パーキンソン病で薬の飲み忘れを防ぐ工夫|原因と対策・自宅でできる工夫
飲み忘れは、意思の弱さではありません。
「気をつけているのに、また忘れてしまった」。パーキンソン病の薬は、飲む時間がずれるだけで動きにくさが顔を出しやすくなります。でも忘れてしまうのは、記憶・動作・気分など、いくつもの要因が重なって起こる自然なことです。しくみを知り、今日から自宅でできる立て直し方を整理します。

「また、忘れてしまった。」
お昼の薬を、テレビを見ているうちに忘れてしまった。気づいたときには、もう夕方の薬の時間が近づいていて、体が急にこわばってきた——。1日に何度も、決まった時間に薬を飲む生活は、想像以上に負担が大きいものです。ご本人だけでなく、見守るご家族も「また声をかけそびれた」と自分を責めてしまうことがあります。
でも、知ってほしいのです。飲み忘れは意思の弱さではなく、いくつもの要因が重なって起こる自然なことだということを。そして、環境を少し変えるだけで、ぐっと防ぎやすくなるということを。
パーキンソン病の薬は、体の中の薬の濃度をできるだけ一定に保つことで効果を発揮します。そのため、飲む回数が多く、時間のずれが症状に直結しやすいという特徴があります。まずはなぜ忘れやすいのか、そのしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
飲み忘れが起こる、しくみと原因。
飲み忘れというと「うっかり忘れた」という記憶の問題だけに思われがちですが、実際には記憶・動作・注意・気分など、いくつもの要因が重なって起こります。原因を知ることが、対策の第一歩です。
| 原因 | どういうことか |
|---|---|
| スケジュールの複雑さ | 1日に何度も、食前・食後など違うタイミングで飲む薬が多く、把握しづらい |
| 記憶・注意の働きにくさ | 他のことに気を取られると、服薬のタイミングそのものを忘れやすい |
| 動作の細かさ | 薬包やPTPシートが開けにくく、面倒に感じて後回しにしてしまう |
| 気持ちの向きにくさ | やる気が出にくい時期は、決まった行動を続けること自体が負担になりやすい |
| 生活リズムの乱れ | 外出や来客など、いつもと違う予定があると服薬のタイミングがずれやすい |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。記憶に頼らず、環境の側から思い出せる仕組みをつくればよい。動作が難しいなら、動作の負担を減らせばよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。なお、これらの原因が複数当てはまるかどうかは人によって異なります。気になる変化がある場合は自己判断せず、神経内科で確認してください。

STROKE LABの視点:自宅を「思い出せる環境」に変える。
飲み忘れの対処でいちばん手早く効くのが、記憶に頼らず、環境の側に思い出す手がかり(キュー)を足すことです。手がかりがあると、脳が「そろそろ薬の時間」という合図を受け取りやすくなります。自宅にあるものと少しの工夫で、次の3ステップから始められます。
ステップ1:薬を「見える場所」に置く。引き出しの奥ではなく、食卓やいつも座る場所など、生活動線の目に入る場所にお薬カレンダーやピルケースを置きます。見えることが、最初の合図になります。
ステップ2:音・光の合図をつける。スマホや服薬アラーム付きのタイマーを、服薬の時間にセットします。音が鳴ったらすぐ薬に手を伸ばせるよう、アラームと薬の置き場所を近づけておくのがポイントです。
ステップ3:「いつもの行動」とつなげる。朝食の後、歯磨きの前など、毎日必ず行う動作の直後に服薬を組み込みます。既にある習慣に紐づけると、新しく覚え直す負担が少なくて済みます。
3つを組み合わせるほど、思い出せる手がかりが増えていきます。大切なのは、環境の力を借りて服薬を体のリズムに組み込み、少しずつ「気づいたら飲んでいる」状態に近づけていくこと。合う工夫の組み合わせは人それぞれなので、作業療法士やケアマネジャーと一緒に調整すると近道です。

続けるための、道具とコツ。
環境を整えたら、道具の力も借りましょう。合言葉は「一目でわかる、迷わず取れる」。飲んだかどうかを覚えておく負担を、道具に肩代わりしてもらう発想です。
1週間分が曜日・時間帯ごとに仕切られたお薬カレンダーやピルケースは、飲んだ後の空欄を見れば服薬済みかどうかがすぐわかります。指先が動かしにくい方は、薬局で薬を1回分ずつ袋にまとめてもらう「一包化」を相談すると、開ける動作の負担が減ります。スマホが得意な方は、服薬記録アプリで飲んだ時刻を記録すると、次に飲むタイミングも管理しやすくなります。体調や動きやすさを整えておくことも習慣の続けやすさにつながるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。無理に一つの方法に絞らず、紙のカレンダーとアプリを併用するなど、続けやすい形を探るのも賢い方法です。
パーキンソン病の方を対象に、規則正しく薬を飲むことの大切さを伝える働きかけを行った無作為化比較試験では、電子お薬ボトルで測定した「正しい時間に飲めた割合」が、働きかけを受けたグループで約13ポイント改善したと報告されています。同じ研究では、1日の服薬回数が多いほどタイミングのずれが大きくなる傾向も示されました。
限界:対象は80名程度の研究で、運動症状そのものの改善は統計的に明確ではありませんでした。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。服薬管理の工夫は、薬そのものの調整の代わりにはなりません。薬の量や飲み方については必ず主治医・薬剤師に確認してください。
自宅での工夫が、環境に手がかりを足してその場で思い出しやすくする対応だとすれば、専門施設とご家族の関わりで目指すのは、服薬そのものへの向き合い方を整え、無理なく続けられる関係をつくることです。飲み忘れへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 個別の原因の見極め。記憶の問題なのか、動作の問題なのか、気持ちの問題なのかによって有効な工夫は変わります。ご本人の生活場面を確認し、いちばん効く手立てを見極めます。
2. 動作の練習。薬包を開ける、カレンダーから薬を取り出すといった細かい動作を、実際の薬やダミー錠を使って練習し、負担を減らします。
3. ご家族への関わり方の助言。問い詰める形ではなく、一緒に確認する関わり方や、任せる部分・支える部分の線引きについて、具体的な場面をもとに助言します。
STROKE LABが軸足を置くのは、ご本人の困っている場面をそのまま練習の題材にし、成功体験を積みながら、ご家族も無理なく支えられる形をつくっていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方とその配偶者・介護者を対象に、対話を通じて服薬への向き合い方を整える支援(アドヒアランス療法)を行った無作為化比較試験では、通常のケアのみのグループに比べ、服薬アドヒアランスの指標と生活の質(QOL)の指標がともに改善したと報告されています。一方的な指導ではなく、本人が納得して選ぶ関わり方が効果につながる可能性を示しています。
限界:12週間という比較的短い期間の評価であり、長期的な効果は確認されていません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。ご家族の関わり方は、それぞれのご家庭の状況に合わせて調整する必要があります。
脳リハ.comのYouTubeでは、体を動かす体操を配信しています。決まった時間に体を動かす習慣は、服薬のリズムづくりにもつながります。無理のない範囲で、日課にしてみてください。
専門リハと、ご家族の関わり方。
専門のリハビリでは、その人の1日の過ごし方や困る場面を一緒に確認し、置き場所・アラーム・習慣づけの組み合わせを、その人に合わせて調整します。「実際に忘れやすい場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。ご家族には、問い詰めるのではなく「一緒に確認する」関わり方や、手伝いすぎずご本人の自信を保つバランスについても助言します。薬の調整は主治医の役割で、私たちは服薬の動作と生活の側から支えます。
受診・相談の目安は、飲み忘れが週に何度も続いている、飲み忘れの後に体の動きにくさが目立って出るようになった、といったときです。薬の量や飲み方を自己判断で変えることは避け、必ず主治医・薬剤師に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. なぜパーキンソン病では薬を飲み忘れやすいのですか?
Q. 薬を飲む時間がずれると、何がよくないのですか?

Q. 自宅でできる飲み忘れ防止の工夫はありますか?
Q. 家族はどこまで手伝うべきですか?
Q. スマホのアプリやお薬カレンダーは効果がありますか?
Q. 飲み忘れに気づいたときはどうすればよいですか?

服薬管理の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。忘れやすい場面や動作の難しさを一緒に確認し、置き場所・アラーム・習慣づけ・ご家族の関わり方を、その人に合わせて組み立てます。実際の生活場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、服薬の動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
環境を変えましょう。

薬を飲み忘れるたびに、ご本人は「またやってしまった」と落ち込み、ご家族は「もっと気をつけてあげればよかった」と自分を責めてしまう。そんなお話を、たくさん伺ってきました。
お伝えしたいのは、飲み忘れは意思の弱さではなく、環境を整えることで大きく減らせるということです。見える場所に置く、音の合図をつける、いつもの習慣とつなげる。ちょっとした工夫で、続けやすさは変わります。
服薬の管理でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、ご本人とご家族が無理なく続けられる形を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。薬の量や飲み方の変更は、必ず主治医・薬剤師にご相談ください(最終確認日:2026年8月24日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Grosset KA, Grosset DG. Effect of educational intervention on medication timing in Parkinson’s disease: a randomized controlled trial. BMC Neurol. 2007;7:20.(服薬の重要性を伝える働きかけで、電子お薬ボトルによる服薬タイミングの正確性が有意に改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Daley DJ, Deane KH, Gray RJ, et al. Adherence therapy improves medication adherence and quality of life in people with Parkinson’s disease: a randomised controlled trial. Int J Clin Pract. 2014;68(8):963-971.(対話を通じたアドヒアランス療法により、服薬アドヒアランスとQOLがともに改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)