パーキンソン病の家族の声かけ|急かさない・待つコツ
「早く」より、「待つ」が力になります。
ご本人の動きがゆっくりになると、家族はつい「早く」と声をかけてしまいます。ですが、急かす声かけは、かえって動きを止めてしまうことがあります。しくみを知り、今日から実践できる声かけと待つコツを整理します。

「早く」と、言ってしまう。
出かける支度、玄関での靴履き、食事の途中——。急いでいるときほど、つい「早く」と口にしてしまう。すると本人の足がぴたりと止まり、余計に時間がかかる。そんな悪循環に、申し訳なさと疲れを感じているご家族は少なくありません。
でも、知ってほしいのです。それはご家族のせいではなく、急かすこと自体が動きを止めてしまうという、症状のしくみによるものだということを。
パーキンソン病では、動作がゆっくりになる動作緩慢や、足が床に張り付いたように動かなくなるすくみ足がみられることがあります。急かす声かけは、本人を追い詰めるだけでなく、動作そのものを止めてしまう引き金になり得ます。まずはそのしくみを知り、そのうえで今日から実践できる声かけの工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
なぜ急かすと、逆効果なのか。
パーキンソン病の動きのゆっくりさは、動作緩慢という症状によるもので、本人のやる気や性格の問題ではありません。ここに急かす声かけが加わると、何が起きるのかを整理しておきましょう。
| 起きていること | どういうことか |
|---|---|
| 脳への負担が増える | 「急がなきゃ」という焦りと、動作そのものを同時に処理する必要が生まれる |
| すくみ足が誘発される | 焦りや狭い場所、方向転換の直前で、足が床から離れなくなることがある |
| 二重課題で悪化する | 話しかけながら歩く・複数の指示を同時に伝えると、動作の質が落ちやすい |
| 悪循環が生まれる | 急かす→止まる→さらに急かす、という繰り返しで双方が疲れてしまう |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。脳への負担を減らせば、動きは戻ってくるということです。一度に一つの指示、十分に待つ時間、そしてリズムのある合図。次の章から、この考え方を具体的な声かけの形にしていきます。

STROKE LABの視点:「待つ」を仕組みにする。
「待とう」と気持ちだけで頑張ると、忙しい日常の中では長続きしません。効果的なのは、待つことを、あらかじめ仕組みにしておくことです。次の3ステップで、日々の声かけを整えていきましょう。
ステップ1:出かける・始める時刻を、実際より早めに設定する。「あと5分」で急かす場面そのものを減らします。予定より15〜20分早く動き出せば、待つ余裕が生まれます。
ステップ2:指示を一つに絞り、声をかけたら心の中で10数える。「靴を履きましょう」と伝えたら、そこで言葉を止めて待ちます。急かしたくなる気持ちが出たら、10数える時間を目安にしてください。
ステップ3:動き出せないときは、リズムの合図に切り替える。言葉で急かす代わりに、「せーの」「いち・に、いち・に」と一定のリズムで声をかけると、動き出しの助けになることがあります。
この3ステップは、特別な道具がなくても、今日から始められます。大切なのは、待つことを「我慢」ではなく「準備」として組み込むこと。合う声かけのタイミングやリズムは人それぞれなので、作業療法士や理学療法士と一緒に調整すると、より本人に合った方法が見つかります。

声かけと、接し方のコツ。
仕組みを整えたら、実際の言葉と場面での接し方でさらに変わります。合言葉は「一つずつ、短く、リズムで」。急かす言葉を、動きを助ける言葉に置き換えていきましょう。
| 避けたい声かけ | 言い換えの例 |
|---|---|
| 「早く早く」 | 「せーの」「いち・に」とリズムで合図する |
| 「準備して」「支度して」 | 「上着を着ましょう」と、次の一動作だけ伝える |
| 歩きながら話しかける | 歩くときは会話を控え、動作に集中できるようにする |
| 後ろから背中を押す | 正面や横に立ち、足元の目印やまたぐ動作を促す |
すくみ足で動けなくなったときは、床のタイルの継ぎ目や、あらかじめ貼っておいたテープの線を「またいでみましょう」と促すのも有効です。目や耳からの合図が、止まった動きのきっかけになります。焦りが伝わると本人はさらに緊張するため、家族自身が深呼吸してから声をかけるのも、意外と効果があります。

パーキンソン病の方を対象にした大規模な臨床試験(RESCUE試験)では、リズム音や視覚的な目印などの外部からの合図を用いた訓練により、すくみ足の頻度や歩行、日常生活の自立度が改善したと報告されています。
限界:この研究は専門的な訓練プログラムとしての合図の活用を検証したもので、家庭での声かけそのものを直接検証したものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。合図の使い方は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での声かけが、その場で動きやすくする代償的な工夫だとすれば、専門施設で目指すのは、合図がなくても動き出しやすい体そのものに近づける回復的アプローチです。すくみ足や動作緩慢への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 家族への声かけコーチング。ご本人だけでなく、ご家族と一緒に、その方に響く合図の種類・言葉・タイミングを見極め、自宅でも再現できる形に落とし込みます。
2. 動き出しの運動学習。方向転換や狭い場所の通過など、すくみ足が出やすい場面を想定した動作を繰り返し練習し、動き出しの感覚を体に定着させます。
3. 二重課題への対応力。話しながら歩く、荷物を持ちながら動く、といった同時作業の負荷に少しずつ慣らしていき、日常での崩れにくさをつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、ご家族も一緒に声かけの練習に参加し、成功体験を積みながら、日常の困りごとの場面そのものを立て直していくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病における二重課題(同時に二つの作業を行うこと)の影響を検討した文献レビューでは、歩行中に会話や別の作業を加えると、歩行速度の低下やすくみ足の増加など、動作の質が健常な高齢者以上に低下しやすいと報告されています。歩いているときは指示や会話を控える、という声かけの工夫には、こうした裏づけがあります。
限界:この報告は複数の研究をまとめた総説であり、影響の大きさには研究間でばらつきがあります。個人差が大きく、すべての場面で同じように当てはまるとは限りません。日常での判断に迷う場合は、専門スタッフに相談してください。

脳リハ.comのYouTubeでは、リズムに合わせて大きく動く体操を配信しています。動き出しやすい体づくりとして、ご本人・ご家族で一緒に取り組んでみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、ご本人だけでなくご家族も一緒に、実際に困っている場面(玄関、方向転換、狭い廊下など)を確認し、その方に合う声かけの言葉・リズム・タイミングを組み立てます。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、その日から自宅の対応が変わります。薬の調整は主治医の役割で、私たちは声かけ・動作・生活の側から支えます。
受診の目安は、すくみ足の回数が増えた、転倒やヒヤリとする場面が増えた、声かけを工夫しても動きにくさが強まっている、といったときです。これらは薬の調整で改善することもあるため、自己判断せず神経内科・主治医に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. なぜ「早く」と言うと、かえって動きが遅くなるのですか?
Q. すくみ足で動けなくなったとき、家族はどうすればいいですか?
Q. 家族はどんな言葉をかければいいですか?
Q. 待つことがつらいときは、どうすればいいですか?

Q. 声かけの練習はできますか?
Q. 声かけだけで改善しますか、専門的な訓練も必要ですか?
声かけの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。ご本人だけでなくご家族も一緒に、困っている場面を確認し、声かけの言葉・リズム・タイミングを、その人に合わせて組み立てます。玄関、方向転換、食事の場面など、実際の生活場面を題材にするので、練習がそのまま日常に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、声かけ・動作・生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
何もしないことではありません。

「早く」と言ってしまうたびに、自分を責めているご家族に、たくさん出会ってきました。忙しい毎日の中で、それはとても自然な言葉です。ご自身を責めないでください。
お伝えしたいのは、待つことは、何もしないことではなく、動き出しを助ける立派な関わり方だということです。一つの指示、十分な間、リズムのある合図。ちょっとした言葉の置き換えで、日常の場面はまだまだ変わります。
声かけでお困りなら、どうぞご本人・ご家族そろって一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、ご家族に合う関わり方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。すくみ足や転倒が増えてきた場合は、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月12日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(外部からの合図を用いた在宅訓練により、すくみ足や歩行が改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Yogev-Seligmann G, Hausdorff JM, Giladi N. The role of executive function and attention in gait. Mov Disord. 2008;23(3):329-342.(二重課題が歩行やすくみ足に与える影響について報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)