【触診】下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)の起始停止|脳卒中後の歩行との関係を解説
腓腹筋とヒラメ筋を鑑別し、反張膝を制御する。
下腿三頭筋は「ひとかたまりの筋」ではありません。腓腹筋とヒラメ筋はそれぞれ異なる機能を持ち、立脚中期における膝関節制御に相反する役割を果たします。この違いを触診で鑑別し、介入ターゲットを絞ることが脳卒中後の歩行改善への近道です。
— 下腿三頭筋の触診手順と脳卒中後歩行(立脚期反張膝)との関連を動画で解説しています。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
立脚中期に右膝が過伸展します。初見では「大腿四頭筋の過活動では?」と思いがちです。しかし担当セラピストが下腿三頭筋を丁寧に評価すると、腓腹筋の筋腹が筋緊張低下によって下方に下垂し、アキレス腱周囲は著明に硬化していました。
鍵は腓腹筋とヒラメ筋の機能分離でした。ヒラメ筋の過活動による脛骨前傾と、腓腹筋の機能低下による膝屈曲制御の失敗が重なっていたのです。
脳卒中後の歩行介入において、下腿三頭筋は最も重要な評価ターゲットの一つです。しかし新人セラピストは「下腿三頭筋=アキレス腱」とひとかたまりで捉えがちで、腓腹筋とヒラメ筋の機能的差異を見落とす傾向があります。
本記事では、下腿三頭筋の解剖・触診手順・歩行との関連・介入エビデンスを、新人臨床家が実際に使える形で体系的に整理します。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
専門家への相談が第一歩です。
STROKE LABは脳神経系専門の自費リハビリ施設です。脳卒中後の歩行問題(反張膝・足関節底屈筋力低下など)に対し、徒手療法と科学的根拠に基づく個別プログラムで対応します。まずは無料相談でご状況をお聞かせください。
下腿三頭筋の解剖と疫学。
下腿三頭筋(Triceps surae)は腓腹筋(Gastrocnemius)とヒラメ筋(Soleus)の2種類、合計3頭で構成されます。3頭すべてが合流してアキレス腱を形成し、踵骨隆起(踵骨)に停止します。
腓腹筋 内側頭:大腿骨内側顆から起始し、踵骨隆起に停止します。膝関節と足関節の両方をまたぐ2関節筋です。筋腹は遠位まで続き、ヒラメ筋との境界で触診可能です。
腓腹筋 外側頭:大腿骨外側顆から起始し、踵骨隆起に停止します。内側頭との境界と外側ヒラメ筋との間で触診します。
ヒラメ筋:腓骨頭・腓骨後面、脛骨後内側縁(ヒラメ筋線)から起始し、踵骨隆起に停止します。足関節のみをまたぐ1関節筋で、腓腹筋の深層に位置します。
脳卒中後の下腿三頭筋の変化:臨床でよく見る3つの特徴
麻痺側では荷重機会の減少と筋活動低下により、アキレス腱周囲の軟部組織が硬化します。特にアキレス腱と腓腹筋の筋腱移行部は拘縮しやすく、足関節背屈可動域の制限につながります。
腓腹筋の筋緊張低下によって筋腹が重力方向に下垂します。視診で健側と比較すると明らかになることが多く、触診すると筋の弾力が著明に低下しています。
麻痺側の底屈筋力は健側と比較して有意に低下します。この筋力低下が立脚中期における膝関節制御の失敗(反張膝)と直結します。
歩行メカニズムと責任筋。
下腿三頭筋と歩行の関係を理解するには、立脚期における腓腹筋とヒラメ筋の役割の違いを整理することが不可欠です。
立位では足部が床に固定されます。この状態でヒラメ筋(1関節筋)が収縮すると、脛骨が前傾(足関節背屈方向)して膝関節は伸展方向に誘導されます。
つまりヒラメ筋の過活動→脛骨の過度な前傾→膝関節の過伸展というチェーンが立脚中期の反張膝を引き起こします。
腓腹筋は2関節筋であり、膝関節の屈曲作用も持ちます。この特性によって腓腹筋は膝関節の後方移動を抑制し、過伸展を防ぐ役割を果たします。
立脚中期に腓腹筋が適切に活動することで、膝関節は屈曲位から徐々にコントロールされた伸展に移行できます。腓腹筋の機能低下はこのブレーキ機能を失わせます。
著者・出典:Cooper A, Alghamdi GA, Alghamdi MA, Altowaijri A, Richardson S. The relationship of lower limb muscle strength and knee joint hyperextension during the stance phase of gait in hemiparetic stroke patients. Physiother Res Int. 2012;17(3):150-6.
主要結果:麻痺側の足関節底屈筋出力の低下が、立脚中期における膝関節の過伸展と有意な負の相関を示しました(r=0.61)。大腿四頭筋よりも底屈筋力が反張膝と強く関連していたことが重要な示唆です。
臨床的含意:下腿三頭筋(特に底屈筋全体)の筋力評価なしに反張膝の原因を特定することは困難です。まず足関節底屈筋力から評価を始めましょう。
腓腹筋 vs ヒラメ筋の鑑別。
「下腿三頭筋が硬い」「底屈筋力が落ちている」で終わらせないのが専門家の仕事です。腓腹筋とヒラメ筋のどちらに問題があるかを鑑別し、介入ターゲットを明確にしましょう。
触診の手順と評価。
下腿三頭筋の触診は「腓腹筋→ヒラメ筋→アキレス腱→筋腱移行部」の順に系統的に行います。健側と比較しながら実施することが重要です。

腓腹筋の触診手順
膝窩部から大腿骨内側顆を確認します。内側頭の筋腹は、腓腹筋中央の境界線と内側から見えるヒラメ筋との間に位置し、筋腹は遠位まで続いています。膝を軽度屈曲した状態で足関節を底屈させると収縮が確認しやすくなります。
大腿骨外側顆を確認し、外側頭の筋腹を内側頭との境界と外側から見えるヒラメ筋との間で触れます。内側頭に比べてやや細く、外側腓腹筋の輪郭が触診できます。
腓腹筋の両側縁から外側・内側に指を差し込むようにアプローチします。膝関節を90度屈曲させると腓腹筋が弛緩するため、深層のヒラメ筋が触診しやすくなります。この体位での足関節底屈抵抗運動でヒラメ筋の収縮を確認します。
アキレス腱を母指と示指でつまむように触診し、硬さ・圧痛・滑走性を評価します。筋腱移行部(下腿中央~遠位1/3)は拘縮しやすい部位です。脂肪体(踵骨前方)の硬化も確認します。
介入の段階とエビデンス。
下腿三頭筋への介入は、軟部組織の柔軟性回復から始まり、筋力・筋活動の再教育、立脚期の動的制御訓練へと段階的に進めます。
アキレス腱・筋腱移行部の硬化に対して徒手的な軟部組織モビライゼーションを実施します。目安:1セッション10〜15分、週3〜5回。足関節背屈可動域の改善を指標にします。腓腹筋の筋腹下垂に対しては、近位方向への誘導ハンドリングも有効です。
腓腹筋の選択的収縮を促します。膝関節伸展位での爪先立ち(踵上げ)を用い、腓腹筋への負荷が高まる肢位で反復練習します。目安:3セット×10〜15回、週3回。ヒラメ筋への過負荷を避けるため、膝屈曲位でのカーフレイズと区別して指導します。
片脚立位保持・段差昇降・前方体重移動などを用いて、荷重下での膝関節制御を練習します。ハンドリングで腓腹筋への固有受容感覚入力を促しながら、過伸展を防ぐ体験を積み重ねます。目安:1セッション20〜30分の課題反復、週3回以上。
実際の歩行場面でセラピストが立脚中期の膝関節に外側からハンドリングを加え、過伸展を予防しながら正常なロッカー機能の体験を促します。歩行速度・歩幅・対称性を指標に難易度を調整します。
Mehrholz et al. (2017), Cochrane Review:電動トレッドミルを含む歩行練習は脳卒中後の歩行速度と歩行自立度を有意に改善(SR・強く推奨)。週3〜5回・1回20〜40分の課題反復が推奨されています。
Srivastava et al. (2010):脳卒中後片麻痺患者への底屈筋強化訓練により、立脚中期の膝過伸展が有意に減少。筋力強化と歩行改善の直接的な関係を示す(Level III)。
Kesar et al. (2011):片麻痺患者の歩行改善には、足関節底屈筋群の機能的強化が重要であることをRCTで示しています(Level II)。

筋を一つひとつ評価する目が要ります。」
脳卒中後の反張膝は「なんとなく膝が伸びすぎている」で済ませてはいけません。腓腹筋とヒラメ筋を個別に評価し、どちらの機能が低下しているかを特定することで、はじめて的確な介入が始まります。STROKE LABでは、丁寧な触診と歩行分析を組み合わせた個別プログラムをご提供しています。
多職種連携と環境調整。
下腿三頭筋機能の回復と歩行改善は、PTだけでなく多職種が連携して取り組む必要があります。各職種の役割を整理しましょう。
多職種連携の役割分担
| 職種 | 主な役割 | 連携ポイント |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 触診・評価・歩行訓練・足関節可動域改善 | 評価結果を他職種と共有し、日常生活での歩行目標を統一する |
| OT(作業療法士) | ADL(日常生活活動)場面での歩行・移動の介入 | PTから歩行パターンの情報を受け、病棟・自宅での安全な動作を指導 |
| 看護師 | 病棟での歩行見守り・転倒リスク管理 | 反張膝による転倒リスクを共有。夜間・病棟移動時の歩行監視ポイントを伝達 |
| 医師 | 痙縮管理・装具処方の判断 | 痙縮が強い場合の薬物療法(ボツリヌス療法など)の適応を相談。装具処方はPT評価をもとに検討 |
| MSW(医療ソーシャルワーカー) | 退院後の生活環境・福祉用具の調整 | 歩行レベルに合わせた自宅環境整備(段差解消・手すり設置)と福祉用具選定を支援 |
「PTが触診で腓腹筋の問題を特定したら、OTと看護師に反張膝のリスクを具体的に伝えてください。”膝が伸びすぎる”では伝わりにくい。”立脚中期に膝が後ろに折れる”と表現すると、病棟スタッフが見守りやすくなります。」
「装具処方の前に、まず下腿三頭筋の柔軟性と筋力を最大限引き出せているか確認しましょう。装具に頼りすぎると、残存機能の活用機会が失われることがあります。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
経験の浅いうちは、下腿三頭筋の評価と介入で同じところでつまずきます。先輩たちが繰り返し見てきた「落とし穴」を事前に知っておきましょう。
臨床判断の分岐点:介入ターゲットを絞る問いかけ
「まず聞いてみて:膝を曲げた状態(90度屈曲)と伸ばした状態で、足首の背屈の角度は変わりますか? 変わるなら腓腹筋。変わらないなら主にヒラメ筋。これだけで介入の方向性がはっきりします。」
「反張膝=大腿四頭筋の問題だと思い込まないこと。底屈筋力の評価を飛ばすと、根本原因を見逃します。まず足首から評価するクセをつけましょう。」
予後とゴール設定。
下腿三頭筋機能の回復と反張膝の改善には、個人差が大きいです。予後予測に影響する主な因子を理解してゴール設定に役立てましょう。
発症からの時期:発症後3〜6か月は神経回復の可塑性が高い時期です。この時期に集中的な介入を行うことが重要です。
残存筋力の程度:底屈筋力がMMT3以上あれば歩行改善の見込みが高く、機能的なゴール設定が可能です。MMT2以下では補助具・装具との組み合わせを検討します。
軟部組織の拘縮程度:アキレス腱・筋腱移行部の硬化が高度な場合、可動域改善に時間がかかります。早期からの軟部組織ケアが予後を左右します。
よくある質問。
下腿三頭筋は腓腹筋(内側頭・外側頭)とヒラメ筋の3頭で構成されます。腓腹筋は膝関節と足関節をまたぐ2関節筋で、ヒラメ筋は足関節のみをまたぐ1関節筋です。
両者はアキレス腱に合流して踵骨隆起に停止します。この構造の違いが歩行制御における機能の差を生み出します。
腓腹筋内側頭は大腿骨内側顆から踵骨隆起まで走行し、内側境界とヒラメ筋の間で確認します。外側頭は大腿骨外側顆から起始し、内側頭との境界と外側ヒラメ筋との間で触れます。
ヒラメ筋の鑑別には膝90度屈曲位が有効です。この体位で腓腹筋が弛緩するため、深層のヒラメ筋を優位に収縮させて触診できます。
立脚中期では足部が固定されるため、ヒラメ筋が収縮すると脛骨が前傾して膝関節は伸展方向に誘導されます。ヒラメ筋が過活動を起こすと膝が過伸展します。
一方、腓腹筋は膝関節屈曲作用も持つ2関節筋であり、適切に活動することで膝の後方移動を抑制し、過伸展を防ぐ役割を果たします。
脳卒中後は、アキレス腱・筋腱移行部・脂肪体の硬化が生じやすく、腓腹筋の筋腹は筋緊張低下をきたして下方に下垂することが多いです。
また、底屈筋力の低下が立脚中期の膝関節過伸展と関連することがエビデンスで示されています(Cooper et al., 2011)。
腓腹筋とヒラメ筋を個別に触診・評価し、どちらの筋に問題があるかを鑑別することで、立脚期の膝関節制御に向けた具体的な介入ターゲットを絞ることができます。
特に脳卒中後の反張膝は腓腹筋の機能低下が一因となるため、徒手的アプローチや運動訓練の質が向上します。
代表的な3つの落とし穴があります。①腓腹筋とヒラメ筋を一塊として扱い、どちらが問題かを鑑別しないまま介入する。②アキレス腱の硬化のみに注目し、筋腹の柔軟性評価を省略する。③立脚中期のみ評価し、荷重下でのヒラメ筋・腓腹筋の機能的な分離を確認しない。
各筋を個別に評価し、荷重下での動的評価を加えることが対策となります。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経系の後遺症に特化した自費リハビリ施設です。脳卒中後の下腿三頭筋機能低下・反張膝・歩行障害に対し、丁寧な触診評価と科学的根拠に基づく徒手療法・課題指向型訓練を組み合わせた個別プログラムを提供しています。
「新人の頃、反張膝の原因をずっと大腿四頭筋だと思っていました。下腿三頭筋、特に腓腹筋の機能低下という視点を持ったとき、患者さんの歩行がみるみる変わったことを今でも覚えています。触診は地味だけど、それが全ての土台です。」— 理学療法士・臨床経験12年・神経系リハビリ専門
「脳卒中後の歩行分析で、足首から評価する習慣をつけてから評価の精度が全然違います。アキレス腱だけじゃなく、筋腹の質・位置・硬さを毎回チェックすることで、介入の根拠が明確になりました。」— 理学療法士・臨床経験8年・STROKE LABセラピスト
あわせて読みたい:脳卒中×触診:大腿四頭筋について片麻痺患者の歩行の特徴まで徹底解説
諦めないでください。

「あのころのように歩きたい」という思いを、私たちは何度も聞いてきました。脳卒中後の歩行障害は、正しく評価し、適切に介入することで改善できる可能性があります。
STROKE LABでは、下腿三頭筋をはじめとする詳細な評価と徒手療法を組み合わせ、一人ひとりの身体の状態に合わせた個別プログラムを提供しています。
まずは無料相談から始めませんか。ご本人の状況を丁寧にお聞きし、何ができるかを一緒に考えます。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)