遂行機能障害とは|段取りができなくなるしくみと工程表という武器
頭の中の工程表が、消える。
料理の手順が組めない、何から始めるか決められない、途中で止まって動けない。脳卒中や頭のけがのあとのその様子は、遂行機能障害かもしれません。これはやる気の問題ではありません。頭の中で段取りを組み立てる働きが、うまく回らなくなっている状態です。そのしくみと、工程表を外に出すという家庭の工夫を整理します。

料理の途中で、止まってしまう。
鍋を火にかけたまま、次に何をするか分からなくなる。冷蔵庫の前で立ちつくす。同時に二つのことができず、片方を忘れる。以前はてきぱき家事をこなしていた人が、一つの料理を最後まで作れない。言えばやるのに、自分からは動き出さない。何度「段取りよく」と言っても変わらず、つい強い口調になってしまう——。戸惑いと、いらだちと、罪悪感がまざり合います。
でも、本人はさぼっているのではありません。頭の中で段取りを組み立てる働きが、うまく回らなくなっているのです。名前は、遂行機能障害といいます。
遂行機能障害は、脳卒中や頭のけがのあとにみられる高次脳機能障害の一つです。多くは前頭前野の損傷によって、目標を立てて順番に実行する段取りの働きが崩れることで起こります。完全ガイドでは段取る力として位置づけていますが、対応の考え方が独特なので、この記事で単独に扱います。全体像は高次脳機能障害の完全ガイドを、似ているけれど違う注意障害や記憶障害の記事もあわせてご覧ください。
STROKE LABの視点:頭の中の工程表が、消える。
段取りとは、頭の中に工程表を思い描く働きです。何をゴールにするか決め(目標)、手順を組み立て(計画)、その通りに動き(実行)、うまくいかなければ直す(修正)。この頭の中の工程表を、前頭前野が担っています。遂行機能障害では、この工程表がうまく描けなくなります。だから、何から始めるかで止まり、途中で次の手順が抜け、失敗しても直せません。
よく似た別の症状と混同されがちですが、つまずく場所が違います。ここを取り違えると、対応もかみ合いません。注意障害・記憶障害と並べて整理します。
| 似ている症状 | どこでつまずくか |
|---|---|
| 注意障害 | 一つのことに向け続けられない。気が散って作業が途切れる |
| 記憶障害 | 覚えておけない。さっき決めたことや、次の手順を忘れる |
| 遂行機能障害 | 順番を組み立てられない。何から始め、次に何をするかが決められず、途中で止まる |
大切なのは、段取りは注意と記憶の土台の上に立つということです。だから三つは重なり合うこともあります。それでも遂行機能障害の中心は、一つひとつは覚えていても見えていても、それを順番に組み立てて実行できない点にあります。この工程表が消えるという捉え方が、次の対応の考え方につながります。

自宅でできること:覚えさせるより、外に貼る。
まずは、当事者やご家族が今日から実践できる工夫からお伝えします。遂行機能障害への向き合い方で、いちばん大切な転換がこれです。頭の中に工程表を描けない以上、段取ってと促すより、工程表を紙に書いて外に置くほうが、確実に生活を支えます。頭で覚えさせようとせず、外に貼って見えるようにする。これが基本の発想です。
工程表を外に出すときのコツは3つです。手順を紙やカードにして見える化する。一つの工程に一つの動作まで細かく分ける。終わった工程は消す・裏返してチェックする。この3つを軸にすると、工夫の方向が定まります。声かけをゼロにする必要はありませんが、頼りすぎないことです。今どこまで進んだかが一目で分かる状態を、まわりが用意します。
遂行機能に対しては、止まって確認してから進む手順を練習する目標管理訓練を、問題解決の練習や本人の目標設定、外的な手がかり、実際の生活課題と組み合わせると効果が大きいと報告されています。机上の紙と鉛筆の課題より、実際の生活場面での課題のほうが、日常への広がりという点で効果が見えやすいとされています。
限界:目標管理訓練は、単独では効果が十分でないと報告されています。また、訓練でできたことが別の場面にそのまま広がりにくい面もあります。家庭では訓練そのものより、工程表を外に出す工夫を軸にするのが現実的です。効果には個人差があります。

この考え方を、生活の場面に当てはめてみます。遂行機能障害でとくに困りやすい料理・買い物・お金の管理の3場面を、代表として紹介します。
| 場面 | 家庭でできる工夫の入口 |
|---|---|
| 料理 | 作る品を一つに絞る、工程をカードに分けて順に並べる、終わったカードは裏返す |
| 買い物 | 売り場の順に並べ替えたリストを持つ、かごに入れたらチェックする、予算を封筒で分ける |
| お金の管理 | 支払いを見える化する、週ごとに使う分を分ける、本人の裁量を残しつつ段階的に |
それぞれの場面のより詳しいやり方は、専用の記事で図解つきで解説します。料理を工程カードに分ける実際は台所に戻る練習の記事、買い物の段取りは買い物の練習の記事、お金の管理は金銭管理の段階表の記事で扱います。

専門施設で、さらに期待できること。
ここからは、少し専門的な話になります。ご家族はざっと読み飛ばしてもかまいませんが、リハビリに関わる方や、もっと深く知りたい方に向けて、遂行機能障害への関わりの全体像をお伝えします。自宅での工夫が工程表を外に出して段取りを肩代わりさせる代償だとすれば、専門施設で目指すのは段取る手順そのものを、本人の中に組み直す回復的アプローチです。
ここからは、少し専門的な話になります。リハビリに関わる方や、もっと深く知りたい方に向けて、全体像をお伝えします。遂行機能障害は、脳の司令塔にあたる前頭前野を中心としたネットワークの働きの低下で起こります。専門的な関わりは、大きく外的代償と内的方略の再建の2系統に整理でき、実際にはこのどちらかではなく、両者を症状に応じて組み合わせます。代表的な介入を整理します。
| 2つの系統 | 名前のついた介入と、そのしくみ |
|---|---|
| 外的代償 段取りを外に出す |
工程表・チェックリスト・手順書、アラームやタイマー、スマホのリマインダーで、段取りそのものを環境に肩代わりさせる。つまずく前に合図が入るよう設計する |
| 内的方略の再建 段取る手順を育てる |
目標管理訓練(止まる→目標を確認→分ける→実行→見直す)。作業の途中で意図的にいったん止まり、目標を確認し直すメタ認知の訓練で、前頭前野の実行機能に働きかける |
| 自分で回す型をつくる | 計画→実行→振り返りの型を、生活課題で身につける方略訓練(Goal-Plan-Do-Check、CO-OPなど)。問題を分解して手順に落とす問題解決訓練も含む |
| 支える土台の力 | 作業を向け続ける注意、自分から動き出す発動性、うまくいかないときの感情のコントロール。段取りの前提になるこれらにも並行して働きかける |
これらに共通するのが、やり方を自分で監督する力(メタ認知)を、生活課題の中で育てるという考え方です。海外の認知リハビリテーションのまとめでも、こうしたメタ認知の方略訓練は、脳損傷後の遂行機能への働きかけとして推奨される方向に位置づけられています。ただし、机上でうまくいっても生活にそのまま広がるとは限らないため、実際の生活課題で練習することが鍵になります。効果には個人差があり、脳への電気刺激などの新しい方法は、まだ研究段階です。
土台の力にも目を向けます。作業を向け続ける注意、自分から動き出す発動性、うまくいかないときの感情のコントロール。これらが弱いと、いくら工程表を用意しても回りません。だから、段取りの練習と土台の力を、切り分けずに一緒に組み立てます。どの系統をどう組み合わせるかは一人ひとり違うため、評価にもとづいて個別に設計します。

STROKE LABが重視するのは、内的方略の練習を、生活そのものの場面で行うことです。机上の課題で段取りを練習しても、台所や買い物にそのまま広がるとは限りません。そこで、実際に作りたい料理、行きたい買い物を題材に、止まって確認してから進む手順を、外の工程表に支えられながら、少しずつ本人の中へ移していきます。
具体的には、まず工程表を外に出して成功体験を積み、次にカードを少しずつ減らし、最後は要所だけの確認で進めるようにする。できるだけ失敗させずに、外の支えを内側の手順へ移すように難易度を設計します。どの方法をどう組み合わせるかは一人ひとり違うため、評価にもとづいて個別に組み立てます。より専門的な評価と治療の詳細は、医療者向けの解説記事で扱います。
慢性期の脳損傷で段取りに困る70名を対象にした無作為化比較試験では、目標管理訓練に携帯メールなどの外的な手がかりを組み合わせると、日常生活での段取りの実感が改善し、その効果が少なくとも6か月続いたと報告されています。発症から時間が経っていても改善しうることを示す結果です。
限界:人数は限られ、机上の検査より本人の実感の面で効果が見えやすい傾向でした。効果には個人差があり、量や進め方は専門職による設計が前提です。
専門リハと、受診の目安。
前の項でお伝えした工程表の設計や内的方略の練習は、段取りのどこがどれくらい崩れているかをていねいに評価したうえで、その人の生活に合わせて組み立てます。段取りの働きに関わる前頭前野のしくみを解説した動画も、背景の理解に役立ちます。
計画を立てて実行することに関わる前頭前野のしくみを解説(脳リハ.com)。効果には個人差があります。
受診の目安は、脳卒中や頭のけがのあとで、料理や仕事の段取りが崩れ、生活や仕事に支障が出てきたときです。注意障害や記憶障害との見分け、段取りのどこが崩れているかの評価は専門的な検査が必要なので、自己判断せず医療機関で確かめてください。より専門的な評価や治療のアプローチを知りたい医療者の方は、医療者向けの解説記事もご覧ください。
よくある質問。
Q. 料理や仕事の段取りができなくなりました。遂行機能障害ですか?
Q. 遂行機能障害は、注意障害や記憶障害と何が違うのですか?
Q. 「ちゃんと段取って」と言っても、うまくいきません。なぜですか?
Q. 家庭でできる工夫には、どんなものがありますか?
Q. 遂行機能障害は、リハビリで良くなりますか?
Q. 本人にやる気がないように見えます。どう考えればよいですか?
遂行機能障害の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。遂行機能障害は、その多くが脳卒中や頭のけがを背景に起こります。段取りのどこが崩れているかを評価し、工程表を外に出す工夫と、その支えを少しずつ内側へ移す関わりを、その人の生活に合わせて組み立てます。困っている場面そのものを題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。診断や薬は主治医を尊重し、私たちは生活と動作の側から支えます。保険リハとの併用もできます。

段取りの働きにかかわる前頭前野をはじめ、脳の部位ごとの働きと症状のつながりを、豊富なイラストで解説。本文と連動するYouTube講義動画で、脳のしくみを目と耳から学べます。
外に出してしまえばいい。

段取りよく、と何度言っても届かない。料理の途中で止まった本人を見て、つい口調が強くなる。遂行機能障害のご家族が抱えるこのもどかしさを、私は現場で何度も見てきました。
お伝えしたいのは、頭の中で段取らせようとがんばるより、工程表を紙に出してしまうほうが、暮らしは早く安定するということです。カード一枚、貼り紙ひとつから変えられます。責めなくていい。工夫で支えられます。
段取りの崩れでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う工程表と、その支えの外し方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の公的情報・診療ガイドラインと、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。症状の現れ方や回復には個人差があります。気になるときは、必ず主治医・専門機関にご相談ください(最終確認日:2026年7月7日)。
- 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害情報・支援センター
- Krasny-Pacini A, Chevignard M, Evans J: Goal Management Training for rehabilitation of executive functions: a systematic review of effectiveness in patients with acquired brain injury. Disability and Rehabilitation. 2014;36(2):105-116.(目標管理訓練の有効性と限界。第1エビデンスボックスの出典)
- Tornås S, Løvstad M, Solbakk AK, Evans J, Endestad T, Hol PK, Schanke AK, Stubberud J: Rehabilitation of Executive Functions in Patients with Chronic Acquired Brain Injury with Goal Management Training, External Cuing, and Emotional Regulation: A Randomized Controlled Trial. Journal of the International Neuropsychological Society. 2016;22(4):436-452.(目標管理訓練+外的手がかりのRCT。第2エビデンスボックスの出典)
- Cicerone KD, Goldin Y, Ganci K, et al.: Evidence-Based Cognitive Rehabilitation: Systematic Review of the Literature From 2009 Through 2014. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2019;100(8):1515-1533.(メタ認知方略訓練を含む認知リハビリの推奨)
- 日本高次脳機能障害学会ほか:遂行機能障害の評価(BADS・FAB)とリハビリテーションに関する整理(目標設定・計画立案・実行・効果的行動の4要素の枠組み)
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院.2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)