駅のホームがこわい|パーキンソン病のすくみ足と転落不安への対策
境界は敵、合図は味方です。
ホームに立った瞬間、足が動かなくなる。黄色い線の手前で止まってしまう。それはパーキンソン病のすくみ足かもしれません。境界線は、見方を変えれば「またぐ目標」にもなります。しくみと、今日からできる練習法を整理します。

「動けなかった」、その一瞬。
改札を抜けてホームに出た瞬間、電光掲示板を見て急いだ瞬間、電車が入ってくる音を聞いた瞬間——そんなときに限って足が動かなくなる。周りの人にぶつかられそうで、余計にこわくなる。気づけば、駅を使う外出そのものを避けるようになっていた、という声をよく聞きます。
でも、知ってほしいのです。これはすくみ足という症状で、境界線への向き合い方を変えるだけで、足を出しやすくする工夫があるということを。
パーキンソン病では、歩こうとしているのに足が一瞬固まって前に出ないすくみ足(フリージング)がみられることがあります。特に、境界線・段差・狭い通路など「見た目の情報」が多い場所で起こりやすいという特徴があります。まずはしくみを知り、そのうえで今日からできる立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
すくみ足と、不安のしくみ。
すくみ足は、歩く意思はあるのに、足だけが一瞬前に出なくなる歩行症状です。転びやすさとは別に、この「止まる瞬間」そのものがこわさの原因になります。特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 視覚的なきっかけで起こる | 黄色い点字ブロック・改札の狭い通路・人混みなどが引き金になりやすい |
| あせると悪化する | 電車が来る、急いでいるといった場面で特に強まりやすい |
| 不安が悪循環をつくる | 転ぶ不安ですくみが強まり、すくみでさらに不安になるという循環が起こりやすい |
| こわさは自然な反応 | 実際に転倒のリスクがある場面を、体が感じ取っている面もある |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。視覚的なきっかけで起こるなら、そのきっかけの意味づけを変えればよい。あせると悪化するなら、あせらない工夫をすればよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:境界を「またぐ合図」に変える。
すくみ足への対処でいちばん手早く効くのが、きっかけになっている視覚情報を、逆に「歩き出す合図」として使うことです。線や段差そのものをなくすことはできませんが、その受け止め方は練習で変えられます。次の3ステップで、自宅から始められます。

ステップ1:線を「またぐ目標」に変える。足元の線を見たら、止まる合図ではなく「その先へ足を運ぶ目印」ととらえます。線の少し先に目標物を思い浮かべ、そこをめがけて一歩を出すよう意識します。
ステップ2:声に出してリズムをつくる。「いち、に」と一定のリズムで声を出す、または心の中で数えながら歩きます。リズムがあると、足が出るタイミングをつかみやすくなります。
ステップ3:視線を「先」へ向ける。足元ばかり見ていると、境界線が強く意識されてすくみやすくなります。数メートル先の目標物に視線を向けることで、足元への意識が和らぎます。
この3つを組み合わせ、自宅の廊下やドア枠で練習してから、実際のホームで試してみるという段階を踏むと、無理なく慣れていけます。合う合図の種類(視覚・聴覚・リズム)は人によって異なるので、作業療法士と一緒に探すと近道です。
パーキンソン病の方153名を対象にした無作為化比較試験(RESCUE試験)では、リズムを使った在宅でのキューイング訓練が、歩行速度・すくみ足・バランスに特有の効果を示したと報告されています。
限界:訓練を終えると効果は徐々に弱まったと報告されており、継続的な練習や機器の活用が必要とされています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。合図を使った練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
とっさの対処法と、自宅練習。
それでも足が止まってしまったときは、無理に一歩を出そうとせず、いったん「別の動き」に切り替えるのがコツです。その場で足踏みをする、体重を左右にゆっくり移す、大きくまたぐ動きをひとつだけ思い浮かべる——こうした動きが、止まった足を再び動かすきっかけになることがあります。
自宅では、床に太めのテープを数本、等間隔に貼り、またいで歩く練習が有効です。ドア枠のような狭い場所を模して練習するのもよい方法です。運動で下肢や体幹を動かしておくと、とっさの対応もしやすくなるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。慣れてきたら、家族に付き添ってもらいながら、実際に近い環境で練習範囲を広げていきましょう。

パーキンソン病の歩行障害に関する系統的レビューでは、外的な目印を使う・リズムをつくる・視線や注意の向け方を変えるといった、患者自身が編み出した工夫の数々が、すくみ足への実用的な対処法として整理されていると報告されています。
限界:これは自己申告に基づく手法をまとめた系統的レビューであり、個々の効果を厳密に比較したものではありません。合う工夫には個人差が大きく、進行に伴って変動します。実際の駅などリスクのある場面での練習は、専門家の同行のもとで行うことが望まれます。
自宅での工夫が土台づくりだとすれば、専門施設で目指すのは、その方が実際に困っている場面に近い状況で、合図の使い方と自信を積み上げることです。すくみ足と恐怖への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 個別のキューイング。視覚(線・目印)だけでなく、聴覚(リズム音)や体性感覚(振動)の手がかりも試し、その人にいちばん効く合図を見極めます。
2. 場面を段階的に近づける練習。自宅の廊下→施設内の模擬環境→実際の外出、というように、その方の負担にならない範囲で段階的に場面を近づけていきます。
3. 姿勢と重心移動の土台。すくみ足が起きにくい体幹の安定性や、左右への重心移動のしやすさを整え、とっさの対応がしやすい身体の下地をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、こわさを否定せず、成功体験を段階的に積みながら、合図を使いこなせるようにしていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
脳リハ.comのYouTubeでは、歩行の土台となる体操を配信しています。すくみ足の対処法とあわせて、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その方が実際に困っている場所や場面を一緒に確認し、合図の種類、練習の段階、声かけの仕方を、その人に合わせて調整します。「駅のどこで、どんなときに止まるか」を具体的に扱うことで、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは歩行動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、転倒やふらつきを実際に経験した、めまいや立ちくらみを伴う、視野や見え方に変化があると感じる、といったときです。歩行の変化はすくみ足だけが原因とは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. ホームで急に足が動かなくなるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 黄色い線を見ると余計に足がすくむのですが?
Q. こわくて外出自体を避けています。それでよいのでしょうか?
Q. 家族はどう声をかければよいですか?

Q. 杖や歩行器を使えば安心ですか?
Q. 自宅の練習だけで大丈夫ですか?
歩行の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている場所・場面を一緒に確認し、合図の種類・練習の段階・声かけの仕方を、その人に合わせて組み立てます。「駅のどこで止まるか」など、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、歩行動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
足は出やすくなります。

駅のホームがこわくて、外出そのものを控えるようになった、というお話を、これまでたくさん伺ってきました。足が止まる恐怖と、周りの目への気まずさが重なり、気持ちがすり減っていく——その苦しさは、経験した方にしかわからないものだと思います。
お伝えしたいのは、こわいと感じさせている境界線そのものを、歩き出すための合図に変えられるということです。またぐ目標に変え、リズムをつくり、先を見る。ちょっとした工夫で、歩ける場面はまだまだ広がります。
ホームでの歩行にお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う歩き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。歩行の変化には他の原因もあります。転倒やめまいを伴う場合は、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月14日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, Kwakkel G, Rochester L, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(在宅でのリズムキューイング訓練が歩行速度・すくみ足・バランスに特有の効果を示したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Nonnekes J, Ružicka E, Nieuwboer A, Hallett M, Fasano A, Bloem BR. Compensation strategies for gait impairments in Parkinson disease: a review. JAMA Neurol. 2019;76(6):718-725.(患者自身が編み出したキューイング等の代償ストラテジーを系統的に整理したレビュー。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)