パーキンソン病と認知機能|物忘れ・遂行機能の低下と生活の工夫
忘れているのではなく、思い出すのに時間がかかっているだけ。
「最近、物忘れが増えた」「段取りが組めなくなった」——パーキンソン病では、こうした認知面の変化がみられることがあります。多くは、情報が消えたのではなく取り出すのに時間がかかっているだけという特徴を持ちます。しくみと、今日から生活でできる工夫を整理します。

「さっきまでできたのに」と、感じたら。
長年やってきた家事のはずなのに、途中で手が止まる。買い物に行っても、何を買うつもりだったか思い出せない。テレビと会話が同時になると、内容がまったく入ってこない——。そんな変化に、ご本人もご家族も戸惑うことがあります。
でも、知ってほしいのです。これは能力が失われたのではなく、思い出す・組み立てる「速さ」が変わっただけということが多いということを。
パーキンソン病では、運動症状だけでなく、もの忘れや段取りの立てにくさといった認知面の変化がみられることがあります。これは非運動症状のひとつで、進行の程度や体調、薬の効き具合によって変動します。まずはしくみを知り、そのうえで生活の立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
物忘れ・遂行機能低下のしくみと特徴。
パーキンソン病でみられる認知面の変化は、いくつかの研究で、情報そのものが消えるのではなく、必要なときに取り出す・組み立てる働きが遅くなるタイプであることが多いと報告されています。震えや動作緩慢と同じく、脳の中の特定のネットワークの働きが変化することで起こると考えられています。特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 思考がゆっくりになる | 考える速さそのものがゆっくりになり、返事や反応に時間がかかる |
| 段取りが組みにくい | 複数の手順を計画し、順番どおりに進める働き(遂行機能)が低下しやすい |
| 「ながら」が苦手になる | 話しながら歩く、テレビを見ながら家事をするなど、同時に複数のことを行いにくい |
| ヒントで思い出せる | 自分からは思い出せなくても、手がかりを与えられると思い出せることが多い |
この最後の特徴が、立て直しの大きなヒントです。自分で思い出す力が弱くても、外からの手がかりを使う力は保たれていることが多いのです。だからこそ、メモや置き場所の固定、声かけといった「手がかり」がよく効きます。次の章から、この考え方を生活の具体的な工夫にしていきます。
なお、認知面の変化には、気分の落ち込みや不安が影響していることもあります。落ち込みが強く、意欲や興味そのものが乏しくなっているように感じる場合は、認知機能とは別の観点からの相談も大切です。判断は自己判断せず、主治医に相談してください。

STROKE LABの視点:生活を「手がかり付き」に変える。
小字症で紙に線を引くように、日々の生活にも目に見える手がかりを足すことで、段取りは整いやすくなります。特別な道具はいりません。次の3ステップで、今日から生活動線に組み込めます。
ステップ1:やることを一つずつ、見える形にする。頭の中だけで段取りを組もうとせず、紙やホワイトボードに手順を書き出します。チェックリストにして、終わったら線を引いていくと達成感も得やすくなります。
ステップ2:「ながら」をやめ、一つずつ終える。複数の作業を同時に進めようとせず、一つを終えてから次に移ります。急かされると余計に混乱しやすいので、時間に余裕を持つことも大切です。
ステップ3:物の置き場所を、毎回同じにする。鍵、薬、眼鏡など、探し物になりやすい物は「定位置」を決めます。置き場所自体が手がかりになり、思い出す負担が減ります。
大切なのは、手がかりを使って「できた」という体験を積み重ねること。うまくいく手がかりの種類やタイミングは人それぞれなので、作業療法士と一緒に、その方の生活動線に合わせて調整すると近道です。

場面別の工夫と、家族の関わり方。
3ステップの考え方を、実際の生活場面に当てはめてみましょう。
| 場面 | 工夫の例 |
|---|---|
| 買い物 | 買う物を店の売り場の順番に書き出しておく。一度に多くを買おうとしない |
| 服薬 | お薬カレンダーや服薬ケースを使い、飲んだら印をつける。毎日同じ場所・同じ時間に置く |
| 家事 | 手順を書いたカードを台所に貼る。一つの作業を終えてから次に取りかかる |
| 会話 | 一度に一つの話題にする。急かさず、少し待つ。選択肢を示して尋ねる |
ご家族にお願いしたいのは、「早くして」ではなく「時間をかけて大丈夫」という関わりです。返事が遅くても、考えていないわけではありません。急かされること自体が、余計に思考をまとまりにくくすることがあります。できたことを具体的に言葉にして伝えると、本人の自信にもつながります。体を動かすことも認知面の安定を助けるので、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。

軽度の認知機能低下がみられるパーキンソン病の方を対象にした多施設の無作為化比較試験では、計画・切り替えなどを含む複数領域の認知訓練を6週間行ったグループで、対照グループと比べて遂行機能に有意な改善がみられたと報告されています。一方で、記憶そのものへの効果は限定的だったとされています。
限界:対象は軽度認知機能低下がある方に限られ、訓練期間は6週間と短期です。長期的に効果が続くかは、さらなる研究が必要とされています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。訓練は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。

自宅での工夫が、手がかりを足してその場で段取りを組みやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、運動と課題を組み合わせながら、注意や遂行機能そのものの働きやすさに近づけていく回復的アプローチです。認知面への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. デュアルタスク練習。歩きながら計算する、体を動かしながら課題をこなすなど、あえて「ながら」の負荷をかけ、複数のことを同時に処理する力を段階的に鍛えます。
2. 有酸素運動を組み合わせた運動療法。心拍数を上げる運動を継続的に行うことが、注意や処理速度など認知面の働きにも良い影響を与える可能性が報告されています。
3. 遂行機能に焦点をあてた課題訓練。計画を立てる、順序を切り替える、といった課題を段階的に難易度を上げながら反復し、生活の中の場面へつなげます。
STROKE LABが軸足を置くのは、手がかりで「できた」を体験しながら、運動と課題を組み合わせて脳の働きやすさそのものを底上げしていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整や気分面の評価は主治医の役割です。
パーキンソン病の方を対象にした比較研究では、有酸素運動を継続したグループで、気分・認知機能・言語機能の複数の指標で、運動を行わなかったグループより良い変化がみられたと報告されています。体を大きく動かす運動が、認知面にも波及しうることを示す結果です。
限界:対象人数は多くなく、無作為化比較試験ではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。運動療法は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。運動の具体的な方法は体操・自主トレ大全もご覧ください。
脳リハ.comのYouTubeでは、手や体を大きく動かす体操を配信しています。認知面の土台づくりとしても、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人が実際に困っている生活場面(買い物・服薬・家事など)を一緒に確認し、手がかりの種類や置き場所、声かけの仕方を、その人に合わせて調整します。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整や気分面の評価は主治医の役割で、私たちは生活動作と工夫の側から支えます。
受診の目安は、もの忘れや段取りの乱れで日常生活に支障が出てきた、家族から見て以前と様子が変わったと感じる、気分の落ち込みが強く続く、といったときです。認知面の変化には、体調・薬・気分など複数の原因が関わることがあります。自己判断せず、神経内科で確認してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. もの忘れが増えたのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 物忘れと認知症は違いますか?
Q. 段取りが組めなくなったときの工夫はありますか?

Q. 家族はどのように声をかければよいですか?
Q. 認知機能の低下は、訓練やリハビリで良くなりますか?
Q. どんなときに受診したほうがよいですか?
生活の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている生活場面を一緒に確認し、手がかりの工夫・運動・課題訓練を、その人に合わせて組み立てます。買い物や家事など、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整や気分面の評価は主治医を尊重し、生活動作の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
思い出す手がかりが足りないだけ。

段取りが組めなくなると、家事や外出のたびに気持ちが沈み、自分に自信が持てなくなります。「もう前のようにはできないかもしれない」とあきらめかけている方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、思い出す力そのものではなく、手がかりの使い方を変えるだけで、できることは驚くほど広がるということです。頭の中だけで抱え込まず、見える形にする。一つずつ、急がずに。ちょっとした工夫で、生活はまだまだ整えられます。
もの忘れや段取りの乱れでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う工夫を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。認知面の変化には他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月5日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Kalbe E, Folkerts AK, Ophey A, et al. Enhancement of Executive Functions but Not Memory by Multidomain Group Cognitive Training in Patients with Parkinson’s Disease and Mild Cognitive Impairment: A Multicenter Randomized Controlled Trial. Parkinsons Dis. 2020;2020:4068706.(多因子認知訓練で遂行機能が改善したと報告。sec4第1エビデンスボックスの出典)
- Altmann LJ, Stegemöller E, Hazamy AA, et al. Aerobic Exercise Improves Mood, Cognition, and Language Function in Parkinson’s Disease: Results of a Controlled Study. J Int Neuropsychol Soc. 2016;22(9):878-889.(有酸素運動で気分・認知・言語機能が改善したと報告。sec4第2エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)