パーキンソン病に有酸素運動は効くのか|強度と続け方のエビデンス
ただ歩くだけでは、少し足りないかもしれません。
「毎日散歩しているのに、あまり変わらない気がする」——そんな声をよく聞きます。有酸素運動そのものはパーキンソン病に良い影響があるという報告が積み重なっていますが、結果を左右するのは、実は「強度」です。どれくらいの強さで、どのくらい続ければよいのか、エビデンスをもとに整理します。

「歩くだけ」で、本当にいいのか。
運動が良いと聞いて、毎日欠かさず散歩をしている。それなのに、動きにくさはあまり変わらない気がする——。そう感じている方は少なくありません。運動していないわけではないのに、なぜ変化を感じにくいのでしょうか。
その答えのひとつが、運動の「強度」にあります。同じ「歩く」でも、ゆっくりのんびり歩くのと、少し息がはずむ速さで歩くのとでは、体への働きかけ方が違うのです。
パーキンソン病のリハビリでは、有酸素運動が運動症状に良い影響を与える可能性が、いくつもの研究で示されています。ただし、そこで共通して指摘されているのが「強度」の重要性です。この記事では、しくみと、家庭で強度を確かめる具体的な方法を整理します。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
有酸素運動と、そのしくみ。
有酸素運動とは、ウォーキングや自転車、水泳のように、酸素を使いながら筋肉を一定時間動かし続ける運動のことです。心肺機能を高めるだけでなく、脳や神経の働きにも良い影響を与える可能性があるとして、パーキンソン病のリハビリでも注目されています。ポイントは、同じ有酸素運動でも「強度」によって結果が変わりうるということです。

| 運動の種類 | 目安の強さ |
|---|---|
| ゆっくり散歩 | 鼻歌が歌えるくらい。生活活動としては大切だが、有酸素「トレーニング」としてはやや弱い |
| 速歩・サイクリング | 会話はできるが、少し息がはずむ。研究で効果が示されている中心的な強度 |
| 高強度の運動 | 会話が続けにくいくらい。専門家の管理下で行われることが多い強度 |
つまり、「運動しているか」ではなく「どの強さで運動しているか」が鍵になります。次の章では、この強度を家庭で確かめる方法を、具体的な手順にしていきます。
STROKE LABの視点:強度を「測れる」ようにする。
「少し息がはずむ強さ」と言われても、感覚だけではわかりにくいものです。そこで役立つのが、強度を「測れる」ものさしを持つこと。特別な機器がなくても、次の3つの方法で強度を確かめられます。

1.目標心拍数を使う。「220-年齢」でおおよその最大心拍数がわかります。そのうちの60〜85パーセント程度が、研究でよく使われている運動強度の目安です。腕時計型の心拍計があると確認しやすくなります。
2.会話テストを使う。機器がなくても、話しながら運動して確かめられます。文章を続けて話せるなら、まだ強度が弱い可能性があります。一言二言で息が切れるなら、ちょうどよい強度に近づいています。
3.自覚的な運動強度を使う。「楽である」を0、「限界」を10とすると、「ややきつい」と感じる4〜6あたりが、多くの研究で目安とされる範囲に近くなります。自分の体感を数字で記録しておくと、続けやすさにもつながります。
どれか一つでも構いません。「今日の運動は、ちゃんと有酸素運動になっていたか」を毎回確かめる習慣が、効果を積み重ねる近道になります。持病がある方や、どの強度が安全か不安な方は、始める前に主治医や作業療法士に相談し、自分に合った範囲を決めてから取り組んでください。

診断されて間もないパーキンソン病の方を対象にした無作為化比較試験では、最大心拍数の80〜85パーセントという高い強度でトレッドミル運動を週3回・6か月続けたグループは、運動症状の指標がほとんど悪化しなかったと報告されています。研究チームは、ただの散歩では強度として十分でない可能性がある、と述べています。
限界:診断初期の方を対象にしたフェーズ2試験で、対象人数は大規模ではありません。高い強度の運動は、心拍数や安全面の管理のもとで行われています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。自己判断で強度を上げず、必ず医療者と相談のうえで進めてください。
頻度と、続け方のコツ。
強度と並んで大切なのが「続けられるかどうか」です。多くの研究で使われているのは、週3回程度、1回30〜40分前後を、数か月単位で続けるという枠組みです。毎日でなくても構いません。まずは無理のない回数から始め、体が慣れてきたら少しずつ強度や時間を調整していきましょう。

続けやすさのためには、種目選びも大切です。ウォーキング、自転車(エアロバイク)、水中歩行など、痛みや転倒の不安が少なく、楽しめる種目を選んでください。薬の効いている時間帯(オン状態)に行うと動きやすいことが多く、音楽やテレビを見ながらの「ながら運動」も継続の助けになります。ご家族が一緒に取り組んだり、記録をつけたりすることも、習慣化の後押しになります。運動の種目そのものをもっと広げたい方は、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。
パーキンソン病の方を対象に、自宅の自転車型トレーニング機器を使い、遠隔で強度を見守りながら週3回・6か月続けてもらった試験では、参加者の多くが予定していた回数の大部分を実際に続けることができ、薬の効果が切れた時間帯の運動症状が和らいだと報告されています。
限界:比較的症状が軽い方を対象にした単一施設の試験です。長期的な効果や、病気の進行そのものを抑える効果については、今後の研究課題とされています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。
脳リハ.comのYouTubeでは、有酸素運動の土台になる、手や体を大きく動かす体操を配信しています。ウォーキングやサイクリングの前後に、無理のない範囲で取り入れてみてください。
専門リハと、受診の目安。
自宅での工夫が、心拍数や会話テストでおおまかに強度を確かめるものだとすれば、専門施設では、その人の体力・持病・薬の効き方の変動をふまえ、安全な範囲で狙った強度に近づける個別のプログラムを組み立てます。
1. 体力評価と強度設定。心拍数や自覚的運動強度をもとに、その方に合った運動強度・時間・種目を設定します。
2. 安全管理。血圧や心拍数の変化、薬の効いている時間帯(オン・オフ)、転倒リスクを確認しながら運動を進めます。
3. 有酸素運動+筋力・バランスの組み合わせ。有酸素運動だけでなく、姿勢や動作の安定に関わる筋力・バランス訓練を組み合わせ、生活動作全体の底上げをねらいます。
効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割で、私たちは運動の側から安全に支えます。受診の目安は、運動中に胸の痛みや強い動悸・息切れが出た、転倒したことがある、といった場合です。自己判断で強度を上げず、まず主治医にご相談ください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 散歩だけでは、有酸素運動の効果はないのですか?
Q. どのくらいの強度で運動すればよいですか?
Q. 週にどのくらいの頻度で行えばよいですか?
Q. 心臓に不安がある場合はどうすればよいですか?
Q. 有酸素運動は薬の代わりになりますか?
Q. 有酸素運動と筋力トレーニング、どちらが大事ですか?
運動強度の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。心拍数や体力、持病の状態を確認しながら、その方に合った運動強度・時間・種目を一緒に組み立てます。ご自宅で続けやすい形への落とし込みまで伴走するので、専門施設での運動が、日々の習慣につながります。薬の調整は主治医を尊重し、運動の側から安全に支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
測りながら続けること。

「運動しているのに変わらない」という声を聞くたびに、お伝えしたいことがあります。運動していないのではなく、体に伝わる強さが、思っているより弱いことがあるのです。
心拍数や会話テストで強さを測り、無理なく、でも狙った強度で続ける。それだけで、体の変化はもっと実感しやすくなります。強く始める必要はありません。測りながら、少しずつ積み重ねていきましょう。
自分に合った強度や続け方でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。体力や持病をふまえ、安全に続けられる形を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍・論文の枠組みをもとに構成しています。運動を始める前、特に心臓や血圧に持病がある方は、必ず主治医・神経内科にご相談ください(最終確認日:2026年8月8日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Schenkman M, et al. Effect of High-Intensity Treadmill Exercise on Motor Symptoms in Patients With De Novo Parkinson Disease: A Phase 2 Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2018;75(2):219-226.(高強度トレッドミル運動が運動症状の悪化を抑えたと報告。第1エビデンスボックスの出典)
- van der Kolk NM, et al. Effectiveness of Home-Based and Remotely Supervised Aerobic Exercise in Parkinson’s Disease: A Double-Blind, Randomised Controlled Trial. Lancet Neurol. 2019;18(11):998-1008.(在宅の有酸素運動を高い継続率で実施でき、オフ状態の運動症状が和らいだと報告。第2エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)