パーキンソン病でベッド柵・手すりの設置|原因と対策・自宅でできる工
柵は、閉じ込めるためではなく、動くための足場です。
夜中にベッドから落ちそうになった、起き上がるたびにふらつく——。パーキンソン病では、寝返りや起き上がりの動きが小さく・遅くなるために、ベッド周りの転倒が増えることがあります。原因は一つではなく、柵や手すりの選び方・置き方も人によって変わります。原因の整理と、今日から見直せる自宅の工夫をまとめます。

夜中の物音に、目が覚める。
夜中に物音がして駆けつけると、家族がベッドの下に座り込んでいた——。本人は「大丈夫」と言うものの、こういうことが続くと、家族は夜も気が休まりません。柵をつければいいのか、手すりをつければいいのか、何から手をつければよいか分からない、という声もよく聞きます。
大切なのは、「なぜそこで転びやすいのか」を知ったうえで、柵や手すりの位置を決めることです。
パーキンソン病では、寝返りや起き上がりの動きが小さく・遅くなること、立ち上がった瞬間にふらつくこと、歩き出しで足が止まってしまうことなど、ベッド周りの転倒につながる要因がいくつも重なります。まずは原因を整理し、そのうえで柵・手すりの位置や自宅の工夫を具体的に見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
ベッド周りで転ぶ、複数の原因。
「柵をつければ安心」と思われがちですが、パーキンソン病の転倒には、いくつもの原因が絡み合っています。原因によって、有効な工夫が変わることを知っておきましょう。
| 原因 | どういうことか |
|---|---|
| 寝返り・起き上がりの困難 | 動作緩慢・筋固縮により、寝返りや起き上がりに時間と力がかかり、途中でバランスを崩しやすい |
| 起立性低血圧 | 起き上がった直後に血圧が下がり、めまいやふらつきが出ることがある |
| すくみ足 | ドア枠や曲がり角、狭い場所で足が止まり、そのまま体だけ前に傾いて転ぶことがある |
| 姿勢反射障害 | バランスを立て直す反応が遅れ、少し押されただけで後方や前方に倒れやすい |
| ウェアリングオフ・夜間頻尿 | 夜間は薬の効果が切れやすく、そのタイミングでトイレに起きることが重なりやすい |
| 姿勢の変形・認知面の変化 | 体が前や横に傾く姿勢の変化や、距離感・段差の把握のしづらさが加わることがある |
こうして見ると、「柵をつける」だけでは対応しきれない原因がいくつもあることが分かります。起立性低血圧やウェアリングオフは薬の調整も関わるため、環境の工夫と合わせて主治医への相談が欠かせません。次の章から、柵・手すりの具体的な置き方を見ていきましょう。

STROKE LABの視点:柵・手すりの置き方、3ステップ。
柵や手すりは、「つけること」より「どこに、どう置くか」で効果が変わります。動き方に合わせて位置を決める、3つの視点を紹介します。

ステップ1:起き上がりの動線に合わせて柵を置く。いきなり正面から起きるのではなく、横向きになってから上体を起こす動線が基本です。柵は、その「押して支える位置」、体の横あたりに合わせます。
ステップ2:すくみ足が出やすい場所を避けて手すりを設置する。ドア枠や曲がり角の真下は避け、少し手前・少し先にずらして設置します。床にテープなどの目印を併用すると、足が出やすくなることもあります。
ステップ3:使い方を段階的に見直す。柵や手すりに頼りきりにならないよう、起き上がりや立ち上がりの動作練習と組み合わせ、体調や症状の変化に合わせて数か月ごとに位置や種類を見直します。
柵の種類も、差し込み式・L字型・ベッド固定型などさまざまです。起き上がりの動線、ベッドの高さ、マットレスの硬さによって合うものが変わるため、福祉用具の専門家やリハビリ職と一緒に選ぶと失敗が少なくなります。介護保険の福祉用具貸与制度でレンタルできる場合もあるので、担当のケアマネジャーに相談してみましょう。
寝室・動線でできる工夫。
柵・手すり以外にも、寝室からトイレまでの動線を整えるだけで、転倒のリスクは下げられます。特に夜間は視界が悪く、薬の効果も切れやすい時間帯なので、重点的に見直しましょう。
足元灯やセンサーライトで動線を明るくする、敷居や段差に色のコントラストをつけて分かりやすくする、床の物(コード類やラグの端など)を減らす、滑りにくい床材や靴下にする、といった工夫が基本です。夜間の移動が特に不安な場合は、ポータブルトイレの利用も選択肢になります。日中に体を動かしておくことも、夜間の動きやすさにつながるので、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。

パーキンソン病の方を対象に、床の目印や一定のリズムなどのキューを使った訓練を自宅で行った無作為化比較試験(RESCUE試験)では、歩行に関わる移動能力が改善したと報告されています。すくみ足が出やすい場所に目印を組み合わせる工夫は、こうした研究の考え方にもとづいています。
限界:訓練プログラムとしての効果を検証した研究で、対象者の症状の重さや訓練期間には条件があります。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。環境の工夫は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅の柵や手すりがその場の転倒を防ぐ環境の工夫だとすれば、専門施設で目指すのは、寝返り・起き上がり・立ち上がりの動作そのものを立て直す回復的アプローチです。ベッド周りの転倒対策は、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 動作分析。寝返り・起き上がり・立ち上がりのどの局面でバランスを崩しやすいかを詳しく確認し、原因(筋固縮・動作緩慢・姿勢反射障害など)を見極めます。
2. 起き上がり動作の再学習。横向きから起きる動線を、ご本人の体の使い方に合わせて練習し、柵に頼らなくても安定して起きられる動きを引き出します。
3. すくみ足・バランス反応の練習。すくみ足が出やすい場面を想定した歩き出しの練習や、姿勢を立て直す反応そのものを引き出す運動を行います。
STROKE LABが軸足を置くのは、環境の工夫で安全を確保しながら、動作そのものを少しずつ立て直していくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整(起立性低血圧やウェアリングオフを含む)は主治医の役割です。

パーキンソン病の方を対象に、バランスや筋力に焦点をあてた自宅運動プログラムを検証した無作為化比較試験では、対照群と比べて、バランス機能などの指標に改善がみられたと報告されています。環境の工夫だけでなく、動作そのものへの働きかけを組み合わせる意義を示す研究のひとつです。
限界:この研究は運動プログラム全体を対象としたもので、ベッド周りの転倒だけに焦点をあてたものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。運動療法は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
脳リハ.comのYouTubeでは、寝返り・起き上がり・立ち上がりを助ける体操を配信しています。柵や手すりの工夫とあわせて、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、寝返り・起き上がり・立ち上がりのどこでバランスを崩しやすいかを確認し、柵や手すりの位置、動作の練習方法を、その人の体の使い方に合わせて調整します。実際に転びそうになった場面を再現しながら練習すると、生活にそのまま活きます。薬の調整(起立性低血圧やウェアリングオフを含む)は主治医の役割で、私たちは動作と生活環境の側から支えます。
受診の目安は、転倒やヒヤリとする場面が増えてきた、立ち上がった直後にめまいが強くなった、夜間の症状が急に変化した、といったときです。転倒の原因は一つとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. ベッド柵は必要ですか?どんなときに検討すべきですか?
Q. 手すりをつけるとかえってすくみ足が出ることがあると聞きました。本当ですか?
Q. 自宅でできる転倒予防の工夫はありますか?
Q. 夜間トイレに行くときが特に不安です。どうすればよいですか?

Q. 介護保険でベッド柵や手すりはレンタルできますか?
Q. ベッド柵・手すりだけで転倒は防げますか?
転倒予防の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際に転びそうになった場面や動作を一緒に確認し、原因に応じた柵・手すりの位置、動作の練習方法を、その人に合わせて組み立てます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活環境の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
寝返り・起き上がり・立ち上がりを含む動作分析の視点を体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
最初の答えではありません。

「柵をつけたのに、また転びそうになった」というご相談を、これまで何度も受けてきました。柵をつけるだけでは、原因そのものは変わらないからです。
お伝えしたいのは、「なぜそこで転びやすいのか」を知ることが、柵よりも先に必要だということです。すくみ足なのか、起立性低血圧なのか、寝返りの動き方なのか。原因が分かれば、柵の位置も、練習の方向も見えてきます。
ご家族の不安な夜が少しでも減るよう、動作と環境の両方から一緒に考えます。ベッド周りの転倒でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。転倒の原因やリスクは症状の進み方によって異なります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年9月8日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅でのキュー訓練が移動能力を改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Ashburn A, et al. A randomised controlled trial of a home based exercise programme to reduce the risk of falling among people with Parkinson’s disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(7):678-684.(自宅運動プログラムがバランス機能等を改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)