HADSとは?不安・抑うつの評価方法と点数の見方|日本語版・カットオフ【PDF評価付き】
「心配」と「楽しめない」を、
分けて聞く。
HADS|Hospital Anxiety and Depression Scale
14の問いから、本人の気持ちと次の支援へ。

01|HADSとは|不安と抑うつを、別々に捉える
Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)は、身体疾患のある方の不安・抑うつを評価するために開発された自己記入式の質問紙です。病院だけでなく外来などでも用いられます。不安のHADS-Aと抑うつのHADS-Dを分けて読むことが、面接と支援につなげる出発点です。[1][2]
| 基本 | 内容 |
|---|---|
| 質問数 | 14項目:不安7項目、抑うつ7項目 |
| 振り返る期間 | 過去1週間 |
| 回答と採点 | 各項目4つの選択肢。各0〜3点 |
| 得点 | HADS-A:0〜21点/HADS-D:0〜21点。高いほど症状が強い |
| 所要時間 | 回答は約2〜5分。説明・結果確認・面接の時間は別に確保 |
| 主な使い方 | 症状の拾い上げ、面接の焦点整理、経過の確認 |
食欲や睡眠など、身体疾患と重なりやすい症状に強く依存しない構成が特徴です。ただし、痛み・疲労・治療への不安や環境の影響を受けないわけではありません。[2][9]
02|どんな違いを見るのか
| 領域 | 内容のイメージ | 面接で掘り下げること |
|---|---|---|
| HADS-A:不安 | 緊張、心配、落ち着きにくさなど | 何が起こると心配か。どの場面を避けているか。身体症状との関係はどうか |
| HADS-D:抑うつ | 楽しさ・喜び・期待感の低下を中心とする気持ちの変化 | 以前と比べて楽しめるか。機会がないのか、機会があっても楽しめないのか |
上の表は領域の解説であり、実際の質問文ではありません。HADS-Dは特に喜びや楽しさの低下に重点があります。涙が少ない、会話で笑顔が出る、といった一場面だけで抑うつを否定しないことが大切です。[2]
03|実施手順|「この1週間」を一緒に確認する

- 準備:許諾された日本語版質問紙と採点資料を用意し、他の人に回答を見られにくい場所を整えます。眼鏡・聴力・文字の読み取り・覚醒状態を確認します。
- 説明:「この1週間の気持ちを知り、治療や生活の相談に役立てるためのものです」と目的を伝え、正式版の教示に従います。
- 回答:各質問で本人に近い選択肢を一つ選んでもらいます。「元気ですよね」など回答を誘導する説明は避けます。
- 確認:未回答・二重回答があれば本人に確認します。理由があって選べない場合は、勝手に0点にしません。
- 採点:使用版の採点鍵に従って各項目を0〜3点にし、AとDを別々に合計します。選択肢の上から一律に0・1・2・3点を付けないでください。
- 面接:高い領域だけでなく、本人が困っている場面と生活への支障を確認し、次の行動を決めます。
読み上げ等が必要なら使用版の運用条件を確認し、実施方法を記録します。家族が本人の代わりに回答した得点を、自己回答のHADSと同じものとして扱わないようにします。失語症や認知機能低下で質問の意味・選択肢の程度差を理解しにくい場合は、回答の信頼性を先に検討します。[2]
04|点数の読み方|8点と11点は、何を意味する?
| AまたはDの得点 | 従来の区分 | 臨床での次の確認 |
|---|---|---|
| 0〜7点 | 通常範囲の目安 | 訴え・生活変化があれば面接を続ける |
| 8〜10点 | 症状が疑われる範囲 | 持続期間、場面、生活への支障を具体化する |
| 11〜21点 | 臨床的な問題の可能性が高い範囲 | 医師等と共有し、診断評価や治療の必要性を検討する |
この区分はA・Dそれぞれの0〜21点に適用します。A+Dの0〜42点へそのまま当てはめません。「11点以上だからうつ病」と確定するための表でもありません。[2]
たとえばA=12、D=4なら、不安や回避の背景を重点的に尋ねます。A=4、D=12なら、楽しさの低下や意欲・生活の変化を詳しく確認します。どちらも合計16点ですが、面接の入り口は異なります。これは説明用の事例です。
05|日本語版と最新のエビデンス
日本では消化器外来やがん患者を対象とした検証が報告されています。日本語の尺度が検証されていても、別の対象集団や独自に言い換えた質問紙に、同じ数値をそのまま適用できるわけではありません。[3][4]
| 研究 | 主な結果 | 読むときのポイント |
|---|---|---|
| 抑うつ:2021年の個人データメタ解析 | 半構造化面接を基準とした57研究・10,664人では、HADS-D ≥7:感度82%/特異度78%、≥8:74%/84%、≥11:44%/95% | 閾値を高くすると偽陽性は減る一方、見逃しは増える。11点未満を除外条件にしない |
| 不安:2025年Cochraneレビュー | HADS-A ≥8で、何らかの不安症に対する感度74%・特異度76% | 研究間の違いが大きい。すべての診療場面で同じ精度になるとは限らない |
| 採点方法:2026年の個人データメタ解析 | 複雑な潜在因子得点は、通常の合計得点に比べてスクリーニング精度を実質的に改善しなかった | 日常臨床では、標準の採点と結果の適切な解釈を大切にする |
感度74%は「対象の疾患がある人の約74%を拾う」、特異度84%は「疾患がない人の約84%を陰性とする」という意味です。陽性者が病気である確率や、将来の発症確率をそのまま表す数字ではありません。[5][6][7]
06|脳卒中リハビリテーションで使うとき
脳卒中・TIA患者122人の研究では、HADS-Dを含む複数の抑うつ尺度が比較されています。HADSだから他の尺度より必ず優れる、とはいえません。本人が回答できるか、何を知りたいか、陽性後の診療につなげられるかで選びます。[8]
発症後には、疲労、失語症、痛み、活動機会の減少、将来への不安が重なります。「訓練を始めない」という行動だけから抑うつと決めず、心配で避けるのか、楽しさが失われたのか、発動性の低下なのかを分けて確認します。これはHADS単独で判別するのではなく、面接・行動観察・関連評価で整理する内容です。
| 知りたいこと | 使い分けの考え方 |
|---|---|
| 不安と抑うつを同時に把握したい | HADSのA・Dを別々に確認 |
| 抑うつ症状を詳しく確認したい | PHQ-9などの適合性も検討。評価期間や構成の違いをそろえて解釈 |
| 高齢者の抑うつを確認したい | GDS等も選択肢。HADSと得点を直接換算しない |
| 自発性・意欲の低下を整理したい | AES・CAS等と面接を組み合わせ、抑うつとアパシーを混同しない |
| 失語症で自己回答が難しい | コミュニケーション支援、観察情報、SADQH-10等の適合性を検討。代理回答HADSで代用しない |
07|面接のストーリー|結果を伝えて、困り事を聞く

例:退院を控えた方でA=12、D=5。療法士は「不安の領域が高めでした。退院後のことで、今いちばん気になるのは何ですか」と尋ねます。本人は「夜、一人でトイレに行くのが怖い」と答えました。
ここで「気分の問題」と片づけず、夜間の移動、照明、介助を頼む方法、転倒経験を確認します。看護師・家族と動線を整え、本人の同意の下で実際の場面に近い練習を行います。持続する強い不安や生活への支障は主治医にも共有します。
次回は得点に加え、「夜間に助けを求められたか」「トイレを我慢していないか」「心配は軽くなったか」を確認します。この事例は支援の考え方を示すもので、HADSだけから介入を決めるものではありません。
08|支援と再評価|点数の先に生活の目標を置く

| 困り事 | 具体的な支援例 | 次回の確認 |
|---|---|---|
| 先の見通しが立たず心配が続く | 予定や相談先を本人と確認し、未解決の心配を担当者につなぐ | 心配が強まる時間・回避行動・相談できたか |
| 楽しめることが減った | 以前の好みを尋ね、写真1枚を選ぶなど本人が望む小さな活動を提案 | 楽しさと負担。参加できた回数だけで判断しない |
| 痛みや不眠が強い | 医師・看護師等と症状、薬剤、生活リズムを確認 | 苦痛、日中の覚醒、活動しやすさ |
| 気持ちを家族に伝えにくい | 本人の同意を得て、伝えたい内容と必要な手助けを整理 | 本人の希望が共有されたか |
再評価は同じ版・方法で、過去1週間という対象期間を踏まえて行います。毎日の得点変化を追うより、通常は少なくとも1週間の間隔を取り、治療・環境・出来事と一緒に記録します。改善の基準となる点数差は対象集団によって異なるため、一律に「○点下がれば改善」とはしません。[2]
HADSには自殺念慮を直接尋ねる項目がありません。強い絶望感や自傷の懸念があれば、総得点に関係なく直接確認して医師等へ共有します。切迫した危険があれば一人にせず、施設の緊急対応手順に沿って評価につなぎます。
09|PDF・正式版の入手先
PDFは評価内容の整理、A・D別の採点転記、面接・支援・再評価の記録をまとめたA4・2ページです。正式質問紙と併用してください。HADSの質問文・回答選択肢は許諾が必要なため、このPDFには転載していません。[10]
参考文献・公式資料
- Zigmond AS, Snaith RP. The hospital anxiety and depression scale. 1983.
- Snaith RP. The Hospital Anxiety And Depression Scale. 2003.
- 日本の消化器外来におけるHADS妥当性の検討.1996.
- Kugaya A, et al. Screening for psychological distress in Japanese cancer patients. 1998.
- Wu Y, et al. Accuracy of the HADS-D to screen for major depression. BMJ. 2021.
- Fomenko A, et al. HADS-A for detecting anxiety disorders in adults. Cochrane. 2025.
- Zhang J, et al. Comparison of the accuracy of latent factor and sum scoring of the HADS. 2026.
- Prisnie JC, et al. Validating screening tools for depression in stroke and TIA patients. 2016.
- GL Assessment:HADS製品・実施時間。
- Mapi Research Trust:HADS正式版・利用申請。
文献確認:2026年11月3日。図は説明用のオリジナルイラストです。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)