パーキンソン病で在宅勤務への切り替え|原因と対策・自宅でできる工夫
通勤をやめるのではなく、“波”に合わせて働く。
通勤がつらい、会議中に動けなくなる、疲れが抜けない——パーキンソン病では、こうした理由から在宅勤務が選択肢に入ってきます。原因は運動症状だけではありません。疲労・認知の変動・自律神経・服薬の効き目の波まで含めて整理すると、自宅での工夫が見えてきます。

「通勤が、つらい」と気づいたら。
満員電車の中ですくみ足が出て動けなくなる。午前の会議は集中できても、午後になると声が小さくなり聞き返される。何とか出社しても、帰宅する頃にはぐったりで、家のことが何もできない——そんな声を、診療の現場でよく耳にします。
大切なのは、これは「頑張りが足りない」のではなく、通勤という環境と、今の症状の波が噛み合っていないだけだということです。
パーキンソン病のある方が働き続けるうえで、通勤や出社そのものが大きな負担になることがあります。実際に、パーキンソン病のある方の多くが症状を理由に離職や早期退職を経験しており、その理由は動作の遅さだけでなく、疲労や心理・認知面の問題も上位にあがることが報告されています。まずは、その「つらさ」の正体を分けて考えることから始めましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
原因を、整理する。
「働きにくさ」の原因を、動作の遅さだけで捉えてしまうと、対策が偏ってしまいます。パーキンソン病では、運動症状・非運動症状・自律神経症状・薬の効果変動という、性質の違う4つの原因が絡み合って働きにくさを生みます。まずはこの4つに分けて、自分に当てはまるものを確認してみてください。
| 原因のカテゴリー | 仕事のどんな場面に影響するか |
|---|---|
| 運動症状 | 動作緩慢・固縮・すくみ足により、乗り換えや階段、満員電車での立位が負担になる |
| 非運動症状 | 疲労のたまりやすさ、考えごとに時間がかかる、気分の落ち込みで、会議や資料作成が重く感じる |
| 自律神経症状 | 起立性低血圧によるふらつき、体温調節のしづらさで、満員電車や夏場の外出が特につらくなる |
| 薬の効果変動 | 効き目が良い「オン」と弱まる「オフ」の波が、決まった時間の通勤・会議と噛み合わないことがある |
ここに、在宅勤務という選択肢の意味があります。通勤や決まった勤務時間という「枠」を外せると、多くの原因への対策を同時に打てるからです。次の章では、この考え方を具体的な時間割にしていきます。
パーキンソン病のある方を対象にした調査では、動作の遅さ・疲労・心理面や認知面の問題が、離職の主な理由として上位に報告され、勤務スケジュールや仕事内容の変更が役立つ調整として挙げられました。原因が一つではないからこそ、対策も一つに絞らないことが大切だとわかります。
限界:発症年齢が若い層を中心とした後ろ向きの調査で、対象人数は多くありません。国や職種、症状の進行度によって状況は異なります。働き方の調整が必要かどうかは、個々の状況に応じて判断してください。

STROKE LABの視点:1日を「波」で設計する3ステップ。
在宅勤務の一番の利点は、自由な時間割を組めることです。服薬による「オン・オフ」の波を見える化し、その波に仕事を合わせる——これが、症状に振り回されない働き方の土台になります。次の3ステップで、自分専用の時間割を作ってみましょう。
ステップ1:1週間、服薬時刻と体調をメモして波を見える化する。薬を飲んだ時刻、そこから体が動きやすくなるまでの時間、集中できる時間帯、眠気や疲れが強い時間帯を簡単に記録します。スマホのメモでも、手書きの表でもかまいません。
ステップ2:「オン」の時間に重い仕事、「オフ」の時間に軽い作業を配置する。集中力が必要な資料作成や込み入った相談は、動きやすく頭も働く時間帯に。単純な入力作業や休憩は、効き目が弱まりやすい時間帯にまわします。
ステップ3:会議は「オン」の時間帯に集めて、それ以外は自分のペースに。声が出しやすく反応も良い時間帯に会議や電話をまとめると、負担が少なく相手にも伝わりやすくなります。メール返信や事務作業は、自分のペースでできる柔軟な時間に回しましょう。
この時間割は一度作って終わりではなく、体調やお薬の調整に合わせて少しずつ見直していくものです。うまく波をつかめないときや、オン・オフの差が大きくて困るときは、自己判断で薬を調整せず、まず主治医に相談してください。時間割の組み方そのものは、作業療法士と一緒に整理すると具体的になりやすいです。

自宅の環境づくりと、働き方のコツ。
時間割が整ったら、次は体への負担を減らす環境づくりです。姿勢・入力機器・声・移動という4つの視点で、自宅の作業スペースを見直してみましょう。
まず姿勢。モニターの上端が目の高さにくるように高さを合わせ、股関節と膝がほぼ直角になる椅子を使うと、前かがみの姿勢が続きにくくなります。次に入力機器。タイピングや細かいクリックが負担なら、大きめのトラックボールや音声入力を試す価値があります。声については、オンライン会議で聞き返されることが増えたら、マイクを口に近づける、ヘッドセットを使うといった工夫が助けになります。最後に移動。自宅の中でもすくみ足が出やすい場所(ドアの前や廊下の曲がり角など)には、床に目印のテープを貼っておくと、足が出やすくなることがあります。1時間に一度は立ち上がって、体を動かす時間も忘れずに。運動の習慣づくりは体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

自宅での工夫が誰にでも使える一般的な対策だとすれば、専門施設で目指すのはその人の仕事内容・症状の波・住環境に合わせた個別の設計です。働き方への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 作業の分解と評価。タイピング、電話応対、立ちながらの作業など、実際に困っている作業を一つずつ確認し、どこにボトルネックがあるかを見極めます。
2. 持久力と姿勢の土台づくり。1日座って作業を続けられる体力、声を出し続けられる呼吸・発声の力を、段階的なトレーニングで底上げします。
3. 家庭内でのキューイング。すくみ足が出やすい場所や動線を一緒に確認し、その方の生活動線に合った目印や声かけの工夫を組み立てます。
STROKE LABが軸足を置くのは、「困っている仕事の場面」そのものを評価材料にし、生活動線と時間割の両方から働き方を組み立て直すという流れです。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作・持久力・生活の側から支えます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。
パーキンソン病のある方の就労支援に関する文献レビューと当事者・専門家への聞き取りをまとめた研究では、当事者が求めている支援として、就労に関する選択肢の知識、専門職から就労の話題を切り出してもらうこと、そしてその人に合わせた個別で柔軟な支援という3つの要素が挙げられました。画一的な対策ではなく、一人ひとりに合わせた調整が求められていることがわかります。
限界:文献レビューと限られた人数への聞き取りにもとづく研究で、地域や職種による違いは十分に検証されていません。支援の内容や制度は国や会社によって異なるため、実際の利用は担当窓口にご確認ください。
[図解:自宅の環境づくり4視点]
脳リハ.comのYouTubeでは、椅子に座ったままでもできる体操を配信しています。会議の合間や休憩時間に、無理のない範囲で取り入れてみてください。
専門リハと、会社・主治医との連携。
在宅勤務を長く続けるには、自宅の中だけで完結させないことも大切です。専門のリハビリでは、困っている作業や生活動線を一緒に確認しながら、時間割・姿勢・入力機器・移動の工夫を、その人に合わせて調整します。あわせて、自宅にこもりきりにならないよう、活動量や人との関わりを保つ視点も欠かせません。在宅時間が長くなると、体を動かす機会や会話が減り、気分の落ち込みにつながることがあるためです。
会社との調整では、産業医や人事に早めに状況を共有しておくと、時差出勤や勤務時間の調整、在宅勤務の試行といった選択肢を検討しやすくなります。傷病手当金や障害者雇用など利用できる制度は、加入している健康保険や会社の規定によって条件が異なるため、詳しくは会社の担当窓口や社会保険労務士、地域の産業保健総合支援センターなどにご確認ください。薬の調整は主治医の役割で、私たちは働き方と生活の側から支えます。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. パーキンソン病になったら、在宅勤務に切り替えたほうがいいですか?
Q. 在宅勤務を考えるきっかけになる症状には、どんなものがありますか?

Q. 服薬の「オン・オフ」に合わせて働くとは、具体的にどういうことですか?
Q. 自宅の机や椅子は、どんなものを選べばいいですか?
Q. 在宅勤務で気をつけたほうがよいことはありますか?

Q. 在宅勤務への切り替えは、会社にどう相談すればいいですか?
働き方の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている仕事の場面や生活動線を一緒に確認し、時間割・姿勢・入力機器・移動の工夫を、その人に合わせて組み立てます。実際の仕事場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作・持久力・生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
働き方を、症状に合わせるだけです。

「通勤ができなくなったら、もう働けない」——そう思い詰めてしまう方に、たくさん出会ってきました。ですが、通勤や決まった時間の勤務がつらいことと、その人が仕事を続けられるかどうかは、別の問題です。
お伝えしたいのは、症状の波を知り、働き方をその波に合わせるだけで、続けられる仕事はまだまだあるということです。原因を一つに決めつけず、運動・非運動・自律神経・薬の波、それぞれに合った工夫を積み重ねていく。それが、無理のない在宅勤務への近道だと考えています。
働き方でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている仕事の場面そのものを題材に、その方に合う働き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の公的情報・調査研究と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。働き方の変更や制度の利用条件は個人や会社によって異なります。判断にあたっては、必ず主治医・産業医・会社の担当窓口にご確認ください(最終確認日:2026年9月3日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- 厚生労働省:テレワーク総合ポータルサイト
- Murphy R, Tubridy N, Kevelighan H, O’Riordan S. Parkinson’s disease: how is employment affected? Ir J Med Sci. 2013;182(3):415-419.(動作の遅さ・疲労・心理面の問題が離職理由の上位に挙がり、勤務スケジュールの変更が有用な調整として報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Kaya C, Leslie M, McDaniels B, et al. Employment Resources for People with Parkinson’s Disease: A Resource Review and Needs Assessment. J Occup Rehabil. 2021.(当事者が求める就労支援として、個別で柔軟な支援の重要性が報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)