パーキンソン病で寝返りしやすい寝具の選び方|原因と対策・自宅でできる工夫
力ではなく、滑りと合図で回る。
夜中に寝返りが打てず、体の同じ場所が痛くなる。呼んでも動けず、ご家族もどう手伝えばよいかわからない――。パーキンソン病の寝返り困難には、筋肉のこわばりや体幹のひねりにくさなど、いくつもの原因が重なっています。寝具の摩擦・重さ・掴む場所を変えるだけで、同じ力でも体は動きやすくなります。しくみと、今夜から試せる工夫を整理します。

「動けない」で、目が覚める。
ベッドの上で仰向けのまま、横を向こうとしても体が動かない。声をかけると本人も焦って、余計に力が入ってしまう。朝には肩や腰が痛み、ご家族も夜中に何度も起こされて疲れがたまっていく――。寝返りは当たり前の動きに見えて、実は全身をつかう複雑な動作です。
でも、知ってほしいのです。寝返り困難には理由があり、寝具と動き方を変えるだけで、驚くほど楽になることがあるということを。
パーキンソン病では、寝返りが徐々に、あるいは急に難しくなることがあります。原因は一つではなく、筋肉のこわばり・動きの遅さ・体幹のひねりにくさ・夜間の薬の効き方など、いくつもの要因が絡み合っています。まずはそのしくみを知り、そのうえで今夜から試せる具体的な工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
なぜ、寝返りが難しくなるのか。
寝返りには、手足と体幹を連動させて体をひねる、大きな全身運動が必要です。パーキンソン病では、一つの原因ではなく、複数の要因が重なって寝返りを難しくしていることがほとんどです。代表的なものを整理します。
| 原因 | 何が起きているか |
|---|---|
| 筋強剛 | 筋肉がこわばり、体を動かそうとする力への抵抗が大きくなる |
| 動作緩慢 | 動き始めるまでに時間がかかり、動き自体も小さく遅くなる |
| 体幹の回旋障害 | 寝返りに欠かせない胴体をひねる動きが、特に苦手になりやすい |
| 姿勢反射障害 | バランスを立て直す反応が遅れ、大きな動きに慎重・不安になる |
| 夜間オフ | 薬の効果が弱まる夜間の時間帯に、症状が強く出ることがある |
| 寝具の摩擦・重さ | シーツが滑りにくい、掛け布団が重いと、より多くの力が必要になる |
なお、夜間に体を大きく動かしてしまう、大声を出す、といった動きは、レム睡眠行動障害という別の睡眠の問題であることもあります。これは寝返りが打てないこととは逆に、寝ている間に激しく動いてしまう症状で、対処の方向性が異なります。気になる場合はあわせて主治医に伝えてください。
ここに、立て直しのヒントが隠れています。摩擦が大きいなら、摩擦を減らせばよい。重さが負担なら、軽くすればよい。次の章から、この考え方を具体的な寝具選びにしていきます。

STROKE LABの視点:寝具を「動きやすく」変える。
寝返りの対処でいちばん手早く効くのが、寝具そのものを、少ない力でも動ける状態に変えることです。筋力や柔軟性を鍛えるには時間がかかりますが、寝具の見直しは今日からできます。次の3つの視点で確認してみてください。
ステップ1:摩擦を減らす。シーツやパジャマを、綿の厚手素材からサテンなど滑りやすい素材に変えます。介護用品店には、寝返り介助専用の「スライディングシート」もあります。体とシーツの引っかかりが減るだけで、同じ力でも体がすっと動きやすくなります。
ステップ2:重さを減らす。掛け布団を、軽量であたたかい中綿タイプに変えます。厚く重い布団は、動くたびに持ち上げる負担になります。体にまとわりつきにくい素材を選ぶと、寝返りの抵抗が減ります。
ステップ3:掴む場所をつくる。マットレスは沈み込みすぎない適度な硬さのものを選び、ベッド柵や、ベッドに固定するロープ梯子(はしご状の紐)を設置します。手で引っ張れる場所があると、体幹の力が弱くても弾みをつけやすくなります。
3つとも一度に揃える必要はありません。まずはシーツを変えるだけでも、体感が変わることがあります。合う素材や硬さは体格や好みによって異なるので、レンタルできる介護用品から試すのもおすすめです。作業療法士と一緒に確認すると、無駄なく選べます。
パーキンソン病の夜間症状を評価するために開発された指標「Parkinson’s Disease Sleep Scale(PDSS)」では、ベッドの中での寝返りの困難さが、不眠や夜間のこわばりと並ぶ代表的な夜間症状の一項目として組み込まれています。これは、寝返り困難が一部の方だけの問題ではなく、パーキンソン病でよくみられる症状として広く認識されていることを示しています。
限界:これは症状の有無や程度を測る評価尺度に関する報告であり、特定の寝具や工夫の効果を検証したものではありません。効果や困りごとの程度には個人差があります。

寝返りの、動き方のコツ。
寝具を整えたら、動き方の工夫でさらに寝返りしやすくなります。パーキンソン病では、体を一枚板のように一度にひねろうとして、かえって動けなくなることがあります。合言葉は「分けて、勢いをつけて、合図をする」です。
まず、両膝を立てます。次に、膝を倒す方向に少し弾みをつけながら、頭・肩・腰の順に、少しずつ体をひねっていきます。体全体を一度に回そうとせず、部分ごとに分けて動かすのがポイントです。動き始めるときに、声に出して「いっせーの、で」「1・2・3」と自分に合図をかけると、動作緩慢による動き出しにくさを乗り越えやすくなります。腕を先に振って弾みをつけるのも効果的です。ベッド柵やロープ梯子があれば、手でしっかり掴んで引っ張りながら動くと、少ない体幹の力でも回転できます。体を動かす習慣づくりには、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。

自宅でリズムや目印などの合図(キュー)を使う練習を行った無作為化比較試験「RESCUE試験」では、合図を使う練習を続けたグループで、歩行など移動に関わる日常の動作能力が改善したと報告されています。声かけやリズムといった合図が、動作緩慢による動きにくさを乗り越える助けになるという考え方は、寝返りのような他の全身動作にも応用されています。
限界:この研究は主に歩行を対象にしたもので、寝返り動作そのものを検証したものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。合図を使う練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、摩擦や重さを減らしてその場で寝返りしやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、体幹の回旋そのものを引き出し、寝具に頼らなくても動ける状態に近づける回復的アプローチです。寝返り困難への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 体幹分離運動の練習。肩と骨盤を別々に動かす練習を通じて、体を一枚板のように動かす癖から、部分的にひねる動きを引き出します。
2. リズム・キューイング。音や声かけ、一定のリズムなど、その人にいちばん響く合図を見極め、動き出しにくさを乗り越える手がかりとして活用します。
3. 姿勢と筋力の土台。寝返りを支える体幹・股関節周りの筋力や、日中の姿勢を整え、夜間の動作が崩れにくい身体の下地をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、寝具とキューで動ける成功体験を積みながら、体幹の回旋そのものを少しずつ取り戻していくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。夜間オフなど薬の効き方に関わる調整は主治医の役割です。
脳リハ.comのYouTubeでは、体幹をひねる体操を配信しています。寝返りの土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際の寝室環境やベッドの高さ、いつ・どのように動けなくなるかを確認し、寝具の種類・配置・動き方を、その人に合わせて調整します。「実際に困る夜の状況」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活環境の側から支えます。
受診の目安は、夜間だけ極端に動けなくなる、寝返りができず床ずれや痛みが出てきた、寝ている間に激しく動いてしまう、といったときです。夜間だけ強く症状が出る場合は夜間オフなど薬の効き方が関係していることがあり、寝具の工夫だけでは解決しないこともあります。動けない時間帯をメモしておくと、診察で伝えやすくなります。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. パーキンソン病で寝返りが打てなくなるのは、なぜですか?
Q. マットレスは硬いほうが寝返りしやすいですか?
Q. シーツやパジャマの素材で、寝返りのしやすさは変わりますか?
Q. 掛け布団の重さは、寝返りに影響しますか?
Q. 自宅でできる寝返りの練習や工夫はありますか?

Q. 夜だけ寝返りが特に打てないのですが、受診したほうがよいですか?
寝返りの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際の寝室環境や困る時間帯を一緒に確認し、寝具の選び方・配置・動き方を、その人に合わせて組み立てます。夜だけ症状が強い場合は、主治医との情報共有もお手伝いします。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
夜は変わります。

夜中に何度も呼ばれ、疲れ果てているご家族に、たくさん出会ってきました。ご本人も「動けない自分」に、静かに傷ついています。「もう仕方がない」とあきらめかけている方に、まずお伝えしたいことがあります。
寝返りは、力の問題だけではありません。摩擦を減らし、重さを減らし、合図をかける。それだけで、体は思うより動きます。夜が少し楽になれば、日中の暮らしも変わっていきます。
寝返りでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際の寝室と、困っている夜の状況そのものを題材に、その方に合う方法を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。寝返り困難の原因は複数あり、人により組み合わせが異なります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年7月6日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Chaudhuri KR, et al. The Parkinson’s Disease Sleep Scale: a new instrument for assessing sleep and nocturnal disability in Parkinson’s disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2002;73(6):629-635.(夜間の寝返り困難がPDの代表的な夜間症状の一つとして評価項目に含まれることの出典)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(合図(キュー)を使った在宅練習が日常の動作能力を改善したことの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)