パーキンソン病で電話が鳴ると動けなくなる|原因と対策・自宅でできる工夫
音は敵ではなく、合図に変えられます。
電話やインターホンが鳴った瞬間、体がぴたりと固まって動けなくなる。それはパーキンソン病のすくみ現象かもしれません。急ごうとするほど、かえって足が出なくなる——そんなときこそ、「止まる・数える・大きく一歩」の合図が、動き出しを助けてくれます。しくみと、今日から自宅でできる工夫を整理します。

「早く出なきゃ」で、固まる。
椅子から立ち上がろうとしても、足が床に張りついたように動かない。焦って力を入れるほど、かえって一歩が出ない。家族に「早く出て」と言われると、もっと固まってしまう——。電話やインターホン、玄関のチャイムなど、突然の音で似た経験をした方は少なくありません。
でも、知ってほしいのです。これはすくみ現象という症状で、動き出し方と環境を変えるだけで、ぐっと動きやすくなるということを。
パーキンソン病では、突然の音や急な出来事をきっかけに、体が一瞬動かなくなるすくみ現象がみられることがあります。歩き出す、立ち上がる、方向を変えるといった「動作の切り替え」の場面は、もともと体が構えを作り直す必要がある動きです。そこに音による驚きや焦りが重なることで、動き出しがうまくいかなくなると考えられています。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
すくみ現象の、しくみと特徴。
すくみ現象は、動き始めや動作の切り替えの場面で、体が一瞬「凍りついたように」止まってしまう症状です。震えとは別のしくみで起こる点が大切で、混同すると対処を間違えてしまいます。特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 突然の刺激で誘発される | 電話の音、呼びかけ、驚きなど、予期しない刺激で強く出やすい |
| 焦ると悪化する | 急かされる、時間を意識するなど、焦りが加わると強まりやすい |
| 同時に何かをすると悪化する | 話しながら動く、物を持ちながら動くなど、二つを同時に行うと出やすい |
| 切り替えの場面で出やすい | 立ち上がる、歩き出す、方向を変えるなど、動作の始まりに起こりやすい |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。焦りが悪化させるなら、いったん止まればよい。切り替えの場面で出るなら、切り替えの合図を作ればよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。
パーキンソン病の方29名と健常な方14名を対象に、歩行中に音の合図でできるだけ速くボールを握る、という別の課題を同時に行ってもらった研究があります。その結果、歩行が難しくなる場面や方向転換の際に、同時に行う課題への反応が特に遅くなり、すくみが起こりやすい状況ほどこの傾向が強かったと報告されています。電話に出ようとする場面も、歩く・聞く・急ぐが重なる「同時に何かをする」状況といえます。
限界:実験室での歩行課題を対象とした研究で、電話への応答そのものを検証したものではありません。効果や現れ方には個人差があり、進行に伴って変動します。

STROKE LABの視点:音を「動き出しの合図」に変える。
すくみ現象の対処でいちばん手早く効くのが、「鳴ったらすぐ動く」をやめて、鳴った瞬間を仕切り直しの合図に変えることです。合図があると、脳が「今からこう動く」という手がかりを受け取り、動作が立ち上がりやすくなります。次の3ステップを、電話が鳴るたびに同じ順番で試してみてください。

ステップ1:鳴ったら、まず一度止まる。音が鳴った瞬間に動き出そうとせず、いったん立ち止まって一呼吸おきます。急いで動き出そうとする反射を、意識的に断ち切るステップです。
ステップ2:心の中で「1、2、3」と数える。数を数える間に、これから動く体の準備をします。声に出せるなら、声に出したほうがより効果的です。
ステップ3:大きく一歩を踏み出す。その場で軽く足踏みをしてから、いつもより大きな一歩で歩き出します。床のタイルの継ぎ目や敷居など、またぐ目印を決めておくと、より一歩が出やすくなります。
最初はぎこちなく感じても、同じ手順を繰り返すうちに、体が合図と動きの結びつきを覚えていきます。大切なのは、焦って力任せに動こうとするのではなく、いったん止まってから仕切り直すこと。合う合図の種類やテンポは人それぞれなので、理学療法士・作業療法士と一緒に調整すると近道です。
環境づくりと、家族の声かけ。
動き出し方を整えたら、環境と周囲の声かけでさらに動きやすくなります。合言葉は「急がせない、驚かせない」。ちょっとした準備で、すくみが起こる場面そのものを減らせます。
電話は、いつも座っている場所やよく通る動線の近くに置くと、慌てて長い距離を移動する必要がなくなります。コードレス電話を体の近くに置く、着信を光や振動でもわかるようにする、留守番電話を設定して「今すぐ出なければ」という焦りそのものを減らす、といった工夫も有効です。家族の声かけも大切なポイントで、「早く」ではなく「1、2、3」とテンポで数えてあげるほうが、本人は動き出しやすくなります。後ろから急かさず、横や前から落ち着いた声をかけるようにしてください。運動で手や体を動かしておくと、動き出し自体も安定しやすくなるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

脳リハ.comのYouTubeでは、手や体を大きく動かす体操を配信しています。動き出しの土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
自宅での工夫が、合図を足してその場で動きやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、合図が少ない場面でも動き出せる状態に近づける回復的アプローチです。すくみへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. キューイング。視覚(床の目印)だけでなく、聴覚(リズムやかけ声)や体性感覚の手がかりも使い、その人にいちばん響く合図を見極めます。
2. 動作の切り替え練習。あえて突然の刺激や二重課題の場面を設定し、驚きや焦りが加わっても動き出せるよう、段階的に練習を積み重ねます。
3. 姿勢とバランスの土台。立ち上がりや方向転換で崩れにくい姿勢・バランス能力を整え、すくみが起こりにくい身体の下地をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、合図で正しい動き出しを引き出し、成功体験を積みながら、少しずつ合図を減らして身につけていくという流れです。日常のさまざまな場面で動き出せるように近づけていく、その設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。

パーキンソン病の方153名を対象にした無作為化クロスオーバー試験(RESCUE試験)では、リズムに合わせた合図を使う3週間の自宅理学療法プログラムを行ったところ、歩行やすくみ、バランスに特有の改善がみられたと報告されています。合図を使った練習を、自宅という実際の生活場面で行うことの意義を示す研究です。
限界:訓練をやめると効果は次第に薄れ、研究チームは持続的な合図の仕組みや継続的なフォローの必要性を指摘しています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。合図の種類やテンポは、専門家による個別調整が前提です。運動療法は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、どんな音・場面・時間帯にすくみが起こりやすいかを一緒に確認し、合図の種類やテンポ、動線、声かけの仕方を、その人に合わせて調整します。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動き出しと生活の側から支えます。
受診の目安は、すくみによって転倒しそうになった、頻度や時間が増えてきた、電話以外の場面(歩行中や方向転換の際など)でもすくみが出てきた、といったときです。動けなくなる原因はすくみ現象だけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 電話が鳴ると急に動けなくなるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 急ごうとするとよけいに動けなくなるのはなぜですか?
Q. 自宅でできる対策はありますか?
Q. 家族はどう声をかければいいですか?
Q. この症状はリハビリで良くなりますか?
Q. すくみ足は振戦(震え)と同じものですか?
動き出しの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っているすくみの場面を一緒に確認し、合図の種類・環境・声かけを、その人に合わせて組み立てます。電話や玄関先など、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動き出しと生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
仕切り直しの1秒に。

電話が鳴った瞬間に体が固まってしまうと、「なぜ自分の体が思い通りにならないのか」と、悔しく情けない気持ちになる方が多くいらっしゃいます。ご家族も、良かれと思って「早く」と声をかけ、それがかえってすくみを強めてしまうことに、心を痛めることがあります。
お伝えしたいのは、驚いた瞬間の1秒を、仕切り直しの1秒に変えるだけで、動き出しは驚くほど変わることがあるということです。止まる、数える、大きく一歩。ちょっとした工夫で、動ける場面はまだまだ広がります。
すくみでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う動き出し方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。動けなくなる症状には他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年7月13日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Dibilio V, Stummer C, Drenthen L, Bloem BR, Nonnekes J, Weerdesteyn V. Secondary task performance during challenging walking tasks and freezing episodes in Parkinson’s disease. J Neural Transm (Vienna). 2016;123(5):495-501.(注意が分散する場面ですくみが起こりやすくなることを示した研究。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Nieuwboer A, Kwakkel G, Rochester L, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅でのキュー練習が歩行・すくみ・バランスを改善したことを示した無作為化クロスオーバー試験。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)