【2026年版】ハムストリングスの起始・停止と片麻痺の立ち上がり動作との関係|大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋を徹底解説【脳卒中×触診】
ハムストリングスは、なぜ立ち上がりの鍵を握るのか。
脳卒中後の立ち上がり困難は「大腿四頭筋の問題」と見られがちです。しかし実際には、麻痺側ハムストリングスの活動低下と骨盤前傾不全が根本原因であることが多い。この記事では触診から介入まで、新人セラピストが現場で即使える知識を体系的に整理します。
— ハムストリングスの機能解剖と立ち上がりにおける役割を、触診動作と合わせて解説しています。
要点5項目。
臨床現場での出会い方。
発症後2ヶ月の左片麻痺患者。座面から立ち上がる際、体が右(非麻痺側)に傾き、麻痺側の脚がうまく使えていない。「四頭筋が弱い」と判断して訓練を重ねても改善しない。
こうした場面でまず確認すべきは麻痺側ハムストリングスの活動タイミングと骨盤前傾の可否です。「足が踏ん張れない」の多くは、実は後面筋群の問題です。
新人セラピストが立ち上がり訓練で最初に目を向けがちなのは、大腿四頭筋や足首の背屈です。しかし脳卒中後の立ち上がり困難の多くは、後面筋群—特にハムストリングスの機能低下—が根本にあります。
まず触診でハムストリングスの状態を確認することが、適切な介入計画の第一歩になります。

ハムストリングスの構成と解剖。
ハムストリングスは3つの筋で構成されており、すべてが坐骨結節から起始しますが、停止部がそれぞれ異なります。この停止部の違いが、脚の外旋・内旋への影響を生み、臨床上の鑑別に直結します。
— ハムストリングスを構成する3筋の概要図
3筋の起始・停止と触診の位置関係
— 大腿二頭筋長頭の触診ポイント。腓骨頭への停止を確認する
— 大腿二頭筋短頭は長頭の深層で確認。大腿骨粗線外側唇・外側上顆5cm上から腓骨頭へ
— 半腱様筋の触診。遠位部で半膜様筋の表層に位置する
— 半膜様筋の触診。半腱様筋の深層で確認する
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは脳卒中後の立ち上がり・歩行に特化した自費リハビリを提供しています。担当療法士が動作分析と触診をもとに、ご本人とご家族の目標に合わせたプログラムをご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
立ち上がりにおけるハムストリングスの神経・運動メカニズム。
立ち上がりを車に例えると、ハムストリングスは「前傾する上体を適度に制動しながら(ブレーキ)、同時に膝伸展を助ける(アクセル)」役割をもちます。この遠心性収縮と求心性収縮の切り替えが、スムーズな立ち上がりの核心です。
脳卒中後は上位運動ニューロンの損傷により、この切り替えのタイミングとコントロールが崩れます。
立ち上がり2フェーズにおける機能的役割
骨盤前傾に伴い、ハムストリングスが遠心性収縮で骨盤の過度な前傾を制御します。大殿筋と協働して「前傾しながらも崩れない体幹」を作ります。
離殿後、ハムストリングスが求心性収縮で膝関節を後方に引き、伸展を補助します。大腿四頭筋だけでは不十分な伸展力を、ハムストリングスが補完します。
研究概要:脳卒中患者の立ち上がり動作を筋電図(EMG)で解析した観察研究。麻痺側と非麻痺側の筋活動パターンを比較検討。
主要結果:麻痺側ハムストリングスの筋活動は伸展相の後半まで持続できないことが示された。非麻痺側との非対称性が顕著。
臨床的含意:「最後まで踏ん張れない」という現象の神経筋基盤を説明する根拠となる。伸展相後半のハムストリングス活動を意識した誘導が必要。出典:Praniman S et al. Lower limb muscle activation during the sit-to-stand task in subjects who have had a stroke. NCBI. 2013. PMID: 23370586
— 麻痺側ハムストリングスの活動が伸展相後半で減衰している様子(Praniman et al., 2013)
— ハムストリングスが骨盤前傾を制動しながら膝伸展に働く様子(図1相当)
類似パターンとの鑑別。
立ち上がり困難の原因は多岐にわたります。ハムストリングスの問題なのか、大腿四頭筋の問題なのか、あるいは体幹・骨盤の問題なのかを鑑別するための視点を整理します。
| 観察ポイント | ハムス問題が主因 | 大腿四頭筋が主因 | 体幹・骨盤が主因 |
|---|---|---|---|
| 骨盤の動き | 前傾不十分・後傾位から離殿 | 前傾可能だが伸展相で失速 | 骨盤が横に傾く・回旋が出る |
| 離殿のタイミング | 早い離殿(慣性利用の代償) | 離殿できるが膝折れ | 左右非対称な離殿 |
| 触診所見 | ハムス収縮が弱い・遅い | 大腿前面の張りが弱い | 体幹筋が触れにくい |
| 代償パターン | 非麻痺側優位・体の揺らし | 手すり把持が強い | 上体の過度な前傾 |
評価と触診の方法。
ハムストリングスの評価では、「筋力(MMT)」だけでなく「収縮のタイミング・遠心性収縮の質・起始〜停止のどこに問題があるか」を触診で鑑別することが臨床の核心です。

触診の3ステップ:部位別確認
坐骨結節を中心に触れ、筋の過緊張・圧痛・硬結を確認します。骨盤後傾が常態化している患者では、起始部に慢性的な短縮が生じていることがあります。股関節屈曲90°位で確認すると明瞭です。
大腿後面の中央部から遠位にかけて、筋腹の弾性と筋腱移行部の滑走性を確認します。収縮させた際に「硬くなるべき部分が硬くならない」= 筋活動の低下を示すサインです。麻痺側と非麻痺側を比較しながら確認することが重要です。
大腿二頭筋は腓骨頭、半腱様筋・半膜様筋は脛骨粗面内側を停止として確認します。停止部の圧痛や周囲組織との滑走不良は、膝関節の運動制限や立ち上がり後半の伸展不足に直結します。
① 骨盤前傾の可否:着座位から「前に傾けて」と指示したとき、骨盤が前傾できるか。できない場合、ハムストリングスの短縮またはコントロール不全を疑う。
② 触診タイミング確認:立ち上がり動作中、屈曲相〜離殿のタイミングで後面の筋収縮が触れるか。触れない場合、遠心性収縮の機能低下を示唆。
③ 伸展相後半の持続性:立位完成直前(膝関節伸展最終域)でも後面の張りが持続しているか。早期消失は Praniman et al.(2013)が示す麻痺側の特徴的所見。
④ 左右比較:非麻痺側との硬さ・収縮タイミングの差を数値化はできないが、「明らかな差」として記録する。進捗管理に有用。
介入の段階とエビデンス。
ハムストリングスの問題が確認されたら、以下の4段階で介入を組み立てます。いきなり動作練習から入るのではなく、まず「筋の準備」から始めることが重要です。
坐骨結節・筋腹・停止部への徒手的アプローチ(軽擦・圧迫・モビライゼーション)で過緊張・短縮を解消します。動作練習前の準備として実施。
着座位で「お辞儀するように前傾して止めて」という課題。ハムストリングスの遠心性収縮を意図的に促します。後面を触診しながらフィードバックすることで、患者の体性感覚再学習を促します。
「前傾→離殿→膝伸展」の順序を守りながら反復練習します。後面の活動を触診でモニタリングし、麻痺側の活動が伸展相後半まで持続しているかを確認します。椅子の高さを段階的に下げることで難易度を調整できます。
トイレ・ベッドサイドなど実際の生活場面での立ち上がり練習に移行します。異なる椅子の高さ・環境での般化を促します。OTや看護師と連携してすべての立ち上がり場面で適切なパターンを定着させます。
根拠①:Cheng PT et al.(2001)は脳卒中後患者への反復的な座位〜立位練習が、下肢の対称性と機能的能力を改善することを示した(Stroke, 2001)。
根拠②:Ada L et al.(2006)のメタアナリシスでは、脳卒中後の下肢筋力トレーニングが歩行速度・立ち上がり能力の改善に有効であると結論づけている(Phys Ther, 2006)。エビデンスレベル:強く推奨(SR/メタアナリシス)。
パラメータの目安:週3〜5回・1回あたり20〜30分の課題反復練習が推奨される。ハムストリングスの触診フィードバックを含めることで、活動の自己認識が向上する。

STROKE LABでは、発症後何年が経過しても「動作の質を変えられる」と考えています。ハムストリングスをはじめとする後面筋群への的確なアプローチが、立ち上がり・歩行を根本から変えることがあります。まずはご相談ください。
多職種連携と環境調整。
立ち上がり動作の改善は、リハビリ室だけで完結しません。日常生活のすべての立ち上がり場面に「正しいパターン」が般化してこそ、機能の定着が起きます。多職種が統一した介助方法を共有することが不可欠です。
多職種の役割分担
| 職種 | 主な役割 | 共有すべき情報 |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 触診・動作分析・立ち上がり訓練の中心的担当 | 麻痺側ハムスの活動タイミング・骨盤前傾の可否・最適な椅子高 |
| OT(作業療法士) | ADL場面(トイレ・入浴・ベッド)での立ち上がりパターン観察 | 日常での代償パターン・環境調整の必要性・手すり位置 |
| 看護師・介護士 | 病棟・日常介助での統一した介助方法の実施 | 「前傾してから立つ」合言葉の共有・代償が出た場合の報告 |
| 医師 | 痙縮・疼痛管理の方針決定 | ボツリヌス療法の適応検討・疼痛が立ち上がりに影響する場合の情報共有 |
「リハビリ室では正しく立てるのに病棟では戻る、というパターンはよくある。介助者全員に”前傾してから”を徹底するだけで、1ヶ月で全然違う結果になることがあります。」
「触診の結果を看護師に口頭で伝えるだけでなく、介助のデモを見せる。これが連携の精度を一気に上げます。」
「椅子の高さをOTと共有しておくと、日常場面での般化が進みやすい。ベッドの高さも同様に確認しておきましょう。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
ハムストリングスの評価と介入には、いくつかの典型的なつまずきポイントがあります。先輩臨床家が経験則から得た「失敗パターン」を共有します。
臨床判断の分岐点:「どこにアプローチするか」
「2関節筋は”どこが”問題かで介入が変わる。起始部の短縮なら前傾制限が出るし、停止部の問題なら膝の最終域での詰まりとして出る。まず触って、次に動かしてみる。その順番を守ってほしい。」
「ハムストリングスの短縮と弱化は同時に起こりうる。”硬い=強い”ではない。硬くて働かない状態が最も厄介。触診で収縮の有無を確認することを忘れないでください。」
予後とゴール設定。
ハムストリングスの機能改善は、発症直後から慢性期に至るまで可能性があります。ただし、ゴール設定の際にはいくつかの予後因子を考慮する必要があります。
短期目標(1〜4週):触診時に麻痺側ハムストリングスの収縮が確認できる。骨盤前傾を指示で5回以上遂行できる。
中期目標(1〜3ヶ月):介助なしで椅子高40cm以上から立ち上がれる。麻痺側への荷重が改善する(荷重計で左右差30%以内)。
長期目標(3ヶ月〜):自宅・地域の様々な環境(トイレ・浴槽・床からの立ち上がり)で自立または軽介助での遂行。
よくある質問。
立ち上がりでは、離殿前の「屈曲相」で骨盤前傾の制動(遠心性収縮)、離殿後の「伸展相」で膝関節伸展への補助として働きます。
大殿筋・大腿四頭筋と協調して伸展力を生み出す重要な2関節筋です。
Pranimanら(2013)の研究では、麻痺側ハムストリングスの筋活動が伸展相の後半まで持続できないことが示されています。
この活動の早期減衰が、非麻痺側優位の代償的な立ち上がりパターンにつながります。
①大腿二頭筋長頭:坐骨結節から腓骨頭へ。遠位部は外側広筋の後方かつ半腱様筋外方。②半腱様筋:坐骨結節から脛骨粗面内側。近位では大内転筋後方、遠位は半膜様筋の表層。
③半膜様筋:大腿骨粗線外側唇・外側上顆5cm上から腓骨頭。大腿二頭筋長頭の深層で確認。
2関節筋であるため、①起始部(坐骨結節周囲)の短縮・硬結、②筋腱移行部の柔軟性、③停止部(腓骨頭・脛骨粗面)の圧痛を系統的に確認します。
どこが短縮・弱化しているかを鑑別することが介入の前提になります。
まず離殿前に骨盤前傾を促すことが最優先です。前傾が不十分なまま立ち上がると、ハムストリングスの遠心性収縮が機能せず、大腿四頭筋主体の代償パターンになります。
触診でハムストリングスの活動を確認しながら、骨盤前傾→離殿→膝伸展の順序を丁寧に誘導します。
PTが触診・筋力評価・立ち上がり動作分析を担い、OTが日常生活場面(トイレ・入浴移乗)でのパターン観察を担います。看護師・介護士には「前傾してから立つ」という介助の合言葉を統一することが有効です。
申し送りでは「麻痺側ハムストリングスの伸展相後半の活動低下」を具体的に記載してください。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳卒中後のリハビリに特化した自費リハビリ施設です。立ち上がり・歩行・上肢機能など、脳神経系のリハビリを専門としています。担当療法士が詳細な動作分析と触診評価を行い、ご本人・ご家族の目標に合わせた個別プログラムを提供します。

— STROKE LABでの立ち上がり・下肢リハビリの実際の様子です。
「STROKE LABで担当した患者さんで、発症2年後でも立ち上がりパターンが大きく変わった方がいます。ハムストリングスに着目して骨盤前傾から丁寧にアプローチしたことが転機でした。”もう変わらない”は思い込みだと教えてもらいました。」— 理学療法士・臨床歴8年・脳卒中リハビリ専門
「触診のスキルを上げると、立ち上がりを”見る目”が根本的に変わります。後面筋群を感じながらハンドリングすることで、患者さんへのフィードバックの精度が上がり、動作が変わるスピードが格段に速くなりました。」— 理学療法士・臨床歴12年・運動器・脳神経系兼門
諦めないでください。

私たちSTROKE LABは、脳卒中後のリハビリを専門とする自費リハビリ施設です。発症から何年が経過していても、動作の質は変えられると信じています。
特に立ち上がり動作は、ハムストリングスをはじめとする後面筋群への的確なアプローチによって、大きく変わることがあります。「あのとき諦めなくて良かった」と思える日を、一緒に目指しましょう。
まずは無料相談で、ご本人・ご家族の状況と目標を丁寧にお聞きします。どうかお気軽にご連絡ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)