【2026年版】なぜ高次脳機能障害で歩行は崩れるのか?注意・遂行機能・認知機能から考える脳卒中リハビリ
遂行機能は、歩行を守っている。アルツハイマー病の転倒リスクを、神経科学から読み解く。
「認知はOT・STの仕事」と思っていませんか。歩行制御と高次認知機能のネットワークは神経解剖学的に密接に連結しています。アルツハイマー病患者の転倒リスクが健常高齢者の3倍に達する背景には、遂行機能・注意機能の障害が歩行制御を直接的に破綻させるメカニズムがあります。本稿では、そのエビデンスと臨床実装を新人セラピスト向けに解説します。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
病棟看護師から「歩けるのに転ぶ」という報告が入ります。筋力・関節可動域・バランス能力は比較的保たれている。しかし廊下に人が多い時間帯・会話しながら歩く時・段差のある場所で転倒が集中しています。
これは筋骨格系の問題ではありません。遂行機能・注意の分配機能の障害が、歩行の随意制御を破綻させている典型的なパターンです。
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)は認知機能に主に影響する疾患です。少なくとも疾患の初期〜中期段階では、運動機能そのものへの影響は限定的と理解されています。しかし「転倒しない=安全に歩ける」ではありません。
認知機能と歩行は、神経解剖学的に切り離せないシステムです。新人セラピストがこの視点を持つことで、リスク管理と介入の質が大きく変わります。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
その疑問に、専門家が向き合います。
STROKE LABでは脳神経疾患に特化した自費リハビリを提供しています。認知症の方の転倒リスク評価から、デュアルタスクトレーニングまで、根拠に基づいたプログラムで支援します。まずは無料相談から始めてください。
定義と疫学。
アルツハイマー病(ICD-10:G30)は、最も多い認知症の原因疾患です。記憶・見当識・遂行機能などの認知機能が進行性に低下し、日常生活動作(ADL)が障害されます。
過去10年以上の研究報告で、アルツハイマー病患者は同年齢の健常高齢者よりも約3倍の転倒リスクがあることが明らかです(Sheridan et al., Dement Geriatr Cogn Disord, 2007)。
アルツハイマー病患者には、歩行時の不安定性を特徴とする特有の歩行パターンがあります。これはバランス障害や筋力低下だけでは説明できず、高次認知機能の障害が直接的に歩行制御を妨げていると考えられています。
アルツハイマー病の歩行障害の3つの特徴
ストライド長の変動係数(CV)の増大は転倒リスクの独立した予測因子です。特に二重課題(デュアルタスク)条件での速度低下が大きい場合は注意が必要です。
「歩きながら話す」「歩きながら数える」などの二重課題条件で、歩行パフォーマンスが著明に低下します。これは前頭葉の注意資源の分配機能が障害されているためです。
段差・障害物・混雑した環境・見慣れない場所など、新規の情報処理が求められる場面で転倒が集中します。遂行機能(プランニング・問題解決)の障害が直接的な原因です。
神経メカニズムと責任病巣。
歩行の随意的制御は、運動のプランニング・組織化・順序付けを担う前頭葉、タイミングを制御する基底核・小脳、空間認知・感覚統合を担う頭頂葉・後頭葉が協調して機能します。これらは遂行機能のネットワークと大きく重複しています。
Sheridan et al.(2007)は、モーターコントロールの解剖学的ネットワークを詳細に報告しています。完全なモーターコントロールには、とりわけ遂行機能の正常な認知機能が必要です。
— Fig.1:随意運動(実線)とオートマチック運動(点線)のネットワーク。前頭葉がプランニングと運動の順序・組織化を担い、基底核・小脳がタイミングと長期記憶を制御する(Sheridan et al., 2007)。
随意歩行とオートマチック歩行のネットワーク
歩行には2種類のモードがあります。意識的な随意歩行と、習慣化されたオートマチック歩行です。
原著論文:Sheridan PL, et al. “The role of higher-level cognitive function in gait: executive dysfunction contributes to fall risk in Alzheimer’s disease.” Dement Geriatr Cogn Disord. 2007;24(2):125-37. (PubMed: 17622760)
主要知見:モーターコントロールのネットワークは遂行機能のネットワークと連結している。背外側前頭前野・帯状回・補足運動野・頭頂連合野・上側頭回・基底核・側頭葉内側部(海馬・海馬傍野)が関与する。
臨床的含意:完全なモーターコントロールには遂行機能の正常な機能が必要。AD患者の歩行障害には遂行機能・注意機能の評価と介入が不可欠。
鑑別診断と類似症状の違い。
認知症に伴う歩行障害は複数の原因が絡み合います。筋骨格系・末梢神経・前庭系・小脳系・高次脳機能系の問題を系統的に鑑別することが重要です。
| 原因 | 歩行の特徴 | 鑑別のポイント |
|---|---|---|
| 遂行機能障害(AD) | デュアルタスクで著明悪化。環境変化で破綻。平坦路では比較的保たれる | DTC(デュアルタスクコスト)が大きい。前頭葉機能評価(FAB等)と相関 |
| 筋骨格系・廃用 | 歩行速度低下。ストライド短縮。単独課題でも低下 | MMT・関節可動域で確認。デュアルタスクCostは比較的小さい |
| 小脳性運動失調 | 開脚歩行。測定異常。眼球運動異常を伴う | 協調運動検査。視覚依存が少ない(Romberg陰性) |
| 薬剤性(鎮静・降圧) | 急性・亜急性に出現。起立性低血圧を伴うことが多い | 薬剤変更との時系列を確認。起立性血圧測定 |
評価尺度と採点基準。
アルツハイマー病の歩行障害評価は、歩行そのものの評価と認知機能評価を組み合わせることが重要です。歩行評価だけでは不十分であることを覚えておいてください。

歩行評価の主要尺度と採点基準
測定方法:椅子から立ち上がり、3m先の折り返し点を回り、着座するまでの時間を計測します。
判定基準:10秒以内=正常、10〜20秒=軽度障害(屋外移動に注意)、20〜30秒=中等度(屋外移動制限あり)、30秒超=重度(転倒高リスク)
認知症版(Dual-Task TUG):通常のTUGに「3ずつ引く」や「動物名を言う」などの認知課題を同時に課す。DTコスト=(DT-TUG-ST-TUG)/ST-TUG×100(%)が20%以上は転倒高リスク。
概要:前頭葉機能(遂行機能)を評価する6項目のバッテリー。各項目0〜3点、最高18点。
6項目:① 概念化(類似性)② 流暢性(語想起)③ 運動系列(Luria法) ④ 葛藤指示 ⑤ GO/NO-GO ⑥ 把握行動
カットオフ値:12点以下で前頭葉機能障害を示唆。歩行の遂行機能依存性評価と組み合わせると転倒予測精度が向上します(エビデンスレベル:RCT・コホート研究)。
測定方法:10m(加速区間2.5m+計測区間5m+減速区間2.5m)を快適速度で歩行させ、計測区間の速度を算出。
判定基準:0.8m/s未満=地域歩行困難のリスク。0.6m/s未満=転倒・入院リスクが著明上昇。
認知症への適用:単独歩行速度よりもデュアルタスク条件での歩行速度低下率(DTC)の方が転倒予測において有用な場合があります。
介入のエビデンスとパラメータ。
Sheridan et al.(2007)は、認知をターゲットにした新たな歩行訓練アプローチの必要性を強調しています。単純な歩行反復や筋力強化だけでは、遂行機能障害に起因する転倒リスクを低減できません。
歩行しながら認知課題(逆唱・計算・語想起など)を同時に行います。パラメータ:週3回・1回30分・8〜12週間。課題難易度は患者のエラー率が20〜30%程度になるよう段階的に調整します。Sudarsky et al.の報告では、デュアルタスクトレーニングがAD患者の転倒頻度を有意に低減しています。
実際の生活場面を模した訓練環境での歩行練習です。障害物回避・方向転換・狭い経路・人混みを模したセッティングが有効です。パラメータ:1セッション20〜40分・週2〜3回。プランニング・状況判断を必要とする課題設定が核心です。
メトロノームや音楽のリズムに合わせた歩行訓練(リズム聴覚刺激:RAS)は、基底核-小脳系を介したオートマチック歩行制御を補助します。パラメータ:好みのテンポ±5〜10%で設定・週3回。随意制御の負荷を軽減する効果が期待されます。
訓練だけでなく、生活環境の転倒リスクを減らすことも重要です。視覚的手がかりの配置(テープによる段差マーキング・廊下への誘導サイン)、夜間照明の確保、シンプルな導線設計などを多職種で実施します。

その状況を、一緒に変えましょう。
脳神経疾患に特化したSTROKE LABでは、認知症に伴う歩行障害・転倒リスクに対して、神経科学に基づいた個別プログラムを提供しています。「なぜ転ぶのか」を丁寧に評価し、再び安心して歩けることを目指します。
多職種連携と環境調整。
既存記事が指摘するように、「認知・高次脳はOT・STだからPTは関係ない」という形式ばかりのチームアプローチが、認知症高齢者の転倒アクシデントを生んでいる可能性があります。Locomotion場面での遂行機能評価はチーム全員の課題です。
各職種の役割分担
| 職種 | 主な役割 | 連携ポイント |
|---|---|---|
| PT | 歩行評価(TUG/DTC)・デュアルタスク訓練・転倒リスク環境評価 | Locomotion中の認知負荷をOT・STと共有。環境調整はMSW・看護師と協議 |
| OT | 遂行機能評価(FAB・TMT)・ADL場面での認知負荷分析・住環境評価 | 机上評価の結果をPTと共有。歩行中の認知負荷に反映させる |
| ST | 注意・記憶・言語流暢性の評価・デュアルタスク課題の難易度設計 | 語流暢性・逆唱などの認知課題をPTのデュアルタスク訓練に提供 |
| 看護師 | 24時間の転倒観察・夜間リスク管理・薬剤調整の情報共有 | 「いつ・どこで・なぜ転ぶか」の詳細をリハビリチームに伝達 |
| 医師・MSW | 薬剤調整・退院先の環境評価・家族への説明・福祉用具手配 | 転倒リスクの総合判断。在宅環境整備はMSWが調整 |
「PTの歩行訓練とOT・STの認知評価が別々に動いていた患者さんが、カンファレンスで”Locomotion中の認知負荷”を共有した途端に、介入の精度が上がりました。」
「デュアルタスク訓練の課題設定は、STに相談すると患者の語彙・注意スパンに合ったものを提案してもらえます。PT単独で考えるより質が上がります。」
「看護師から”夕方に転倒が集中している”という情報をもらって初めて、夕暮れ症候群(sundowning)と遂行機能低下の時間帯依存性に気づけました。評価時間帯の選択も重要です。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
アルツハイマー病の歩行障害に介入するとき、新人セラピストが陥りやすい典型的な落とし穴があります。既存記事が「形式ばかりのチームアプローチ」と鋭く指摘した問題を含め、3つの罠を整理します。
臨床判断の分岐点:「どちらが原因か」を問う
「歩行の不安定性が高次処理を阻害しているのか、それとも高次処理の障害が歩行の不安定性を誘発しているのか。この2方向の因果を常に問い続けることが、アセスメントの核心です。」
「歩きながら会話できる患者が、特定の廊下を歩く時だけ黙り込む。これは新しい環境のプランニングに前頭葉が全力を使っているサインです。そのサインを見逃さないでください。」
— 歩行の不安定性と認知処理障害の双方向の因果関係。どちらが主因かをLocomotion場面で評価・Reasoningすることが臨床の核心となる。
予後とゴール設定。
アルツハイマー病は進行性疾患です。機能の回復を目指すのではなく、「転倒リスクの最小化」「安全な生活圏の維持」「介護負担の軽減」という視点でゴール設定することが現実的です。
短期目標(1〜2ヶ月):デュアルタスクTUGのコストを20%未満に低減。転倒頻度の記録と環境リスクの除去。
長期目標(3〜6ヶ月):住み慣れた生活環境での安全な移動の維持。家族・介護者への転倒リスク管理の指導完了。
重要なポイント:疾患の進行に合わせてゴールを定期的に見直すことが必要です。認知機能低下が進んだ段階では、転倒リスク管理の主体を患者から介護者・環境にシフトする判断が重要です。
よくある質問。
アルツハイマー病の患者は同年齢の健常高齢者と比べて約3倍の転倒リスクがあります。
歩行制御には遂行機能(前頭前野)・注意機能・記憶が関与しており、これらが障害されると歩行中の危険認識・姿勢調整・環境への適応が困難になります。筋力やバランス機能が比較的保たれていても転倒する背景には、この認知-運動連関の破綻があります。
歩行の随意的制御は、背外側前頭前野・帯状回・補足運動野・頭頂連合野・基底核・海馬を含む神経ネットワークで担われます。
これは遂行機能のネットワークと大きく重複しており、遂行機能が低下すると歩行プランニング・危険回避・デュアルタスクが困難になります。
単独歩行だけでなく、デュアルタスク(歩きながら話す・数える)条件での評価が重要です。
シングルタスクとデュアルタスクの差(DTCost)を計測することで遂行機能・注意資源の枯渇度合いを定量化できます。TUG・歩行速度・ストライド変動性も重要な指標です。
デュアルタスクトレーニング(歩行+認知課題の同時実施)が推奨されています。
週3回・30分程度を目安に、課題の難易度を段階的に上げる方法が報告されています。また、障害物回避・方向転換・狭い経路での歩行など文脈的な課題も有効です。
問題があります。歩行の不安定性と高次認知機能ネットワークは神経学的に連結しており、認知負荷を無視した単純な歩行反復や筋力強化だけでは転倒リスクを十分に低減できません。
PT・OT・STが連携し、Locomotion場面での認知負荷を共同評価・介入することが転倒予防に不可欠です。
随意歩行は前頭葉(プランニング・運動の順序・組織化)が中心的に関与し、意識的な注意資源を使います。オートマチック歩行は基底核・小脳が中心でタイミング制御と長期記憶を使います。
アルツハイマー病では前者の機能が優先的に障害されるため、見慣れない環境・二重課題・突発的な障害物対応で歩行が破綻しやすくなります。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。アルツハイマー病をはじめとする認知症の方の転倒リスク評価から、デュアルタスクトレーニング・生活環境調整まで、神経科学に基づいた個別プログラムを提供しています。「なぜ転ぶのか」を丁寧に評価し、もう一度安心して歩ける生活を取り戻すことを目指します。

— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。
「病棟でデュアルタスク評価を始めた途端、”なぜ転ぶかわからない患者”の転倒メカニズムが一気に見えるようになりました。筋力やバランスだけ追っていた自分が恥ずかしくなりました。」— 理学療法士・臨床10年・老年期認知症専門
「OTが評価した前頭葉機能の結果をPTと共有したら、デュアルタスク訓練の課題設定がぴったりはまるようになりました。縦割りをやめるだけで介入の質が劇的に上がります。」— 作業療法士・臨床8年・高次脳機能・認知症リハ専門
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諦めないでください。

「なぜ転ぶかわからない」という状況は、適切な評価と訓練で必ず変えられます。脳卒中・認知症を含む脳神経疾患のリハビリにおいて、歩行と認知機能を一体的に捉えるアプローチが、転倒予防の本質です。
STROKE LABでは、脳科学と徒手技術を融合させた専門的なプログラムで、ご本人とご家族が安心して生活できるよう支援しています。
一歩踏み出す勇気が、生活を変えます。まずは無料相談から始めてみてください。専門スタッフが丁寧にお話を伺います。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)