パーキンソン病で滑りにくい靴の選び方|原因と対策・自宅でできる工夫
滑るのは、靴のせいだけではありません。
「最近、家の中でよくつまずく」「靴下だけで歩くとヒヤッとする」。パーキンソン病では、歩き方そのものが変化するために滑りやすさや転倒が増えます。「滑りにくい靴」と「引っかかりにくい靴」は、実は違う条件です。しくみと、今日から見直せる靴選び・自宅の工夫を整理します。

「また、滑った」と、言われた。
歩幅が小さくなり、足を持ち上げる高さも低くなる。すると、ちょっとした段差や床の材質の違いで滑りやすくなります。転んだわけではなくても、「ヒヤッとした」という経験が積み重なると、外出そのものが不安になっていく——そんな声を、ご家族からよく伺います。
ですが、知ってほしいのです。滑りやすさの多くは、原因を分けて考え、靴と歩き方の両方から対策できるということを。
パーキンソン病では、歩き方そのものが少しずつ変化していきます。歩幅、足の上がる高さ、バランスを立て直す反応の速さ——それぞれの変化が重なって、「滑りやすい」「つまずきやすい」という状態につながります。まずはその原因を整理し、そのうえで靴選びと自宅の工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
なぜ、滑りやすくなるのか。
「靴が悪いから滑る」と考えがちですが、実際には歩き方そのものの変化が土台にあり、靴はそれを助ける・悪化させる要因のひとつです。代表的な原因を整理します。
| 原因 | どういうことか |
|---|---|
| すり足歩行 | 足を持ち上げる高さが低くなり、床との摩擦やつまずきが増える |
| すくみ足(FOG) | 足が急に前へ出なくなり、上半身だけ先へ傾いてバランスを崩す |
| 加速歩行(突進現象) | 歩幅が勝手に狭く速くなり、自分の意思で止まりにくくなる |
| 姿勢反射障害 | バランスを崩したときに立て直す反応が遅れ、転倒しやすくなる |
| 感覚フィードバックの低下 | 足の裏から伝わる情報が脳に届きにくく、床の状態を感じにくくなる |
さらに、起立性低血圧によるふらつきや、薬の効き方が変動する時間帯(オン・オフ)によっても歩行の安定性は変わります。「滑りやすい」の背景には、複数の原因が重なっていることがほとんどです。だからこそ、靴だけに頼らない考え方が大切になります。

STROKE LABの視点:グリップと「引っかかり」は別物。
「滑らない靴」と聞くと、とにかく靴底のグリップが強いものを選びたくなります。ですが、パーキンソン病の歩行では、グリップが強すぎる靴底が、カーペットや床の継ぎ目に「引っかかり」、すくみ足のきっかけになることがあります。すり足で足を十分に上げられないところに、靴底が床をつかむような感触が加わると、次の一歩がさらに出にくくなるのです。
条件1:横方向・不意の滑りを防ぐグリップ。濡れた床や坂道などで、足元が急に流れないための最低限のグリップは必要です。
条件2:前方向の一歩を止めない滑走性。すり足で床をこするように歩いても、靴底が過度に引っかからず、すっと前に出せる滑らかさも必要です。
この一見矛盾する2つの条件をどう両立させるかが、パーキンソン病の靴選びの核心です。目安としては、深い溝の激しい凹凸ソールより、細かく均一なパターンの滑らかなラバーソールのほうが、引っかかりを抑えながら適度なグリップを保ちやすい傾向があります。実際にどちらが合うかは、歩き方の癖によって変わるため、可能であれば普段歩く床で試し履きをして確認するのがおすすめです。

靴選びの、具体的な条件。
靴底以外にも、確認しておきたい条件があります。ひとつずつ見ていきましょう。
かかとをしっかり覆う。スリッパや踏みつぶした靴は、足の指で挟むような動きが必要になり、ただでさえ不安定な歩行をさらに崩します。屋内でも、かかとまで覆われた履物を選んでください。足首まわりが安定する。ハイカットや、かかと部分がしっかりしたヒールカウンター(芯材)のある靴は、足首がぐらつきにくく、すり足で内側や外側に足首が倒れるのを防ぎます。軽さも重要。重い靴は疲れやすく、すくみ足を悪化させることがあります。支持性を保ちながら、できるだけ軽量なものを選びましょう。
着脱のしやすさ。指先の細かい動きが難しくなると、靴ひもを結ぶ・ほどく動作が負担になります。面ファスナー(マジックテープ)や、ひもを結ばずに着脱できる伸縮素材のタイプは、独力での着脱を助け、結果として「毎日きちんと靴を履く」習慣を支えます。つま先に余裕がある。足の指がこわばったり反ったりする症状(ジストニア)が出ることもあるため、つま先が窮屈すぎない、ゆとりのある形が安心です。ヒールは低く広く。高さのあるヒールや、底が丸く不安定なタイプの靴は、前方への転倒リスクを高めます。低く、接地面の広いソールを選んでください。
パーキンソン病の方を対象とした足部・靴の調査では、足の変形や不適合な靴のサイズが高い割合でみられ、これが生活の質に影響していたと報告されています。研究者は、靴は転倒予防における修正可能な要因のひとつだと位置づけています。
限界:観察的な症例集積研究で、対象人数(53名)は限られています。地域や年代によって傾向は変わる可能性があります。
靴の工夫が環境側から滑りにくさを補う代償的アプローチだとすれば、専門施設で目指すのは、歩行そのものの質を高め、すくみ足や姿勢反射障害を軽減していく回復的アプローチです。転倒予防への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 視覚・聴覚キューイング。床のライン、一定のリズム音、かけ声など外部からの手がかりを使い、すくみ足や小刻み歩行を軽減する方法です。床に光の線を投影する装置がすくみ足のエピソードを減らしたという研究報告もあり、キューを使う考え方自体は臨床でも広く応用されています。
2. 大きく踏み出す歩行練習。意識的に歩幅を大きく、足を高く上げる練習を繰り返し、すり足になりやすい動きの幅を立て直します。
3. バランス反応と体幹の土台。崩れたバランスを立て直す反応や、体幹の安定性を高める練習で、転倒そのものが起こりにくい身体をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、靴や環境の工夫で「今すぐの安全」を確保しながら、歩行そのものの練習で根本的な安定性を高めていくという両輪の考え方です。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
歩行に合わせて床に光の線を投影する装置を用いた研究では、薬が効きにくい時間帯でも、すくみ足のエピソードが装置なしの状態より大きく減少したと報告されています。足元の手がかりが、次の一歩を出すきっかけになることを示す結果です。
限界:特定の装置を用いた研究で、対象人数は限られています。効果には個人差があり、日常のすべての場面で同じ効果が得られるとは限りません。専門的な評価のうえで、自分に合ったキューの種類を見極めることが大切です。

脳リハ.comのYouTubeでは、歩幅を意識して大きく踏み出す体操を配信しています。転倒予防の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
自宅でできる、工夫。
靴だけでなく、住環境の見直しも転倒予防には欠かせません。靴下だけで歩く時間を減らし、屋内用のしっかりした履物に替えるのが、最も手早く効果の出やすい工夫のひとつです。フローリングとカーペットの境目や、玄関の上がり框(かまち)のような素材や高さが変わる場所は、すり足やすくみ足が特に出やすいポイントなので、色のコントラストをつけたテープなどで境目をわかりやすくしておくと、足を出す手がかりになります。
床にコード類や敷物を置きっぱなしにしない、夜間トイレへ向かう動線に足元灯をつけておく、といった基本的な整理も効果的です。靴底は数か月に一度、すり減り具合を確認してください。すり足歩行があると、靴底の特定の場所だけがすり減りやすく、それが新たな滑りやすさにつながります。専門的な運動の詳細は体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。
受診・相談の目安は、転倒やヒヤリとする場面が増えてきた、すくみ足が強くなってきた、といったときです。転倒の原因は靴だけとは限りません。自己判断せず、神経内科や理学療法士・作業療法士に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. パーキンソン病だと、なぜ靴の中で足が滑りやすくなるのですか?
Q. 滑り止めのしっかりした靴を選べば、それで安心ですか?
Q. スリッパやかかとのない靴は避けたほうがよいのですか?
Q. 靴ひもの着脱が難しくなってきました。何か工夫はありますか?
Q. 靴を変えるだけで転倒は防げますか?
Q. 靴底の減り具合は、どのくらいの頻度で確認すればよいですか?
転倒予防の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際の歩行を確認しながら、靴や住環境の工夫だけでなく、すくみ足・すり足・バランス反応そのものへの練習まで、その人に合わせて組み立てます。薬の調整は主治医を尊重し、歩行動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。
動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
外出をあきらめないための一歩です。
「また転びそうになった」という一言のたびに、外出への不安が大きくなっていく——そんなご様子を、たくさん見てきました。転倒は、体の自信だけでなく、生活の広がりそのものを奪ってしまいます。
お伝えしたいのは、靴を見直すだけでも、明日から歩く安心感は変わるということです。そして靴の工夫は、歩行そのものを立て直す練習と組み合わせることで、さらに力を発揮します。
転倒への不安でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際の歩き方を見ながら、その方に合う靴と練習を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍・論文の枠組みをもとに構成しています。転倒の原因は人によって異なります。気になる転倒・ふらつきは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月21日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- López-López D, et al. Impact of Footwear and Foot Deformities in Patients with Parkinson’s Disease: A Case-Series Study. Int J Med Sci. 2021;18(2):372-378.(靴の不適合と足部変形の高い有病割合を報告。第4動線・エビデンスボックスの出典)
- Barthel C, Nonnekes J, van Helvert M, et al. The laser shoes: A new ambulatory device to alleviate freezing of gait in Parkinson disease. Neurology. 2018;90(2):e164-e171.(足元の視覚キューがすくみ足エピソードを減少させたと報告。第4動線・第2エビデンスボックスの出典)
- Pereira MP, Orcioli-Silva D, de Sousa PN, Beretta VS, Gobbi LTB. The effects of habitual footwear in gait outcomes in people with Parkinson’s disease. Gait Posture. 2019;68:111-114.
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)