ち上がった直後のふらつきが目立つ、といったときです。マットでのつまずきの原因は一つとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. 滑り止めマットを敷いたら、逆によろけるようになりました。なぜですか?

Q. マットの模様や色は、何でもよいのですか?

Q. 自宅でできる敷き方の工夫はありますか?
Q. マットの模様で、すくみ足は本当に減らせますか?
Q. 滑り止めマット以外にも、転倒対策はありますか?

Q. マットでのつまずきは、パーキンソン病の症状のせいですか?他の原因もありますか?
転倒・環境の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際につまずいた場面を一緒に確認し、マットの選び方・配置・色のコントラスト・キューの使い方を、その人に合わせて組み立てます。ご自宅の間取りを想定した提案ができるので、対策がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、環境と動作の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
見直すだけで変わります。

「転倒が心配で滑り止めマットを敷いたのに、かえって危なくなった気がする」——そう不安そうに話すご家族に、私たちはたくさん出会ってきました。良かれと思ってした工夫が、うまくいかないと、次にどうすればよいか分からなくなってしまいます。
お伝えしたいのは、マットのふちを1本見直すだけで、歩きやすさは驚くほど変わることがあるということです。段差はなくし、すくみやすい一点だけ合図に変える。ちょっとした敷き方の工夫で、安心して歩ける場面はまだまだ広がります。
転倒や環境づくりでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。つまずいた場面そのものを題材に、ご自宅に合う工夫を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。転倒の原因には他の要因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年9月9日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, Kwakkel G, Rochester L, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での視覚・聴覚・体性感覚キュー練習が歩行に関わる移動能力を改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Donovan S, Lim C, Diaz N, et al. Laserlight cues for gait freezing in Parkinson’s disease: an open-label study. Parkinsonism Relat Disord. 2011;17(4):240-245.(足元の線状の視覚キューがすくみ足のエピソードを減らし歩行速度を改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)