vol.115:立位・歩行のバランス反応の方向依存性!? 脳卒中/脳梗塞リハビリ論文サマリー
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カテゴリー
バイオメカニクス
タイトル
立位・歩行のバランス反応の方向依存性 Direction-Dependent Control of Balance During Walking and Standing?Pubmedへ Shawn M.O’Connor et al.(2009)
本論文を読むに至った思考・経緯
•同じように前方を向いていても、立位と歩行では求められるものは変化する。同じ歩行でも、横・後ろ歩きなどでタスクは変化する。様々な条件下で、求められるタスクについてより理解を深めたく、その一つとして本論文に至った。
論文内容
研究目的・方法
•研究目的は、視覚的な摂動に対する足の配置の変化による姿勢制御の反応(COPの変化)とその反応の方向依存性を評価することであった。
•健常人において1)歩行2)立位3)タンデム肢位で行われた。
結果
•立位:AP方向の感度(反応)がML方向の感度よりも約2.3倍大きかった。
•タンデム肢位:ML感度がAP方向の感度の約3.0倍であった。
•歩行:ML方向の感度がAP方向の感度より約9.4倍大きかった。これは立位と逆である。
•歩行では、AP方向は受動的な安定要素が大きく、ML方向に動的な安定性が求められる。AP方向は下肢のステップ時の床反力よりバランスが維持される。CNS制御を必要とするが、受動的な力学によってある程度の安定性が得られると思われる。周期的な歩行が安定している限り、連続的な歩行の安定性へのバランス要求はほとんどされないようである。歩行は身体重心が支持基底面を超え「コントロールされた落下」と解釈される。
•歩行中の視覚的摂動の効果はMLの感度は、APの感度よりも有意に大きかった。歩行中の前後のバランスよりも横方向を制御するために、統合的な視覚フィードバックがより多く使用されることが示唆されている。対照的に、AP摂動に対する有意な感受性はなく、バランスのためにAP方向に視力をほとんど使用しないことを示している。視覚フィードバックの除去は、側方の動揺性の増加をもたらしうる。
•データでは摂動方向の関数として連続的に変化する応答を明らかにしており、APおよびML方向が異なって感知されたとしてもCNSが多方向情報を統合できることを示唆している。
興味深かった内容
•視覚フィードバックがAP方向でなく、ML方向の制御に対して用いられる内容が興味深かった。しかし、この論文では、歩行環境はトレッドミル上であり、年齢、障害、環境の複雑さ(障害物や地形の変化)など設定していないため、あくまで同一場所における健常者の反応である。奥行き(遠近感)や障害物の「高さ」、目標に対する方向性などAP方向への視覚情報も用いられるのではと思われる。
私見・明日への臨床アイデア
•バランスの補助さえしてしまえば、歩ける患者様を多く見受ける。その能力は、受動的な安定要素で歩けていると言える。立位とタンデム肢位の感度の方向の逆転も、通常の立位であればML方向に受動的安定要素が出来、タンデムであればAP方向に受動的安定要素ができる。その姿勢が、どの方向により受動的で、どの方向により能動的コントロールを要するのかという視点は当然なようで抜けている方も多いかもしれない。ある姿勢・動作に求められる要素を理解しておくことは、何を促通しなければいけないのかという視点に繋がると考える。
•脳卒中患者様においては、垂直軸認知が、麻痺側から離れる方向(MまたはL方向)に軸が変位していることが多い事が示唆されており、歩行を獲得していく上でML方向の空間認識力も併せて求められると思われる。
氏名 覚正 秀一
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)