パーキンソン病で冠婚葬祭に参加したい|原因と対策・自宅でできる工夫
出席したい、その気持ちを支えたい。
結婚式や葬儀、法要——大切な場面ほど、体が思うように動かないことへの不安が大きくなります。パーキンソン病で冠婚葬祭がつらく感じるのには、はっきりとした理由があります。当日の一つひとつの動作を、自宅で先に「小さく分解して」備えておくことで、参加できる場面は確実に広がります。原因と、今日からできる準備を整理します。

「行きたい」のに、迷ってしまう。
披露宴の会場で急に足が止まってしまったら。焼香の順番で、手が震えて灰をこぼしてしまったら。祝辞や弔問の場で、声が小さくて相手に伝わらなかったら——。冠婚葬祭は人生の節目であるからこそ、「失敗できない」という緊張が大きくなります。
でも、知ってほしいのです。その不安の多くには理由があり、事前の準備で小さくできるということを。
パーキンソン病では、動作の緩慢さ、すくみ足、姿勢を保つ力の低下、声の小ささなど、複数の症状が冠婚葬祭という特殊な場面で同時に表に出やすくなります。加えて「見られている」という緊張そのものが、症状を強めることもあります。まずは何が起きやすいのかを知ることが、備えの第一歩です。全体的なリハビリの考え方はリハビリ完全ガイドにまとめています。
式場で、つまずきやすい理由。
冠婚葬祭には、パーキンソン病の症状が出やすい条件が数多く重なっています。「その人の意志が弱いから」ではなく、環境と症状の組み合わせで起きていることを知っておくと、気持ちが少し楽になります。
| 場面 | 起こりやすいこと |
|---|---|
| 受付・玄関・敷居 | 狭い通路や段差、方向転換で、すくみ足が出やすい |
| 記帳・香典・ご祝儀 | 緊張下での細かい手指の動きが乱れやすい |
| 焼香・玉串奉奠・献杯 | 一連の動作の切り替えに時間がかかりやすい |
| 長時間の起立・正座 | 立ち上がり時の血圧低下でふらつくことがある |
| 挨拶・弔問の言葉 | 声が小さく・こもりやすく、聞き取りにくくなることがある |
こうした場面には、共通する背景があります。動きが小さく・遅くなる動作緩慢、狭い場所や敷居で足が出にくくなるすくみ足、姿勢を保つ反射の低下、そして自律神経の働きの変化による血圧のコントロールのしにくさです。緊張や「早くしなければ」という焦りが、これらの症状をさらに強めることも知られています。原因が分かれば、対策も具体的にできます。

STROKE LABの視点:動作を「小さく分解」して備える。
冠婚葬祭は、初めて経験する一連の動作の連続です。式場でいきなり本番を迎えるのではなく、自宅で場面ごとに分解してリハーサルしておくのが、いちばん効果的な備え方です。次の3ステップで整理できます。

ステップ1:動線を先に確認し、キューを決めておく。可能であれば式場の写真や見取り図を見て、狭い通路や扉、方向転換の多い場所を把握します。自宅の廊下で、床にテープなどの目印を貼り、「1、2、1、2」とリズムをとりながら歩く練習をしておくと、当日すくみ足が出ても足を出すきっかけをつかみやすくなります。
ステップ2:記名・焼香などの一連の動きを自宅でリハーサルする。香典袋やご祝儀袋への記名は、罫線や目印のある紙で当日より前に済ませておくと安心です(書字の工夫は小字症の記事もご参照ください)。焼香や玉串奉奠の作法も、自宅で実際の手順どおりに数回練習しておくと、本番で体が流れを覚えていて動きやすくなります。
ステップ3:服装と持ち物を「すぐ動ける」仕様に整える。小さなボタンより、着脱しやすい留め具の礼服を選ぶ、履き慣れた靴にする、といった工夫で、着替えや歩行のハードルを下げられます。折りたたみ椅子や水分補給用のボトルなど、必要なものはあらかじめ鞄にまとめておきましょう。
「本番前に自宅で一度やってみる」というシンプルな考え方が、当日の緊張を大きく減らします。どのキューが合うか、どの動作が特に苦手かは人によって違うため、作業療法士や理学療法士と一緒に確認すると、より的確な準備ができます。
パーキンソン病の方を対象に、リズムなどの手がかり(キュー)を使った自宅での理学療法プログラムを検証した大規模な無作為化試験(RESCUEトライアル)では、キュー訓練によって歩行・すくみ足・バランスに特有の効果がみられたと報告されています。
限界:訓練の効果は6週間の休止後にはかなり弱まったと報告されており、継続的な使用や見直しが必要とされています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。日常生活動作や生活の質全体への波及効果は限定的だったとも報告されており、キューはあくまで歩行を助ける道具のひとつとして位置づけるのが現実的です。
当日を、穏やかに乗り切るコツ。
準備をしていても、当日は緊張するものです。「完璧にこなす」ではなく「無理なく乗り切る」ことを目標にすると、気持ちが楽になります。
服薬が最も効いている時間帯(オン状態)を式の中心時間に合わせられると、動きやすさがまったく違います。ただし服薬の量やタイミングの調整は必ず主治医に事前相談してから行ってください。会場には、可能であれば椅子席や出口に近い席を事前にお願いし、立ち上がるときはゆっくりと、いったん足首を動かしてから腰を上げるとふらつきを防ぎやすくなります。長時間の起立や正座が予想される場面では、休憩できるタイミングをあらかじめ考えておきましょう。喉が渇く前の水分補給や、少し塩分を意識した食事も、立ちくらみの予防に役立ちます。声の小ささが気になるときは、短い挨拶の言葉を事前に決めておき、お腹から声を出すことを意識してゆっくり話すと伝わりやすくなります。事情を知っているご家族や友人が一人そばにいるだけで、心強さはまったく違います。運動で全身の動きやすさを整えておくことも、当日の安定につながるので、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。

パーキンソン病における起立性低血圧(立ち上がったときに血圧が下がる症状)の有病率を調べた系統的レビューとメタ分析では、診断を受けたパーキンソン病の方の一定割合にみられる、決してまれではない症状と報告されています。立ち上がる動作をゆっくり行うこと、足を組む・つま先立ちをするなどの体を使った対処法、こまめな水分補給が助けになるとされています。
限界:症状の出方や重さには個人差が大きく、進行や服薬状況によっても変動します。めまいやふらつきが強いとき、失神したことがあるときは、自己対処に頼らず主治医に相談してください。
自宅での準備が基本動作の土台づくりだとすれば、専門施設で目指すのは、実際の会場を想定した一連の動作の再現練習です。冠婚葬祭への備えは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 立ち上がり→歩行→方向転換→着座の連続練習。式場での動きは単発の動作ではなく連続した流れです。この一連の流れを、実際の生活環境に近い条件で繰り返し練習し、予測性と安定性を高めます。
2. 起立性低血圧への具体的な対処指導。血圧の変動パターンや症状の出方は人によって異なるため、その人に合った立ち上がり方や休憩のタイミングを、専門的な視点から見極めます。
3. 発声と姿勢の土台づくり。声の大きさや通りやすさは、呼吸や姿勢の安定と深く関わります。必要に応じて言語聴覚士とも連携し、挨拶の場面で伝わる声づくりを支えます。
STROKE LABが軸足を置くのは、「困っている場面」そのものを練習の題材にし、成功体験を積みながら本番に近づけていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。服薬の調整は主治医の役割であり、私たちは動作と生活の側から支えます。
脳リハ.comのYouTubeでは、立ち座りや歩行の安定につながる体操を配信しています。冠婚葬祭の前の準備運動として、無理のない範囲で試してみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、行事の日程が決まった段階で早めに相談いただくと、準備の時間を十分に確保できます。「どの動作が特に苦手か」「どんな環境で症状が出やすいか」を一緒に洗い出すことから始め、その人の生活と行事に合わせた練習を組み立てます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、立ちくらみで失神したことがある、転倒が増えてきた、行事以外の場面でも症状の変動が大きくなってきた、といったときです。症状の背景には他の原因が隠れていることもあるため、気になる変化は自己判断せず、神経内科で確認してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. 冠婚葬祭で急に足が止まってしまうのはなぜですか?

Q. 香典袋の記名や焼香がうまくできるか不安です。対策はありますか?
Q. 立ちっぱなしや正座がつらいときはどうすればよいですか?
Q. お薬のタイミングは、式の予定に合わせて変えてよいですか?
Q. 声が小さいと言われます。お悔やみの言葉が伝わるか心配です。
Q. 症状が出るのが怖くて、参加自体を迷っています。どう考えればよいですか?
行事前のご相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。結婚式や葬儀など、日程が決まっている行事に向けて、困っている場面を一緒に確認し、動線・動作・服装までを含めて具体的に組み立てます。実際の場面を題材にするので、練習がそのまま本番に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
準備すれば、参加できる。

「症状が出るのが怖くて、大切な人の結婚式や葬儀を欠席した」というお話を、これまで何度もうかがってきました。行けなかったことへの後悔は、想像以上に長く心に残ります。
お伝えしたいのは、冠婚葬祭の困りごとの多くは、事前の準備で確実に小さくできるということです。動線を歩く練習、動作のリハーサル、当日のちょっとした工夫。積み重ねが、当日の安心につながります。
大切な日を控えてご不安なら、どうぞ一度ご相談ください。日程から逆算して、その方に合う準備を一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。症状の出方や体調には個人差があります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年9月2日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, Kwakkel G, Rochester L, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅でのキュー訓練が歩行・すくみ足・バランスに効果を示した無作為化試験。第3節エビデンスボックスの出典)
- Velseboer DC, de Haan RJ, Wieling W, Goldstein DS, de Bie RM. Prevalence of orthostatic hypotension in Parkinson’s disease: a systematic review and meta-analysis. Parkinsonism Relat Disord. 2011;17(10):724-729.(パーキンソン病における起立性低血圧の有病率を検討した系統的レビュー。第4節エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)