【2026年版】脳卒中片麻痺に対するペダリングトレーニング(自転車)とは?リハビリ方法を徹底解説
痙縮は、なぜペダリング運動で変わるのか。
エルゴメーターによるペダリングは、脊髄レベルの興奮性を変化させることが報告されています。機序・エビデンス・負荷設定まで、新人療法士が明日から迷わないレベルまで整理しました。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
68歳男性。右中大脳動脈領域の脳梗塞による左片麻痺で、発症後3週間で回復期リハビリテーション病棟に入棟。Brunnstrom Stage下肢III、FIM運動項目38/91点。
主訴は「左足が突っ張って踏み出しにくい」。初回評価でModified Ashworth Scale(MAS)2(下腿三頭筋)、立位での膝伸展位保持が困難、10m歩行は中等度介助を要した。
新人療法士がまず迷うのは、「この痙縮と運動麻痺が混在する状態に、何から手をつけるか」という点です。立位・歩行訓練だけでは痙縮側の準備性が整わず、関節可動域訓練だけでは持久力や随意性の改善につながりません。
ペダリング/エルゴメーター運動は、この局面で「低リスクに反復運動を提供しつつ、痙縮の準備性を整える」手段として臨床的に選択されることが多い介入です。本記事では、その根拠となる神経生理学的知見と、実際の負荷設定までを整理します。
ペダリング/エルゴメーターとは何か。
ペダリング運動とは、自転車のクランク機構を用いた下肢の周期的・対称的な運動です。エルゴメーターは負荷・回転数を定量的に設定できる機器で、急性期病棟のベッドサイドから生活期の自費リハビリ施設まで幅広く使用されています。
[SR/MA]Veldema & Jansen(2020)は、28件のRCT・脳卒中患者1115例を対象としたSR/MAで、エルゴメーター訓練が歩行能力・心肺持久力・運動機能・下肢筋力・バランス・姿勢制御を有意に改善させたと報告しています。一方で、現時点ではエビデンスの質は十分とは言えず、特に歩行能力への効果は他の介入と比べて限定的とされている点には注意が必要です。

回復期退院後は在院日数の制約がなくなる一方、心血管リスクへの配慮は変わらず必要です。エルゴメーターは座位で実施でき、負荷・回転数を客観的に管理できるため、生活期においても比較的低リスクに持続的な運動量を確保できる手段として位置づけられます。
アクティブ・パッシブ・アシスト:何が違うのか
患者自身の筋収縮でクランクを回す方式。筋力強化・運動学習の要素を含み、ある程度の随意性が前提となります。
モーターが脚を動かす方式。重度麻痺でも実施可能で、後述のとおり脊髄興奮性の低下効果が報告されています(Tanuma 2017)。
モーターが不足分の力を補助する方式。パッシブからアクティブへの移行段階として活用されます。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは、痙縮と運動麻痺の両面を評価したうえで、エルゴメーターを含む個別プログラムをご提案しています。保険外だからこそ可能な高頻度・高強度のリハビリを、専門スタッフが担当します。
神経メカニズム:脊髄興奮性への作用。
H反射の最大振幅(Hmax)とM波の最大振幅(Mmax)の比率で、脊髄運動ニューロンプールの興奮性を反映する電気生理学的指標です。比率が高いほど、脊髄レベルで過剰に興奮しやすい状態(痙縮の背景因子)であることを示します。
Tanuma(2017)が示した脊髄興奮性の変化
慶應義塾大学の田沼らは、重度片麻痺を有する脳卒中患者20例を対象に、リカンベント型エルゴメーターを用いた快適速度での7分間アクティブペダリングと7分間パッシブペダリングの効果を比較しました。麻痺側ヒラメ筋のH反射・M波を、運動前・直後・30分後に安静時測定しています。
脊髄興奮性[観察研究]:Tanuma A, et al. Int J Neurosci. 2017;127(1):73-79. 重度片麻痺患者20例。アクティブ・パッシブいずれの条件でもHmax/Mmax比は有意に低下し、アクティブ条件では運動後少なくとも30分間効果が持続した。H recruitment curveおよび相反抑制には有意な変化は認められなかった。
高強度の優位性[SR/MA]:Veldema & Jansen(2020)のSR/MAでは、高強度エルゴメーター訓練が低強度訓練より大きな改善効果を示すことが28RCTの統合解析で確認されている。
ここで臨床上重要なのは、「パッシブでも脊髄興奮性は低下した」という点です。つまり随意収縮がほぼ困難な重度麻痺患者でも、他動的なペダリングだけで痙縮の準備性に介入できる可能性があるということです。これは、後述する第08章「つまずきポイント」とも直結する知見です。
適応を見極める:歩行障害の原因鑑別。
「下肢が動きにくい」という主訴は同じでも、その背景にある病態は患者ごとに異なります。ペダリングが適切な介入になるかどうかは、まず原因を鑑別することから始まります。
| 病態 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|
| 痙縮優位型(UMN症候群) | 他動伸張時に速度依存性の抵抗増加、クローヌス陽性 | MAS、クローヌス持続時間 |
| 筋力低下優位型(廃用性筋萎縮) | 他動運動は抵抗なく可動、随意収縮力の低下が主体 | MMT、全身筋力評価 |
| 関節拘縮型(軟部組織性ROM制限) | 他動運動でもエンドフィールが硬く、麻痺の有無に関わらずROM制限 | ゴニオメーター、エンドフィール触診 |
| 重度感覚障害・運動失調型 | 筋緊張は正常でも企図振戦・測定障害あり | 位置覚・運動覚検査、小脳機能検査 |
評価尺度と痙縮の採点基準。
ペダリング効果のモニタリングには、痙縮評価と運動・持久力評価の両輪が必要です。臨床で最も使用頻度が高いのがModified Ashworth Scale(MAS:他動伸張に対する抵抗感を6段階で評価する痙縮の臨床評価尺度)です。
| 項目 | 採点基準 | 解釈 |
|---|---|---|
| 0 | 筋緊張の増加なし | 正常範囲。アクティブペダリング中心で問題なし |
| 1 | 可動域終末でわずかな抵抗 | 軽度。経過観察しつつ負荷漸増可 |
| 1+ | 可動域の半分以下でわずかな抵抗 | 治療介入を検討すべき水準(目安) |
| 2 | 可動域大部分で明らかな抵抗増加だが可動は容易 | 中等度。パッシブ先行を検討 |
| 3 | 他動運動が困難なほど強い抵抗 | 重度。アクティブ実施前に医師へ相談 |
| 4 | 屈曲・伸展いずれも強直性 | 最重度。エルゴメーター単独適応は慎重に判断 |
信頼性[観察研究]:Bohannon & Smith(1987)の原著では、肘屈筋群における検者間信頼性が報告されている。一方、足関節など遠位関節では信頼性が低下するとの報告もあり、関節によってばらつきがある点に留意が必要。
MCID(臨床的最小変化量)[専門家合意]:MASには確立されたMCIDが存在しないため、臨床上は1グレード以上の変化を意味のある変化の目安として扱うのが一般的。
介入のエビデンスとパラメータ設定。
実際のペダリング指導は、姿勢設定 → 低速開始 → 反復によるタイミング再学習 → 漸増、という4段階で進めます。各段階で時間・回数・強度を数値で管理することが、再現性のある臨床判断につながります。
骨盤と体幹を安定させた座位姿勢を確保し、足部がペダルに正しく乗るよう調整。負荷は最大随意収縮の5〜10%相当のごく軽い設定から開始する。
30〜40回転/分から開始し、5分程度の短時間セッションでリズムとタイミングを確認する。
耐久性に応じて1回15〜20分まで延長。負荷は最大随意収縮の50〜70%を目安に、Borgスケール「ややきつい」程度を上限とする。
週3〜5回・複数週にわたる継続を前提に、ペダリングで得た筋活動を段差昇降やトレッドミル歩行訓練に意図的に転移させる。
運動・心肺機能[SR/MA]:Veldema & Jansen(2020). Arch Phys Med Rehabil. 28RCT・1115例。週複数回・継続数週間のエルゴメーター訓練で、歩行能力・心肺持久力・下肢筋力・バランスが有意に改善。高強度訓練ほど効果が大きい。
バランス・機能的能力への限定的効果[SR/MA]:Da Campo L, et al.(2021). Disabil Rehabil. 5RCT・258例。バランス(Berg Balance Scale)・最大酸素摂取量・6分間歩行距離に有意差なし。機能的能力の改善は12〜4週間の訓練後に見られ、開始時の体力水準に依存すると報告。
非歩行群への適応[SR/MA]:Lloyd M, et al.(2018). Brain Behav. 33研究・910例(FAC≤2の非歩行群)。サイクルエルゴメーター訓練(5研究)はピーク心拍数・仕事量・ADL自立度を有意に改善。重篤な有害事象の増加は認めなかった。

同じエルゴメーターでも、負荷設定・継続期間・歩行訓練との組み合わせ方によって得られる結果は大きく変わります。STROKE LABでは一人ひとりの評価データに基づき、個別の負荷プログラムをご提案しています。
多職種連携と環境調整。
ペダリングは「PT単独」では完結しない
心血管リスクの管理、高次脳機能への配慮、退院後の継続環境の調整まで含めると、ペダリング運動の安全な実施には複数職種の関与が前提になります。
「負荷を上げる前に、看護師にその日のバイタル傾向を一言聞くだけで、中止判断の精度がまったく変わります。」
「ペダリング後の疲労感はOTのADL場面に直結します。共有を怠ると、午後のADL訓練の質が落ちることがあります。」
| 職種 | 介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|
| PT | 負荷設定、歩行訓練への転移プログラム立案 | 負荷設定の根拠を全職種に共有 |
| OT | 座位耐久性の活用、ADL場面への般化 | 運動後の疲労度をPTへフィードバック |
| ST | 運動中の指示理解度確認、呼吸法指導との連携 | 高次脳機能面の制約をPTに共有 |
| 看護師 | 運動前後のバイタル測定、中止基準のモニタリング | 基準逸脱時は即時PTへ報告 |
| 医師 | 運動処方の医学的許可、心血管リスクの評価 | 運動強度の上限を処方として明示 |
| MSW | 退院後の継続環境(自費施設等)の調整 | 在宅・施設での継続方法をPTと相談 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
ペダリングは「とりあえずやらせておけば安全」と思われがちですが、新人療法士が陥りやすい失敗パターンがあります。
先輩が見ているチェックポイント
「回転数より先に姿勢を見ます。骨盤が傾いた状態でいくら回転数を上げても、再学習させたい筋活動パターンは身につきません。」
「効果判定はMASの数値だけでなく、患者本人が『足が軽くなった』と言う主観的変化も合わせて見るようにしています。」
予後とゴール設定。
ペダリング単独をゴールにするのではなく、「脊髄レベルの準備性を整えたうえで、歩行・ADL動作にどう橋渡しするか」をゴール設定の軸に据えることが重要です。
短期ゴール(数週間):MAS1段階改善、自覚的な突っ張り感の軽減。長期ゴール(数ヶ月):歩行訓練への転移による歩行速度・耐久性の向上。両者を分けて評価日を設定すると、患者・家族にも進捗を伝えやすくなります。
よくある質問。
急性期からベッドサイドでの受動ペダリングを開始するRCTも報告されており、医学的に安定していれば早期から導入可能です。ただし開始基準は主治医の運動処方に従い、バイタルサインのモニタリング下で実施します。
Tanuma(2017)の研究では、重度片麻痺患者20例においてアクティブ・パッシブいずれのペダリングでも麻痺側ヒラメ筋のHmax/Mmax比が有意に低下し、アクティブ条件では効果が30分以上持続したと報告されています。これは脊髄興奮性の低下を示す所見で、痙縮の軽減と関連すると考えられています。
目安は回転数30〜40rpmから開始し、負荷は最大随意収縮の50〜70%、時間は5分から開始して15〜20分まで漸増します。心拍数・自覚的運動強度(Borgスケール)をモニタリングしながら個別に調整します。
Da Campo(2021)のメタ解析では、ペダリング単独でのバランス・歩行能力への効果は限定的と報告されています。歩行に必要な抗重力下での筋活動とは動作パターンが異なるため、ステップ動作や歩行訓練と組み合わせて初めて臨床的な歩行改善につながります。
体幹保持が不安定な患者にはリカンベント型、重度麻痺で自力での回転が困難な場合はパッシブ・アシスト機能付きの機種を選びます。座位保持能力・麻痺側の随意性・心血管リスクの3点で機種を選定するのが基本です。
不安定狭心症・コントロール不良の不整脈・著明な血圧変動などの心血管リスクがある場合は医師の許可が必須です。運動中は収縮期血圧の急激な変動、胸痛、強い疲労感、痙縮の急激な増悪がないか継続的に確認し、異常があれば直ちに中止します。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中・神経系疾患に特化した自費リハビリ施設です。エルゴメーターを用いた痙縮・持久力アプローチに加え、歩行訓練・動作分析を統合した個別プログラムをご用意しています。

— STROKE LABでのリハビリの様子
「重度の下肢痙縮でアクティブペダリングが難しい利用者様を担当した際、最初の2週間はパッシブのみで継続しました。脊髄興奮性が下がっている可能性を踏まえて伸張運動と組み合わせたところ、3週目からMASが2から1+へ改善し、ご本人も『足が軽い』と話されるようになりました。判断の遅れが回復を妨げることもあると実感した症例でした。」— 理学療法士・経験7年・脳卒中リハビリ専門
「負荷を急いで上げて痙縮を悪化させてしまった経験があります。翌日のMASが1段階悪化していたことに気づき、以降は必ず前回セッションの評価値を確認してから負荷を決めるようにしています。数値に基づく判断の重要性を痛感しました。」— 理学療法士・経験4年・運動器/神経系リハビリ担当
諦めないでください。

脳卒中後の痙縮や歩きにくさは、ご本人にとって大きなストレスです。「これ以上は仕方ない」と感じている方も少なくありません。
しかしエビデンスに基づいた適切な評価と介入によって、生活期からでも改善できる可能性は十分にあります。
STROKE LABでは、専門知識を持つスタッフが一人ひとりの状態を丁寧に評価し、最適なプログラムをご提案いたします。まずはお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)